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24日目 危険魔法生物学:ソルカウダの生態について(黎襲による臨時授業)

24日目


 なーんかいつもより空が暗い……ような?



 クソ疲れた。いやまぁ、元気っちゃ元気なんだけど。ともかく、今日という濃密な一日を順を追って振り返ってみようと思う。


 ギルを起こし、レポートを提出するためにみんなで学生部へ。寝起きに感じたそれは間違いではなかったらしく、なんかやたらと空が暗い。


 『曇ってるにしたって暗すぎじゃない?』、『冬のこの時間でももうちょっと明るいような……』、『太陽の光の色がなんかおかしくないか?』などと、みんながその不気味さを語っていた。


 で、学生部に到着。さっさとレポートを提出してピアナ先生との歓談タイムを楽しもう……と思ったところ、『全員注目っ! 今日は全クラス臨時授業として危険魔法生物学をやるからねっ! みんな今すぐ朝食を食べていつもの場所に集合するようにっ!』との天使の声がかかった。


 しかも、『ぼさっとしてねえでさっさと動けよな!』、『レポート? んなもんどうでもいい! さっさと準備しろっ!』って上級生もなんか様子がおかしい。いつもはレポートを仕分けたりしているのに、今日に限って適当に集めて適当に箱にぶちこんでいた。


 さすがにこれには唖然。ルマルマもティキータ・ティキータもバルトラムイスもアエルノチュッチュの連中も、驚きを隠せないでいた。


 なんだろうね、妙にテンションが上がっているというか、非日常な状況に興奮しているというか……ピアナ先生はすごく慌ただしそうにしていたけれど、上級生はみんな悪戯を企てるシキラ先生みたいな顔をしていたんだよね。


 とりあえず、キイラムに何があるのか聞いてみる。『人類の危機だ。マジで国が滅びかねない』ってすんげえ笑顔で言われた。


 しかも、その上で『こんな祭り滅多にねえぞ! 存分に暴れようぜ!』とも言われる。ロリコンって拗らせるとこうなってしまうのかと実感した瞬間だ。


 ともあれ、二年生全員が早々に食堂へと赴き、おばちゃんがちょっぱやで大量に準備したサンドイッチを頬張る&持たされる。そして、『今日は気張りなよ! ここで食べてないで持てるだけ持って現地に行きな!』っておばちゃんに食堂から締め出された。『なにこれすっごくこわい』ってシャンテちゃんが言っていたのが印象的。


 で、サンドイッチを口にくわえつついつもの場所へ向かう。『さっさと走れ走れ!』、『間に合わなくなっても知らねーよ!』って上級生もサンドイッチをくわえて俺たちと並走する。


 走るリズムに合わせて『きゅぷっ、きゅぷっ!』ってちゃっぴぃの食べかすが面前に振ってきてたいそう鬱陶しかった。人の頭でサンドイッチを食べるとか、あいつの躾はどうなっているのだろう。親の顔が見てみたいものだ。


 そんなこんなで授業開始にはかなり早い時間にいつもの場所に到着。驚くべきことに、すでにかなりの数の先生が集まっていた。グレイベル先生、ピアナ先生、我らがルマルマの女神ステラ先生、シキラ先生、キート先生、シューン先生、アラヒム先生……と、俺が見た限りではこのメンツ。もちろんキイラムやノエルノ先輩と言ったティーチングアシスタントを含めた上級生(完全に知らない人もいた)もいたし、元気にカサカサと動き回るルンルンもいた。


 はっきり言って異常。なんで実験以上に人が動員されているのか。おまけに二年生全員があのスペースにいるものだから人口密度が凄まじい。ここまでガチなメンツが揃ったことって今までにあんまりなくない?


 なぜか暗い空。ガチ過ぎるメンツ&ウィルアロンティカの二年生全員の集合。先生や上級生は妙にテンションが高くてウキウキしていて(一部例外を除く)、そして俺たちはこの妙な雰囲気に戸惑いを隠せないでいる。何か大いなる出来事が起きる予感がひしひし。


 例えるなら、ずっと楽しみにしていた長編の演劇が始まる直前……とでも言えばいいだろうか。ともかく、そんな感じの雰囲気が伝わってくれればいい。


 そして、唐突にそれは始まった。


 『…来たぞッ!』ってグレイベル先生が吠える。雲がさあっと消えて、ずっと隠れていた太陽が姿を現した。


 なぜか太陽、緑色に輝いていた。


 おまけにいつもと形が違う。少しばかり周りがざわめき、『何あれ……お馬の尾っぽ?』、『どっちかっていうと箒じゃない?』、『ルマルマの化け物の触手みたいじゃないかしら?』……みたいな声がちらほらと聞こえた。


 信じられないことに、太陽に馬の尾のようなものが生えていた。


 パッと見た限りでは細い管状のものが無数に連なっているようで、裸眼で視認できるくらいには長い。太陽と同じく緑色っぽい感じであり、太陽の炎でそのまま形作られているような印象を受ける。


 で、その尾がそのままこっちに向かって伸びてきていたんだよね。それも、けっこうなスピードで。


 明らかにヤバそげな雰囲気。どう見たってあの尾(触手?)がまともなものであるはずがない。俺たち全員が杖を構えて迎撃態勢をとる。


 尾の数は控えめに言っても千本以上。近づくにつれてそれが意外と疎であり、見た目よりかは密集していないことに気付く。とはいえ元の数が数だから脅威であることには変わりなく、ついでにまるで獲物を探しているかのようにキョロキョロ(?)とその先端を動かしていることが判明。こいつぁヤバい。


 そんなヤバそげな尾が迫る中、『…今日の臨時授業はこいつ──ソルカウダを扱う。喜べ、四年ぶりの黎襲だ』、『すっごくすっごく危ない奴だから! 今のうちに特徴を頭に叩き込んでおいてねっ!』……と、いつも通りに解説が始まった。


 以下に、頭の中に叩き込んだソルカウダの特徴を記す。メモが取れなかった故にちょっと違うところがあるかもだけど、大きく間違ってはいないはずだ。



・ソルカウダは異次元に潜む魔物とも、太陽が司る魔物とも言われている。一応は魔法生物に分類されるものの、その生態はわかっていないことも多く、むしろ突発的な危険災害、自然現象としての側面が強い。


・ソルカウダは太陽から馬の尾のような形態をもって大地に飛来してくる。太陽から生えている様に見えるものの厳密には違うらしく、ソルカウダはあくまで管状の魔法生物の集合体である。


・ソルカウダは大地へと飛来し、人間の魂、正確には魔力や生命力を吸収する。基本的には老人や子供よりも若者、一般の人間よりかも魔法使い、すなわち吸収する糧の多い人間を狙う傾向がある。半気体、半固体とも言える実体であり実体でない存在であるため、触ると手応えがあるものの、壁等の障害物もすり抜けることが出来る。


・ソルカウダの先端に貫かれると魂(広義での生命力や魔力)を吸収される。このとき、上記の特性より外傷は負わないが、吸収スピードは非常に早いため、放っておくと生気を吸いつくされ、干乾びて死ぬことになる。ソルカウダにやられた死体は風化し、痕跡を残さず崩れ去るため、被害者の同定が困難となることがしばしばある。


・ソルカウダは魔法や物理的手段を用いて断ち切ることで、撃退できることが知られている。ただし、上述の通りソルカウダは未だ判明していない奇妙な形態をとっているため、撃退方法にはある程度の制限がある。具体的には魔力に因る魔法攻撃、および生命力に因る物理攻撃──すなわち直接手に取った剣や槍、(現実的であるかどうかは別として)拳による攻撃のみがソルカウダに有効打を与えることが出来る。弓矢やスリングショットと言った飛び道具は通用しないことが知られており、これはソルカウダの干渉の範囲外、すなわち武器そのものに生命力が通っていないからだと考えられている。


・上述の通り、ソルカウダは生命力や魔力の通った攻撃をすることで断ち切ることが出来るが、太陽が出ている限り再生するため、厳密な意味で止めを刺すことは現在のところ不可能である。また、断ち切ったソルカウダはすぐに霧散するため、解剖結果等も報告されていない。


・以上の特性より、単独でソルカウダに襲われた場合、生還するのはかなり難しいとされている。一度でも先端につかまって魂の吸収フェイズに入れば、自力での解放は困難を極める。場合によるものの、ソルカウダ一体(一本の尾)に通常の魔法使いが襲われた場合、吸収開始後三分程度で動くことも魔法で反撃することもできなくなるとされている。


・ソルカウダが活動をするのは太陽が出ている間、すなわち日中のみである。その勢力は正午にピークに達し、夜明け後、夕暮れ時は比較的弱まることが知られている。


・ソルカウダによる襲撃はその危険性及び特別な意味から、【黎襲れいしゅう】と呼ばれている。


・ソルカウダが吸収している最中の魂は途中で奪うことが出来る。この吸収途中で奪った魂は【ソルオイル】と呼ばれている。


・ソルカウダが吸収した魂は太陽に送られているらしいということがわかっている。そのため、太陽の輝きは魂(魔力や生命力)が元になっており、黎襲は太陽が輝き続けるための捕食活動であるという説もあるが、推測の域を出ていない。


・ソルカウダは人間しか襲わないことが知られている。


・放っておくとたぶん人類が滅びる。



 先生の説明が終わるか終わらないかの内にはソルカウダが襲撃……黎襲れいしゅうしてきた。目の前が緑に輝く尾っぽでいっぱいで、触手的なそれらが俺たちに容赦なく突き刺さろうとしてくる。


 うん、ぶっちゃけそのあまりの迫力のせいで、最後の方の説明なんてみんな聞いちゃいなかった。『き、きゃああああ!?』って女子の誰かがパニックになってぶっ放した魔法を皮切りに、あちこちで杖から魔法がぶっ放される。


 火炎魔法が面前に迫ったソルカウダを焼く。ブスブスとそいつは焦げ、途中で千切れてぺたりと落ちる……も、すぐに霧散。根元の方は再生して俺たちに突き刺さろうと元気よく迫ってきた。


 『しゃらくせえッ!』ってラフォイドルが暗黒魔法で再生したソルカウダを叩き潰す。『これはちょっと本気を出さないと……!』ってシャンテちゃんが精霊魔法で雷精、炎精、氷精を呼び出した。『落ち着けお前ら! 適当に動いてたらそれこそ死ぬぞ!』ってゼクトが走り回って付与魔法をかけていた。


 ヤバかったよね、もう。乱戦と言うか、戦場そのものだったよ。百人以上いる二年生がソルカウダと入り乱れて戦っていて、もはやだれがどこにいるのかも、自分がどこにいるのかもわからない。


 しかもソルカウダは無数に蠢いている。おまけに音も無く飛んでいるものだから、どこから襲われるかわかったものじゃない。常に動き回ってなきゃ後ろからぶっすり刺される……というか実際そうやって刺されている奴が何人もいた。


 人に刺さったソルカウダ。魂を吸い取っているのだろうか、緑銀のそれが血管のように脈動し、中でオレンジ色に輝くそれが吸い上げられているのが見える。ビクンビクンって動いていてたいそう不気味。『ひッ……!』って何人かの女子が悲鳴を上げていた。


 『誰かサポートに回ってくれッ!』ってゼクトが言うので、ルマルマがその言葉に従うことに。『おららららっ!』ってポポルが広角発射した連射魔法でソルカウダを牽制し、アルテアちゃんが射撃魔法で吸収フェイズに入っているソルカウダをピンポイントスナイプ。フィルラドは召喚魔法で魔物を大量召喚し、吸収フェイズに入られた味方を知らせたり助けたりしていた。


 で、そのフィルラドが『思った以上に消耗がヤバいぞ!』って慌てたように言ってくる。バルトの男子がフィルラドが召喚したオーガに担がれてやってきたんだけど、ほんの十秒程度吸収されただけですっかり足腰が立たなくなったらしい。


 件の男子、『あいつら……吸収されて動けないやつに……群がってきやがる……ッ!』って息も絶え絶えに言っていた。それを証明するかのように、『い、いや、いややああああッ!?』ってティキータの女子の悲鳴。一匹がその子の背中に突き刺さったかと思いきや、近くにいた五、六本が一瞬にしてその子に群がった。


 『滅せよヴィヴィディナッ!』ってパレッタちゃんが浸食呪とヴィヴィディナの多重呪で助けに入ったけど、救出した女子を見て『お肌かさかさマジやばい。世界崩壊の危機かも』ってコメントしていた。


 どうやら思った以上にこいつはヤバいらしい。あちこちで爆音だの衝撃だのがあがっていたけど、倒しても倒してもキリがないし、これが日が沈むまで続くとなると気が滅入ってくる。


 途中、ジオルドが『ヤバい奴はここに逃げ込め!』って具現魔法で堕落神の怠惰殿を構築。余力のあるメンツがさらに土魔法の橋頭保でガチガチに固め、簡易避難所を構成した。


 しかし、『野郎、すり抜けてきやがったッ!』、『土魔法はダメだ、土そのものに魔力がない!』って悲鳴が。どうやらソルカウダ、気体的な挙動を取って壁をすり抜けてきたらしい。こいつぁヤバい。


 で、クーラスが広域罠魔法陣を展開。怠惰殿に触れたソルカウダは罠魔法により消し炭となり、怠惰殿の門をくぐろうとしたソルカウダは一瞬でミンチになる。でも、すぐさま再生されるそれを見てクーラスは『イタチごっこだ! 元を絶たなきゃすぐにダメになる!』って悲鳴を上げていた。


 もちろん、俺はロザリィちゃんと背中合わせになってソルカウダを撃退しまくる。言葉も交わさずに愛のキスを交わし、愛魔法込みの吸収魔法で逆にソルカウダの魔力を吸収しまくった。俺の魔法、こういう乱戦や持久戦での使い勝手が良いんだよね。


 ただ、ロザリィちゃんはそうもいかない。正午に近づき、ソルカウダの勢いがどんどん強くなる最中、『ふうっ……! ふうっ……!』って明らかに息が乱れてきた。『少し休んだ方がいい』って提案するも、『だめ……──くんの背中が空いちゃうし、避難所ももう一杯……』って断られる。


 『俺にはギルがいるから大丈夫だよ』って優しく微笑み、ギルを呼び込む。あいつはこの乱戦の最中、『ちょれえちょれえ!』ってソルカウダを拳でずっと叩きのめしまくっていたんだよね。殴っても殴っても再生する遊びがいのある相手だからか、あいつすんごく楽しそうだったよ。


 で、俺とギルでロザリィちゃんを護るような形で囲み、中央に陣取ってソルカウダの撃退を続ける。


 今思えば、これがちょっと失敗だった。


 いい加減撃退したソルカウダの数を数えるのも面倒になったころ、『みぎゃーっ!?』って聞き覚えのある悲鳴が。


 ミーシャちゃんがその体をソルカウダに貫かれていた。しかも、周りには負傷者しかいない。


 どうやらミーシャちゃんは負傷者の近くに陣取り、クレイジーリボンを使ってソルカウダを捌いていたらしい。ただ、負傷者の増加によるソルカウダの集中により、とうとう捌き切れなくなってしまったらしかった。


 『くそっ!?』って慌ててギルが助けに行こうとするも、距離的に間に合わない上に俺たちの目の前にはロザリィちゃんを狙ったソルカウダが蠢いている。『ラフォイドル!』って声をかけても、『こっちも忙しいんだッ!』ってあいつは暗黒の渦でアエルノの負傷者を狙うソルカウダを一人で相手していた。シャンテちゃんも精霊の呼び過ぎで疲弊しているらしく、自分とバルトの負傷者を護るので手一杯。


 『間に合え!』ってゼクトがダッシュする。けれど、あいつの付与魔法は本来攻撃向けの魔法じゃない。『ライラ!』ってゼクトがライラちゃんに声をかけ、近くにいたライラちゃんに付与魔法をかけた。『いっけぇぇ──!』ってライラちゃんが収束強化された紅蓮魔法をぶっ放そうと──した、まさにその瞬間。


 『グルゥゥォォォァァァッ!!』ってでっかい銀色の狼が躍り出て、ミーシャちゃんを吸収しているソルカウダを思いっきり噛み千切った。


 断ち切れたソルカウダからキラキラと輝く雫が飛び散り、そして空中に消えていく。その銀狼はミーシャちゃんの首根っこをぱくっと噛むと、くいっと首を振り上げてそのフサフサの背中に乗せた。で、金の瞳で天を睨み、『オオオオオオオッ!!』って思いっきり吠える。


 その遠吠えで近くにいたソルカウダがまとめて吹っ飛んだ。すげえ。


 そして、銀狼は駆けた。魔法的な疾風を纏って戦場を走り抜け、すれ違ったソルカウダを真空の刃でズタボロにし、目の前にいるソルカウダを次々に噛み千切っていく。襲われている女の子がいればすぐさま駆けつけ、その鋭い銀の爪でソルカウダをズタズタに引き裂いていた。


 誇張じゃなく、あの銀狼が通った後はソルカウダが消え失せていた。


 しかもしかもあの銀狼、ソルカウダを足場に空中すら縦横無尽に駆けていた。あんなデカい体をしているのに、その動きは羽のように軽やか。なのに攻撃は牙で引き裂いたり爪でズタズタにしたりとたいそうワイルド。そのギャップが凄いし、たぶん牙や爪に魔法的な付与もされていたと思う。


 いやはや、マジでカッコよかった。冗談抜きにすげえカッコよかった。途中で目覚めたミーシャちゃんもその姿にすっかり興奮し、フサフサの背中にぎゅっと抱き付きながら『やっちまうの!』って声を上げていた。


 そして銀狼の勢いに続くかのように、ウィルアロンティカの反撃が始まった。


 まず、ノエルノ先輩が鏡魔法を多重構築。増幅鏡や吸収鏡を何枚も展開し、味方の攻撃魔法を受けて増幅&反射させまくる。流れ弾をばっちり受け止め反射させ、的確にソルカウダに叩きこむ姿がまさに計算通り! って感じでかっこいい。さらには、『本当はこういう使い方じゃないんだけどね……』って苦笑しながら鏡でソルカウダを輪切りにしまくる。『誰でもいいから回復魔法ちょうだい?』って回復魔法を増幅鏡で増幅させ、反射鏡と組み合わせて回復魔法を増幅反射し、負傷者の手当てすら行っていた。


 他の上級生もそんなかんじ。『そろそろ手ェだしてもいいよな?』、『これ以上は人命にかかわるもんね!』って各々が得意魔法でソルカウダの撃退&負傷者の救護に入る。俺たちが乱戦で結構苦戦したというのに、そのコンビネーションは完璧で隙の一つも見当たらない。『ひゃっはぁぁぁ! 祭りだぁぁぁ!』って騒いでいたのは、たぶん魔材研の人間だろう。


 もちろん、先生たちは上級生以上に凄まじかった。『おつかれさま! もう安心していいからね!』ってピアナ先生が植物魔法で夢花の楽園を構築。強固な防御結界であると同時に、とんでもない回復作用もある優れもの。ソルカウダに魂を吸収されかけた負傷者の肌ツヤがみるみるよくなっていく。


 『…久しぶりだ、暴れさせろ』ってグレイベル先生が大地魔法でラッビア・テラ・スコップを作成し、ソルカウダの大群に突っ込んでいく。いくら先生でも無茶だろって誰もが思っていたけれど、先生はスコップでソルカウダをメタメタのギタギタにし、鬼神の如き振る舞いを見せていた。『…俺の生徒に、手ェ出すんじゃねえ』ってスコップを振るえば、あちこちから大地が隆起してソルカウダを串刺しにし、土砂崩れ(?)が奴らを飲み込んでいく。マジかっけえ。


 シューン先生が『よーし、先生いいところいっぱい見せちゃうぞー!』ってインしたローブを解放。三連魔銃の二丁拳銃スタイルで魔弾をバカスカぶっぱなす。機敏に動き回ってソルカウダに弾丸を撃ちこみ、後ろを向いたまま不可避の魔弾でティキータの女子を助けていた。


 ……正直、最後の不可避の魔弾はちょっとカッコよかった。バク宙からの背面撃ちもカッコよかった。シューン先生なのに。


 アラヒム先生もすごかったよね。あの人グランウィザードとはいえ理論重視で実戦はあまり得意じゃないって自分で言ってたけど、『ふむふむ、今日はちょっと張り切りますか』って上機嫌に杖を振るっていた。いつになくテンションも高かったように思える。


 で、次の瞬間、目の前に蠢いていたソルカウダがまとめて焼け爛れた。『いやぁ、なかなか大漁ですね』ってアラヒム先生にっこにこ。さらに恐ろしいことに、アラヒム先生を襲おうと後ろから近付いてきたソルカウダが、その体に到達する前にチリチリに焦げて風化していく。


 アラヒム先生、熱魔法の達人らしい。近くにいたキート先生が『あの魔法、先生方でも喰らったらだいぶヤバいです』ってコメントしていた。燃えないモノでも概念的に燃やし尽くし、跡形も無くしてしまうのだとか。


 実際、アラヒム先生が適当に投げた小石があり得ないくらいの大爆発を起こしてソルカウダを粉微塵にしていた。『瞬間的に気化するレベルまで魔法的熱を与えたんでしょうねぇ……』ってキート先生は解析魔法を使いながら呟く。


 『キート先生は戦わないんですか?』って聞いてみたところ、『闘いたいのはやまやまなんですが、私とアレ、相性が凄く悪いんですよね。今回は他に先生がいますし、私は私の役目を果たすことにします』って先生は言っていた。そりゃまぁ、線の細いキート先生からしてみれば、生命力を吸いとるソルカウダは天敵か。


 さて、他の先生方が目覚ましい活躍しているのだから、グランウィザードであるステラ先生やシキラ先生も大活躍しているのだろうな……と思ったものの、なぜか二人はあんまり動いていない。


 それどころか、シキラ先生の目の前でステラ先生がソルカウダに吸収されていた。


 一瞬で血の気が引いた。思わず、『なにやってんですかッ! さっさと助けろよッ!』ってシキラ先生に怒鳴ったりもした。


 だけど、シキラ先生はニヤニヤしながら『こいつは実にマズい。非常事態ですなあ』なんてのんきに呟いていた。


 そしてステラ先生も、『きゃ、きゃあ。誰か助けてー』と苦笑いしながら棒読み。一体どういうこっちゃ。


 で、シキラ先生が『お待たせしました!』ってよくわからん魔法を使ってソルカウダを断ち切る。ソルカウダが霧散し、そして中に流れていたオレンジ色のなにか……ステラ先生の魂(生命力かつ魔力)であるそれがキラキラと周りに飛び散った。


 『おめえら一滴もこぼすんじゃねえぞ!』ってシキラ先生の号令と共に、周りに控えていた上級生がそれ……ソルオイルを瓶に詰めて回収していた。


 おまけに、『ひゃっはぁ! こいつは極上モノだぜ……!』、『ステラ先生、もう一回だけお願いします!』と、誰も危機感を覚えていないばかりか、ステラ先生さえ『あと三回くらいはいけるよ! 休憩挟んだらもっといけるから、今のうちにやるだけやっちゃお!』ってにこにこしている。


 よくよく見れば、周りでは似たような光景が広がっていた。シキラ先生が自ら『うわあ、助けてくれえ』ってソルカウダに襲われ、程よく魂を吸収されたところでキート先生が『遅くなって申し訳ありません、今すぐ助けますー』ってソルカウダを断ち切り、そのソルオイルをせっせと回収している。


 上級生同士も同じように『ひょええええ、怖いよおおお』って襲われる人と、『遅れてごめんね、今すぐ助けるよー』って助ける人に分かれてソルオイルを回収していた。


 『てめェらもっと襲われろよ! 安心しろ、ちゃんと助けてやるから!』、『死にはしないんだ、俺たちの研究のためにその命、削ってくれよ!』ってヤバい笑顔の上級生も多数。よくよく観察してみれば、連中は俺たちを助けているというよりかは、ソルオイルの回収に動いているかのようであった。


 結局、上級生と先生たちが本格的に動き出したこともあり、無事に夜を迎えることに成功する。夕日が地平線の向こうに沈んだまさにその瞬間、ソルカウダたちは幻だったかのように消え失せて、辺りには静けさだけが残った。


 ……最後の方は授業が終わった別の先生&上級生が『試料をよこせええええ!』、『こっちは卒論かかってんだよぉぉぉ!』って乱入したこともあり、二年生たちは何もすることなく、彼らの作業を見守るだけになっていた。


 『あんだけ苦戦して大変だったのに……』、『この学校はクレイジーしかいないのか……』ってシャンテちゃんとラフォイドルは疲れ切った顔でつぶやいていた。お前が言うなと思った俺を、どうか許してほしい。


 さて、全ての上級生たちが引き上げたのち、ソルオイルを大量に回収してホクホクな顔のステラ先生から、授業の締めとしてようやく事のあらましが説明された。


 人の魂を吸収している際のソルカウダを断ち切ることで吸収途中の魂そのもの……ソルオイルが回収できるってのは軽く触れられた通りだけれど、実はこれ、とんでもなく便利で希少な魔法物質らしい。


 『ソルオイルは太陽の万能薬とも言われていてね、一滴混ぜるだけでどんな魔法薬も効果が倍増するし、ちょっと舐めるだけで一週間は飲まず食わずで大丈夫だし、魂そのものだから病気にも怪我にも疲労にも効く優れものなんだよっ! 触媒としても最高だし、魔力の塊としても申し分ないし……! 正直、何に使っても最高の成果が得られる夢の材料なの!』……って、めっちゃうれしそうに語ってくれた。


 おまけに良質なソルオイルは摂取すればするほど永続的な魔力や生命力の強化も見込めるものだから、いろんな人が欲しがっているのだとか。


 ただし、これの入手はソルカウダが襲ってきたときだけ……すなわち黎襲のみに限られる。だから、入手したくても入手できないし、買おうにも値段が付けられるような代物じゃない。


 そして、その入手方法は【人を襲っているソルカウダを断ち切ること】。その材料は【人の魂】。もっと直接的に言えば、【人の命を削ることで作成する】ヤバい代物でもある。


 だから、『文句なしの禁制品かな。入手方法が非人道的過ぎるし、実際に昔、ソルオイルを【大量生産】していた国があって大きな問題になったんだよ』……ってステラ先生は悲しそうに言っていた。


 しかし、ここに来てシキラ先生が説明を引き継ぐ。『もちろん、ソルオイルの確保を目的として無理矢理魂を吸収させるのは重大な犯罪行為だけど、黎襲の撃退過程でたまたま(●●●●)採れたものはしょうがねえからな! 捨てるのはもったいないし、非人道的行為でもないから普通に使っていいんだぜ!』と嬉しそうに宣った。


 さすがにみんな唖然。いくらなんでも詭弁が過ぎる。ここにまともな人はいないのだろうか。


 一縷の希望を込めてグレイベル先生を見つめたところ、『…有効過ぎる材料であることは間違いないからな。研究用に出回っているのはそうやって偶然(●●)採れたものだ。これほど有効な魔法材料を理由もないのに捨てる事は出来ん。研究が進めば代替品が作れる可能性もある』と、明後日の方向を見ながら言われてしまう。


 まさか先生や上級生たちは、高価で使い勝手のいい材料のためだけに、笑いながら自らの命を削っていたというのだろうか。それも、一歩間違えれば死んじゃうくらいにヤバい異常事態だったのに。


 『あんた達って人は……』ってクーラスが呆れたように呟く。『こいつを飲んでもまだ同じことが言えるのか?』ってシキラ先生が採れたてホヤホヤのソルオイルをクーラスの口にぶち込んだ。『ンぐ……ッ!?』ってクーラスはむせ込む。


 が、次の瞬間、『……もっとください』って恍惚の表情を浮かべた。あいつマジヤバい。


 ともあれ、『今日失った生命力を回復しないといけないから!』ってステラ先生に言われたため、俺たちも飲んでみることに。


 これがもう、マジですごかった。一舐めした瞬間、体中に活力が満ちてビビった。疲れが一気に吹き飛んだし、魔力もあっという間に全回復。しかも微妙に活性化して強くなってる感もある。


 『……あっ、クセになる』、『普通に美味しい……っていうかもっと飲みたい……』、『一瞬で肌がツヤツヤになった……!』……と、女子からは大好評。男子もあっという間に飲み干して、すっかりソルオイルの虜になっていた。


 『人の生命そのものだからね! すっごく効くでしょー?』とはステラ先生の談。元来、生命そのものをこうやって物質化することは不可能だとされているんだけど、ソルオイルはそれが実現できた唯一の例なのだとか。


 ちなみに、『お前らが今飲んだの、ステラ先生から採れたソルオイルだぞ。年齢的にも魔力的にも文句なしの極上モノだ』とのこと。最高かよ。


 あと、『ちょ、ちょっと恥かしい……!』って照れるステラ先生が最高にプリティでした。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、週明けなのに珍しくステラ先生がクラスルームに遊びに来てくれた。ひゃっほう。


 どうしたのかと思ったら、『ソルカウダについて補足説明しておこうと思ったの! べ、別に先生たちはソルオイル欲しさにあんなことしてるわけじゃないからね?』とのこと。目が泳ぎまくっていて説得力がまるでなかったけど、そんな姿も最高に可愛かった。


 で、話が始まる。


『ソルカウダって弱っていた人や吸収されている人に群がってきていたでしょ? 実はね、ソルオイルにもソルカウダを引きつける性質があるの。あと、黎襲って必ず数年に一度、定期的に発生するんだけど……よく考えてみて? 先生たちは魔法使いだからよかったけど、もしあれが普通の街や村を襲ったら……』


 ここで、みんなの顔が一瞬で固まった。俺たちは魔系だからソルカウダに対抗できたけど、普通の人たちはあんなのに襲われたら一瞬で全滅する。剣や槍で抵抗することくらいは出来るかもしれないけど、みんなを護るのなんて絶対に不可能だ。


 よくよく考えなくても、黎襲はヤバい。今回はたまたまソルカウダに効果的な対抗手段を持つ俺たちが相手だったからよかったものの、それでさえ上級生たちがいなかったらかなりの損害を……下手したら死者が出ていたかもしれない。普通なら国一つが滅んでいてもおかしくないレベル。


 『だからね、ウチみたいな魔法学校は非公式でソルオイルを集めておくこと義務付けられているの。先生たちがソルオイルを集めているから、それを狙うソルカウダは街を襲わない。先生たちはソルカウダに襲われるけど、みんなの勉強もかねて撃退ができる。そうやってソルオイルを集めて……ちょびっとだけ、研究として気兼ねなく使わせてもらえる。……シキラ先生はああいってたけどね、本当は平和を守るためにしていることでもあるの。……絶対に世間には言えないけどね?』……そう言って、ステラ先生は優しそうにも、悲しそうにも見える顔で微笑んだ。


 聞けば、あくまで仮説ではあるものの、古代文明が滅びたのはソルカウダの黎襲のためであるという説があるのだとか。


 太陽は実は既存の生命体の定義から外れる生命体であり、エサ場となる星に命を繁栄させ、その中で最も繁栄している種の生命力、すなわち魂を黎襲によって吸収することで輝き続けているのだとか。


 ソルカウダが人間を積極的に襲う……人間しか襲わないのは、現在の生態系の頂点にいる人間だけを駆逐することで、次のエサとなる生命を繁栄させやすくするためだとか。


 いろいろ言われたけど、『先生たちの行動は平和のためだから! 知らない人がいろいろ言ってくることもあるかもしれないけど、みんなは全然気にしなくていいんだからねっ! 実際、グダグダ言ってる上の人たちだって大変な時はソルオイル使ってるんだから!』ってステラ先生は笑い、『今日はおつかれさまでしたっ!』って俺たち一人ひとりの頭をぽんぽんして戻っていった。


 ふう。だいぶ長くなった。さすがに疲れた……というか、ちょっと読みにくいような? まぁ、今日はいろんなことがあったし、少しくらいはしょうがないだろう。いい加減俺も眠くなってきたし、今日はここまでにしておこう。


 ギルは今日もぐっすりスヤスヤ寝ている。雑談中はミーシャちゃんのピンチを助けられなくてちょっと沈んでいたけれど、『心配してくれてありがとなの!』ってミーシャちゃんがキスしたら一発で元気になっていた。あいつって単純だと思う。


 ……そういや、あのときの銀狼ってなんだったんだろう? 誰かの使い魔だろうか。同期の使い魔にあんなのはいなかったから、多分上級生のだと思うけど……今度機会があったら聞いてみよう。


 ギルの鼻にはヘイゼルクラウンでも詰めておく。おやすみなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人の魂と言いつつ、魔力豊富なこの面々ならダメージ少ないんだろうな
[一言] この襲撃って偶然起きたものだと思ってたんだけど、読み返してたら前日にギルの鼻に詰めた物が原因だったんだね。 先生たちが知ったらコールコールライフをむっちゃ研究しちゃいそう。
感想一覧
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