270日目 メリークリスマス
270日目
なんで俺にサンタさん来てないの?
落ち着こう。
朝起きて、一番にクッキーもホットミルクもそのままなことに気づく。プレゼントも置いてなければ、毎年必ず書いてくれるお手紙も無い。もちろんこの日記にも何も書かれていないとくれば、うっかりクッキーに気づかなかったとか、忙しくて手紙を書く時間も無かった……だとか、そんな希望的観測すら成立しないのは確定的に明らか。
間違いなく、今年は俺にサンタさんが来ていない。
今だからこそこうして冷静でいられるけど、その事実に思い当たった時は平静でいられなかった。どうして俺だけ、俺が一体何をしたんだ……って、憤りや悲しみと言ったいろんな感情がぐちゃぐちゃになっていたと思う。それは決して、愉快なものじゃない。
俺が枕元に置いたプレゼントを見て飛び上がって喜んでいたギルも、『……どうした、親友?』ってあまりの事態に俺を心配しだす始末。あの時の俺は、よっぽどひどい顔をしていたのだろう。
ともあれ、ちゃっぴぃを抱っこしてクラスルームへ。アリア姐さんの足元にはたくさんのプレゼントが置かれていて、ちゃっぴぃは『きゅーっ♪』って嬉しそうに駆け寄っていった。で、明らかにそれっぽいプレゼント……クマのぬいぐるみを見つけて、『きゅ! きゅ!』ってにこーって嬉しそうに笑って俺に見せびらかしてきた。
あの時の俺、果たして本当に笑顔でちゃっぴぃの頭を撫でてやれていただろうか。今更になってすごく不安になってきた。
その後は普通に食堂へ。クリスマスだからか、今日はみんな普通に起きている。『メリークリスマス!』、『メリークリスマス!』ってあちこちからクリスマスの挨拶が木霊していたほか、食堂もちょっぴりだけクリスマス仕様に。おばちゃんたちのさりげない心遣いだろう。
それでもやっぱり、俺の気分は暗いままだった。『なんだお前、変なものでも食べたのか?』、『朝からシケたツラしてんなあ』ってみんなに心配されるレベル。あいつらにはきっと、一生俺の気持ちなどわからないのだろう。
しかし、時間と言うのは無情にも過ぎ去る。俺には為さねばならない仕事がある。一度引き受けた仕事はスジが通っている限り命に代えてもやり通せってマデラさんは言ってる。
だから、魔材研と属性研に発注のあったお菓子とケーキを配達しに行った。結構な量があったけど、ルマルマ壱號を使えたからそこは何とかなった。奇しくも、きらびやかなお菓子の山をソリで届けに来た俺はサンタさんのように見えたかもしれない。本当に皮肉だ。
一応納品したそれを確認してもらって、受領書にサインをもらう。『忙しいところありがとね! これで素敵なクリスマスが過ごせそうだよ!』ってノエルノ先輩に言われた。『……去年は一足早いクリスマスプレゼントをもらったように記憶してますが』って言ってみたら、『私だって命は惜しいんだ。さすがにもうあんな危ない、メリットも無いことはできない』って返される。
やっぱり。やっぱり、ここでもかと思った。俺はもう、サンタさんはおろか誰にもクリスマスプレゼントを貰えないのだと思った。一年間ずっと良い子だったのに、どうして俺だけ……こんなにも理不尽な目に合うのかと、心の底からそう思った。
なんとか、その場は冗談と言うことで流せたように思う。万が一にも、お客様にこんな暗いドロドロした感情を見せるわけにはいかない。そこだけは、すごい宿屋としての俺自身の誇りに感謝したいと思う。
なんだかんだで、午前中には配達関係はすべて終了。あとは午後よりディナーとかの準備を進めて、夕方の早い時間からクリスマスパーティ、そして夜にクリスマスデート……ってだけなんだけど、【俺にはサンタさんが来ない】と言うあまりにも重すぎる事実のせいで、心はどん底。
だけど、ここにきて奇跡が起きた。
『……どうしたの? 朝からずっと、元気ないよね?』ってロザリィちゃんが俺をぎゅっと抱きしめてくれたの。『具合が悪いの? それともまた、嫌な夢でも見ちゃったの?』って優しく頭を撫でてくれたりもした。
そのあまりの慈愛に、俺もう冗談抜きに泣いたよ。さすがに泣きわめいたりはしなかったけど、ポロポロと零れる涙を抑えることができなかったよ。
で、正直に何があったかを語る。ロザリィちゃん、一瞬何かを悟ったような顔をして……そして、優しく俺の顔を抱きすくめてくれた。
『それはねえ、きっと……サンタさんが、──くんのことを大人だって認めてくれたってことだと思うよ』って……そう、優しく笑いかけてくれた。
『──くんが大人になったから、サンタさんももう大丈夫だって思ったんだよ。……プレゼントを待つ子供はいっぱい、いーっぱいいるからね。さすがのサンタさんも、その全部に対処することは難しいと思うの。だから、もう立派な大人になった人なら、プレゼントが無くても大丈夫……ううん、プレゼントなんてなくても、みんなと一緒に楽しくクリスマスを過ごせるだろうって信じているんだよ』って、ロザリィちゃんは優しく俺の頭を撫でてくれた。
そのうえで、『そういう風にサンタさんに大人だって認めてもらえたのが、たまたま──くんの場合は今回だったってだけ。いつかみんな迎えるその日が、たまたま──くんの場合は今回だったっていうだけ。……実を言うとね、私はだいぶ前にサンタさんに認められているんだ』って……そう言ってロザリィちゃんははにかんだ。
知らなかった。確かに言われてみれば、ナターシャやおっさんのところにサンタさんが来たところを見たことが無い。あいつら互いに贈り物を贈ることがあっても、サンタさんからもらったってプレゼントは無かったはずだ。もちろん、周りにサンタの系譜を継ぐ者がいるはずもない。
それに、マデラさんだってサンタさんからのプレゼントをもらっていない。もし貰っていたとしたら、マデラさんならサンタさんが侵入した瞬間にひっ捕らえてプレゼント製造機にしているはず。
俺は悪い子じゃなかった。サンタさんに見放されたわけじゃなかった。ただ単に、大人になったからサンタさんがそれを信じてくれた……ロザリィちゃんのその言葉に、どれだけ俺が救われただろうか。あの時の気持ちだけは、日記に書き表せそうにない。
『それでも、ほしがりさんな──くんには……私から、特別に一足先のクリスマスプレゼント、あげるね?』ってロザリィちゃんがキスしてくれて、ようやく俺は心の底から笑うことができた。
……完全に余談だけど、ちょうどその瞬間をクラスルームにやってきたステラ先生に見られてしまった。『な、なな、仲がいいのは良いことだよねっ!』って完全に真っ赤っか。これくらいはいつもやってるけど、今回は完全に不意打ちで見てしまったがゆえに心構えができていなかったらしい。
その後は流れでパーティの準備。お菓子はもちろん、エビフライやからあげなど、お酒のおつまみになる様なそれをエプロン姿ロザリィちゃんと一緒に仕上げていく。迸る新婚夫婦感が最高だったのと、『あーん♪』ってロザリィちゃんがつまみ食いさせてくれたのが幸せすぎて詳細をあまり覚えていない。許せ。
俺たちが準備している間にも会場の方のセッティングもばっちり。プレゼントをどっさり乗せたルマルマ壱號と、いよいよもって華やかな装いになったクリスマスツリーアリア姐さんが真ん中に。そして、『いっぱいもってきちゃったぜ!』ってギルを筆頭とした男子が食堂よりクリスマスディナー(チキンやシャンパン、その他もろもろ)の大皿をこれでもかと持ってきてくれた。
そして『メリークリスマス!』、『…メリークリスマス』ってピアナ先生とグレイベル先生がやってきた。ピアナ先生はサンタさんの帽子を被るというクリスマスエディション。グレイベル先生もサンタさんのおひげと言うクリスマスな装い。ピアナ先生の手料理はもちろん、グレイベル先生もなんかガチな肉のローストを携えている。
さらに意外なことに、『メリークリスマスぅ!』ってノリノリでシキラ先生と魔材研の連中までもがやってきた。あまりにもデカすぎる豚の丸焼きがその後ろに。『ささやかだけどクリスマスプレゼントだぜ! 再履の連中に狩らせたから変な遠慮はしなくていいぞ!』って颯爽とシキラ先生は去っていく。あの人再履のことを都合のいい手駒程度にしか思っていないのではあるまいか。
ともあれこれにて準備万端。ディナーが揃ったのでクリスマスパーティを始めることに。
『めりぃぃぃ……! くりすまぁぁぁぁすっ!』ってステラ先生の元気な声と共に、『メリークリスマス!』の大唱和。きゅぽん! ってあのシャンパンの栓を開ける音が響き、ルマルマのテンションもマックスに。
クリスマスチキン、丸焼き、ロースト、ピザ、グラタン、ミートローフ、ばーちゃんの所の郷土料理のチーズの肉のアレ、エビフライ、おさかな、ターキー、フライドポテト……と、机の上にはご馳走がいっぱい。ギルじゃなくとも『うめえうめえ!』ってみんなが貪りまくる。あまりの豪華さにちゃっぴぃが『きゅーっ♪』って飛びついたくらい。
『やっぱ肉だろ!』ってクーラスはチキンをひっつかんで食べていたし、ジオルドも『クリスマスだから許されるよなあ!?』ってすでに結構酔っぱらいながら禁断のピザ二枚持ちと言う禁忌を犯す。
ポポルとパレッタちゃんは『その肉俺が予約してた奴だし!』、『だから私が食べるんじゃん!』などとぎゃあぎゃあ言いながらグレイベル先生のローストを噛み千切りまくっていたっけ。もちろん、その足元ではヴィヴィディナが蠢いておこぼれを狙っている。
フィルラドもここぞとばかりに肉を食い漁っていたんだけど、『頼むから、無様に酔っぱらってくれるなよ……』ってアルテアちゃんが気が気でない様子。そういう自分はちびちびと優雅にシャンパンを楽しんでいて、時折思い出したように料理に手を付けていた。
ミーシャちゃんはおさかな。ただひたすらにおさかな……とみせかけて丸焼きに丸かじり。もちろんギルも丸焼きを食ってたんだけど、もはやミーシャちゃんまで食っちまいそうな勢い。この場合、わずかとはいえギルに張り合えるミーシャちゃんを讃えるべきだろうか。
もちろん、普通のジャガイモも『うめえうめえうめええええ! やっぱクリスマスのジャガイモは一味違うぜ!』ってご満悦。ギル仕様のいつも通りのただの蒸かし芋なのにね。
我らがロザリィちゃんも『おいしーっ!』っていろんなものを食べていた。『ちょっとは──くんに近づけたかなあ?』って頭をこてんって俺の肩に乗っけてくれたりもした。赤くなってドキドキしてたら、『……この程度でドキドキされると先が思いやられるんですけど?』って上目づかいで見つめてきたり。
『キミも真っ赤だよ?』って肩を抱いたら、『恥ずかしいこと言うのはこの口かあ?』ってエビフライを『あーん♪』された。もっとやってほしかった。
去年に比べてお酒があるからか、盛り上がりもより凄まじいことに。酒の勢いでピアナ先生に抱き着いている女子もいれば、無謀にもグレイベル先生に勝負を挑んでいる奴も。チラッと聞こえた限りでは、『これで勝てたらモテる秘訣を教えてください』……なんて話していたけれども。グレイベル先生は『…………お前も泥沼に嵌りたいのか?』って悲痛な面持ちをしていたっけか。
ちなみに、今回のメインのお酒のシャンパンは割と飲みやすい方であった。やっぱり単品で楽しむというよりかは、肉やチーズと言った味の濃い料理と合わせたほうが美味しい気がする。
実際、『あっ……! 先生、これけっこう好きかも……!』ってステラ先生がばーちゃんのところのチーズの肉とシャンパンを合わせて楽しんでいた。ほろ酔いでうっすら頬の赤くなったステラ先生は、ただ食事をしているだけなのにめっちゃ可愛い。開放的になっている分そのままの表情が出ていて、なんかもう見ているだけで心が洗われる。
そんな先生に見とれていたところ、『きゅーっ!』ってちゃっぴぃに頭突きされた。どうやらそろそろデザートが食いたいらしい。机の上のディナーもぼちぼち減ってきたので、ロザリィちゃんと一緒に隠してあった煉獄ケーキやお菓子一式を準備してみる。
『うぉぉぉぉ!』、『今年も来たアアアア!』って大歓声。煉獄ケーキの中身そのものはいつもとあまり変わらないけれど、やはりあのクリスマスの雰囲気と酒の力のせいでみんな思っていた以上にテンションがアゲアゲに。
使い魔たち用に切り分けた煉獄ケーキ、一瞬で消えたからね。まず辛抱堪らなくなったグッドビールがケーキに頭から突っ込み、負けじとヒナたちがそれに追従して……ヴィヴィディナが何とかしてくれなければ、お掃除が大変なことになっていた。
ちゃっぴぃには俺とロザリィちゃんから『あーん♪』してやる。三回目のロザリィちゃんの『あーん♪』のとき、『すきありっ♪』ってピアナ先生がかっさらっていた。『きゅうううう!』って憤るちゃっぴぃに対し、酔ったピアナ先生は『代わりに先生のちゅーをやろう!』ってちゃっぴぃのほっぺにキス。天使と夢魔の戯れがそこにあった。
ちなみにステラ先生はそれに参加せず。強力なライバルがいなくなったのをこれ幸いとばかりに、『じゃむくっきぃ……!』って目を輝かせて俺特製ジャムクッキーを独り占め。『せんせいも、あーんする?』ってロザリィちゃんの魅惑的なお誘いに、『……する!』ってちょう笑顔で答えていた。
毎度のことながら、女の子は女の子ってだけで女の子とイチャつけるからずるい。お酒の力もあってぽわぽわにいい気分になったステラ先生は、そのあともアルテアちゃんに『ママぁ、抱っこ~!って』甘えていたし……。
ちょっと意外なことに、ジオルド、ポポル、俺、グレイベル先生でチキン・バトルをすることにもなった。勝負としては単純に、どれだけ素早くチキンを食えるかってだけのもの。
匠のジオルド、若さのポポル、優雅なる俺と言う勝者の予測ができない豪華なメンツに対し、グレイベル先生は骨ごとチキンを貪り食うという荒業を決行。『…男は顎でキめろ』という名言と共に、先生の勝利で幕は落ちる。
良い感じに盛り上がってきたところでプレゼントのお披露目に。不思議なことに、『今年はみんなサンタさんに認められたから、サンタさんからじゃなくって、先生からみんなにプレゼントを贈るね?』……って、なぜかステラ先生は俺がサンタさんに認められたことを知っていた。もしかしたら、事前にサンタさんから連絡を受けていたのかもしれない。
そして、ステラ先生は俺たち一人一人にクリスマスプレゼントをくれた。『今年も一年、良い子だったね!』って頭を撫でてくれて、本当にうれしかった。
全員に行き渡ったところで、せーので開けてみる。
『うっわ……!』、『ガチのやつじゃん……!』ってみんなが驚いた声を出す。かくいう俺もその一人。
男子はめっちゃ高そうなネクタイピン(しかもなんか魔法的守護がかけられている)、そして女子はお洒落でガチっぽい感じの化粧箱(見た目以上に物が入るタイプ)。マジかよって思ったよね。
『この前の正装の時ねえ、どうせならクラスみんなでお揃いの物が何か一つでもあったらいいなぁって……。将来、卒業してクラスのみんながバラバラになっても、大事な節目の時に思い出すきっかけになればいいなぁって……そう、思ったの』って、ステラ先生は感極まったように告げる。
なんだろうね、あの時の嬉しいような、懐かしいような、それでいてちょっぴり寂しいともいえる気持ちは。いろんなことを言いたくなったのに、でもそれが言葉にできなくて……なんかみんな、息を吞んで、それ以上何も言えなかったんだよね。
とりあえず、ロザリィちゃんが無言でステラ先生を抱きしめに走った。次いでパレッタちゃん、ミーシャちゃんも続く。触発されるようにアルテアちゃんやそのほか女子までもがステラ先生を抱きしめに行くものだから、『え、ちょ、待ってってばあ……!』ってステラ先生が大変嬉しそう。
男子一同、めっちゃ羨ましかった。出来ることならそれに混じりたかった。でも、『…俺でよければ、気絶するほど情熱的にハグしてやるぞ』ってグレイベル先生がガチ顔で言ってきてみんな辞退することになった。ギルだけは『望むところっす!』って乗り気だったけどね。
その後もプレゼント開封の儀は進む。ちゃっぴぃは言わずもがなクマのぬいぐるみで、ギルは例の極重ジャガイモ仕込みのベルト。グッドビールには専用の首輪が送られ、ヒナたちにはなんかおもちゃが送られていた気がする。
アリア姐さんには、ジオルドより極上の栄養剤とイヤリングが送られていたっけ。『邪魔にならなさそうで、あと単純にアリア姐さんに似合いそうなものをチョイスした』ってやつは言っていた。本当は髪飾りにでもしようとしたらしいんだけど、『頭にはすでに花があるからな』ってジオルドはしれっと宣う。
アビス・ハグにとって特別な存在である花を褒められたからか、アリア姐さんは今まで見たことが無いくらいに真っ赤になってもじもじしていた。「……そ、その、照れるわ」って感じでほっぺを押さえて表情がゆるゆる。あんなアリア姐さん、初めて見たかもしれない。
なお、極上栄養剤はその場でアリア姐さんに使用されることに。根っこに直接使うタイプ……要は、アリア姐さんの生足に直接擦りこむタイプね。クリスマス衣装の(見た目だけは)ダイナマイトぼでーのアリア姐さんの生足に栄養剤を塗るジオルドは、いろんな意味で背徳的な姿であった。
そうそう、ステラ先生にも謎の誰かからプレゼント。今年はお洒落でシックな模様が特徴のハーフケット(ひざ掛け)だったらしい。『うわあ……! ちょうどこういうの、欲しいと思っていたの……!』ってステラ先生はぴょんぴょこ跳ねて大喜び。
プレゼントの贈り主のセンスもさることながら、先生の体を冷やさないようにと言う心遣いが何より素晴らしい。俺の見立てでは、あのハーフケットには失われた裁縫技術の片鱗を使って火の魔法陣が組み込まれている。つまり、何もしなくても最初からほんのり温くて気持ちよく、一晩ずっと使っていても冷えることはない。最高すぎない?
ステラ先生、なぜか俺に向かって『これも一生大事にするからね! 本当にありがとう!』って微笑んできた。しかもしかも、『……特別だからね!』ってぎゅっ! って抱きしめてくれたりもした。すごいのは俺じゃなくてどこかの誰かさんだけど、悪い子な俺はその手柄を横取りさせていただいた。
そして事態はさらに大きく盛り上がる。そろそろプレゼント開封の儀も終わりだなと誰もが確信し、クリスマスケーキにクリスマスキャンドルを刺しまくって誰が止めの『ふーっ!』ってやるかをもめていたところ、『ステラぁ、まだプレゼントあるでしょ?』ってピアナ先生がニヤニヤしながらステラ先生に絡みだす。
ははぁ、これはピアナ先生は酔ってるな、そういやなんか今日はピアナ先生ご機嫌だな……なんて思いつつ、その様子を横目で見る俺たち。
次の瞬間、ピアナ先生は……『暑いから脱いじゃいまーすっ!』って自らの衣服を脱ぎ去った。
しかも、『そぉれぃ!』ってステラ先生の服まで引っぺがす。『ひゃあああん!?』ってかわいい悲鳴。『うぉおぉおお!?』って男子(と一部の女子)の怒声にも似た歓声。
ステラ先生とピアナ先生が、サンタさんスタイルだった。うっひょぉぉおあああぉ!
『せーっかくこの時のために仕込んできたのに、いつまで経っても踏み込まないんだから……!』ってピアナ先生はけらけら笑う。『だ、だってぇ……! わかっていても、恥ずかしいんだもん……! 思いのほか、お酒が効かなかったんだもん……!』とはステラ先生。
どうやら二人とも、パーティを盛り上げる一環(?)としてサンタの衣装を下に着こんでいたらしい。今まで全く気付かなかったのは、おそらく魔法で隠蔽していたからだろう。あるいは、俺たちが相応に酔っていて気づけなかっただけか。
ともかく、覚悟を決めたステラ先生は『……この前踊れなかった分、ここで踊るね!』って頬を赤らめながらもくるくると踊りだす。『ちょっと男子ィ、一人で踊らせるって有り得ないでしょー?』ってピアナ先生が女子の真似(?)して煽り立てれば、俺たちはもうステラ先生にダンスを申し込む以外にやることはない。
結果として、ステラ先生のダンスを間近でガン見しつつ、そしてステラ先生のダンスのお相手をするというかつてない程の栄光の時間を過ごすことができた。そんな密着するようなタイプのダンスではないとはいえ、先生と手をつなぎあって、あの至近距離でくるくる動くとか……。
『一生の思い出だ』、『この体験、家宝だわ』ってクラクラしちゃう男子が続出。『お、大袈裟すぎっ!』ってステラ先生が真っ赤になっていたけれど、どうして先生は自分のことをもっと客観視できないのか。
ちなみに、バックダンサーとしてちゃっぴぃとヒナたちのケツフリフリダンスがあった。相も変わらずケツのキレが鋭い。そしてなぜか一部の女子が完璧な男型でステラ先生のダンスのお相手をしていたんだけど……妙に息が荒かったのは、果たして本当に運動と酒のせいなのか?
そんな感じでクリスマスパーティは終了。他にも書きたいことや書くべきこともたくさんあるけれど、全部書いていたらさすがに時間が無い。雰囲気だけでも感じ取ってくれることを祈る。
その後はロザリィちゃんとの二人きりのクリスマスデート。誰にも見つからないように厳重に隠蔽を施したブッシュドノエルを準備し、いつもの玄関ホールでロザリィちゃんが来るのを待つ。『……待った?』って声に振り向いてみれば、パーティの時とちょっぴり装いを変えたロザリィちゃんがそこにいた。
なんだろうね、そこまではっきり着替えたって感じじゃないのに、おめかししているのがはっきりと伝わってくる。俺が贈った指輪にイヤリング……思い出の品が目立っていたからだろうか。この段階でもう、俺の心臓はドキドキしすぎて大変ヤバいことになっていた。
『……二人きりだねえ?』って耳元で囁かれながら指を絡められた時、フライングでキスしてしまいそうになった。ロザリィちゃんってばマジ魔性の花。
そして例年通り、【二人が初めてキスした思い出の場所へ行く】愛魔法をロザリィちゃんが発動。久しぶりの浮遊感の後、身を切るような凍える風を感じるとともに、満天の星空が目の前に。
『寒くない?』って握る手に力を少し込める。『……遠回りなおねだりかな?』ってロザリィちゃんは俺の腕にぎゅ! って抱き着いてきた。髪とかで顔はよく見えなかったけど、感覚で、心でロザリィちゃんが赤くなっていることを理解できた。
そのまま何となく、二人で無言で抱きしめあっていたと思う。言葉が無くても通じ合っているあの感じ……あの幸福感を、日記でどう表現するべきか。あればっかりはもう、体験した人にしかわからないものだと思う。
いつもと違う特別な甘い雰囲気の中、二人でブッシュドノエルを食す。『あーん♪』して食べさせ合うのはもういつものことになってしまったけど、それでもあのドキドキは毎回新鮮で、いつになっても慣れそうにない。お互い手つきだけは慣れてきたのに、嬉しくて、恥ずかしくて、照れくさくて……。一瞬一瞬で常に恋に落ち続けているような、そんな感じ。
俺は何度だってロザリィちゃんに惚れるし、毎日のように惚れなおしている。毎回会う度に初恋の、初めて恋に落ちた時の気持ちを感じているんだなって、改めてそう思った。
そして多分、これは一生続くのだろう。俺は一生ロザリィちゃんの虜で、ロザリィちゃんのいない人生なんて考えられない。
ブッシュドノエルは減っていくけれど、甘い空気はそのまんま。ロザリィちゃんは少しお酒が残っているのか、なんかいつになく甘えてくる感じで、そしてなんか色っぽい。とろんとした表情と、潤んだ瞳と、真っ赤なほっぺがどんどん近づいてきて。
気づけば、俺たちはキスしていた。すごい情熱的で、すごいロマンチックで、今までにないくらいオトナなキスだったと思う。心と心が結ばれた満足感というか、幸福感でいっぱいで、他のことなんて何もかも忘れてしまった。
今思い出しても顔が熱くなってくる。ドキドキしすぎて心臓が痛い。座っていられなくて走り出したい。ペンをぶん投げて好き勝手に魔法をぶっ放したい。そして全力でロザリィちゃんを抱きしめたい。
『……んふふ♪』ってにこーって笑うロザリィちゃんが、本当に色っぽかった。こういう例えはおかしいだろうけど、マジで魅惑種の夢魔でさえ敵わないくらいに。俺たぶん、あの表情のロザリィちゃんには絶対に逆らえないし、あの顔で命令されたらどんなことでもやってしまうと思う。
ダメだ。ちょっと落ち着こう。マジで動悸がヤバい。
存分にイチャイチャした後、ロザリィちゃんは『──メリークリスマス』って俺の耳元で囁いてきた。『──くんへの今年のプレゼントは、私に──くんを好き勝手にさせるっていうのは……どう?』とも。
『それはキミへのプレゼントになるんじゃないのかな? そんな遠回りなことしなくても、いつでも好きにしていいんだけど』って肩を抱き寄せたら、『……そういうとこだぞっ!』って耳を軽く噛まれた。きゃあ。
しかもしかも、次の瞬間に首元がふわっとあったかいものに包まれる。深い碧のギンガムチェックのマフラー。確認するまでもなくロザリィちゃんの手作り。
『改めて、メリークリスマス。大好きなあなたへ』ってロザリィちゃんははにかむ。『プレゼントとしてはちょっとベタだったかもだけど……』って言いながらも俺の首元にそれを優しく巻いてくれた。『実はねえ、結構前から夜とか空き時間にこっそり作っていたんだけど……気づかなかったよね?』ってウィンクしてきたり。
まさかこんなに立派なマフラーを贈ってもらえるなんて。きっと俺は世界で一番幸せなのだろう。『一生大事にする』って答えたら、『……それは、どっちに対して?』ってロザリィちゃんがにこにこ笑いながら俺のほっぺにキス。そんなの両方に決まっている。
ちなみにこのマフラー、だいぶ……というか、かなりのロングスタイル。『……うひひ』ってロザリィちゃんはせっかく巻いたそれを解き、そして俺にぴったり寄り添って自らの首にも巻いた。『……こういうの、憧れない?』ってめっちゃ笑顔。
どうやら二人……下手したら三人まとめて使うことを想定してこの長さにしたらしい。全くロザリィちゃんは最高すぎるぜ。
ロザリィちゃんからのプレゼントの次は、俺からのプレゼントのターン。俺からはネックレスをロザリィちゃんに贈る。『お互い、考えることは一緒だねえ』ってロザリィちゃんはけらけら笑いながらマフラーを外し、『……つけて、くれるんだよね?』って俺に首を差し出してきた。
もちろん着けさせていただく。『えへへー……!』ってにこにこ笑いながら何度も確かめるようにそれに触れるロザリィちゃんが本当に愛おしい。『私、こんなに幸せでいいのかなあ? 幸せすぎて、これ以上幸せになったらどうなるかわかんないかも』ってロザリィちゃんは最高にご機嫌。『──くんと一緒にマフラーもしたいけど、でもそうするとネックレスが見えなくなっちゃうし……!』って楽しそうに悩んだりもしていたっけ。
なんだかんだで、夜のクリスマスデートはこんな感じ。クラスルームに戻る前に、最後にとびっきりのキスをしたけれど……これは、俺とロザリィちゃんの心の中だけに閉まっておこうと思う。
はっきりしているのは、俺は間違いなく世界で一番幸せで、これから一生、何があってもロザリィちゃんを愛し続けていくってことだけだ。この最高の幸せな思い出を胸に、俺は一生をかけてロザリィちゃんの愛に応えていく。
だいぶ長くなったけどこれくらいにしておこう。いい加減夜もかなり遅いし、胸のドキドキもだいぶ収まってきた。これならなんとか眠ることもできるだろう。
ギルはスヤスヤと大きなイビキをかいている。俺が戻ってきたときにはすでにこの状態だったけれども、あいつの脱ぎ散らかされていた靴はまだ微妙に温かかったから、こいつもミーシャちゃんと聖夜のデートを楽しんでいたに違いない。明日になったら色々聞いてみようかな?
ギルの鼻には丸焼きの骨でも指しておく。チョイスに特に意味はない。おやすみなさい。