260日目 ギル温泉
260日目
なんか変な匂いがする……外に白い霧が出てる?
温泉だコレ。
ギルを起こして食堂へ。もちろんみんな朝飯どころじゃない。いつもの中庭の所にそれはもう立派な源泉が湧き出でていてたいそうびっくり。温泉の匂いがプンプンの上、それが結構デカいときたもんだ。いつもの風呂よりデカいとかめっちゃゴージャス。
とりあえず男子一同、近づいてみる。降り積もった雪のど真ん中にあったかいお湯があるから湯気が凄まじい。『すっげえ雰囲気出てるな!』ってゼクトは嬉しそう。『匂い的に……肌にいいやつじゃんこれ』ってラフォイドルもにっこり。
ちょっと手を付けてみる。ほどほどに熱い。なんか微妙に手にまとわりつく(?)感じがするのと、乳白色で温泉特有の匂いがある。ほんのわずかに輝いていたように見えたのは、果たして気のせいだったのか。
『いやもうこれやるしかないだろ……』ってラフォイドルがこのクソ寒いのにズボンを脱いでパンイチに。雪で冷えて真っ赤になってしまった足を、恐る恐る温泉の中へ。
『めっちゃいいぞこれ……!』って声を聴いた時、なんかもうみんなで雄たけびを上げちゃったよね。深さもちょうどいい塩梅で、底の方も泥ではなく、程よく固まった石のようになっているとのこと。当然、ヤバい魔法生物が潜んでいるわけでもない。最高かよ。
これを逃す手はないってことで、みんなで部屋に戻って水着姿に。室内でさえクソ寒いし、雪の降り積もる外なんてもっと寒いわけだけど、冷たい空気の中に混じる温かい湯気を感じた時は、誰もがテンションマックスになっていた。
で、痛むくらいに冷たい足を頑張って動かし、温泉までのその距離を突っ切る。互いにほぼ全裸だけど、その時の俺たちは確かにつながっていた。
全力で温泉に飛び込んだ時の気持ちよさと言ったら無かった。マジであったかくて気持ちよくて、体にたまっていた疲れがどんどん溶けていく感じ。『ああ……やべえよこれ……』ってラフォイドルの表情がゆるゆるで、同じように心の底からリラックスしている人がいっぱい。
出来得ることなら水着を脱ぎたかった。正直乳白色だし履いていようがいまいが見えないのは間違いない。
だけど、女子たちが俺たちの様子を見ていたために着ざるを得なかった。『粗末なもの見せるんじゃない。ヴィヴィディナに捧げんぞ』ってパレッタちゃんにガチめに脅されたんだよね。
いやはやしかし、雪の寒さと温泉の温かさのコラボはすごかったね。温泉でしっかり温まったら少し岩場に腰掛けて、程よく冷えたところでまた浸かる……というループが堪らない。ふざけて雪にダイブして温泉にダイブして……を繰り返す奴もいる。
そしてはっきりわかるほどに俺たちのお肌がつやつやのてっかてか。まさに珠のような美しさ。ちょいと擦るだけでピカピカ光るしつるんつるん。俺ってばマジ美肌。
『きゅーっ!』って飛び込み、そして俺のお膝の上で鼻歌謡っていたちゃっぴぃはもっとすごかったよね。あいつ自身子供で夢魔と言うお肌の最強角みたいなところあったけど、それにさらに磨きがかかるんだもの。つるつるしすぎて石鹸か何かと思えちゃうレベル。
そして、とうとう奇跡は起きた。
『あ……っ! ホントに温泉だぁ……!』、『うそ……こんなに本格的なの……!?』って女神と天使の声。キラキラと顔を輝かせたステラ先生がとたた、と駆け寄ってきて温泉に手を突っ込みちゃぷちゃぷと戯れる。同じくピアナ先生も駆け寄ってきて、そっとお湯の温度を指先で確かめていた。
先生たちがそんな行動をとったからだろうか。近くで見ていただけの女子も一人、また一人と近づいてきてお湯の温度を確かめたり、その水質をマジマジと観察したり。男子に『……それ、そんな深くないよね?』、『ホントに変な魔法生物が潜んでいたり、ヤバい水質だったりしないよね?』って念を押しだす始末。
やがて、何かを決心したらしき女子たちは、ステラ先生たちを引き連れて校舎へと引き上げていく。
もう、男子一同ワクワクを隠せなかった。
次に現れた彼女らは──体にタオルを巻いただけの姿であった。
『お、思ったよりずっと寒い!?』、『あ、足がもげる!?』って、彼女らはそのままこっちにダッシュしてきたの。そりゃもう全力で、片手でタオルを押さえながらダッシュしていたの。
いいか、タオルを巻いただけの姿だ。そんな女子たちが、寒くて寒くてたまらないとこっちに向かってダッシュしてきたんだ。
まず、耐性のないクーラスがやられた。見惚れて頭がフリーズしたのか、そのままブクブクと沈んでいった。
次に、ジオルドがやられた。あいつはふらふらと女子の方へ歩みを勧めようとして、足元に横たわる(?)クーラスにつまずいてブクブクと沈んでいった。
次にゼクトとラフォイドルがやられた。何気にあいつら結構ウブだったらしい。女子が近づくにつれタオルのスリット(?)からちらちら見える弾けるふとももが嫌でも目に入ってしまい、『後悔なんてもうねぇや』、『ここが天国だったか……』って倒れ込むように沈んでいった。
意外なことに、フィルラドは最後まで残っていた。が、あいつは位置が悪かった。
温泉の縁。そこに寄りかかるようにしてくつろいでいたフィルラドは、『ちょっとそこ邪魔だ詰めろ!』ってタオルだけ装備アルテアちゃんの生足で背中を軽く蹴られて、『おぅふ!?』って変な声を出して前のめりに沈んでいった。
もちろん、俺はそんなヘマなんてするはずがない。俺はロリコンじゃないからタオルだけミーシャちゃんを見てもなんとも思わないし、ロザリィちゃんとステラ先生一筋だから他のタオルだけ女子を見ても特に何も感じない。せいぜいが『タオルごと温泉に入るのはよろしくない』と思ったくらい。
そして女子たちが次々に入湯。『あったか~い……!』、『お肌にいいって、心で理解できるよコレ……!』って彼女らはご満悦。外の冷気と足元の雪と言う寒さのダブルパンチが相当に堪えるのだろう、近くに男子がいるのにも構わず……というか、呆然としている男子たちを押しのけるようにして彼女らは次々にやってくる。
わかるか? タオル一枚だけの女子たちが、同じ風呂に入ってるんだぜ? 『さ、寒いからちょっとそこどいてよ! 入れないじゃん!』、『私、お風呂は端っこじゃないと落ち着かないタイプなんだけど……』って、男子の体をぐいぐい押しのけてくるんだぜ?
見た目だけならなんとか耐えられていた男子も、これにはさすがに耐えられなかった。いつものノリのボディタッチも、なんなら割と暴力的に体に押しのけているだけなのに、このシチュエーションの破壊力ったらない。
そして、とうとう福音の時は来た。
『せんせい、はやくっ!』って麗しの声。『ひゃ……っ! つ、冷たい……!』って、あわあわした声。頼むぞ俺の心臓よ、何とか持ちこたえてくれよ……って、勇気を振り絞って振り向いてみれば。
タオル一枚姿のロザリィちゃんが……生足を晒したロザリィちゃんが、同じくタオル一枚で……それも、タオルがずれないように片手で必死に押さえているステラ先生の手を引いてこっちにやってきた。
雪よりも白く、輝くお肌がまぶしい。チラチラ見える弾けるふとももがヤバい。恥じらう顔が素敵。そして谷間。あと揺れる。めっちゃ揺れる。ゆっさゆっさ揺れてて迫力がヤバい。ありゃすごい。あいつはすごい。マジヤバい。
『おじゃましまーす!』って隣にロザリィちゃんが。『ちょ、ちょっと恥ずかしいかも……!』ってさらにその隣にステラ先生が。湯煙しっとり美人の二人と一緒に、温泉を楽しんでいる……なぁ、未来の読み返している俺よ。この時の気持ちを、お前は本当に思い出せているのか?
天国、ってのはマジであのことだ。俺、まさかステラ先生とロザリィちゃんと一緒にこうして温泉には入れるだなんて、本当に夢にも思っていなかったよ。
俺の心はめっちゃドキドキしているのに、ロザリィちゃんはどこまでも容赦が無かった。『温泉デートも……いいですなぁ……♪』って、ぴとっていつも通り俺の横に密着しているのね。髪をアップにまとめていて、うなじに張り付いた髪が妙に艶めかしくて、でもって素肌だぜ?
『ちょっと入っただけで、こんなに美肌になっちゃったんですけど……?』ってにこにこ笑いながら、ざばーって出した腕を俺の目の前に見せつけてきたんだぜ? 『触ってもいいという栄誉を上げよう!』とかなんとか言っちゃって、挑発的に笑ってきたんだぜ? 『今だけのチャンスだよ? この機を逃せば、たぶんあと数年はお預け喰らうことになると思いますよ?』とかいって、乳白色のお湯の下で俺の脇腹突いてきたんだぜ?
触らせていただいたところ、マジで美肌でつるつる。滑らかさやきめの細やかさが段違い。『……一応言っておくけど、温泉補正かなりかかってるからね? ふ、普段はここまでじゃないから……』ってはにかむ顔が最高に可愛い。火照った顔ってどうしてあんなにも色っぽいんだろう。
そしてステラ先生も『ふんふーん……♪』って感じですごく上機嫌。『みんなと一緒に温泉もいいねぇ……』ってルンルン気分。なんか足をぱたぱた動かしたりしちゃって、ぱちゃぱちゃと先生の至高のおみ足の先が水面から出たりでなかったり。ついつい遊んじゃうステラ先生も最高に可愛いと思います。
『せんせい、どれだけ美肌?』ってロザリィちゃんがステラ先生の手を引っ張り上げようとする。が、ステラ先生、『や、ちょ、まってぇ……!』ってさらに真っ赤になってわたわた。
はらりと、湯の中でタオルが取れたってのが感覚で理解できた。ロザリィちゃんが取った腕は、ちょうどタオルを押さえていたほうの腕だったのだろう。
そして、ぷかっと浮いてきた。
『ひゃあああ……!』って真っ赤になるステラ先生を、俺もう見てられなかった……というか、浮いたそれから目が離せなかったといったほうが正しいと思う。つやつやでまんまるで、本当に輝いているんだもの。そんなのが二つもあったら、誰だってそうなるに決まっているだろ。
『み、水着着ていても恥ずかしい……!』ってステラ先生は肩までお湯の中に。なんかよくわからん謎の超技術で浮いていたそれもお湯の中に隠れてしまう。
『……み、見るならこっちにしろぉっ!』ってロザリィちゃんもタオルを取っ払ったらしく、赤くなったロザリィちゃんの前に同じくらい素敵な二つのものがぷかって浮いてきた。わぁい。
なんかもうこの辺記憶がちょっとあやふやだ。この前湖に泳ぎに行った時の方が肌面積的にはよっぽど大きいというのに、ろくに体が見えていない温泉の方がどうしてあんなにもドキドキするのだろう?
水着の上からタオルを巻いて、その上さらに乳白色の温泉に浸かっているんだぜ? 肌色どころか、体のラインすらわからないってのに。本当に不思議でならない。
女の子との温泉には、未だに未知の領域が隠されているのだろう。いつかはその秘密を解き明かしたいものだ。
一応、ダメもとでなんで水着を着ているのにタオルもわざわざ巻いているのか聞いてみる。『その……単純にちょっと恥ずかしいのもあるけど、この前のドラゴンステーキのお肉が……』ってロザリィちゃんは恥ずかしそうに答えてくれた。
ドラゴンステーキの肉がどうしたんだ、アレは普通に尻尾の肉だよな……って心の中だけで首をかしげていたら、耳聡く(?)それを聞きつけたアルテアちゃんが女子を代表して、『堕ちるのは早いが、引き締め直すには時間がかかるんだよ……』って教えてくれた。『しかも冬だから、みんな油断してたんだ……頼む、察してくれ』って追加情報も。
ミーシャちゃんあたりは普通にタオルを取っ払ってケラケラ笑いながら泳いでいたけれども、『ミーシャは食べても全然太らないから……』、『あんだけ飲み食いするのに、一瞬膨れても翌日には元通りだもんな……』ってロザリィちゃんとアルテアちゃんがコメントしていた。どうやらミーシャちゃん、女子の誰もがうらやむ体質をしているらしい。
なんだかんだでそんな感じで温泉を楽しむ。おしゃべりに興じ、温泉から出たり入ったり、ふざけて雪をぶつけあったりしているうちには女子の方もだいぶ慣れてきたらしく、タオルを取って水着姿になる人も増えていた。『タオル一枚の姿もいいけど、やっぱ水着もいいよな』、『どっちも楽しめるとかこの温泉最強か?』ってゼクトとラフォイドルが話していたのを覚えている。
不思議なのは、女子のみんながあの……肩紐のないタイプの水着を着用していたことだろう。あれってどっちかと言うと珍しいほうのタイプだと思うんだけど、なんでみんな持ってたんだろ? 男子としてはそっちの方が雰囲気あって良かったから別にいいんだけどね。
午後になるとうわさを聞き付けた上級生とかもやってくるようになった。『美肌になれる温泉があると聞いて!』、『うっわ……! めっちゃ極上の天然温泉じゃん……!』って寒さに震えながらやってきた彼女らも、やっぱり水着&タオルのスタイル。
『湯煙女子が見れると聞いて!』、『合法的にガン見できるってマジ?』ってやってきたアホ面上級生男子には『ほら、立派な裸体だぞ。好きなだけガン見しろよ』ってタオル無しマッスルボディを惜しげもなく晒すギルを進めておいた。奴らは泣いていた。
なんだかんだで夕方くらいまで温泉を楽しんでいたと思う。身も心もすっかりあったかくなって、最近の疲れも全部吹っ飛んだ。上がるときがクソ寒いし雪は冷たいしで大変だったけど、それはそれで身が引き締まる様な気がしなくもななかったような。
そして、湯上りのイチゴミルクがマジで美味かった。『美味しいね……!』ってステラ先生もごくごく飲んでいたし、ウチのちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って三杯くらい飲んでいた気がする。ロザリィちゃんに至っては、『一口ちょーだいっ!』って俺のに口をつけてきたからね。もうほんとに可愛い。
ギルは『うめえうめえ!』って湯上りのジャガイモを楽しんでいた。いつも通りだ。
夕飯食って風呂はい……いや、雑談して今に至る。雑談中も女子から湯上りの良い匂いがしてヤバかった。クラスルーム全体が女の子の匂いに満ちている。『今日は一段とすごくね……!?』、『ここが女子風呂の更衣室って言われても信じるぞ俺は……!』ってジオルドとクーラスもご満悦。
当の女子たちも、『本当にお肌が美肌になった……!』、『こんなに調子いいの、久しぶり……!』って嬉しそう。彼女らは気づいていなかったけれど、いつもより湯上り美人度が増している。
ぎゅ! って抱き着いてきたロザリィちゃんが本当に色っぽいし、火照ったほっぺが真っ赤で俺ってばもうクラクラ。『……のぼせちゃったの?』って見上げてくるロザリィちゃんを見て、気絶しなかった俺をどうか褒めてほしい。
ギルは腹筋をモロ出しして大きなイビキをかいている。なんだかんだで一番の美肌になったのは間違いなくギルだろう。奴の筋肉はいつも以上にテカテカキレキレしている。上がった直後何てマジで光り輝いていたからね。
それにしてもあの温泉、やはり明日には消えてしまうのだろうか。雑談中も寝る前の楽しみと言わんばかりに入りに行く奴がいたり、あと暗くなった後も昼間は入れなかった上級生や先生たちが入っていたっぽいけれども。
『月を見ながら風呂で酒を飲めるとか最高じゃねえかよ……!』ってお風呂セットと酒瓶をもってルンルンで歩くシキラ先生とグレイベル先生と食堂ですれ違ったんだよね。明日の朝、凍り付いていないと良いんだけど。
まぁいい。ギルの鼻には今日のお湯を詰めておく。できれば明日も入りたいなあ。