271日目 アフタークリスマス
271日目
骨がとってもギルギルしい。トイレが詰まりかけてちょっと焦った。
ギルを起こして食堂へ……行く前にロフトへ。ある意味予想通り、ちゃっぴぃがクマのぬいぐるみをぎゅっ! って抱きしめてスヤスヤ寝こけていた。もちろん傍らにはウサギのぬいぐるみと、俺からかっぱらった夢魔のぬいぐるみもある。寝床が狭くなっているのは気にならないのだろうか?
で、ちゃっぴぃをおんぶしてから食堂へ。食堂に集まった人はかなり少なめ。昨日どんちゃん騒ぎしたせいだろう。俺みたいに夜のデートを楽しんでいた奴もいるはずだし。ギルはそんな数少ない真面目な奴に『これ親友からもらったんだぜ!』って例のベルトを見せまくっていた。
朝食は朝からクリスマスチキンの残りを食す。『自分たち用のご褒美で少し残しておいたんだけど……なんか、歳だからか脂物を受け付けなくて……』っておばちゃんが悲しそうに笑っていた。他の連中も二日酔いやその他胸焼けで食べる気力が無いようだったので俺とギルで頂く。
あえて書くけど、ギルはやっぱり『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。人が来ないせいで余りまくっていた朝飯も『みんな食わないなら俺食っちゃうよ!』って言って食いまくっていた。あいつの食欲は底なしだと思う。
そんな感じで朝のひと時を過ごしていたところ、ロザリィちゃんたちいつもの女子メンツがやってきた。ロザリィちゃん、俺と目があうなりかーって真っ赤になってなんか照れ照れしている。もちろん、首元には昨日贈ったネックレスが。
『……お、おはよう?』ってはにかむロザリィちゃんがマジプリティ。『朝から見せつけてくれるの』ってミーシャちゃんが文句を言ったけど、それにしてはなんかにこにこと上機嫌。普通にそのままギルに登ってめっちゃルンルンで鼻歌歌ってた。
見慣れぬイヤリングを着けていたけど、つまりはそういうことだろう。ギルの野郎もなかなか味なことしやがる。
その後は普通にクラスルームに戻る……のはいいんだけど、アルテアちゃんとパレッタちゃんが終始無言。怒っているわけでも悲しんでいるわけでもなく、とにかくひたすら無表情。
あまりの不気味さにヒナたちはアリア姐さんの胸の中に隠れようとする。そのアリア姐さんもなんか顔がブチ切れたオーガみたいなことに。怖い。
一応、何があったか聞いてみる。アルテアちゃんは『………………クリスマスデートに誘ってくれて、本当に、本当に嬉しかったのに。あいつは……』って壁の方を指さす。アホみたいな顔してグッドビールと酒瓶に抱き着いたまま寝こけているフィルラドがいた。こいつマジでクズじゃね?
パレッタちゃんにも聞いてみる。『野郎、途中で逃げやがった』とのこと。いったい何があったのか聞くのがすごく怖い。
アリア姐さんにも事情聴取。「なによ、もう……! 人が見ている前で鼻の下なんか伸ばしちゃってぇ……ッ!」……とでも言わんばかりに歯をぎりぎり。数人の女子がさっと目を逸らしていたのを俺は見逃さない。
つまるところ、フィルラドは酔いつぶれてデートをすっぽかし、ポポルはデートの途中で逃げ出し、そしてジオルドはアリア姐さんと言う善き使い魔がいながらも他のジオルド派女子のクリスマスアタックにデレデレしていたということだろう。
ちなみにクーラスは普通に上機嫌だった。『もう毎日クリスマスにならないかな……!』って優雅に秘蔵のハーブティーを飲んでアホみたいに浮かれていた気がする。俺とロザリィちゃんがデートしている間、クラスルームで何があったのか気になるところだ。
昼過ぎになってようやくフィルラドが目覚める。『昨日は最高の夜だったね、アティ……!』ってあいつは愚かにもトロールみたいなアホっぽい満面の笑みでアルテアちゃんの肩を抱こうとした。
次の瞬間、『ぎゃふッ!?』ってフィルラドの悲鳴が。アルテアちゃんが無表情ノーモーションのガチ顔面ケツビンタをブチ込んだ故である。空気の唸る音が聞こえるほどの勢いと、手首のキレが凄まじかったことをここに記しておこう。
『ど、どうしたんだよアティ……!?』ってフィルラドはおろおろ。これ以上は見ていられなかったので、『お前、本当に昨日の夜アルテアちゃんと過ごしたのか? だとしたら、お前が今抱えているそれはなんだ?』って告げておく。
人間の顔ってマジで一瞬であんなに青くなるんだね。あいつ二日酔いで酒臭いくらいだったのに、動く死体みたいな顔色になっていたよ。
そんな感じでドタバタしていたところ、入口の方からこっそりこっちを伺っているポポルを発見。アイコンタクトと口パクで【あいつ、いるか?】って聞かれたので、『恥ずかしがってないでこっち来いよ!』って大きな声で誘ってやった。
『みィィィつゥゥゥけぇぇぇたァァァ!』って目を輝かせるパレッタちゃん。『テめぇまジふざケんなよ!』って逆切れする涙目ポポル。『狂キ悶えエるヴィヴぃでィナ感しゃ祭でフィーばーシてヤガりましタのに、シぬ気でお逃ゲになるコトが出来たんダぞ!』って鳴きながら騒いでいたのを覚えている。ちょっと引いた俺をどうか許してほしい。
よくよく見ればパレッタちゃんの肌が中途半端にツヤツヤテカテカしている。どうやら今年もヴィヴィディナ感謝祭を開いていたらしい。ポポルの内部までヴィヴィディナが浸食していたところを見るに、今年は第三神層の反逆のサバトまでステージを上げられたのだろう。俺の中のヴィヴィディナが共鳴してそう囁いていた。
夕方ごろに、『みんな、大丈夫……?』ってステラ先生がやってきた。うっひょう。
『なんか、結構お酒飲んでいる人が多かったし……』ってステラ先生は心配そう。必死にアルテアちゃんのご機嫌を取ろうとするフィルラドを見て、『こ、これも青春のうち……じゃ、ないか』って苦笑。
『職員室でも毎年話題になるんだけど、クリスマスパーティ後にお酒でやらかして、一時的に仲が悪くなるっていうのがどこのクラスでもあるらしくって……』ってステラ先生は教えてくれた。どうやらこの光景は割と風物詩的なところがあるらしい。そりゃまあ、クレイジー共がクレイジーらしく酒を飲んでいたら、その後のロマンチックなんて望めるはずがないわな。
とりあえずフィルラドのやらかしを伝えてみたところ、『……それくらいなら全然軽いほうだね』ってステラ先生は遠い目をしていた。どうやら上級生の中では、恋人に対して【飲み会シューン先生現象】を起こす奴もいるらしい。ホント救いようがねえな。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日はのんびりしたい気分だったのか、その後は雑談の時までステラ先生が一緒にいてくれて大変うれしかった。例のひざかけをさっそく活用して、暖炉の前で女子たちと楽しそうにきゃあきゃあおしゃべりしていたのを覚えている。
チラッと聞こえた限りでは、その大半がコイバナだったと思う。先生はそういうのが大好き……というか、みんなでそういう風に盛り上がれることに憧れていたみたいだし、先生にとって至高の時間となったのではなかろうか。
フィルラドとポポルはヤバいままだった。ポポルはガチヴィヴィディナ汚染されてるだけだからまだよかったけど、フィルラドはもう本当にどうしようもない。『……とりあえず筋トレしようぜ! 体動かしてれば、なんかいいアイディア思いつくはずだ!』ってギルが気を使うレベル。なんだかんだでマデラさんの元に二週間……いや、三週間預けておくのが一番手っ取り早いんじゃねって思った。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。俺も昨日夜更かししちゃったし、今日はさっさと寝ることにしよう。ちょうどお誂え向きにちゃっぴぃという抱き枕もあることだし。
ギルの鼻には一欠片の希望を詰めてみる。グッナイ。