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273日目 アフタークリスマス(ふくろうのケーキ)

273日目


 消えてなくなってる。こいつぁ処理する手間が省けたと言わざるを得ない。


 ギルを起こして食堂へ。今日も朝からけっこうガッツリ雪が降ってる感じ。だから俺がマフラーを着けるのは自然なことで、決して誰かに見せびらかしたくなったわけじゃない。後なんか地味に呪われた雪だるまが六体ほど食堂の前の所に作られてたんだけど、あれ何だったんだろ?


 休日にしては珍しく、食堂に人がいっぱい。みんながみんな悲痛な面持ちをしていることを除けば実に学生らしい勤勉な姿だと言えたことだろう。『……わかんなくても、手を動かさなきゃ』、『腹に何か入れとかないと、倒れる』……って、みんなブツブツ呟きながらポンコツゴーレムみたいな動きでスープを啜っていたっけ。


 今日は俺もそんな気分だったのでジャガイモ(蒸かし芋)を食す。なんだかんだで食べなれてしまっている自分がちょっと悲しい。コショウを好きなだけ使えるだけ、この食堂は贅沢なのだろう。


 割とどうでもいいけど、アエルノのラフォイドルが見覚えのないネクタイを着けていた。『俺はお前らと違って、たとえ休日でもビシッと決めるタイプだからな』ってなぜか上機嫌。模様の所に巧妙に隠された魔法陣が織り込まれてたけど、もしかして隠し武器の類だったのだろうか?


 ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。『とうとう親友もジャガイモの美味さに目覚めてくれたか!』ってすんげえにこにこ。『遠慮せず友情のジャガイモを一緒に食おうぜ!』ってギル専用のジャガイモ大皿をこっちに寄せてくる始末。あいつにとって最大の友情の表現だけれども、見方を変えれば拷問でしかない。


 午前中はクラスルームにて魔導工学の課題を進める。誰にも構ってもらえなくて寂しかったのか、『きゅー……』ってちゃっぴぃが俺の背中に張り付き、あまつさえローブの中にもぐりこんできやがった。なぜかそのまま乳をぐいぐい押し付けてきたり、顎で俺の肩をぐりぐりしたりも。ほっぺ撫でてやったらちょっとは落ち着いてくれたけど、こういう時に限って甘えんぼになるから困る。


 ヒナたちもやはり退屈(?)だったのか、課題を処理している俺たちの真ん中で盛大なケツフリフリを始める。今日も今日とてケツのキレが凄まじい。ビシィッ! って一瞬止まり、タメができているかのように見える。まさに神業、鳥のヒナにしておくには実に惜しい才能だ。


 「へっへっへっへっ!」ってグッドビールもアホ面晒してミーシャちゃんに体をこすりつけまくっていたけど、とうのミーシャちゃんは必死こいて課題をこなしていたため遊んでもらえず。しょぼんとしたグッドビールは今度はギルに突撃……するも、『ごめんなあ、今日だけはちょっと我慢してくれな?』って意外にもギルに紳士的に追い返された。


 不貞腐れたグッドビールは暖炉の傍で微睡むアリア姐さんの足元……というか、足の間へ。アリア姐さん、寒さがきつかったからかずっとウトウトしていたんだよね。そういう意味では、グッドビールは良い感じの防寒具になったことだろう。


 午後も同様に課題を進める。正直俺は課題を提出する必要が無い……俺でダメならみんな再履だから気が楽だけど、さすがにあの空気の中で俺だけ遊ぶわけにはいかない。それはクーラスも同じようで、『今のうちに計算書と企画書をまとめておくか……』って図面を広げてチェックとかしていたっけ。


 マジな話、俺たちレベルの奴がいない班、課題全部終わらせられるのかな? どう考えても時間が足りないと思うんだけど。


 そんなこんなをしていたところ、『……み、みんな元気?』ってステラ先生がやってきた。うっひょう。


 『ちょ、ちょっとは休憩しないと逆に効率悪くなるよっ!』ってステラ先生。片手に持ったバスケットにはクッキーとかドーナツとかがいっぱい。どうやらおやつとして食堂から持ってきたものらしい。冬休みなのに生徒のことを気遣ってくれるとか、ステラ先生は本当に聖母なのかもしれない。


 しかもしかも、『……他のクラスには、ナイショだからね!』って俺たちの課題を見てくれたりもした。『あー……たしかに、ここはけっこー難しくてこんがらがっちゃうよね……』、『ここはねえ、最初の考え方を上手く決めてあげるとやりやすくなるの!』……などなど、的確でクレバーなアドバイスをいっぱいしてくれた。


 パッと見ただけで問題の解き方がわかるって、やっぱりステラ先生はすごい。見た目は俺たちと大して変わらないどころか、最近は年下にさえ見えることがあるというのに。あ、スタイルの一部だけはめっちゃ大人だけど。


 一応書いておこう。パレッタちゃんが、『今ペン握ってて手が使えない。……わかってるよね、先生?』ってステラ先生に甘えていた。『もぉ、しょーがないなぁ!』ってステラ先生はめっちゃ嬉しそうにパレッタちゃんにクッキーを『あーん♪』して、そして指までしゃぶられて『ひゃあああん!?』って真っ赤になっていた。そんなステラ先生も最高に可愛かったです。


 さて、そんなこんなをしていたところ、唐突になんかヤバそげな魔法の気配が。めっちゃ濃密で、なんかこう、逆らっちゃいけない感じ。


 ヤバいと思ってみんなが杖に手を賭けた瞬間、目の前に大きな白い梟が。羽ばたく音も聞こえなかったし、そもそもどうやってここに入ってきたんだって疑問があるけど、ともあれなんかそいつが当たり前のように机の上にいる。


 よく見たら、去年も来たマデラさんの梟だった。足にはやっぱりメッセージカードが括り付けられている。『び、びっくりしたあ……!』ってステラ先生がいつの間にか一瞬で張っていた極堅螺旋重層結界を解除する。さすがステラ先生。


 メッセージカードには、『メリークリスマス。ささやかながら、クリスマスプレゼントとしてケーキを贈ります。みんなで仲良く食べてください』ってあった。あと、『寄り道の件、了解しました。こちらのことは気にしなくて構いません。ただし、くれぐれもあちらのご家族に迷惑をかけないように』ともあった。


 【やらかしたらどうなるかは、あえて伝えるまでも無いよな?】って呪文字で書かれていたことだけが気にかかる。なんか読んだ瞬間にあの文字動き出して俺の体に入ってくるし。マデラさんはもう少し俺のことを信用してくれたっていいんじゃないか?


 んで、去年と同じく白い梟は大きくて豪華なクリスマスケーキに変化する。俺の煉獄ケーキとは比べ物にならないくらいに美味そう。めっちゃ良い匂いがするし見た目も華やか。世の中広いし不思議なことは数あれど、美味しいケーキが自分から飛んでやってくる光景なんて、そうそうみられるものじゃない。


 こんな美味そうなケーキを前に、食べる以外の選択肢なんてありえない。むしろ、勉強なんてしてたらケーキに対して失礼だ。無作法の極みと言ってもいい。


 ナタで切り分けたケーキは、あえて確認するまでもなくめっちゃ美味かった。勉強で疲れ切った心と体がみるみる元気になっていく。イチゴの甘酸っぱさも、クリームの甘さも……ふわっとした食感も最高だし、バニラの甘い香りも極上。


 『おいしい……!』って幸せそうに笑うロザリィちゃんが本当に可愛い。『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃもお顔がゆるゆる。女子たちはみんなそんな感じで、普段はあまり甘いものを食べない男子も無言でガツガツ食いまくっていた。ジオルドなんて、『またこれを食べられるなんてな……!』って本当に嬉しそうな顔していたしね。


 マジにマデラさんのケーキは美味い。いったいどうやったらこの高みにまで追いつけるのか、本当に想像ができない。俺があと三回くらい人生をやり直して、そのすべてをケーキ作りのために捧げれば足元くらいには追い付ける……いや、それでもたぶん無理だ。


 あと、ステラ先生は『美味しいなあ……!』って全身がふにゃふにゃしちゃってたけど、それでなお『……未だに魔法の構成がまるでわからない』って瞳の奥で知的な光を輝かせていた。幸せの余韻に浸りながらもクールでかっこいいおねえさんなステラ先生も最高に可愛かったです。


 夕飯食って風呂入って雑談して今にいたる。雑談中、ロザリィちゃんに『……マデラさんからのお許しもでたし、これで堂々と私の家にいけるね?』って耳元で囁かれた。『……き、緊張してるのは私もだからね?』って肩に頭をこてんって乗せられた気もする。なんか改めてその事実を実感して、心臓ドキドキで他の事よく覚えてないんだよね。


 ともあれ、ちゃんとスジは通したしあとはロザリィちゃんのお家にお邪魔させていただくだけ……ああ、なんかまだ全然先なのに今から緊張してきた。


 菓子折りとか土産とかどうしよう? やっぱなんかいい感じのを見繕うべきだよな? 子供が友達の家に遊びに行くってわけじゃあないし、その辺がしっかりしてこその大人……って認識でいいんだよな?


 ギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりとねこけている。良いアイディアが出ることを願って、今日は大人の心構えでも詰めておこう。おやすみなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] マデラさん、やっぱり分かってるなぁ 書き手がやらかさない保証がねぇ 本命:書き手がガキに 対抗:ギルが縮む 大穴:書き手が縮む
[一言] 彼女の家行くのって緊張するよね
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