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256日目 発展魔法材料学:魔法疲労限度の評価方法について

256日目


 ギルの鼻から湯気が出ている。水が沸騰していた。なぜ?


 朝、なんとなく腹がすーすーして寒いな……と思っていたところ、ちゃっぴぃが俺の生腹に両足をくっつけているのを発見。いったいどうやれば昨晩のあの体勢から俺のおなかにぺたっと足の裏をくっつけられる体勢になれるのか……。子供の寝相の悪さおよび体の柔らかさに驚いたと同時に、こいつのご主人様に対する忠誠心の無さに逆にびっくりした次第。


 ギルを起こし、ちゃっぴぃをおひめさま抱っこして食堂へ。今日も昨日に引き続き雪が降っており、食堂内もたいそう冷え込んでいる。人が増えてきたら少しはマシになったけど、それでも寒いものは寒い。そして肝心な暖炉の前は今日も使い魔どもが占拠。もしかしなくとも、うちのちゃっぴぃに限らずこの学年全体の使い魔どもがあんな感じなのだろうか。


 あ、中でもアリア姐さんは本当に寒そうで、そしてすごい寝ぼけ眼。植物的にはかなりこの寒さは堪えるのだろう。というか普通に全裸だし。


 見かねたのか、ウチの女子が『サイズちょっと合わないかもだけど……』、『今度可愛いの見繕ってくるから、それまではこれで……ね?』って各々マフラーだとかストールだとかをアリア姐さんに着けてあげていた。恐ろしいことに彼女ら、シーズンのたびに流行のそれを買っているため、去年のものでよければ普通に在庫(?)があるらしい。女子って本当に贅沢な生き物だ。


 アリア姐さん、「あら、ありがと……」とでも言わんばかりに儚げに笑っていた。これがいつもの……日が昇ってきてあったかくなっていた頃合いだったら、きっと全力で抱きしめていたことだろう。女子の悲鳴が聞こえなかったのはきっと良いことのはずだ。


 一応書いておこう。ギルはやっぱり『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。そしちゃっぴぃは『きゅーっ!』って俺のローブの中に突撃。ずっと背中に張り付いてなんかほおずりしている。せっかくのローブのスタイリッシュなシルエットが台無し。


 あとあいつ、なんか顎で俺の肩のところグリグリしてくるんだけど、アレなんなんだろ? 妙にくすぐったいんだよね。


 ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。あいつは今日も元気だった。それだけ……って、俺これもうさっき書いたじゃん。ちくしょう。


 今日の授業はシキラ先生の発展魔法材料学。『邪竜討伐大変だったぜぇ……!』ってシキラ先生はうっきうき。『なのに誰も俺のこと労ってくれねえんだもん! みんなひどくね!?』って教室中の人間に絡みだす。挙句の果てに、『人間関係はギスギスだし、邪竜は強いしよぉ……! 俺が決死の覚悟で、自らの体を犠牲にしてボロボロになるまで踏ん張らなきゃ、たぶん今頃この世界滅んでるぜ?』なんて嘯いたりも。


 『行きも帰りも飲んだくれて、絡んできた冒険者を返り討ちにしたって確かな筋から情報がありましたが……』って問い質してみれば、『それはそれ、これはこれ。それに、俺ってば健全な教師だし? 生徒でなかろうと、ついつい気づいた時には教育しちゃってるんだよな!』ってちょう笑顔で返された。ホントこの人、いったい何しにいったんだろう?


 ちなみにドラゴンテールステーキも楽しんだ様子。『最初のは硬くて臭くて食えたもんじゃなかったけど、翌日のはめっちゃ美味かったな! ついつい酒が進んじゃったぜ!』とのこと。せっかくだからと魔材研の猛者と一緒にステーキを肴に今回の遠征でごうだ……じゃない、快く譲ってもらったお酒を楽しんだのだとか。


 『ご一緒したかった』ってパレッタちゃんが呟いていたのがなんか気にかかる。肉を食べたかったのか、酒を飲みたかったのか。あるいはあふれ出る混沌をヴィヴィディナに捧げたかったのか。たぶん後者だろう。


 授業内容だけれども、今日は魔法疲労限度の評価方法について学んだ。前回までに魔法疲労破壊の要素の一つとして魔法疲労限度のことを学んだわけだけれども、じゃあこの魔法疲労限度はどうやって評価して、どうやって調べるのって言う話ね。


 『もう何度も言ったけど、この分野は未だにはっきりしたことがわかってない部分が多い。だから、経験則的に「ここまでやれば十分だ」って見切りをつけることも多いんだよ。前回話した通り、まともにやるとクソ時間がかかるからな。この実用的に評価できる方法を探すってのも、この分野での大きなテーマの一つなんだぜ』とのこと。


 現象そのものの解明などではなく、その評価手法の開発そのものがテーマに成り得るだなんて、いかにも発展途中って感じがしてちょっとワクワクする気がしないでもない。


 ともあれ、魔法疲労限度の評価方法として紹介されたそれを以下に示す。



・S-N曲線

 横軸に試験片が破壊されるまでの繰り返し魔力負荷回数、縦軸に負荷魔力を示した魔法疲労限度を比較・評価される際に広く用いられる表のこと。一般的に、負荷魔力が高ければ繰り返し負荷回数は小さくなり、負荷魔力が低ければ繰り返し負荷回数は大きくなる傾向があるため、S-N曲線は右肩下がりとなる。また、ある一定の点において、どれだけ繰り返し負荷をかけても破断しなくなる、すなわち表上における線が水平になる負荷魔力が存在する。この時の魔力が魔法疲労限度である。

 ただし、実際問題として、必ずしも現実の破壊がS-N曲線に即したものになるとは限らず、実際はどんな材料であってもある程度のばらつきがある(例えば、同じように作ったはずの試験片なのに、一つはS-N曲線通りに負荷魔力と繰り返し回数の関係が出ていたのに、もう一つはなぜか負荷魔力に対して繰り返し回数が少なかったりなど)。


・パルヴィット法

 ある一定の魔力負荷の元、打ち切り回数に至るまで魔法疲労試験を実施。その時の破壊確率より魔法疲労限度を求める。例えばこの魔力負荷の時に10回試験をしたところ、一度も破壊しなかったので破壊確率は0%、次の魔力負荷の時に同じように10回試験したところ、破壊されたのは一つだったので破壊確率は10%、また次の魔力負荷で同じように10回試験して……と繰り返していく。概ね破壊確率が50%となる負荷を魔法疲労限度とするらしい。

 なんだかんだで試験片が100本くらいは必要になるとか。最低でも一つの魔力で10回はやりたいし、調べる魔力は10以上はあるだろうから当然っちゃ当然。力技でごり押しする泥臭い試験方法って覚えておこう。


・ステルカース法

 初期設定負荷魔力(大きめ)と階差魔力を事前に検討。まずは初期魔力で打ち切り回数になるまで魔法疲労試験を実施し、そこで破壊が生じれば階差分だけ魔力を下げて再び試験を実施。破壊が生じなかったらその魔力を記録し、魔力を上げて再び試験を実施して……を繰り返し、データが揃ったところで破壊魔力と繰り返し数の結果を整理し、魔法疲労限度を求める。

 いちいち総当たりせず、ちょっとずつ魔力を調整して壊れるギリギリを見極めましょうって感じの試験。それでも回数をこなすし時間もかかるとはいえ、なんだかんだ試験片は20~30本くらいで済むらしい。


・十四本試験法

 なんか試験片を十四本しか使わないで評価する試験方法。『教えたいのはやまやまだけど、お前らが理解できるとは思えねえんだよな……』ってシキラ先生がすっ飛ばしたため、詳細は不明。『とりあえずそういうものがあるって名前だけ覚えてりゃいいや。やる気があるなら図書館で調べるのもいいし、何なら俺と一緒に一晩飲みながら語るでもいいぜ?』とのこと。


・その他簡易試験方法

 あくまで簡易で簡便なざっくり評価として、浸食強さやヴィックス魔硬で評価することもあり。単純にそれらに決まった係数をかけて割り出すので、魔硬とかの大小がそのまま魔法疲労限度の序列として使える……のはいいんだけど、簡易的なものなで実際の設計値として扱うことには向いていない。というか無理。材料ごとの比較をするときに使うこともあるかもってくらい。



 ざっくりこんなもん。『どの評価方法にしても、ばらつきをどう抑えるのかが課題なんだよな』とはシキラ先生。実際研究室で実験をするとよくわかるそうなんだけど、たとえ既知の材料であったとしても、現実はS-N曲線通りの傾向を示さないことも多いらしい。『その理由はすでに授業でやってるから、今更説明させないでくれよな?』ってシキラ先生は俺たちを煽ってきた。


 ここで疑問が一つ。ばらつきが多いかどうかってのは、既知のそれを知っているからこそ言えるわけで、全く新しいものを調べる……本当の意味で評価したいときはどうなるのか。これらの手法は魔法疲労限度を知るためのS-N曲線を作るためのやり方なわけで、それそのものに精密性が無いとなったら使う意味が無い。


 そんなことを質問したところ、『だからこそ、何度もやって確かめるんだよ。あるいは、もっといい方法を考えたりだとかな。結局のところどうしても確率や統計処理的な話になるから、精度を出したきゃ数をこなすしかねえ。それが面倒だから、どうにか良いやり方が無いか探す……ってのが今なお続いている問題だ』ってシキラ先生が言っていた。


 先人たちが取り続けてくれたデータと、そして魔硬による簡易評価方法があるから、別の魔法的パラメータより大体のところはざっくり推測できるらしい。ただ、ざっくりではなく正確な値を知りたいってのと、もしかしたら特異な性質を持っている可能性が捨てきれないからこそ、こうしてあの手この手で調べようとしているのだ。


 やっていること自体はそう難しくないんだけど、考え方がちょっと複雑なためか混乱している人がいっぱい。つまるところ、S-N曲線を作成するためには、その魔法材料の試験片が「どれだけの魔力を」、「どれほどの回数で」負荷した際に破壊されたのかを知る必要がある……ってのだけ覚えておけばいいと思う。魔法疲労限度さえわかってしまえばそれでいいわけだしね。


 授業の終わりにて、シキラ先生より『クリスマスの準備よろしくな!』って一通のお便りをいただいた。中にはいつぞやと同じようなお菓子の発注書が。『お菓子パーティみたいに忘れられると困るから、俺自らが注文してやったぜ! 俺ってばマジ出来る先生じゃね!?』ってあの人は自画自賛。単純に食い損ねるのが嫌だっただけだろうに。


 ともあれ、避けては通れぬ道なので了承する。『たぶんだけど、属性処理研究室も同じ依頼すると思うぜ』ってシキラ先生は言っていた。まったく、人気者は困るぜ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中にて、ロザリィちゃんに脇腹をつんつん突かれた。『……お姫様抱っこ、して』とのこと。どうやらちゃっぴぃが日がな一日ずっと俺に抱き着いたりお姫様抱っこされているのを見て羨ましくなってしまったらしい。


 もちろん、すぐさまお姫様抱っこする。湯上り就寝直前ネグリジェ姿ロザリィちゃんのなんと麗しいことか。柔らかくてあったかいし良い匂いがするし……気づけば思わずキスしてしまっていたっけ。


 『言われる前にできるようになって、えらいねえ?』って、ロザリィちゃんは真っ赤になって妖しく笑いながら、さらに俺にキス。もう俺幸せすぎて気絶しそう。こんなに幸せでいいのだろうか。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。そしてちゃっぴぃが俺の枕を抱き枕にしやがっている。『きゅー……』ってあいつすごく心地よさそうにスヤスヤしているんだけど、そのベッドは他でもないご主人様のものだということをちゃんと理解しているのだろうか?


 とりあえず、不遜な使い魔は一晩抱き枕の刑に処することにする。あいつだって俺の枕を抱き枕にしているんだから、それ相応の覚悟はあるはずだ。嫌とは言わせない。


 ギルの鼻には……パチンコ玉でも詰めておこう。お外で遊んでいたヒナたちが見つけて拾ってきたやつね。グッナイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう試料測定って色々大変なんだよなぁ……僕の分野も大変っす 本命:書き手狙撃 対抗:隣の部屋狙撃 大穴:アエルノ狙撃
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