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229日目 創成魔法設計演習:設計値概算

229日目


 俺のお肌がカサカサ。やんなっちゃう。


 ギルを起こして食堂へ。最近はもう普通に寒くなってきていて、朝のあの時間に起きるのがだいぶ億劫な感じ。ベッドが恋しくてなかなか離れられない、なのに授業の支度だけはきちんとしないといけないというジレンマ。


 いっそ寝物語のように先生の方が枕元に来て授業をしてくれた方が……いや、ステラ先生とピアナ先生以外がそれをやったら地獄にしかならないか。


 朝飯はあったかいオニオンスープをチョイス。おなかに優しく、それでいて具沢山でどっしりとしたボリュームのある一品。一口飲めば体の芯からあったまる優れものでもある。シンプルながらもあの深い味わい、おばちゃんもなかなか侮れない。


 俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って美味そうに飲んでいた。で、きちんとふうふうしてやってからせっせと貢いでいたところ、『あれ……──くん、なんかちょっとお肌が乾燥してる?』ってロザリィちゃんが俺の顔を覗き込んできた。いやん。


 『応急処置だけど、やらないよりかはマシだよ!』って、ロザリィちゃんってばリップクリームを装備。『んーって、して?』っておめめをぱちぱち。ドキドキしながら目をつむってくちびるを突き出してみれば、なんか生まれて初めての独特な感覚がくちびるに。『あ……! なんかこれ、ちょっとクセになるかも……!』ってはしゃいだ様子のロザリィちゃんの声が。


 まさか、ロザリィちゃんにリップクリームを塗ってもらえる日が来るとは。あの何とも言えない奇妙な背徳感に頭がずっとクラクラ。しかもアレ、よくよく考えてなくてもロザリィちゃんがいつも愛用しているリップクリームだよね?


 なんだかんだでロザリィちゃんによるリップクリーム塗り塗りタイムは終了。『ちょっとつけすぎちゃったかな?』ってロザリィちゃんはそのまま俺にキス。『……こんなもんでしょ!』って自らの親指で自身のくちびるを軽く撫で、『おそろいだね!』ってぱっちりウィンク。朝からこんなに幸せでいいのだろうか?


 ミーシャちゃんが『けっ』って吐き捨てていた。『リップクリーム、付け過ぎたら拭うことは珍しくない……というか、普通にやるけど……どういう人生を歩んでいたらあんな発想に至れるんだ……?』ってアルテアちゃんがマジな顔して首をかしげていた。『逆だよ、逆。わざとそう塗ることで、名目を作ろうしただけだ。最初から全部奴の手のひらの上さ……』ってパレッタちゃんは冷静な分析。


 かぁって真っ赤になるロザリィちゃんがとってもかわいかったです。


 一応書いておく。俺たちがそんなやり取りをしている間も、ギルはすぐ隣で『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。通りすがりのゼクトが『こいつのメンタル、化け物か』って驚愕していたのを覚えている。


 今日の授業はわが女神ステラ先生による創成魔法設計演習。『今日は気合入れていくよっ!』って杖をコンコンしながら出欠を取るステラ先生が今日も素敵。『気合を入れるためにぎゅってしてくれませんか?』って聞いてみれば、『この前やったからしばらくお預けですっ! そう何度もオトナをからかえると思わないよーにっ!』ってきりっ! って宣言された。もうそれだけで幸せな気分になれたことは書くまでもない。


 『ずるいぞちくしょう』ってルマルマからもバルトからもケツビンタをされたことをここに記す。『ラフォイドルだって一緒だっただろ。あいつにもやらなきゃ不公平だ』って抗議してみれば、『でも今目の前にいるのお前じゃん』って返された。ヤバい奴らの思考回路ってホント怖いよね。


 肝心の授業内容だけれども、今日はもう普通に各班ごとで設計を進める感じに。前回までに自分たちが作るもののテーマや方向性は決まっているだろうから、それを作るために各々適宜努力しなさいってやつね。


 風魔法陣要素を入れるのは必須として、俺たちはそこにさらに熱の魔法を組み込む必要がある。どれだけの出力が必要か、さらには設計的にどれだけの強度を確保しなくてはならないか……などなど、考えることは盛りだくさん。


 が、ここにきて思わぬ問題が発生。


 羽根車担当のロザリィちゃん、『欲しいスペックが決まらないとこっちも決められないみたいで……』って困惑顔。教科書を見ながら大まかなところだけでも決めようとしたのに、そもそもの基準が無いから決めようが無いのだとか。


 匣担当のミーシャちゃん、『羽根車の大きさが決まらないとこっちも決められそうにないの……大体でいいならできそうだけど、熱関係の回路のスペースもあるし、それを計算に入れるともっと複雑になりそう……』って泣きそうな顔。肝である羽根車が決まっていない以上、匣のスペックなんて決められるはずもないし、今回は熱関係も組み込む予定となっている。となると、ステラ先生がいつぞや見せたように内部の魔度上昇も考えなくちゃいけないわけで、単純に計算が恐ろしく面倒になる(そもそもどんな式を使えばいいかわからない)ほか、そもそもそれら含めてどの程度の出力があるのかわからんから強度計算もしようが無いのだとか。


 『俺軸回りだぜ? 回すものも支えるものも無いのに設計なんて無理だろ?』ってフィルラドは最初からすべてを投げ出している。確かにその通りとはいえ、もうちょっと言い方をなんとかすることはできなかったものだろうか。


 当然、作業要員であるギルも動きようがない。『こんなことしかできない俺を……! どうか許してくれ……!』ってずっと悲痛な面持ちでポージングしていたっけ。


 つまるところ、すべての部品がすべての部品に影響を与えるために、一つが決まらないと他もまるで動きようが無い。ある程度進めることもできなくはないけれど、結局のところ突き詰めたりそもそも余裕がなかったりするので、あとから大幅な見直しとなる……と言うのがわかりきっている。


 じゃあ基準を決めればいいじゃんって話になるけど、その基準をどう決めたらいいかわからない。終わってんなこれ。


 どこの班も大体そんな感じだったのだろう。まさか出だしのこんなところでつまずくとは思ってもいなかったのか、あちこちからどよめきが『うふふ……さっそく洗礼を受けてるね……!』ってステラ先生が死んだように微笑んでいた。そんな姿もとてもすてきだと思いました。


 で、ウンウン唸っていたところで、『助けが必要かな?』ってノエルノ先輩が。なんで先輩がこの授業にいるんだとびっくりしていたところ、『結局これも実習で、質問とかが多くなりがちだからね。実験と同じように、アシスタントの学生を導入しているんだよ』との答えが。


 実験よりかは楽な仕事で危険性もまるでないけれど、より専門的で実用的な知識が必要なうえに、やっぱり拘束時間が長くバイト代も妖精の涙より貧相なレベルだから、旨味はまるでないんだって。『もし普通のお店が同じ条件で人を雇ったら、あっという間にしょっぴかれるんじゃないかな……』ってノエルノ先輩は言っていた。


 ともあれ、解決のためのヒントを聞いてみる。『求められているスペックがどれくらいなのか、実際に測定してみるのも一つの手だろうね。そういうの、結構授業で教わらなかった?』とのこと。言われてみればちょこちょこそんなこと聞いたような覚えがあったりなかったり。


 『でも、人の髪を乾かすのに最適な風の量の計算式なんて教科書にはないの!』ってミーシャちゃんが反論。『教科書の例題を参考するにしても、例題が悉く現実的じゃない例ばかりだよな……?』ってフィルラドも反論。『そもそもうちの学校……そういうまともな測定器具ってあるのかなあ……?』ってロザリィちゃんも首を傾げた。


 『……そういう問題に、どう折り合いをつけていくのかが魔系なんだよ』ってノエルノ先輩は儚く笑う。いったいどうして俺たちと二つか三つしか違わない年齢のあの人が、あんなにも達観した儚い表情ができるのか。何か恐ろしいものの片鱗を垣間見てしまった気がしてならない。


 ともあれ、何もしないわけにはいかないので、オーバースペックで計算してもらうことにした。基準を満たさないよりかは、過剰なくらいに基準を満たしているほうがまだマシだと考えた次第。後からスペックを向上させるような工夫は難しくとも、スペックを落とすこと……いいや、余剰なそれを他のオプションに回すことなら有意義だしそこまで難しくはないはずだしね。


 なんだかんだで今日は大まかな設計概算でおしまい。次回には具体的な出力や要求事項を確定させようってことで合意する。そこさえ決まってしまえば各パートの細かい仕様も決まるだろうし、それのどれかを基準して他の帳尻を合わせるってこともできるようになる……はず。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、クーラスと少し話したんだけど、やっぱりあいつも『計算式はわかるのに、肝心の基準値がわかんないだよな……あと、基準値がわかったとしても、それをどう設計計算に反映させるのかがわからなかったり……』って愚痴を言っていた。教科書を見ても、ピンポイントで知りたいことが書いていないらしい。『例題はマジで計算に慣れるためのものであって、実用的なケースがほとんどない』ってあいつは言っていた。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。『考えるのは無理でも……! 体なら負けねえから……!』ってあいつは終始みんなを励ますためのポージングをしていた。ギル自身、自分がバカでこういうことには役に立てないと自覚しているゆえに、『図面の作成は全部任せとけ! だから、ここでは頼らせてくれ……!』って申し訳なさそうにしていたっけ。


 あいつがそう言っているのだから、最後の最後……おそらく訪れるであろう猛烈な図面の作成&修正のラッシュの時にはこき使ってやろうと思う。あとは単純に調べものでも……そういや図書館とか使えばよかったんじゃね? あれ授業中行ってもいいのかな? 今度ステラ先生に聞いておかなくちゃ。


 ギルの鼻にはチョコの包み紙を詰めておく。ノエルノ先輩から『深い意味はないけど、君たちは賢い後輩だと私は信じてるよ』って意味ありげに持たされた奴ね。ちなみにそこそこお高いブランドものだった。おやすみにりかちゃんまじびきゃく。

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― 新着の感想 ―
[一言] 必要スペックは与えられてたけど、それでも寸法で地獄みたいな計算量を強いられたのはいい思い出
[一言] 目標とか希望スペックとか決めるの、大変だよなぁ…… 合成するだけなら化学実験の方がどれだけ楽か…… 本命:ギルからチョコの香り 対抗:ギルが茶色い 大穴:書き手がチョコ臭い
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