249日目 発展魔法材料学:自習(キャンディポッド)
249日目
ギルから長い鼻毛。ばっちぃから切っておいた。
ギルを起こして食堂へ。一応今日は普通に授業の日なのに、なんか微妙に食堂にいる人数が少ない。『いや……やっぱ、だらけちゃうでしょ……』って通りすがりのティキータのゼクトもそんなことを言っていた。
あいつら先生がいないのをいいことに、昨日夜更かしして遊びふけっていたらしい。『先生の乱入が絶対にないってわかってるパーティほど楽しいものはない』ってそれはもう晴れやかな顔で言っていた。
朝飯はなんとなくグラタンをチョイス。朝から結構なものが用意されていると思ったら、『ちょっとくらい景気づけしないとね!』っておばちゃんが言っていた。非常招集の時はどうにも学校内全体が暗くなりがちだから、せめて食事くらいは豪華にしよう……っていうつもりらしい。
食堂に活気が無いのはみんなが暗くなってるからじゃなくて、単純に朝起きれない奴が多いだけなのに。まぁ、突っ込むのは野暮ってものだろう。
あ、グラタンは普通にデリシャスだった。ただ、めっちゃ熱くて口の中を火傷しそうになったのだけはいただけない。俺のお膝の上のちゃっぴぃも、俺がふうふうする前にろくに見もせず『きゅーっ♪』ってグラタンに食いついたものだから、『きゃうんっ!?』って口の中火傷してたしね。
『熱かったね、熱かったね……!』ってちゃっぴぃの頭を撫でてあげるロザリィちゃんが最高に可愛かったです。あと、『きゅう……! きゅう……!』って半べそになりながらロザリィちゃんに抱き着くちゃっぴぃがめっちゃ羨ましかった。ちゃっぴぃのくせにずるい。
一応書いておく。ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食いまくっていた。『たまにはこいつにも食べさせておくの』って隣でミーシャちゃんがクレイジーリボンにジャガイモを食わせていたのも覚えている。毎度のことながら、どうしてリボンがジャガイモの生気(?)を吸ってつやつやと輝きだすのかマジで意味が解らん。
午前中はなんとなくぼーっとして過ごす。昨日に引き続き、マジで何もやることが無かったゆえである。ホントは課題とか済ませようとも思ったんだけど、なんかやる気が全然わかなかったんだよね。
適当に俺専用ロッキングチェアでゆらゆらしていたところ、なぜだかヒナたちが俺の前にてケツフリフリをしはじめた。相も変わらずケツのキレが凄まじい。基礎だけなら完璧。もしこいつらが人間だったのなら、間違いなくミニリカの一族の失われた魔法舞踊の後継者になれるレベル。
『こいつらなんでこんなことしてんの?』ってフィルラドに聞いてみる。あの野郎、主人であるくせに『さぁ……?』ってはっきりしない答え。
一方でアルテアちゃんは、『ああ……そうか、クリスマスが近いからだろうな……』って何か悟りきった顔。『今のうちに媚を売ることで、クリスマスのチキンに任命されまいという涙ぐましい努力だな。いじらしいじゃないか』って言われた。あいつらは俺のことをいったい何だと思っているのだろうか。
その後も特にやることが無かったので、暖炉の前でちゃっぴぃを組み伏せ、奴の尻枕を堪能することに。『きゅーっ!?』ってめっちゃドタバタ暴れられたけれども、所詮は非力な子供故俺の拘束から逃れられるはずもなく。
ただ、なんか微妙に去年よりも力が強くなっている気がしなくもない。あと、何気に尻の厚みと言うか、弾力が確実に増している。実にいい尻枕に仕上がっていると言えよう。もう数年すればさらに心地よさは増すかもしれない。
しばらくそんな感じで戯れていたところで、「これは遊んでもらっているのでは?」と勘違いしてグッドビールが俺に突撃。横合いから結構な勢いで突っ込まれて押し倒された。これ幸いとばかりにちゃっぴぃが反撃に転じ、『ふーッ!』って俺の首筋に噛みついてきたりも。ひどい。
「へっへっへっへっ!」って舌を出してアホ面晒しているグッドビールにレロレロにされたばかりか、『きゅ!』ってちゃっぴぃにも逆に腹枕にされる始末。これじゃあどっちが使い魔でどっちが主人かわかったものじゃない。あいつらはもっと俺のことを敬うべきじゃないだろうか。
おやつの時間頃、ロザリィちゃん他数名とおしゃべりに興じる。内容はあまり覚えていないけれど、ちゃっぴぃ、グッドビール、ポワレ、グリル、ピカタ、ロースト、マルヤキ、ソテー、ポポル、ミーシャちゃんが暖炉の前の一番暖かいところでスヤスヤとお昼寝をしていたため、みんな小さな声でこっそり……って感じだった。
ホントはここらで秘蔵のクッキーでも楽しみたいところだったんだけど、『内緒で食べたってバレたら、またあいつらがうるさいぞ』ってアルテアちゃんに窘められたため、キャンディで我慢することに。俺のお菓子を俺がどう食おうが勝手なのに、いつもあのおこちゃま共はそれで文句言ってくるし、どんなに隠しても必ず嗅ぎつけてくるから侮れない。
で、キャンディポッドからキャンディを取り出して食べていたんだけれども(アルテアちゃんはレモン味ばかり食べてた。しかも舐めるんじゃなくて割とガッツリかみ砕いていた)、ここにきて俺のお気にのアルジーロオレンジが全然出て来ないことに気づく。
何度も何度も選び直しているのにいい加減おかしいな……と思ったら、ポッドの中に一つもアルジーロオレンジが入っていないことが発覚。あるのはラーヴァベリー、マグ・マンゴー、そしてハッカだけ。誰だよハッカ入れたの。
間違いなく、おこちゃま共の仕業だろう。好きな奴だけ狙って食べるなんていかにもあいつらがやりそうなことだ。『一度出したのは戻さずに食べるべきだろうに……』って愚痴を言ったら、『お前が言うなと言いたいが、今回ばかりは私も人のことを言えないのがな……』ってアルテアちゃんがなんか恥ずかしがっていた。
ともあれ、しょうがないのでマグ・マンゴーのキャンディをチョイス。この冬場に南国のクソ暑いところの果物の味を楽しむのもなかなか悪くない……けれども、若干俺には甘すぎるきらいがないこともない。普通に美味しいんだけど、キャンディとしてずっと楽しみたいか……って言われると、男にとってはちょっとくどく思えなくもない。
で、ここはもう憂さ晴らしとお仕置きを兼ねておこちゃま二人とちゃっぴぃの口にハッカキャンディでも入れてやろうか……と思ったところでポンポン、と肩を叩かれる。はて、何事かしらん──と、振り向いてみれば。
ロザリィちゃんの顔が目の前に。なんかほっぺをガシッと掴まれた。
で、ロザリィちゃんってば、にこって笑って──。
『──ん♪』ってキスしてきた。マジかよ。
もうね、一瞬で目の前が真っ白になったよね。唯々幸せで、くちびるに感じる温かくて柔らかな感触が心地よくて……あらゆる意味で、生きた心地がしなかった。
ちょっと不思議なのは、いつも感じるハートフルピーチの甘い香りがしなかったこと。そればかりか、みんなの目の前だというのに……別に特別なアレでもなんでもないのに、オトナなキスの感触がある。
でもって、俺の口いっぱいにアルジーロオレンジの味が広がった。
『──ぷはっ』ってロザリィちゃんがくちびるを離し、息を継ぐ。妖しげに親指でくちびるを拭い、『ちょっと食べかけだけど、別にいいよね?』って素敵なウィンク。さらにさらに、『マグ・マンゴーも結構おいしいじゃん?』ってお口の中でキャンディをころころ。
いやもう、気づいた時には俺の心臓がヤバいことになっていたよね。まさかこんなにも幸せなことがこの世の中にあるだなんて、想像すらしてなかったよ。
『おこちゃまな──くんのために、しょうがなくやってあげたんだからねっ!』ってロザリィちゃんは耳の先から首元まで真っ赤になっていた。照れて上目遣いになっているところが本当に可愛い。なんかもう、愛おしくてそのままずっとぎゅっ! って抱きしめちゃってたよね。
『ぜったい嘘だろアレ。完全に私欲だろ』、『口移しって言えば聞こえはいいけど、いれてるじゃん完全に……』、『どうせオレンジが無かったのも事前に仕込んでいたに決まっているなり』って女子たちはなぜか舌打ちしまくっていた。俺の腕の中のロザリィちゃん、すんげえ真っ赤っかになっていたっけ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんだかんだで今日も無為な一日を過ごしたと思わなくもない。明日こそちゃんと何かをやりたいところだ。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。こいつはこいつで一日中筋トレに励んでいたけれども、思うところは無いのだろうか。いい機会なんだからミーシャちゃんを釣りに誘うなり、ショッピングに付き合うなり……デート一つにでも誘えばいいものを。
まぁいいや。ギルの鼻には……風呂場の脱衣所に生えていたよくわからんキノコを詰めておく。『この時期なのに生えてる根性のあるキノコがいるぜ!』って四クラス全員で話題になったんだけれども、なんかみんなで遊んでいるうちに魔力塗れになって飽きられちゃった奴ね。おやすみなちゃい。