265日目 魔導工学:自習(先生が学会に行ってるため)
265日目
奴の両手の指全てにシンブル……いや、ただ単に指が硬化してるだけか。
ギルを起こして食堂へ。今日も今日とてクソ寒い。身支度を整えている間には手足がかじかんでくるレベル。食堂内も隙間風が酷く、使い魔どもが占拠している暖炉の前以外は外よりかはちょっとマシって感じ。これが室内とか泣けてくる。
ただ、『きゅ!』ってちゃっぴぃがおりこうさんで俺のお膝の上に素直に座ってくれるのはよかった。やはりあいつ、良い子を演じることで今年もうまい具合にサンタを召喚せんと目論んでいるらしい。野菜マシマシフレッシュサラダを『あーん♪』しても、嫌な顔一つせず……いや、ちょっと眉間にしわが寄っていたけど、普通に食ってくれたしね。
『いいこいいこ♪』ってちゃっぴぃの頭を撫でてあげるロザリィちゃんが本当に可愛かった。『俺にはないの?』って聞いてみれば、『じゃあパパにもしてあげるね!』って俺の頭を撫でたうえで、『……欲しがりさんなパパは、これだけで満足できないだろぉ?』って俺にキスしてくれたりもした。朝から幸せすぎてヤバい。
『……満足できないのはロザリィのほうなの』、『人のせいにしてイチャつく……まさにヴィヴィディナが七大罪、ルマルマの色欲を司るにふさわしいママディナなり』ってコメントされて、ロザリィちゃんは首元まで真っ赤になっていた。『べ……別に、愛魔法の修行だもん……自己研鑽の一環だもん』……ってごにょごにょ呟く姿も最高に可愛い。もっと修行に付き合いたかった。
そんな俺たちの横で、今日もギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。今日はエッグ婦人とヒナたち、そしてグッドビールも一緒にジャガイモ。ヒナたちはケツフリフリしつつピーピー鳴きながらジャガイモにヘドバンしていたし、グッドビールも「へっへっへっへっ!」ってアホ面晒してジャガイモの山に頭を突っ込んでいた気がする。あれ熱くないのかな?
さて、今日の授業はテオキマ先生の魔導工学……だけど、前回話が合った通りテオキマ先生が学会に出席されるため、今日は自習。自習と言う名の休講。『これもう俺たちの”時代”来ただろ』、『課題の一つも出していかないってことは、先生だってそーゆーつもりだろ!』ってヒモクズとおこちゃまはうっきうき。そうでなくとも、普段の鬼畜授業じゃないってだけで笑顔が止まらない奴がいっぱい。
ともあれ、みんなお気にのクッションや毛布を持ち寄り、とても授業中とは思えないほど和やかな雰囲気であったことをここに記しておこう。くつろぐ場所がクラスルームから教室に変わっただけと言ったほうがいいかもしれない。
大半の人は勉強そっちのけでクリスマスの準備。すでに十分クラスルームはデコられているけれど、来るべき本番のパーティに備えてさらにオーナメントを作成したり、あるいはクリスマス用の衣装を作成したり。単純に、プレゼントの準備を進めている奴も。
そんな中、珍しくアルテアちゃんがちくちくとお裁縫をしているのを発見。指先を包むくらいの赤い三角の袋的なものを縫い上げて、そこに何か白いふわふわを取り付けている。で、『……なんか、思ったのと違う』って何度もやり直ししていたり。
はて、指先だけの手袋だなんて奇妙なものを作っているなと思ったら、『……手袋じゃなくて、帽子のつもりなんだけど』って悲しそうに言われてしまった。『他の使い魔たちもクリスマスの装いしているし、ウチの子たちにも何かしてあげないといけないかなって思って……』とのこと。
どうやらアレ、サンタの帽子を作っていたつもりらしい。それならせめて頭に白いポンポンをつけるほうがそれらしさが出てくると意見を具申したところ、『そんな高等技術、持ってるわけないだろ?』って返されてしまった。
なんだかんだでアルテアちゃんはそれなりに時間をかけ、六つの小さな帽子を作っていた。正直形は歪で縫い目が荒く、そしてモロに露出してしまっていたけれども、ヒナたちはピーピー鳴いて嬉しそうにそれを頭につけていた。
『なんだオイ、ちょっと見ない間にずいぶんかわいくなったな……』ってクーラスがコメント。どうやらヒナたち、ルマルマの裁縫の第一人者(?)であるクーラスに褒めてもらうことで、己が素晴らしさを確認したかったらしい。だったら俺の方に見せびらかしに来てくれてもよかったのに。
『気に入ってくれてよかったよ……』ってアルテアちゃんもホッとした顔。こういう気遣いができるからこそ、アルテアちゃんはアルテアちゃんなのだろう。一方でヒモクズフィルラドはアホな顔してエッグ婦人のケツを追っかけまわしてたけどな!
俺もちょっと休憩したい気分だったので、余った材料とちゃっぴぃが拾ってきた松ぼっくりで簡単なクリスマス飾りを作成してみた。猫の首輪ってわけじゃないけど、なんかそんな感じの首につけられる奴。エッグ婦人のことまで考えてあげる俺ってマジ優しくね?
小さなベルも着けてあるから、ちりんちりん鳴ってさぞかし愉快だろう……と思ったけど、残念ながらエッグ婦人に受け入れてはもらえなかった。どうもクリスマスリース風にするために用いたヒイラギの葉がチクチクして痛いらしい。気に食わなかったのが盛大にケツを突かれた。ちくしょう。
『クリスマスにチキンにしてやる』って脅したら、ヒナたちにまでケツを突かれる羽目に。あいつらホントに容赦ない。俺のケツ穴だらけになっちゃう。
なお、件の飾りについては『じゃあ私がもらうね!』ってロザリィちゃんの手に。ロザリィちゃん、なんか上手い具合に髪留めとしてそれを使っていた。『えへへ……ど、どうかな? ちょっとはクリスマスっぽいかな?』ってはにかんできて、なんかもう俺気づいたら抱きしめちゃってたよね。
しかも、しかもだ。
抱きしめた状態……二人きりの世界で、『……クリスマスデートのお誘い、まだ?』って耳元で囁かれた。『ブッシュドノエルと、待ち合わせは……わかってるよね?』って耳元にふうって息を吹きかけられた。
体を離してロザリィちゃんの顔を見た。なんかロザリィちゃん、ほっぺがすっげえ真っ赤っかで、心なし瞳が潤んでいるような。見上げてくる顔が、本当にもう言葉にできないほどかわいい。
『……お返事は?』っておでこをつんってされて、思わず反射的に『わん』って鳴いてしまった。『よろしい』って俺の顎の下をくすぐるロザリィちゃんが本当にもう妖艶。俺将来一生ロザリィちゃんの使い魔になりたい。
なんだかんだでこんな感じ。色々諸々準備に追われていたから正直何をやったかあまり覚えていない。確かなのは、教科書を開いている人間は一人としていなかったってことだけだ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。明日の授業が終われば晴れて冬休み。クリスマスに年末年始とイベント盛りだくさん。そのあとに潜む地獄については考えないことにする。
ギルは今日もぐっすりすやすやと大きなイビキをかいている。こいつ、ミーシャちゃんに贈るプレゼントを準備している節がまるで見受けられないんだけど、大丈夫だろうか? クリスマスに恋人に贈るのは自分が好きなものではなく、相手が喜びそうなものだってことをきっちり伝えておかないと、ジャガイモを贈りかねない節があるから怖い。
それでミーシャちゃんが怒るならまだいいけど、拗ねたりガチ凹みしたり……泣き出したりしたらもう取り返しがつかない。それとなく注意しておかないと。
やることがまだまだあるので日記はこの辺にしておこう。ギルの鼻にはヒイラギの葉っぱを詰めておく。おやすみ。