262日目 魔法流学:魔法渦について
262日目
窓が綺麗に凍り付いている。雪の結晶模様。きれい。
ギルを起こして食堂へ。どうやらこの一週間を乗り切れば冬休みであることをみんなが理解しているのか、週明けだというのにみんなの顔が明るい。『クリスマス、楽しみだよね』、『今年こそやってやる……!』って盛り上がっていたり。
ちょうどウチのアリア姐さんがクリスマスツリーエディションであるということもあって、特に女子たちがその辺で盛り上がっていたように思う。『ウチ普通のクリスマスツリーなんだけど、やっぱ女子はああいうののほうがいいのかな……』ってゼクトがちょっと悩んでいたっけ。
ちなみにバルトにはバカでかいクリスマスツリーがあるらしい。アエルノのほうは『ちょっと豪華でピカピカ光るやつ』だとのこと。『ティキータだけ普通のクリスマスツリーって、なんかちょっとみんなに申し訳なくなるな……』ってゼクトは言っていた。
ちなみにルマルマのクリスマスツリーことアリア姐さんだけれども、今日は着飾っているためいつも通りの水浴びができず。『一回外そうか?』ってジオルドが問いかけるも、「やだ!」……と言わんばかりに首をふるふる。
んで、普通にコップから水を飲んでいた。ついでとばかりにおみ足にも水を垂らしたり栄養剤を塗ったり。『お前……普通にそっちでもいけるのかよ……』ってジオルドが唖然としていたのを覚えている。アリア姐さん……というか、アビス・ハグ的には全身から浴びるのが正しい水分補給方法みたいだけどね。
みんながクリスマスで盛り上がっている間も、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。奴の頭はある意味一年中クリスマスだ。
さて、今日の授業はミラジフの魔法流学。世間はクリスマスムードだというのに、今日もあいつは仏頂面。気を利かせた俺が『先生はクリスマスはどう過ごされますか?』って努めて明るく話題を振ってみれば、『まともに危機感を抱いている人間なら、クリスマスなんて言葉は出て来ないと思うがね。今年の二年はずいぶんと余力があるようだな』って返された。質問文に対して真っ当な回答を返さないなんて、あいつ本当に学校卒業しているのだろうか?
クソどうでもいいことは置いておくとして、今日は魔法渦について学んだ。魔法渦って言うのは流体的に扱う魔力特有の流動とか動きの一つのことで、定義としては【その魔力を構成する魔素そのものの自転としての円運動】となる。早い話が水の渦と同じように、その場でぐるぐる回り続ける魔力のことね。
ちょっと注意しなきゃいけないのは、この回転はあくまで自転を示しているというところ。円運動を示していても、それが公転であるならば、それは単純に【軌道がたまたま円の形をした流線】であるというだけで、渦としての回転ではない。
とりあえず、メモしたところをそのまま以下に示す。
・魔法渦
魔力の流れの形態の一つ。魔力の流れが自転という意味での回転運動をしており、その魔流線は閉じた円形、すなわちある中心に対してある程度急激に旋回運動を取る魔法流体の挙動そのもののことを指す。円運動と魔法渦は似ているが、円運動であっても魔法渦ではないものもある。魔法渦は魔法流体の内部で途中で途切れることはないという性質があるため、前述のとおり魔法渦は魔法流体内部で円形(輪状)を成すか、境界から境界まで続く。このため、一度発生した魔法渦は途切れにくく、消滅しにくいという性質がある。
魔法渦の性質は魔法流体の基礎的性質により説明できるものであり、粘性を持たない魔法流体、すなわち完全魔法流体であれば魔法渦は不創不滅、すなわち新たに生み出されることも消えることも無い。これをレグレンジェの魔法渦定理と呼ぶ。
・強制渦
魔法渦の形態の一つ。いわゆる剛体的に魔力を円運動させたときと挙動は近く、その名の通り外部からの魔力によって強制的に発生させられた魔法渦であり、その魔力を構成する魔素そのものが自転している。流れの全領域に魔法渦が存在しており、魔法渦の外部になるほど魔力は強く、逆に魔法渦の中心では魔力はほぼゼロとなる。中心基準で魔力をぶん回しているイメージ。
・自由渦
ヴェリュヌーヰの定理より、同一流線上では全ヘッドの合計は常に一定である。魔法渦は同一流線を循環しており、例えば外部からの入力そのものが無く、同一魔法空間内でその魔法流体が一方的に出力されるような状況では、その魔法空間内で同一の全ヘッドを所持することになるため、全ヘッドの値は魔法渦の領域全てで同一となる。このような魔法渦を自由渦と呼ぶ。
自由渦の場合、その魔力は魔法渦の中心からの距離に反比例するため、中心に近い程魔力は強く、外側に行くほど魔力は弱くなる。その魔法流れは一般に魔法渦無しの円運動とされており、魔法渦は中心部にのみ発生している。
・組み合わせ渦
自由渦ではその定義上、中心部では魔力が無限大となり、その魔法圧は絶対値で負の無限大となる。当然ながら、自然魔法界においてそのような現象は存在しえない。よって、現実的に考えると、厳密な意味での完全な自由渦は存在せず、一見自由渦に見えるそれは、中心からあるところまでは強制渦で、そこから外側が自由渦であると考えることができる。このようなものを組み合わせ渦(レンクィンの組み合わせ渦)と呼ぶ。
結局魔力は循環し、それが渦の態を成すっていうだけ。魔法流学の肝である流線と、魔法流体の基礎的性質に着目すれば、この魔法渦の特性もよく理解できますよ……ってことを難しく言っているだけに過ぎない。
『どうせ諸君らに式や言葉で説明したところで半分も理解できないのだろう。学究の徒として大変遺憾ではあるが、まずは実際の現象を目にするところから始めるべきだ』って、ミラジフは自らの流魔法で強制渦と自由渦を構築。
ぱっと見はどちらも同じような魔法渦にしか見えないんだけど、自由渦は安定しているように見えた。んで、中心の方で魔力が強いからか、魔力そのものが中心で下に進むようなイメージがあった。
一方で強制渦はめっちゃがっしゃんがっしゃん回されている感じでとても荒々しい。一応定常ではあるけれど、安定しているって感じじゃない。横から見た時の魔法渦の形態は自由渦と同じように見えて、外側の方が魔力が強くて盛り上がる……形そのものは同じなんだけど、その形が作られるメカニズムが根本的に違う感じ。
『よくわかったよーな、わからんよーな……』ってジオルドは首をかしげていた。『ジュースをシェイクするのが強制渦で、風呂場で【でっかい渦出来るかゲーム】するときのが自由渦じゃね?』ってポポル。『コーヒーをかき混ぜる時のが強制渦……なのかなあ?』って顎に人さし指を当てるロザリィちゃんがめっちゃ可愛かったです。
授業についてはこんなもん。今日は比較的わかりやすかったからか、みんなの顔も晴れやか。『正直見分けはつかんし学問的な意味もよくわからんけど、外側と内側、どっちが魔力的に強いかの違いだろ』ってフィルラドも納得していた。『ヴィヴィディナの混沌の渦はもっとすごいもん!』ってパレッタちゃんが無駄に張り合っていたのを覚えている。
なお、ギルは『俺のマッスルトルネードが最強だし?』ってみんなの前で瞬時に切り替わりまくるポージングを披露しまくっていた。八つのポージングを次々に繰り返し、最初のポージングにつなげることで延々とポージングを繰り広げることできる必殺技(?)の一つらしい。俺もうなんか泣きそう。
そんなギルは今日もクソうるさいイビキをかいてぐっすり寝ている。俺もちゃっぴぃのプレゼントの準備と、ロザリィちゃんのプレゼントの準備をして寝よう。ちょっと忙しくなるから、日記はこの辺にしておく。
ギルの鼻には色糸でも詰めておく。みすやお。