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264日目 創成魔法設計演習:実加工についての検討

264日目


 ギルのローブのボタンが全部砕けてる。着けなおすのは俺なのに。


 ギルを起こして食堂へ。今日も食堂の暖炉の前は使い魔どもが占拠していて大変遺憾。そしてクリスマスツリーエディションのアリア姐さん、クリスマス仕様のグッドビール、クリスマスヴァージョンのメリィちゃん(ともに尻尾にリボン)を見て、「なぜ自分だけクリスマスではないのか?」とでも言わんばかりにアエルノのところのエドモンドがギャン泣き。尻尾をびったんびったんたたきつけ、ドラゴンらしい悲しく長い雄叫びが食堂に響く。


 『きょ、去年は別に無くてもよかったじゃんか!?』ってアエルノのあいつが大慌て。まさか誇り高きドラゴンがこんな子供じみた理由でスネる(?)とは思わなかったのだろう。まぁ、使い魔的にも、いつもの場所でいつものみんながクリスマスなのに、自分だけ仲間外れにされたように感じて悲しい気持ちになっちゃったんだろうね。


 とりあえず、『オイうるせえぞ!』、『使い魔虐待ってサイテー』、『うわ……可哀想……』ってここぞとばかりにルマルマ一同でディスりにかかる。アエルノには色々諸々沢山うらみはあるのだから。主にトイレとかその辺の関係で。


 最終的に、エドモンドにはクリスマスリース(首輪)が贈られることとなった。『これ、ホントは俺の部屋に飾るやつなんだがな?』ってジオルドがバカでかいそれをふっかけたんだよね。


 『この外道が……ッ!』ってアエルノのあいつがジオルドにコインを渡す表情は、まさに格別であったと言えよう。


 デコりにデコられたクリスマスリースのおかげでエドモンドの機嫌も直る。クリスマスリースを首に掲げたドラゴンなんて見たことないけど、奴が気に入っているのならそれでいいのだろう。『デカすぎて飾れなくなった奴の在庫処分ができてラッキーだった』ってジオルドは言っていた。


 ちなみに、『躾がなってないのよ』って同じアエルノなのにロベリアちゃんは辛辣。ブチちゃんの体にはなんかクリスマスっぽいラメがいっぱい。美容油(?)に混ぜ込んで塗ったっぽい。ロベリアちゃんなりの愛情なのだろうか。


 ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。『機嫌は直ったか? かっこいいのつけてるじゃんか!』ってエドモンドにもジャガイモを勧めていた。


 たぶん、ギルのことだから機嫌が直るまでエドモンドにジャガイモを食わせるつもりだったのだろう。より正確にいえば、自分が満足するくらいにエドモンドの口にジャガイモを詰め込み続けたはずだ。そういう意味では、ジオルドのクリスマスリースは一匹の尊いドラゴンの命を救ったと言っても過言ではない。


 さて、今日の授業はわが女神ステラ先生の創成魔法設計演習。『最近どこもクリスマスムードでわくわくしちゃうよね!』って言いながら出欠を取る姿が本当に眩しい。『そ、そういえば……せ、先生ってみんなのクリスマスパーティにおよばれされ……てるっけ……?』って恐る恐る聞いてくるところとかも本当に愛おしい。


 『誘うという言葉は、外部の人間に対して使うものですよ』、『ステラ先生はルマルマなんですから、そんな言葉を使う必要ないでしょう?』、『先生はおよばれされる側じゃなくて、主催としておよばれする側なの!』、『先生がいなきゃそもそもパーティは始まんないもん!』……などなど、ルマルマからの極々わかりきった事実を述べられて、ステラ先生は『みんなぁ……!』って涙目になっていた。


 いい加減、ステラ先生はもっと自分のことを正しく評価、認識するべきだと思う。こんなにも大好きだと直接的に伝えているのに、マジでまだ全然伝わっていない。俺たちみんな、ステラ先生がいないとダメなのにね。


 さて、今日の授業だけれども、前回に引き続き設計を進めていく。『冬休み明けには提出だから、今日で考えることは全部終わらせとかないと拙いよ……!』ってステラ先生が絶望の情報をくれた。スケジュールを確かめてみたら、休み明けに最終チェック、その次の週から発表……と、授業としての設計は事実上今日が最後。マジでチビりそう。


 一応図面も計算書もある程度は目途がついている。企画書は俺が適当に頑張ればいい。問題なのは、その図面や計算書に本当に不備や穴が無いかわからないというその一点に尽きる。


 そんなわけでとりあえずキイラム先輩とノエルノ先輩に図面を見せてみる。『……一応流造でコンセプトは揃えているな』、『この前の仕上げ魔法加工時の魔法刃干渉についてもクリアしているみたいだね……』と、なかなか悪くない感触。


 『形状を工夫することで、精度を出す仕上げ加工面を必要最低限に抑えている……か。高精度の魔法加工はコストがかかるって言うのをちゃんと理解しているね』、『でも、その工夫した形状にするための工程が増えた分、最終コストは結局大して変わらないような気もするが……』などなど、なんだかんだ言いつつもそれなりに二人も認めてくれていたように思う。


 何気に時間を見つけてコツコツ改良し続けてきたかいがあった。少なくとも、二人に言われた分については対処したし、ステラ先生の素敵すぎるアイディアのおかげで設計上の問題はない。


 ……と思っていたところで、別の上級生が通りかかる。ノエルノ先輩、キイラム先輩の肩から俺たちの図面を覗き見て、そして一目見るなりこういった。


 『陣造不可の形状じゃないけど、これ専用に治具作らないと加工無理じゃね?』って。もうどうしろってんだよ。


 この言葉を受けて、『あっ……』って二人ともが声を漏らす。『確かに通常のやり方じゃ固定できないな』、『ここで止めればいけないこともないけど……いや、フラウルでここ止められたっけ?』、『この部分ならいけるけど、これ後加工の段階だろ? すでに精度出しているのにここでチャックしたらせっかくの加工面がズタボロになるぞ。他の場所は魔法的に無理』……って、俺たちそっちのけで三人は議論に入る。


 結論として、『加工することそのものはできるが、製品としての品質は保証できない』とのこと。実際の加工工程の関係上、俺たちの肝となる加工面を保護(?)しないといけないらしく、このままではせっかく仕上げ加工で出した精度が、別の面の仕上げ加工をする際にダメになってしまうらしい。


 故に、加工の補助、安定した固定と精度を出すために専用の治具を作成し、それをフラウルや魔旋盤といった実際の加工魔道具にセットして加工しないと俺たちの作成した図面通りのそれはできないんだって。


 『その治具って、向こうの業者が作ってくれたりとか……』って一応聞いてみたところ、


『交渉次第だけど、どんなものが欲しいのかってのはこっちできちんと言わないとならない。奴らはあくまで「こういう風に対応できますよ」っていう手段を示すだけで、判断、検討を行うのはこっちの領分だ』


『付き合いが長いところなら、向こうも勝手がわかっているからある程度完成品に近いそれを出してくれるけど……。完全新規なら、逆にこっちから治具の図面を出して目的を説明しないと、向こうだって何が正解かわからないからね』


『よほどのことが無い限りは、これだと加工ができないから専用の治具が必要です……って、見積もり段階で言われるけど。中には黙って進めてやらかすところも多いから』


 ……などなど、三人からは魔系の闇がこれでもかと聞かされた。当然の如く治具は新規設計だし、そのためにはまず実際の加工用の魔道具を見ないと詳細な寸法設計ができない。当然、これだって設計の範疇に入るわけなので、そう簡単にホイホイと上手く物事が進むはずがない。考えることはいっぱいある。


 何より、『治具の設計、製作費も製品コストに入るからな』、『量産品なら、一個あたりの値段への影響は小さく抑えられるけど……どれくらい作って売るかの想定は、きちんと見直さないとね』……と、コスト面への負担が増えた。『量産で使う治具って言うなら、まずは試作評価して問題ないことを確かめないとね』とも。もうやだ。


 ここでさっそうとわが女神ステラ先生が登場。『……これならギリギリ、特殊な魔法刃を使えば治具作らなくても行けると思う』って天からの助けが。


 が、『あ……でも、特殊技能になるからどのみちコストアップになるし、下手しなくても能率が悪くなる……一点ものならそれでもいいけど、量産品だとまずいかも』って地獄に叩き落とされた。つまるところどうあがいてもコストが上がるのは避けられないってことだ。


 しょうがないので腹をくくり、専用の治具の設計にかかる。すでにミーシャちゃんやロザリィちゃんは泣きそうだったので俺が規格や寸法などを洗い出し、形状などを決定させていただいた。


 治具そのもののコストについては、『量産品の生産に関わる重要な要素であり、定常で常に運用するものであるため、精度・品質を最優先としコストは鑑みません』ってことでごまかした。『その理由ならしょうがないな』ってキイラム先輩も言ってたし良いだろう。


 あ、嬉しいことが一つだけ。全体の材料についてはようやく何とか決まった。魔度の耐久性があり、かつ軽量で高強度でお安い夢の材料なんてあるのかと思っていたけれど、『ルンルン素材がそれじゃん!』ってフィルラドが思いついてくれたんだよね。


 『魔法性が恐ろしい程良いのはみんな知ってる。採取しても次の瞬間には生えてくる。当然コストなんてほぼゼロだ』、『上級生の卒論にだって使わてるはずだぜ? 魔法材料としての信頼性の根拠はそれを出そう。連中の卒論が通っている以上、それでダメとは言えるはずがない』……などなど、フィルラドにしては妙に鋭い切り口。普通にジオルド&クーラスの提案らしい。そりゃそうか。


 実際魔法パラメータを見せてもらったんだけど、今まで俺たちがあんなにも苦しんでなんとかやりくりしていたのがアホらしくなるくらいの超高性能。安全率をめっちゃ大きくとっても文字通り数値の桁が違うレベルでマージンがある。逆にぶっ壊そうと思って負荷をかけてもぶっ壊れないレベル。道理で上級生が血眼になってルンルンを捕獲しに来たわけである。


 『うん、ホントに信じられないよね。あまりにも都合が良すぎるんだもん』ってステラ先生が死んだ瞳で語っていた。嫌なことでも思い出しそうになったのだろうか。


 夕飯食って風呂入って雑談して今にいたる。なんだかんだで設計についてはあとは作業で何とかなりそう。その作業そのものがクソ面倒くさいけど、なんとかギルを上手く使ってやっていくほかない。


 さすがに今更になって急な設計変更とかない……ないよね?


 あと雑談中、なんかしょんぼりしているジオルドを見て、一部ジオルド派女子たちがぎゅ! ってハグしたりして慰めて(?)いた。


 『朝はあんなこと言ってたけど、実は内緒でクラスルームに飾ってみんなをびっくりさせようと、結構前からこっそり作っていたんだよね』、『ああいうところ、ホントに大好きだ』……などなど、ここにきて衝撃の事実が発覚。まさかアリア姐さんの衣装を作る傍ら、そんなことをしていたとは。あいつ勉強大丈夫なのかな?


 何より驚きなのは、ジオルドがクリスマスリースをこっそり作っていたことを、ジオルド派女子たちが当然のように知っていたことだろう。男子の俺でさえそんなことを知らなかったのに。


 『合法?』って一応聞いてみる。『ロザリィよりかは合法』って回答が返ってきた。『ど、どういうことぉー!?』って真っ赤になってジオルド派女子たちに抗議するロザリィちゃんがとってもかわいかったです。


 一応書いておく。女子に甘やかされてデレデレしているジオルドを見て、クーラスが『クソがァ……!』って魔王もチビって逃げ出すような形相で歯をぎりぎりしていた。そんな様子を、クーラス派女子が『いいわぁ……! ああいう表情……!』って悋愚の女魔でさえドン引きするような表情でハァハァしながら陰から見ていた。終わってんなこれ。


 ギルは今日もぐっすりすやすやと大きなイビキをかいている。こいつのクリスマスはなんか適当にジャガイモグッズでも贈っておけばいいか。携帯用ジャガイモホルスターとか送れば大喜びしてくれるんじゃね? だってギルだし。


 俺もちゃっぴぃのクリスマスプレゼントを早く進めないと。今のうちにお菓子納入の段取りも決めておかなくっちゃ。この時期はいろいろ忙しいから困るっていう。


 ギルの鼻には壊れたシンブルでも詰めておこう。いい加減古くなってたし、やっぱ寿命か。今度新しいの用意しておかないと。グッナイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 『合法?』 >『ロザリィよりかは合法』 それはつまりアウト寄りのアウト 本命:ギルが毛くずだらけ 対抗:シンブルが直る、でもギルサイズ 大穴:大雪
[一言] 「合法?」 「ロザリィよりかは合法」 何だ非合法じゃん!!!
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