表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
267/367

266日目 悪性魔法生物学:クリスマス休講

266日目


 ギルの筋肉のエッジが効いてる。いつも通りじゃね?


 ギルを起こして食堂へ。今日もまた一段と冷え込みが激しく、外では普通に雪が降っていた。早起きして誰かが作ったのだろうか、割と大きめな雪だるまが三体も作られていたり。


 そのどれもが額にヤバそげな魔法物体(たぶんゴーレムのコアのクズ)が埋め込まれてたんだけど、アレやったのマジで誰だ?


 朝食はコーンポタージュをチョイス。甘くてあったかくてこんな寒い日にはぴったりの一品。さすがはおばちゃんと言うべきか、塩加減もばっちり。甘みの中に潜む塩味がコーンの味わいをより深く引き立てている。最近の勘違いコーンポタージュって、ただひたすらに甘くしているだけだから薄っぺらく感じるんだよね。


 俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ♪』ってコーンポタージュを飲みまくっていた。俺がふうふうしているのに尻尾で俺の背中を叩いて早く飲ませろとせがむ始末。同じ野菜でも、コーンだけはきちんととってくれるから不思議なものである。


 割とどうでもいいけど、今日は珍しくフィルラドがヒナたちに『ほら、たんと飲め』ってコーンポタージュを与えていた。あいつがヒナたちの面倒を見るなんて本当に珍しい。あまりの驚きでヴィヴィディナがうっかり産卵(ビー玉みたいな見た目のつぶつぶをいっぱい)しちゃったレベル。


 「ギャアアア!」って甲高い金切り声を上げながらヴィヴィディナは天井をカサカサ這いずり回って逃げていった。『デリカシーってものを考えてよね!』ってパレッタちゃんがフィルラドに厳重注意。ヴィヴィディナの卵はヒナたちのおもちゃになっていたことをここに記しておく。何気に結構な勢いで跳ねるので遊んでいてなかなか楽しかったと言えよう。


 『私の頭、おかしくなったのかな』、『安心してくれ、俺も理解できない』、『何をいまさら。奴らはそういう奴だってわかりきってるだろ』って、シャンテちゃん、ゼクト、ラフォイドルが俺たちを見てコメント。混ぜてほしいなら素直にそう言えばいいのに。


 今日の授業は我が天使ピアナ先生と俺たちの兄貴グレイベル先生による悪性魔法生物学。ルマルマ一同、休み前にアホみたいな大怪我をしないように心を引き締める。なんだかんだで今までそんなになかったけど、実験と同じくらいに生物学は危険がいっぱいなのだから。


 ところが、いつもの場所に着くなりピアナ先生に『クリスマス前だから自習っ! 私がそう言ったんだから私がルールねっ!』って宣言されてしまった。


 『いいんですか?』って一応聞いてみる。『去年も言ったでしょ? クリスマス直前の授業は絶対、ぜえったいお休みにするって! みじめで寂しい思いをするのは、私で最後にして見せるって……ッ!』って、ピアナ先生は決意に満ちた表情。そういえばそんなようなこと言っていた気がしなくもない。


 『…マジな話、重大な事故が起きることを見込んで予備日を取っているから。ルマルマは大きなケガ人は出なかったし、この前のドラゴンの時の休講を考慮しても余裕はある』ってグレイベル先生。そりゃまあ、いくら何でもピアナ先生の一存だけで決められるわけがないわな。


 そんなわけで早々に雑談タイム。クラスルームに引き返さずにわざわざ寒空の下で喋っていたのは、一応は授業をしているという態を保つため。シキラ先生じゃないけど、いくら進捗が管理できていると言えど授業時間中に学生をクラスルームに戻すのは学生部が良い顔しないらしい。すんげえ嫌な顔でネチネチ文句言ってくるのだとか。『特にこの授業は外だし、やってないと一発でバレるんだよね』とのこと。


 そうそう、去年は先生たちをクリスマスパーティに誘い忘れてしまったため、今年は忘れずに誘ってみる。『今年は都合よく冬休み中ですし、先生たちの都合が良ければ……』って半ばダメ元。


 ところが意外なことに、『……四日後だよね? みんなが招待してくれるなら、喜んで!』ってピアナ先生は乗り気。グレイベル先生も、『…学生の宴会に、俺たちが混じってもいいって言うなら』と穏やかに微笑む。何人かの女子がぽって顔を赤らめていた。


 しかし、同時にまた絶望の情報も。『ごめんだけど、今晩から明後日の夜まではちょっと用事があって……だから、クリスマスの準備は手伝えないの』ってピアナ先生がもじもじ。『そ、その代わり当日にディナーとかの準備はするし、お土産とかは見繕ってくるから!』ってなんかお顔がまっかっか。


 『おみやげって、なんのことぉ?』、『今晩から……どこへ行くのかなあ?』って女子がピアナ先生に群がる。『そっかぁ……今年は授業と被ってないし、日取りをちょっとずらすには……二人で休みを合わせるには最高だよねえ……?』ってピアナ先生にガシッてしがみついて離さない。


 『うー! うー!』ってもがくピアナ先生。『ちょ……ちょっと、地元近くのおしゃれな街で、ディナーの予約が……日取りがちょっとズレてるから、割引が効いててお安くなってるってだけでぇ……!』ってしどろもどろ。


 それを聞いた瞬間、女子たちのきゃーっ! っていう黄色い声が。『ウソって言ってくれよぉぉぉ……!』って男子の怨嗟の悲鳴とすすり泣きが。かくいう俺もその一人である。


 ちくしょう。クソが。ラギの野郎、割引ディナーなんてケチくさいことすんじゃねえぞクソが。てめえ男ならマデラさんの宿のフルコースを一括で払えるくらいの甲斐性見せろよクソが。許さねえぞお前マジで。マデラさんの地獄のケツビンタで根性叩き直すぞマジで。


 『…人はこうして……少年はこうして大人になるもんだ』ってグレイベル先生が男子一人一人の肩をポンポン叩いてくれた。俺、こんなにもみじめで悲しい思いをするのなら、大人になんてなりたくなかった。


 ちなみに、グレイベル先生も用事があって今晩から学校を留守にするらしい。『…地元が近いから、途中までピアナ先生と同じ馬車だな』とのこと。


 『えっ……まさか……!?』って女子たちが色めき立つ。『………………クリスマスくらいは会いたいって、去年泣かれたからな』ってグレイベル先生。『うぉぉぉぉ!』って女子たちの野獣じみた咆哮が響き渡ったことをここに記しておこう。


 ただ、その割にはグレイベル先生の顔色は悪い。まさかと思って『ディナーの予約は何席しました?』って聞いてみれば、『…………三席だ』との答えが。マジかよ。


 『金銭的にも痛いし、なにより胃が痛い。トカレ・チフ=チルチカを生きたまま胃の中に飲み込んだみたいだ』って虚ろな表情。


 『俺前から少し思ってたけど、先生って意外とクズだよね』っておこちゃまポポルのストレートすぎる発言に、グレイベル先生は『…………返す言葉も無い』ってめっちゃうなだれていたっけ。


 女子たちは『たしか、先生たちの先輩だっけ!?』、『一人は一流シェフで、一人は一流パティシエって聞いた気がする!』、『どっちも美人で超かわいくて、しかも二人ともがグレイベル先生にぞっこんで……!』ってきゃあきゃあきゃあきゃあ盛り上がりまくりんぐ。


 『…てめえ、バラしやがったな! どこまで話した!?』って、グレイベル先生にしてはだいぶ焦った感じでピアナ先生にゲンコツ。『周りから焚き付けでもしなきゃ、あんた絶対動かないでしょーが! 焦らされ続ける先輩が不憫だって思わないんですか!?』ってピアナ先生も反撃。


 『クソが』、『慕ってたけどあんたやっぱ敵だ』、『一人ならわかる。二人? 舐めてんの?』って男子もブチギレしてピアナ先生に加勢。『まさかまだ隠していることとかねえだろうなァ!?』って割とマジに激昂して先生に魔法をぶっ放している奴も。


 なんでそこでグレイベル先生は露骨に頬をひきつらせたのか。アレはマジに悪手だったと言えよう。


 『隠してるってわけじゃないけど、この人の好みは清楚なロングヘアなの。でも、「好きな毛の色とかある?」って言う明らかにそれとわかる乙女の質問に、こいつ「茶色のふわふわ」って答えやがったの』……って、ピアナ先生がよくわからんことを話し出す。


 これには俺たちも首を傾げざるを得ない。グレイベル先生の好みが清楚ロングヘアなのは良いとして、なんで(おそらく)件の美少女先輩からの露骨なアピールの質問に関係ないことを答えたのか。


 もし俺がロザリィちゃんに同じことを聞かれたら、『どんな髪型でもキミなら全部似合うし、すべてに惚れなおす……けれど、初めて会った時の、いつものやつが一番好きかな?』って答えるというのに。


 『バカ、やめろ!』ってグレイベル先生のマジ焦り。しかし、ピアナ先生は止まらない。


 『もちろん、二人は翌週には茶色に髪を染め直して、髪型も変えた。……でも、よりにもよってこいつが答えたのは、好きなグリフィン(・・・・・・・・)の毛色(・・・)だったの。……本当の意味を知らないの、当の二人だけなんだよね』って特大級のドラゴンの糞が投下された。


 さすがの女子もこれにはドン引き。『うわァ……』、『ないわぁ……』、『……人としてどうなんですか、それ?』って、ゴミクズを見るかのような冷めきった瞳。激昂していた男子も、『さすがに、それは……』、『女の子がそーゆー質問してきて、どうしてそんな発想に至るんだよ……』って、憐みを通り越して軽蔑さえ感じる顔でグレイベル先生を詰っていた。


 『……いや、だって、しょうがないじゃないか』ってグレイベル先生はなお反論しようとする。が、さすがにこれは擁護できないし同じ男としてあまりに見苦しかったので、『腹ァくくって、しっかりケジメを着けてきてください。それが一番大事だってマデラさんも言ってましたよ』って肩を叩いておいた。『ヤケ酒にもいくらでもつきあいますから!』ってウィンクも忘れない。俺ってばマジちょうできた生徒じゃね?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。授業中はなんだかんだで先生のコイバナがメインで、雑談中も『今までは頼りになって尊敬できるカッコいい人だって思ってたけど……』、『人間、やっぱりどこかしら欠点ってあるものなのね……』って一部の女子が黄昏ていたり、『案外あの人、やってること俺たちと大して変わんなくね?』。『むしろ数年にわたりどっちつかずで二人も誑かしているんだから、余計にタチ悪いだろ』って男子が率直な意見を言ったりしていたっけ。


 『……少しくらいなら私の尻を触っていいから、頼むからあんな不誠実な真似だけはしないでくれよ……!』って、なんかアルテアちゃんが涙目になりながらフィルラドにすがっていたのを覚えている。『俺そんなに信用無いかなあ!?』ってフィルラドは慌てていたけれども、『むしろなんで信用があると思っていたのか』ってパレッタちゃんが容赦ないコメントをしていた。


 ふう。なんだかんだでちょっと長くなった。ギルはやっぱり今日もぐっすり寝ていて、そして明日から冬休み。しばらく授業が無いとかもう最高でしかない。


 今頃先生たちは馬車の中か、どこかで野宿か……あるいは、宿場町にでもいるのかな? なんにせよ、血を見るようなクリスマスにならないことを祈るばかりだ。グレイベル先生、マジに腹と背中にナイフが刺さった状態で帰ってくるんじゃないかと心配せずにはいられない。


 ガチガチの腹筋でナイフなんか刺さりそうにないギルは、果たしてクリスマスの準備はしているのだろうか? とりあえず、今日はシンプルに雪でも詰めておく。さっき降り始めたんだよね。みすやお。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この世界のあやひぎはグリフィンか……。
[一言] やっぱりグレイベル先生って某木先ぱ(スコップの振り下ろされる音) 本命:猛吹雪 対抗:暖炉でも溶けないギル・スノウ 大穴:寮が大きなかまくらに
[一言] 兄貴……部長の方がまだマシだよそれ 本命:大雪 対抗:室内大雪 大穴:ギルが冷たい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ