250日目 創成魔法設計演習:自習(ロザリィちゃんに触れるかゲーム)
250日目
ギルの鼻から干からびた手が。とりあえず握手したところ握り返されたので、全力で引っこ抜いて窓からぶん投げた。どことなくマンドラゴラ的な人面茸に見えたし悲鳴も聞こえたけど気にしない。
ギルを起こして食堂へ。なぜだか今日はティキータの連中が勢ぞろい。休講なのに珍しいこともあるんだと思ったら、『いい機会だし、この前の先輩への借金をチャラにしようかと』ってゼクトが言っていた。
なんでもティキータの連中、未だにこの前のカチコミ前のダンスパーティの衣装代を先輩に返していなかったらしい。なんだかんだでここ最近ずっと忙しく、バイトに行く暇も無かったのだとか。故に、この機会にティキータの全員でガッツリ稼いでしまおうと思い当たったらしい。
『ちょうど冒険者とか出払っているらしくって、そういう意味で若い人間の需要が増えているっぽいんだよね』ってゼクトは言っていた。おそらく、例の邪竜の討伐のために町の冒険者ギルドも結構な人手を割いているのだろう。稼ぐタイミングとしてはなかなか悪くなかったのかもしれない。
そんなわけで朝食はミックスサンドをチョイス。ティキータの連中がお弁当としてもらっているのを見て、ちゃっぴぃが『きゅ! きゅ!』ってせがんできたが故である。決して俺がついつい食べたくなっちゃったわけではないことをここに記す。
味は普通にデリシャス。今日も肉、野菜、魚、卵……とミックスサンドの名にふさわしく具材はいっぱい。珍しいところではフルーツなんかも入っていたけれども、アレ、一発目から食べてしまったらだいぶ気分がブルーになりはしないだろうか。
割とどうでもいいけれど、パレッタちゃんがクーラスに特製ハーブティーをおねだりしていた。『なんか無性に飲みたくなった』とのこと。何気にパレッタちゃんがあの手のハーブティーを飲むのを見るのは初めてかもしれない。クーラス、『まさか意外なところに同好の士がいるとは……!』ってウキウキしながら用意してあげていたっけ。
『また夢見が悪かっただけだろ』ってポポルがその様子を横目で見て呟いていたけれども……。俺は未だにポポルとパレッタちゃんの関係がよくわからん。
一応書いておく。ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。相も変わらずすごい食べっぷり。俺はギル以上にジャガイモを上手そうに食べる人間を知らな……いや、一人だけ知っている。去年ジャガイモ漬けにされた薬師、今何してんのかな?
昨日に引き続き、午前中はやっぱりぼーっとして過ごす。悪夢椅子や俺専用ロッキングチェアでゆらゆらしたけどどうにもこうにも暇がつぶれない。ロザリィちゃんとイチャイチャしようにもロザリィちゃんは女子たちの輪の中でなんかおしゃべりしていたし、そして暖炉の前は使い魔どもが占拠している。
ここはもうルマルマ壱號の改造でもするか……と思ったものの、「何か不穏な気配を感じたんですけど?」……とでも言わんばかりに額に青筋を浮かべたアリア姐さんと目が合ってしまった。怖い。
当然、他にやることなんてない。久方ぶりに水槽&虫かごをじっくり見てみたけれども、虫は代替わりで卵しか残っていないか土の中に潜っていて見ごたえが無いし、魚も大体そんな感じ。ここ最近誰も釣りに行っていないからか、新しいのが増えているってことも無い。
じゃあもう後は課題くらいしかやることが無いんだけど、しかしそんな気分じゃない。気分でもないのに課題をやったところで、効率も上がらなければ内容もクソみたいになることは決定的に明らか。
『マジで暇なんだけど、どうしよう』っておこちゃまポポルに相談してみる。あいつ、暖炉の前でゴロゴロしながら使い魔どもとスナック食ってたんだけど、『じゃあなんかゲームでもするか』……ってスナックの残りを全部エッグ婦人&ヒナたちにあげていた。
で、何をするのか……とちょっとわくわくしていたところ、あいつはクラスルームの真ん中で『今から男子の全員で「ロザリィに触れるかゲーム」やろうぜ!』などとアホなことを大声でぬかしやがった。
もちろん、クラスルームにいた全員がびっくり仰天。何よりいきなり巻き込まれたロザリィちゃんのおめめがまんまる。今日も可愛い。抱きしめたい。むしろ抱かれたい。
一応、ポポルにどんなゲームなのかを聞いてみる。『ルールは超簡単! この前のティアトのあいつみたいに、ロザリィの肩にちょっと触れるだけ!』とのこと。
一体それの何がゲームになるんだと思ったところで、『……下手な度胸試しよりヤバいな』、『たかがゲームに体張りすぎだろ……だが、悪くない』って男子の中からは結構な賛成意見(?)が。
つまるところ、ロザリィちゃんには常に愛魔法が作用しているから、疚しい気持ちを抱いたまま触るといつぞやの腕ブラクソ野郎の再来となってしまう。俺たちはクラスメイトだから疚しい気持ちなんてあるはずないのはわかりきっているわけで、それならじゃあその証明として触ってみても大丈夫だろ……と言う趣旨のゲームらしい。
今更ながら、あいつらは人の恋人のことを何だと思っているのだろうか?
意外なことに、『あっ、面白そう!』ってロザリィちゃんがノリノリ。こういうのはあんまり好まないと思っていたんだけど、『もうみんな家族みたいなものだからねー……。これくらいのおふざけだったら、別に全然問題ないよ?』とのこと。
『……それともなんだぁ? もしかしなくても、妬いちゃってるのぁ?』ってめっちゃおでこをつんつんされたのを覚えている。できればもっとからかってほしかったし、何なら一生からかってほしい。だって俺もうロザリィちゃんがいないと生きていけないもん。
ともあれそんなわけで、最初は言い出しっぺのポポルから。『こんなん楽勝だし!』ってポポルは普通にロザリィちゃんの肩をぽんぽん。当然の如く腕がねじ切れる……なんてことはなく、あいつはドヤ顔。さすがはおこちゃま。
で、次は誰が行くか……ってところで、なぜかみんなの腰が引けている。『いや……これ、どこからアウトなんだ……?』、『女の子に触れるってだけでも、疚しい気持ち判定あるんじゃね……?』ってみんなビクビクブルブル。
確かに言われてみれば、女の子に触るってだけでもちょっと……いや、だいぶドキドキする。ドキドキするってことは、少なからずそう言う目で見ているわけで、果たしてそれがどこまでならセーフなのかってのはロザリィちゃんのみが知る事実……というか、ロザリィちゃんでさえ把握できていない可能性がある。
挙句の果てに、『仮にセーフだったとしても、ホントに無事でいられるのか……?』って連中がこっちを見てひそひそ。あいつらは友達のことを何だと思っているのだろうか。
しびれを切らしたポポルがクーラスの手をひっつかみ、『いいからさっさとやれよ!』って」ロザリィちゃんに触れさせようとする。クーラス、『あっぶねえだろコラァッ!』って全力で踏ん張って何とか耐えていた。
『ちょ、ちょっとそこまで露骨だと……あの、割と傷つく……』ってロザリィちゃんがちょっと涙目。とりあえずクーラスにはこむら返りの呪をかけておいた。
結局その後もロザリィちゃんに触れようとする男子は出ず。『思えば価値観が普通じゃない相手に対して、こういう勝負をすること自体がおかしかったんだよ』、『こんなくだらないことで死にたくない』、『現状を知っている以上、疚しい気持ちなんて起きるはずがないけど、体はだいぶ正直だから……』ってやつらは口々に言っていたっけ。
『嬉しいような、情けないような……複雑な気分ね』、『えっ? 男子って女子に触れるだけでそんなに意識するものなの?』、『ルマルマの色欲だし、みてくれだけはいいから……しょうがないところはあるのかしら……』って女子のみんなはなんか複雑そう。『ど、どういうことだぁーっ!?』ってロザリィちゃんは抗議の声を上げていた。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『……そういえばパパだけまるでゲームに参加していないんですけど? 辞退の表明すらしていないんですけど?』って甘えてきた。
ので、愛情をたっぷり込めて肩をぽんぽんと叩く。『……ちょっと今判定が鈍っているかもしれないから、もっと』ってさらに甘えられた。『あんまり甘えられると、疚しい気持ちが起きちゃうんだけど……』って言ったら、『……むしろ、恋人ならそうじゃないと困るんですけど?』って挑発的ににこーって微笑まれた。
いやはや、もうロザリィちゃんには敵う気がしない。気づいた時にはキスしちゃってたんだけど、これも愛魔法の一種だろうか。ああもう、俺ってば本当に幸せだ。
『けっ』、『恋人じゃなかったら全身バラバラになってるんじゃね?』ってミーシャちゃんとポポルが俺たちを見てコメントしていた。たとえバラバラになったとしても、それでも俺はロザリィちゃんと共にありたいと思う。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。一応こいつもロザリィちゃんに触れるかゲームに参加してはいたんだけど、『たとえゲームでも、俺は親友の嫁に野暮なことをするつもりはないぜ! だって親友、これで意外と嫉妬深いからな!』って爽やか笑顔でポージングして辞退していたんだよね。
まぁ、たとえそうでなかったとしても俺が全力で止めていただろう。もしギルがロザリィちゃんの肩をぽんぽんしたら、間違いなくロザリィちゃんの肩が砕けてしまう。そんなの許していいはずがない。
ふう。大したことしてないのになんだかんだで長くなった。
……そういや、ステラ先生は今頃どうしているだろうか。一週間くらいで帰れるって話だったから、そろそろ邪竜と戦っていてもおかしくない頃合いだろうけど。ステラ先生が邪竜程度に負けるとは思えないし、あのシキラ先生やウチの先生たちもいて、さらには冒険者連中もそろっているのだから万が一なんて起こるはずがないとはいえ……。
ああもう、やっぱり心配だ。ちゃんとしっかり食べて、あったかくして寝ていると良いんだけど。願わくば、良識のある真っ当な女冒険者が近くにいることを……って思ったけど、冒険者やってる段階でクズしかいない。絶望。
ギルの鼻には……ステラ先生の無事を祈って、ライフウィッシュを詰めておこう。グッナイ。