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259日目 悪性魔法生物学:オジギサセソウの生態について

259日目


 右穴にオレンジピール、左穴に石鹸が詰まっている。どういうこと?


 ギルを起こして食堂へ。今日は雪が降ってないけどやっぱり寒い。積もった雪が溶ける気配もなく、時折ドサドサって屋根から雪が落ちる音が。この学校はボロいから、いつか雪が屋根をブチ破ってくるのではないかと心配になってくる。


 そんな中、『うちの子はとーってもあったかいの……!』ってミーシャちゃんはグッドビールをぎゅ! って抱きしめてご満悦。グッドビールの方も構ってもらえてうれしいのか、「へっへっへっへっ!」ってアホ面して舌を出して尾っぽをブンブン振り回していた。グッドビールの毛はふかふかだし、抱きしめ心地はさぞよかったことだろう。


 『うちだって負けてないし』ってフィルラドがエッグ婦人を抱く。ああ見えてエッグ婦人も文字通りの羽毛だから、抱きしめると意外と温かいらしい。母親を取られてヒナたちがピーピー抗議のケツフリフリをしまくっていたのを覚えている。


 そんなわけで俺も『うちのが一番だし』ってちゃっぴぃを抱きしめる。子供ゆえかあいつは体温が高めで抱くとかなり温い。素肌だからあったかさがダイレクトに伝わってくるというおまけつき。あいつ自身も寒かったのか、『きゅーっ♪』って俺に抱き着いてくるかららくちん。


 一つ解せないのは、俺の生ハラに冷たいおててをぺたっとくっつけられたことだろう。あの野郎、俺がぽんぽん壊したらどう責任取ってくれるのだろうか。


 ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。あえて語るまでもなく、抱きしめたら一番暖かいのは蒸かしたてのジャガイモである。つまりギルの優勝。さすが。


 さて、今日の授業は我らが兄貴グレイベル先生と美肌の天使ピアナ先生による悪性魔法生物学。雪が積もる中の授業だというのに、グレイベル先生は普通にいつも通りの恰好で腕まくりがばっちり。『…授業していると暑くなるから』とのこと。寒さに強い兄貴マジかっこいい。


 一方でピアナ先生はマフラーに手袋等、防寒装備がばっちり。冬の装いのピアナ先生も最高に可愛い。寒さでほっぺがちょっと赤くなっていて、雪の妖精が敷地内に迷い込んでしまったのかと錯覚するレベル。


 何より、モコモコ付きのお洒落な柄のケープが本当にピアナ先生に似合っている。女子のみんなも『かわいーっ!』、『どこで買ったのー?』って褒めたたえまくっていた。


 俺の見る限り、明らかにかなりの値打ち物。『この前ラギにおねだりして買ってもらっちゃった♪』って嬉しそうなピアナ先生。男子一同膝から崩れ落ちた。


 肝心の授業内容だけれども、今日はオジギサセソウについて学んだ。これ、パッと見る限りはなんかヤバい雰囲気を放っているオジギソウなんだけど、その名の通り恐ろしい魔法的性質を秘めていたりする。


 『…普通に季節に関係なく生えるな』、『うっかり素手で触ると大変だから、あそこに置いてるんだよね』って先生たちはちょいと離れたところを指さす。わざわざ引っ張り出してきたのであろう台の上に、そいつはちょこんと置いてあった。


 とりあえず、その詳細を以下に示す。



・オジギサセソウは魔法植物の一種である。その生態はオジギソウとよく似ており、見た目もオジギソウそっくりである。通常のオジギソウとの違いは、後述する特性のほかには、全体としておどろおどろしい特有の魔力を纏っているところくらいである。


・オジギサセソウは、その名の通り触れた生物を強制的にお辞儀させるという特性を持っている。


・オジギサセソウによるお辞儀の強制力は非常に強く、一度触れたが最後きちんとお辞儀するまでそれから逃れられる術はない。


・原則的に、オジギサセソウによるお辞儀は腰が直角に曲がった最敬礼を超えたお辞儀となる。このお辞儀の角度はオジギサセソウのその時の生命力に比例するため、枯れかけのオジギサセソウの場合、会釈程度のお辞儀となる。


・オジギサセソウを手にした場合、前述のとおりお辞儀をすることになるが、一度お辞儀をしたならば手に触れ続けている限り再度お辞儀をする必要はない。もちろん、手から離したうえで再び触れた場合、再度お辞儀をすることとなる。


・まごころを込めて育てる。


・収穫は愛情を込めて行う。


・魔物は敵。慈悲は無い。



 今日は比較的まともな面白生物。試しにパレッタちゃんがオジギサセソウに触れてみたんだけど、その瞬間に見事なお辞儀。腰もピシッと伸びた文句のつけどころのないフォーム。美しい。


 『なにこれ超面白い』ってポポルもそれに触れる。あいつの腰が直角に曲がり、ピシッ! っと普段の行動からは考えられないようなお辞儀を披露。『なんか触れた瞬間に、体が勝手に動いて……強制されるって感じは全然しない』とのこと。


 『んじゃ、俺も……』ってフィルラドもトライ。触れた瞬間、『うぉあ!?』って悲鳴。なぜかあいつの時だけお辞儀の勢いが凄まじい。自らの股に頭突きをぶち込むかのような感じ。そんでもってバランスを崩して思いっきりこけた。『慣れないことをしたからだろうな……』ってアルテアちゃんがしみじみ呟いていた。


 試しに俺もやってみる。オジギサセソウなんかに負けないもん……って頑張ってみたけど、触れた瞬間にすーっと自然な流れでお辞儀してしまった。ポポルの言っていた通り、マジに強制させられたとか操られたって感覚じゃなくて、気づいたらそうしていたって感じ。


 『十点』、『十点』、『九点』、『十点』ってクラスメイトの面々から評価を頂いた。九点の理由は『完璧なお辞儀過ぎて逆にむかついたから』とのこと。事実上の満点である。


 『なんか今日、いつもと気色が違いますね』ってクーラスが質問。『…たしかに、単体ならそれほど恐ろしくないように思えるな』ってグレイベル先生。グレイベル先生もまたオジギサセソウを掴んで綺麗なお辞儀をして、そしてそのまま頭を上げる。


 『…だけどな、こいつは触れた瞬間、問答無用でお辞儀をさせるんだ。……その意味が解るか?』って言われたとき、みんなが「あ、これヤバい奴だ」って顔したよね。


 うん、条件が【触れるだけ】、そして【強制的に】お辞儀させるため、時と場合によってはえらいことになるのだとか。


 『例えばねえ、敵から逃げているときにうっかり触れちゃったときとか、もう目も当てられないよね』ってピアナ先生。走りながらも強制的にお辞儀させようとしてくるもんだから、当然フィルラドみたいに盛大にバランスを崩してこけることになるらしい。敵から追われているときにそんな風になるとか嫌すぎる。


 また、隠密行動で敵に近づこうとしているときもまた然り。オジギサセソウに気づかずうっかり触れてしまったら、物音とかお構いなしに即お辞儀。そりゃバレるわ。


 戦闘中もだいぶ危ない。こっちの動きを無視してお辞儀する羽目になるから、大きな隙を晒すことになる。というか、お辞儀と言う体勢の段階で攻撃してくれと言っているようなもん。


 その上さらに、オジギサセソウにはヤバい点があったりする。『…骨とか折れててもお構いなしだからな』、『異常活性したオジギサセソウとか、あるいは特殊変異したオジギサセソウの場合……普通とは違うお辞儀をさせてくるからね』とは先生たち。


 うん、明らかに直角以上……よほど前屈がすごい奴でもこなせないようなお辞儀を強要してきたり、右や左に捻ったり片足をあげてのお辞儀といったアクロバティックなお辞儀を強要するオジギサセソウも世の中には存在するらしい。


 『強制柔軟や変形お辞儀くらいならまだかわいいものなんだけどね……昔、首だけでお辞儀させるオジギサセソウが見つかったことがあって……』ってピアナ先生は悲痛な面持ち。『幸いにも、人の死者は出なかったんだけどね』って言葉が続いたけれども、まぁつまりはそういうことだろう。


 ちなみにこのオジギサセソウ、いくつかの魔法薬(強制薬、傀儡薬といった禁薬一歩手前のヤバい奴)の材料になるほか、『…一部地域では子供のしつけやマナーレッスンに使われることがあるな』とのこと。誰でも綺麗なお辞儀ができるから、文字通りそれを体に叩き込むことに使われているらしい。『…珍しいところでは、オジギサセソウのお辞儀具合を調整する専門家もいるぞ』ってグレイベル先生は言っていた。


 授業についてはこんなもん。なんだかんだで用意されたそれは危険なものじゃないから、みんなでお辞儀しまくって遊んでいた気がする。『実は、式典とかで内緒でこっそりオジギサセソウを持ち込む人って結構多いんだよね!』ってピアナ先生から裏話も聞けたっけ。俺もちゃっぴぃのしつけに使ってみようかな?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが授業で余ったオジギサセソウを俺に使ってきた。『……なんか、こうやって見下ろすのもいいかも』とのこと。何度も何度も俺にお辞儀させて、そのたびに嬉しそうに俺の頭を撫でていたのを覚えている。


 『アレはそのうちお辞儀から土下座になるぞ』、『土下座の後に頭を踏むところまで行くと見たわ』、『そーゆー顔してるもんね』って女子たちが囃し立てる。『そそそ、そんなことしないもんっ!』って真っ赤になるロザリィちゃんが最高にステキでかわいかったです。


 マジな話、ロザリィちゃんに踏まれるのなら俺としては大歓迎である。それでロザリィちゃんも喜ぶというのなら、みんな幸せで何ら問題ない。もしロザリィちゃんがそれを求めるなら、遠慮なく俺の頭……と言わず全身を踏んでほしいものだ。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。こいつ、何度もオジギサセソウを触って『……これ、寝転がった状態で使えば誰でも腹筋できるんじゃね!?』ってオジギサセソウの新たな使い方を発明してしまった。『絶対強制的にお辞儀させるってことは、限界を超えて腹筋できるってことじゃん!』って悪魔的な発想も。


 『そんなことよりも、強制頭突き機構として使えるんじゃね?』って俺が提案したら、『なにそれちょうすげえ!』ってギルはさっそく実行。奴の強烈な一撃を受けてなお原形をとどめている俺って、もしかして人間を超えてしまったのかもしれない。


 ……怒りに任せてオジギサセソウを燃やしてしまったけれど、今度なんかの機会にちょろまかしておきたい。上手くアルテアちゃんを唆し、ヒモクズとおこちゃまに強制腹筋地獄を味わってもらおう。リボンと筋肉でガチガチに拘束すれば逃げられないだろうし。


 ギルの鼻には温泉の素を詰めておく。これ、ラフォイドルが風呂に入れようとしたんだけど、量があまりに少なすぎて全然効果なかった奴ね。『これだけ残ってもしょうがないし、俺は一縷の希望に託す』ってなんかあいつが渡してきたんだよ。ゴミを押し付けられただけの気がしなくもない。おやすみなさい。

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[一言] ……大リーグ矯正ギプスかな?w 本命:ギルの鼻から泡 対抗:ギルから温泉の匂い 大穴:ギルが臭い
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