243日目 創成魔法設計演習:材料選定
243日目
何もない……と思ったら、トイレにヤバそげな蟲がいっぱい。そのまままとめて流しておいた。
ギルを起こして食堂へ。今日も今日とて使い魔どもが暖炉のあったかいところを占拠しているな……と思ったら、その中にシャンテちゃんが混じっているのを発見。うちのグッドビールとティキータのところのメリィちゃんを両腕に抱き寄せ、頭にアエルノのところのブチちゃんを乗っけている。
『はぁ……使い魔って人と違って無邪気でいいね……』って死んだ顔で呟いていたけれど、何か嫌なことでもあったのだろうか。シャンテちゃんが第二のミーシャちゃんにならないことを祈るばかりだ。
朝食にて一口ウィンナーパンを食す。親指くらいの小さなウィンナーで作ったホットドッグ的な奴ね。何気にウィンナーが種類豊富で、辛口のものもあればバジルが効いたものも……もちろん、ノーマルな奴もある。いろんな味が楽しめてなかなかデリシャスだったと言えよう。
うちのちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って美味そうに食ってた。『あーん♪』の構えを終始崩さず、常に口いっぱいにほおばっていたように思う。
ただ、辛口のが出た時だけ尾っぽで俺のことをピシパシ叩いて、逆に『きゅーっ!』って俺の口にそれを『あーん♪』してきやがった。あいつはご主人様のことを何だと思っているのだろうか。
ギルはやっぱり今日もジャガイモ。『うめえうめえ!』ってそれはもう美味しそう。普通の人じゃ絶対に一口で入らないそれもあいつは一口で食っている。『喉、詰まらすなよ』ってしなくてもいい心配をしてあげるあたり、アルテアちゃんは優しいと思った。
今日の授業は我らが女神ステラ先生による創成魔法設計演習。『なんか最近、風が強かったり暗かったりでちょっと怖いよねー』って言いつつ、ついつい杖をコンコンしながら出欠を取るステラ先生が最高にプリティ。『夜遅くとか、遠くで雷がゴロゴロしてたり……ちょっと気になっちゃうよね』とも。
『そういうときは、ぜひ添い寝させてください』って言ったら、『お前マジふざけんな』、『先生は私たちと寝るの』、『ピクシーの前にわざわざ飴玉を差し出すバカがどこにいる?』って男女問わずルマルマの全員から盛大なケツビンタを喰らった。みんな酷い。
肝心のステラ先生だけれども、『そそそ、そーゆーのはロザリィちゃんに言ってあげることっ! オトナをからかっちゃいけないっていっつもいってるでしょっ!』って真っ赤になりながら『めっ!』ってしてくれた。もっとやってほしかった。
授業内容だけれども、前回までに寸法や出力の計算なんかを(一応)終わらせたため、今回はより現実的な問題……材料選定を行うことに。
『材料選定から設計するか、目標値から設計するか……時と場合によって違うけど、今回はあくまで【欲しい要求を満たす】のを第一優先として、それを達成できる条件にしてほしいな』ってステラ先生。正直そこまで考えていなかったけど、結果として問題なかったのだからよしとしておこう。実際の現場でも、目標値や要求仕様から設計することがほとんどだって話だし。
とりあえず、一般的な例として……教科書の例題でもよく見る魔法鋼を選定してみる。一口に魔法鋼って言っても結構種類があって、微妙に中の魔素の配分が異なっていたり、魔力強度区分が違っていたりとバリエーションが豊か。
強度的には問題なさそげだったので、『これにするの!』ってミーシャちゃんが元気よく宣言。俺チェックも通ったし、ルンルン気分で計算書にそれを書こう……として。
『この寸法でそれを使ったら、ギルくんでもないとまともに取りまわせないかな』ってノエルノ先輩に突っ込まれた。ちくしょう。
『基本的に、強度がある魔法材料って重いことが多いしね……教科書に載ってる例を使うって言うのは良い考えだけど、教科書の例題はこういう手軽な魔道具じゃなかったでしょ?』ってノエルノ先輩はミーシャちゃんを優しく諭す。
また、『材料選びにもコンセプトが必要なんだけど』って前置きしたうえで、『ちょっと聞くけど、キミたちが作っているこの髪を乾かす魔道具は、特注品なのかな? それとも、世間一般にある程度広めるつもり?』って聞いてきた。
『そりゃあもちろん、ガンガン作ってガンガン売るの! 大儲けでうっはうはなの!』ってミーシャちゃんは胸を張る。『最初のアイディアは俺たちが出したわけだから、ブランド化して独占すれば働かなくても金が入る……!』ってフィルラドもヤバい笑顔。『やっぱり、女の子にとって便利なものは広めたほうが絶対に良いし……!』ってロザリィちゃんだけはピュアっピュア。さすが。可愛い。
しかしながら、それを聞いたノエルノ先輩は悲しそうに笑う。『……だとしたら、陣造方法は流造にするべきだね。そうでないとコストがかさみすぎる。そして、この魔法鋼は流造には向かない材料だ』って容赦ないダメ出しが。みんなの顔が一気に固まったよね。
その上さらに、通りすがりのキイラム先輩が『量産品で陣造方法は流造……なのにお前ら、この構造は流造を想定してないじゃん。この図面だと便所紙行きだぞ』とまで付け加えてきた。泣きそう。
言われてみれば、一年生のころにシューン先生の陣造方法の授業でそんなようなことを聞いた気がするし、何よりシキラ先生の授業でも流造か裂造かで細部の形状が変わるってことを教わった。こんなギリギリになるまで思い出せなかった自分が恨めしい。
もちろん、言われっぱなしでそのままな俺たちじゃない。『じゃあ特注品にするの! 想定する顧客は召使がいっぱいいる貴族で、力持ちの使用人に持たせて使うの! だから重くてもいいの!』ってミーシャちゃんが反撃。確かに酷く限定的な条件とは言え、これなら今のままでも問題ない……と思ったら。
『物理的にも魔法的にもこれ裂造できねえな。魔法刃入らねえもん』、『あー……ここのところ、流造なら作れる形だけど、裂造で魔法刃を使って陣造するとなると……どうしても干渉しちゃって出来ないね』ってキイラム先輩からもノエルノ先輩からも言われてしまった。ちくしょう。
『むきぃぃぃぃっ!』ってミーシャちゃんは地団駄。『えっ……設計やり直し?』ってフィルラドは絶望。『……ちょっと正気保たせて』ってロザリィちゃんは俺に抱き着いてすーはーすーはーくんかくんか。わぁい。
とはいえ、さすがに今更設計変更は面倒なので、なんとかならないか魔法便覧を洗い直す。が、どうにもいいものが見つからない。陣造方法のページを見ても、一般的な魔法材料のページを見ても、俺たちが抱える問題を解決する糸口になるようなものはなかった。
こりゃあいよいよもってヤバいかも……って思ったところで救いの手が。『実は、図書館から参考になりそうな本をいくつか持ってきちゃいましたっ!』ってわが女神ステラ先生がぽんぽんと背中を叩いてくれた。見れば、教卓の方になんかそれっぽい本がいっぱいある。さすがステラ先生。
んで、そこをさらに調べてみたら、マジックレジンなる材料を発見。比較的最近使われ出した材料で、軽量である他いろんな形に形成することもできるのだとか。もちろん流造のそれでも対応できるし、そこからさらに裂造する……なんてことも可能。
今更だけど、シューン先生の授業でチラッとやった魔光造形法にも使われるやつらしい。上手く使えば、裂造や流造では不可能な複雑構造にも対応できるとか。
もはやこれが答えだろう、これで行くしかない──と、意気揚々と結果を伝えにみんなのところへ戻る。
そして、キイラムに言われた。
『それ、クソ高いんだけど。材料自体もそうだし、普通の流造じゃないから加工賃もヤバい。原価だけで銀貨数枚行くんじゃね』とのこと。もうどうすりゃいいんだよ。
さらに言えば、『あー……それ、魔度や熱に弱くてね……。普通に使えば強度は足りるだろうけど、キミたちの場合だと……』ってノエルノ先輩にまで言われてしまう。半泣きのミーシャちゃんは、『高くてもあたしが買うもん! すぐに壊れてもまた買うからいいもん!』ってずっと叫んでいたよ。
結局、もうどうしようもないので流造前提のそれに図面を直すことで最終的な対応とした。『考えるのはみんなの仕事。体を使うのは俺の仕事だぜ!』ってギルがめっちゃすごい勢いで図面を仕上げてくれたから、そう言った意味ではなんとかなったけど……。
まさか材料一つでここまで苦労するとは。結局あの後もいろいろ検討したんだけど、軽くて丈夫で安い材料なんて見つからず、未だに何も決まってないんだよね。
ちくしょう。『既製品の方が安い』、『そんなにコストかかったら利益でない』って言われてもどうしようもないっていう。こっちはあくまで魔道具の設計をしているんだから。売るのは経営者や営業の仕事だろうに。
そもそも、魔法材料の時価を調べることがすでにかなり面倒。あんなのその街のギルド次第で結構変わるし……あれか? そういう意味で今のうちに内部に伝手を作っておけってことなのか?
まさか、軽くて強くて取り扱いのしやすい材料が一気に入ってくることなんてないだろうし……逆に、普通に出回っている魔道具がどうやって利益を出しているのか、すんげえ気になってくるんですけど。基本的にバカ高いとはいえ、大体の冒険者は持ってるやつもあるわけだし……。
なんだかんだで、他の班も俺たちと同じようにダメ出しを喰らいまくっていた。やっぱりみんな、設計計算的には問題ないんだけど、陣造方法やコストの面で突っ込みどころがあったらしい。
『今まで机上の問題しか扱ってなかったから……! ここを乗り越えられれば魔系として一歩成長できるから、みんな挫けず頑張って……!』って自身もつらそうにしながら皆を励ますステラ先生が最高に可愛かったです。
授業の終わりにて、ノエルノ先輩に『この前はありがとね! お菓子、とってもおいしかったよ!』って声をかけられた。当初の予定とは異なり、魔材研が乱入してきた事でお菓子の取り分は減ったものの、結果的にはいろいろ飲み食いできた楽しい宴会になったのだとか。
『今のうちに、クリスマスのケーキも予約したいんだけど……いいかな?』って聞かれたので、『それはこれからのこの授業の進捗次第ですね』って答えておく。『全力でサポートするわ』ってなぜかキイラム先輩の方が答えてきた。ちゃっかりしてやがる。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。やっぱりみんな、今日の授業が堪えたのか顔は全体的に暗い。クーラスなんかは『ちょっとガチで図書館行かないと……いや、その前に一年の教科書の読み直しか……』って平然としていたけれど、女子の中には『私、もう魔系無理かも……』、『三年生になれたとしても、そこで続けられる自信がない……』って泣きそうな人も。
そういう時に、さっと抱きしめて慰められればクーラスにもジオルドにもすぐに彼女ができると思うんだけど。ジオルドなんてあいつ、暖炉の前でグッドビールと『よーしよしよしよし!』って現実逃避気味に戯れていたからね。
ギルは今日も腹だして大きなイビキをかいてぐっすりと寝ている。なんか今晩は妙に冷え込みが激しいので、俺もしっかり毛布を掛けておくとしよう。
ギルの鼻にはロリポップの棒でも詰めておく。ミーシャちゃんが雑談時にやけ食いしてた奴ね。なぜかパレッタちゃんが回収して俺に渡してきたんだけど、つまりそういうことだろう。おやすみ。