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26日目 発展魔法陣製図:マジックフランジの製図【3】

26日目


 ギルの足から焼き立てパンのかほりが。マジなんなの。


 ギルを起こして食堂へ。どこからか漂う素晴らしいパンのかほりのためか、パンをチョイスする人がいっぱい。『なんかすっごく良い匂い!』、『今日の焼き立てパン、もしかしていつもよりお高いやつなのかな?』ってうきうきしている女子もいた。


 が、もちろん用意されているのは普通のパン。『さっきまでこんないいにおいはしなかったんだけど……』っておばちゃんも困惑気味。そしていつも通りのパンのはずなのに意気消沈しているやつが多数。真実を知ったらどう思うのか、ちょっと気になる。


 ギルはもちろん『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べていた。がっくりしている人たちに『知ってるか? ジャガイモってパンにも合うんだぜ!』と得意げに秘蔵のジャガイモを配ってもいた。何人かがギルから漂う焼き立てパンのかほりに真実を察していたけれど、それでも普通にパンを食べる当り、魔系らしいと思う。


 ちなみに俺はちゃっぴぃとホットサンドをはんぶんこした。何を思ったか、今日はちゃっぴぃは俺の肩車にすっぽり収まっている。で、『きゅーっ♪』って嬉しそうに俺の頭の上でホットサンドを食すものだから、パンくずが頭に落ちてきてたいそう不快。これならまだ膝の上に乗せて貢いだ方がマシである。


 今日の授業はシキラ先生の発展魔法陣製図。『この前のソルカウダは最高だったよな! あのソルオイル、高い酒に数滴垂らして飲んだら世界が輝いたぜ!』ってシキラ先生はにっこにこ。『その酒を奪い合う学生共の姿は最高の肴になった!』とも付け加えた。あの人はやっぱ悪魔だ。


 前回に引き続き、今回もマジックフランジの製図を行う。一応マジックフランジの製図は今回が最後で、次回からは新しい対象の製図に入るとのこと。


 『前も言ったけど、提出そのものは期末だからそんな慌てる必要はないんじゃね? ただ、自由に質問するってのは今日の授業が最後だから』ってシキラ先生は言っていた。もしこの後にフランジに関しての質問がしたい場合、個別に相談に来てほしいとか。次回以降はあくまで次の対象の質問を優先させるらしい。


 ともあれ、ぼちぼちと製図を進めていく。製図台がクソなこと以外は特にこれと言って問題は無し。さすがにもうみんな慣れてきているし、シキラ先生もわりかし暇そう。『そろそろルンルンの毛繕いしとかねえとなあ……』って呟いていた。


 あの化け蜘蛛、毛繕いしなきゃいけないのか。あ、パレッタちゃんが『そのバイト、我に任せるなり』って立候補していたっけ。


 あまりにも暇すぎたので、『なんか面白い話してくださいよ』って話題を振ってみる。シキラ先生、『先生に暇つぶしの無茶ぶりさせるとか、良い度胸してるじゃねえか!』って言葉の割りにたいそう嬉しそう。『しょうがねえなあ!』なんて言いながらある秘密のお話をしてくれた。


 なんでも三年くらい前、学生の図書館利用率があまりにも悲惨だからって、学生部から先生たちに『なんとかして図書館利用率をあげろ』って無茶ぶりが言い渡されたらしい。当然どの先生もそんな無茶ぶりやりたくなかったらしいんだけど、されど一応は通達されたことであるため、何かしら適当に済ませてポーズだけ取ろうってことになったそうな。


 で、ベタなやりかただけど図書紹介をするってことになったのだとか。各々の先生が興味のある、あるいは学生の興味のありそうな本をパネル展示的なアレで紹介し、学生に図書館に対する興味を持たせようとしたそうな。


 『たしかステラ先生が変わった魔法薬の調合法に関する本を紹介して、ピアナ先生がヤバい魔法植物の図鑑を紹介したんだったかな。グレイベル先生が魔法生物の狩りの仕方についての本だった気がする。この三人の展示は結構面白くって、しばらくその本は貸し出し予約が殺到していたんだぜ!』とはシキラ先生。なんかその本、すっごく聞き覚えがあるんだけど。


 『ヨキ先生はクソつまらない魔法の歴史の本で、これはまるで人気が出なかった。アラヒム先生の本は学術的興味は持てるものだったが、内容は堅苦しくて学生受けは悪かった』とシキラ先生は続ける。


 ちなみに、シキラ先生の展示は『完成したパネルを最後の承認のために学生部に持っていったらめっちゃ怒られた』とのこと。『研究室の男子学生からの受けは良かったんだけどなァ……』って呟いていたけど、いったいどんな内容の本だったんだろうか。


 で、ここからがハイライト。『シューン先生、どんな本を紹介したと思う?』ってシキラ先生がもったいぶって聞いてきた。


 『自分が書いた本ですか?』ってアルテアちゃん。『校長の自伝とか?』ってポポル。『例のお気にのオークの小説じゃねえの?』ってフィルラド。『可愛い絵本かも!』ってロザリィちゃん。そんな笑顔がマジプリティ。


 『全然違うな!』ってシキラ先生はニヤニヤと笑う。『じゃあ何なんですか』って聞いてみたところ、『それだよ、それ。お前らが今持ってるそれだよ』って俺たちの手元を指さした。


 なんとあの人、魔法設計製図便覧を紹介したらしい。


 『……は?』ってジオルドがあっけにとられたように声を漏らす。『いや、マジであの人それを紹介したんだよ』ってシキラ先生は続ける。信じがたいことに本当の話であるらしく、シキラ先生は『おやつのクッキーに誓ってもいい』とまで言った。


 魔法便覧である。魔系のための辞書みたいなものである。確かに本の形をしているけれど、これは細かい規格寸法を調べるためのものであって、決して図書と呼べるものじゃない。少なくとも、企画の趣旨に合致したものではないはずだ。


 が、『魔系が一番使う本なんだから、これが一番ふさわしいに決まってる! ……ってシューン先生は嬉しそうに言ってたぜ。しかも、他の先生はパネル一枚の展示だったのに、シューン先生は三枚も使っていかに便覧が素晴らしい書物か語りまくっていた』とのこと。やっぱシューン先生は俺たちと違う感性を持っているのかもしれない。


 なお、最後に行われた人気投票的なやつではぶっちぎりの一位を獲得し、新たな伝説を作ったそうな。『本人も嬉しそうだったし、俺たちも楽しかったからな! まさかあのクソつまらない企画があんなに盛り上がるなんて思いもしなかったぜ!』ってシキラ先生は腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、『どんなジャンルの本が好きか?』って話になったのでルマルマのみんなで語り合うことに。


 フィルラドは『なんだかんだで冒険小説かな』、ジオルドは『技術書とか結構好きだ』、クーラスは『図鑑がジャスティス』、ポポルは『そもそも本読むの楽しくなくね?』、ギルは『ジャガイモの本!』とのことだった。


 パレッタちゃんは『呪の本』、ミーシャちゃんは『王子様が出てくる本!』、ロザリィちゃんとアルテアちゃんはちょっと顔を赤くし、小さい声で『【純潔のアルケニー】シリーズです……』って具体的に教えてくれた。


 そのタイトルを聞いた瞬間、一部の女子がぎょっとした表情をし、また一部の女子が息を荒げていたのが印象的。ちょっと気になってどんな本なのか聞いてみたら、『ふ、普通の恋愛小説だよ? ピアナ先生の愛読書でもあったはず!』、『そ、そうそう。ふ……普通? の本だから』との回答を頂いた。


 よくよく考えてみたら、【純潔のアルケニー】ってミニリカの蔵書であったかもしれない。『こ……これはお子様には刺激が強すぎる描写じゃのう……!』って真っ赤になりながら読んでいた記憶があるような無いような。表紙に綺麗なおねーさんと大きな蜘蛛が描かれていたから、たぶんあの本だと思うんだけど。


 ギルは今日も大きなイビキをかいて安らかに眠っている。こいつは本を読んだりしないのだろう。教科書だって落書きだらけだし、魔系として情けなくなるばかりである。


 ……そういえば、俺の好きな本ってなんだろう? 割と好き嫌いなく読んでいる気がするし、そもそも読める本を選べる環境になかったような。読んだのは読まなきゃヤバい本ばかりだったし、そもそも仕事で忙しくて本を読む余裕もなかったっけ。


 そういった意味では、たまに日記を読み返すことが俺のプライベートな読書……というか、好きな本だと言えなくもない。こんなの絶対人には言えないけど。


 いつかこの日記を読み返し、思い出に浸ることもあるのだろうか。読み物として成立するくらいにはまともな日常を送れるといいのだけれど。


 ちょっとセンチな気分になったので今日はここまでにしておこう。ギルの鼻にはインク(赤)を垂らしておいた。しかも贅沢に七滴もである。俺ってばちょう太っ腹。おやすみ。

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