246日目 風邪ひきのポポル
246日目
ギルの体からほんの少しの反発力が。ベッドからも微妙に浮いてる。すげえ。
ギルを起こして食堂へ。昨日に引き続き今日もなんかめっちゃ寒い。女子たちはとうとうひざ掛けを解禁したらしく、各々色とりどりでお洒落なそれを膝にかけてぬくぬくしている。誰一人として柄が被っていないのがマジで不思議なんだけど、彼女らはアレをどこで調達しているのだろう?
唯一幸い(?)だったのは、ちゃっぴぃがひざ掛けを見ても欲しがらなかったことだろう。まだいつぞやみたいにギャン泣きされたらたまったものじゃない。ちゃっぴぃにとっては、ひざ掛けに頼らずとも俺やロザリィちゃんのローブに潜り込めれば十分なのだと思う。
朝食にてアツアツのピッツァを食す。チーズがみょーん! って伸びてとっても素敵。そしてサラミなんかが結構厚くて大きめでそしていっぱい。俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って美味そうにガツガツ食いまくっていた。健康なのは良いことである。
ギルはもちろんジャガイモ。『うめえうめえ!』ってジャガイモ。ジャガイモだけを食べることが健康的だとは思えないけれど、あいつが幸せならもうそれでいいや。
さて、今日は朝からそれなりに大きな事件が。休日だからいつも通りおこちゃまとヒモクズが寝こけているな……と思っていたら、クラスルームにフィルラドが血相変えてやってきた。また化け物でも出たのかと身構えたら、『なんかポポルのやつがぐったりしていて……!』とのこと。マジかよ。
慌てて奴らの部屋に行ってみる。フィルラドの言った通り、ポポルが赤い顔してぐったり。汗が尋常じゃないし、病人特有の匂いがぷんぷん。
試しにおでこを触ってみる。めっちゃ熱い。
『どどど、どうしよう……!?』ってフィルラドが慌てまくっていたので、とりあえずドクター・チートフルを呼ぶように指示。『な、なんかあったの……!?』ってパレッタちゃんもおどおどしていたので、飲み水とタオルを持ってくるように指示。『て、手伝えることってある……?』ってロザリィちゃんが今日も可愛かったので、一応ステラ先生に報告をお願いしておいた。
で、ポポルに『大丈夫か?』って聞いてみる。あいつ、ぜえぜえしながら『これが……大丈夫に見えんのか……?』ってガンつけてきやがった。どうやらあいつ、風邪をひくと気が弱るタイプではなく、逆に攻撃的になるタイプらしい。実におこちゃまらしいと言えよう。
どうせまた腹モロ出しで毛布をうっちゃらかして寝ていたのだろう。ちょうどパレッタちゃんが戻ってきたので、水を飲ませてやったうえで氷水でキンキンに冷やしたタオルをおでこに乗っけてやる。『見せもんじゃねーぞ……!』ってあいつは心配して様子を見に来たクラスメイトみんなにガンつけまくっていた。怖い。
そんなこんなをしていたところ、ドクター・チートフルとステラ先生が到着。『だ、大丈夫っ!?』ってステラ先生は自分のことのように心配してすごい勢いでやってきた。そんなステラ先生も最高だと思った。
肝心のチートフルの診断だけれども、『典型的な風邪だね。ここ数日でかなり冷え込みが激しくなったし、もしかしたら日々の勉強の夜更かしとかで体も弱っていたのかもしれない。とはいえ、温かくして栄養を取って、ゆっくり休めばすぐによくなるよ』とのこと。夜更かしの理由はきっと勉強じゃないだろうけど、とりあえず頷いておいた。
『既に対処はきちんとできているし……薬を処方するくらいで、私からやれることはないかな。あとはもう、普通の病人扱いをしてあげなさい』って言ってチートフルは去っていく。保健室には普通じゃない病人やケガ人でいっぱいらしい。『久しぶりに、まともな意味で医者として仕事をした気がするよ……』ってチートフルはなんか穏やかな笑みを浮かべていたっけ。
ともあれそんな感じでポポルの処遇が決まる。当然のことながら今日は絶対安静でずっとベッド。ポポルの世話係にはなぜか俺とパレッタちゃん、そして責任者としてステラ先生が着くことに。『みんなも心配だろうけど、下手に騒がしくするといけないからここは先生たちに任せてね!』ってステラ先生がみんなを部屋の外に追い出していたっけ。
追い出した後、とりあえず奴の肌着を変えておく。『ごめんね、ちょっとだけ頑張ってね』ってステラ先生が泣きそうにながらポポルの服を脱がしていた。ポポルは終始不機嫌そう。羨ましいことされているのにあんな顔しているなんて、あいつ元気になったら覚えてろ。
服を脱がせ終わった後はパレッタちゃんが汗を拭いていく。『だいじょぶ、きっとすぐに良くなるから……だってポポルには、ヴィヴィディナの加護がついているもん』ってよくわからんことも言っていた。ポポルはポポルでむすっとしたまま、その言葉に反応すらしない。
一応書いておこう。奴のパンツは俺が換えた。さすがにそれはステラ先生たちには任せられない。
さっぱりしたところで寝かしつける。一応薬を飲ませたからか、朝方に比べればいくらか顔色が良くなっているように思えなくもない。ただ、おでこをこつんってしたステラ先生は『……やっぱり、まだ全然下がってない』ってコメント。
とりあえずそのまま、三人で部屋に残りつつポポルの様子を伺う。あいつは時折『水』って言葉を言うだけで、なんか寝付けないっぽい。何度か部屋の換気をしてやったりしたんだけどそれも効果なし。暑くて寒いという風邪特有のよくわからん状態になっているらしく、ちょっと目を離すと毛布を蹴飛ばす癖に、『……寒い!』って文句を言ったり。
ステラ先生が思わずびくっ! ってなるくらいには、あいつはイライラしていた。パレッタちゃんは普通に『そうだね、寒いね』ってポポルの手を握っていてあげてたけどね。
昼も近くなってきたので、『なんか食べたいものあるか?』って聞いてみる。『……いつものリンゴ』ってあいつは言った。『……グリフィンじゃなきゃやだ』とも。まったく、おこちゃまはオーダーが多いから困るぜ。
そんなわけでさっそく俺の畑に。なんだかんだで来るのはめっちゃ久しぶり。一年生の時はどうして上級生が畑を使っていないのか不思議に思っていたけれども、今なら【単純に畑に気を割くほどの余裕が無いから】ってのがよくわかる。マジで休みが無いくらいに忙しいし、休みができても畑に行く余力がないしね。
畑にはいつも通り(?)エイラがいた。俺の姿を見るなり『どうして……どうして来てくれなかったの……!? お友達、出荷できないじゃない……!』って泣きついてきやがった。どうもここしばらくずっと、いつ俺が畑に来るかと友達の出荷準備をきちんと整えて待っていたらしい。こいつの拗らせ方も相当だと思った。
とはいえ、今日はエイラにかまっている暇はない。季節はずれにもなんとか残っていた俺のリンゴをすべて回収し、『この畑お前に預けるから好きに使っていいぞ。あと、たまにはクラスの友達とも友好を育んでおけ』ってアドヴァイスして早々に立ち去る。俺ってばマジ後輩思いじゃね?
ポポルの昼飯はリンゴ。奴のお望み通りグリフィンさんにして食わせてやった……のはいいんだけど、あいつろくにそれを見ずに食いやがった。しかも俺が剥いてやったグリフィンさんなのに、あいつは俺はおろか食わせてやったパレッタちゃんにも礼の一つも言わない。ぽんぽんがいっぱいになった途端にぴーぴー寝息を立てて寝やがった。これだからおこちゃまは……。
『ごめんね、先生もたまに練習してはいるんだけど、まだ全然グリフィンさんにはできなくて……』って申し訳なさそうにしていたので、『先生ができなくても僕ができるので大丈夫ですよ』って微笑んでおく。『……頼りにしてるね』って頭をぽんぽんされた。思っていたのとなんかちょっと違うけど、別にいいか。
あ、そうそう。薬を飲み忘れたと思ったんだけど、気づいた時にはパレッタちゃんが『もう飲ませた』って自らの口元を拭いながら言っていた。いったいどうやって飲ませたのか、ちょっと気になるところだ。
午後はそのまま静かに過ごす。途中何度かポポルが起きて水を要求したほか、トイレに連れて行ったくらいだろうか。フィルラドほか数名にポポルの容体を聞かれたので、『今は寝てるけど、まだ熱は下がっていない』って告げておく。みんな心配してたけれども、『不機嫌になって悪態をつく程度の余裕はあるぞ』って言ったら、『奴の気力を持たせるために、いつも通り悪態つかれまくってくれ』って頼まれた。どういう意味だろうか。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ポポルは食堂に行くことは叶わなかったので、俺特製の卵粥を食わせてやった。デザートにはやっぱり俺特製のアルジーロオレンジの果肉がたっぷり入ったゼリーも。『す、すごい手際だね……!?』ってステラ先生に褒めてもらえてうれしかった。
『材料さえあれば、ゼリーを作るのは簡単ですよ』ってステラ先生とパレッタちゃんにもゼリーを振舞う。パレッタちゃん、ポポルにゼリーを食べさせるばかりで自分のには全然手を付けていなかったけどな!
風呂もポポルはダメだったので、朝同様に汗だけ拭いて着替えさせた。ついでにパレッタちゃんが『お願い、ヴィヴィディナ』って洗剤代わりにヴィヴィディナをポポルの全身に這い廻らせていた。きっとヴィヴィディナが病魔をすべて喰らいつくしてくれたことだろう。ゼリーにも少し混ぜておけばもっと効果があったかもしれない。
この日記はポポルの机で書いている。夜中に何かあった時のためである。ホントは俺&ステラ先生だけが待機する予定だったのに、パレッタちゃんがどうしてもと聞かなかったのでパレッタちゃんも一緒。二人はフィルラドのベッドでスヤスヤ。
ステラ先生、途中まで俺が日記を書くのを見ていたっぽいんだけど、なんか耐え切れずに寝ちゃったみたい。『書き終わったら見せてもらうかな?』ってもにょもにょ言ってたんだけど、気づけば安らかな寝息を立てていたんだよね。
フィルラドは俺のベッドで寝ているはず……だけれど、奴の安否が心配でならない。一応二回目だから、奴もそれなりにギルの使い勝手はわかっているだろうし、去年に比べて耐性もついているだろうけれども……。
まぁいい。今晩はこのままポポルの鉱石コレクションでも漁りながら時間を潰そう。けっこうレアもの(?)もいっぱいあってなかなか見ていて面白い。さすがに一晩時間を潰すのは無理だろうけど、適当に机とか漁ればいいや……なんであいつ、引き出しの隅にこんなにセミの抜け殻ため込んでんだ?
ギルの鼻には……いや、ギルはここにはいない。ちょううっかり。ステラ先生の寝顔を最後に一目見て、ポポルの快復を心から祈る──この言葉をもって、今日の日記の締めとさせていただく。