230日目 魔導工学:魔法モデルについて
230日目
ゴミ箱にチョコの包み紙があふれてる。ゴミ箱ならいいか。
ギルを起こして食堂へ。休日でもないのに妙にデザートのところがにぎやかだと思ったら、『今日はジャムソース選び放題なんだって!』ってにこにこ笑顔のロザリィちゃんが教えてくれた。朝からあんなにも素敵な笑顔を見られるだなんて、俺はもしかしたら世界で一番幸せなのかもしれない。
そんなわけでデザートにヨーグルトをチョイス。選んだジャムソースはラーヴァベリー。良い感じに濾されつつも微妙に残った果実の食感が実にグッド。なめらかとろとろとラーヴァベリー特有の甘酸っぱい感じが堪らない。やっぱヨーグルトは如何に最適なジャムソースとの組み合わせを見つけるかに限るよね。
俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って嬉しそう。何度も何度も尾っぽで俺の背中を叩いて早く食わせろとせがみ、終始『あーん♪』の構えを崩さなかった。にこにこ笑って口を開けているだけで自動的にデザートが口の中に入ってくるのだから、子供の特権と言うのは羨ましいものである。
ちなみにあいつ、ロザリィちゃんのハートフルピーチのジャムソースのヨーグルトも食っていたし、なんならアルテアちゃんのところに渡り歩いてホビットレモンのそれも食っていた。ミーシャちゃんのところではパッションチェリーのやつも貰っていたし、止めとばかりにクーラスの膝に載ってアルジーロオレンジのやつも『きゅーっ♪』って食わせてもらっていた。なんかちょっとイラっとしたのはなぜだろう?
割とどうでもいいけれど、ヒナたちがヨーグルト塗れになっていたことをここに記す。なんかポポルが贅沢してめっちゃでっかい器にホクホク顔でヨーグルトを入れてたんだけど、辛抱堪らなくなったらしくてヒナたちみんなその中に突っ込んでたんだよね。踊り食い(?)とでも言うのだろうか、奴らは奴らなりに実に楽しそうだったよ。ポポルはしょんぼりしていたけれども。
ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。しょんぼりしているポポルに『これでも食って元気出せよな!』ってジャガイモを分け与えていた。ポポルは『等価交換ね』ってそのジャガイモとフィルラドのヨーグルトの皿をすり替えていた。
フィルラドも割とガチでしょんぼりしていたけれども、見かねたアルテアちゃんに『ほら、私の半分やるから……』って『あーん♪』してもらって一瞬でちょう笑顔になっていた。フィルラドはヒナたちに感謝すべき……なのか?
今日の授業なテオキマ先生の魔導工学。授業が始まる前の段階でロザリィちゃんほかクラスの半分近くがレポートを教卓に提出。やってきたテオキマ先生、きっちり提出されているそれを見て、『ほぉ、言われる前にやるとは……普段の勉強も、言われる前に自主的にやってほしいもんだな』ってなんか笑ってた。
これが三年生、四年生になってスレてくるとあの手この手で言い訳したりしてくるらしい。『酷いときにはいつの間にかローブのポケットにねじ込まれていたりもしたな……』ってなんかしみじみと呟いていた。ブチ切れて燃やそうとした瞬間、その行為そのものをトリガーとしてかなり高度な魔法陣が発動し、既存のレポートの山に混じってしまったらしい。
『発動条件があまりに限定的で厳しかったために、効果も絶大で……結局、どれがそのレポートなのか探り当てるのは無理だった。完璧にしてやられたよ』ってテオキマ先生は悔しそうに語っていたっけ。
肝心の授業内容だけれども、今日は魔法モデルについて学んだ。少し前に魔導工学においては触媒反応学やその他魔法学以上にモデル化が大事で、それができないと魔系として二流もいいところのミジンコレベルのモグリだって話があったけれども、今日はさらにそれを深くやっていきましょうってやつね。
『一口にモデル化と言っても、その形態は実に様々だ。そもそもなぜモデル化をするのかを考えれば、それが一様になる道理があるはずもない。モデル化とは魔法計算を行いやすくするために現実の現象を机上に落とし込むためにするものであるならば、その現象の何について着目し、何について解明したいのかによって形ややり方が変わるのは当然だわな』……ってテオキマ先生は猛烈な勢いで黒板に色々書いていく。
すんげえ不思議なのは、言葉で言っているそれと実際に黒板に書かれているそれが全然違うことだろう。先生の話はまぁ理解できるのに、黒板にはなぜか魔法式ばかりが延々と書き連ねられていて、耳と目から入ってくる情報が一致しない。いったいどうしてあの話の内容で板書した結果があんなクソわけのわからん式になるのか。
とりあえず、なんかそれっぽいことを下記に記す。テオキマ先生の授業に限って言えば、この日記にまともに内容を記すのはかなり難しいのだから。
・魔法モデル
魔法モデルとは、一般に対象となる魔法的機構(ここでは魔法回路的動作を含む要素は除く)について、魔法演算に必要な要素のみを抽出し、簡略的かつ概念的にそれを把握しやすいように落とし込んだ、明瞭なる組図のことを指す。多くの場合、その魔法体全体を魔法濃度を考慮しない魔剛体とみなして構築する(あくまで設計魔法要素のみを考慮して構築)。特に魔導工学においては、その学問の性質上魔法の動作そのものに着目することが多く、前述の通り魔剛体として扱う、すなわちその魔法体の強度そのものについてはすでに考慮済みであるという体で扱われることが多い。
難しく書いたけど、要は今まで通り普通に釣り合いの式とか立てられるように現実のそれをモデル化しましょうってだけ。今までのそれの扱う数値が違うだけで、やっていることやその概念自体は全く同じ。
なんでこんなのわざわざ定義しているんだ……って毎回思うけど、概念的に他のことにも流用できるのは当たり前のことでも、魔系のそれはいつもきっちり明文化している。きっと以前に、『そっちがそうだからと言ってこっちもそうだとは限らないのでは?』とか言ったアホがいたのだろう。面倒くさいことしやがって。
『触媒反応学のそれと大きく違うのは、こちらはあくまで強度計算ではなく、強度計算のために必要な……実際にかかる負荷を計算するためにやっているところだろうな』ってテオキマ先生は言っていた。
もちろん、現実の問題を魔法式に落とし込んでいるがゆえに、そもそもわかりやすく書いているための図に書き込みが非常に多くなるほか、構築された式もクソ面倒くさい。一つの式なのに二行くらい使っても書ききれない。長いうえに複雑とかマジ終わってんな。
あと教科書の式、どうにも等号の前後で意味が通じないと思ったら、特に説明も前触れもなく一部の項を省略していた。【微小要素であることは自明だから】そんなもんいちいち書かずに展開しているっぽい。下の方に小さく【※実用的にはこの程度の精度で十分である】って書いてあったけど、それで説明した気になってやがる。舐めているのだろうか。
なお、今回の魔法モデルはあくまで簡単な一般例であるため、モノによってはきちんと魔法濃度……その魔法要素自身が持つ魔法パラメータも考慮する必要があるらしい。『というか、これからはそっちを考慮したものがメインになる。今までみたいに、その魔法要素に着目する魔法パラメータしか想定していないほうがおかしいんだ。そら弾き出した数値が現実のそれと合うわけないわな』ってテオキマ先生は言っていた。
日記の振り返りだからこそきちんと意味の通じるように記述しているけれども、実際はまともに板書を取る時間も無かったし、先生の話の意味を理解しきる前に次の話になっちゃうし、そもそも書いていることの意味自体がさっぱりわからんというデススパイラルであったことを記しておく。
俺でなければこうも華麗にまとめられていたかも怪しいところ。真面目に授業を受けているアルテアちゃんやジオルドも、ノートを振り返って『自分で自分が何を書いたのか信じられない』、『これホントに俺が書いたのか?』って首をかしげていたしね。
ポポルやミーシャちゃんレベルとなるともう、目も当てられない……当てるべきそれがないという悲惨な事態。『人の言葉を話してくれなきゃ理解できるわけなくね?』ってポポルは開き直っていた。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、しょんぼりしているロザリィちゃんに気を使ったのか、ちゃっぴぃが『きゅーっ!』って全力でロザリィちゃんに抱き着いていた。『あはは……ちゃっぴぃは良い子だねえ……』ってロザリィちゃんも全力でちゃっぴぃを抱きしめ返していた。
羨ましそうにそれを見ていたら、『俺が抱きしめてやろうか?』ってギルがちょう笑顔でポージング。全力でノーセンキューしておいた。
そんなギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりと寝こけている。なんか俺も今日は文章量が多かったからちょっと疲れた。さっさと寝ようと思う。
ギルの鼻には薔薇の目ん玉でも詰めておく。グリルが蹴って遊んでた奴ね。誰も気にしてなかったしゴミだろう。おやすみなさい。