225日目 嵐の一日
225日目
ギルに光るメッシュ。それだけ?
ギルを起こして食堂へ。昨日に引き続き今日も盛大な雨。ざあざあざあざあと雨が屋根を打ち付ける音がうるさいし、やっぱりゴロゴロさまの雄叫びも。風も結構な勢いで吹いていて、まさに嵐と言った感じであった。せっかくの休日にこれとか困るよね。
「あら、残念……」とでも言わんばかりにアリア姐さんはぼんやりと外を眺めていた。日向ぼっこができなくて植物的に物足りないのだろう。
代わりと言っちゃなんだけど『ギルの脇行っとくか?』って親切心で声をかけたら、マジもんのヤバい奴を見る目で見られた。ヤバいのは俺じゃなくて脇から月光を出せるギルのほうなのに。最近はアリア姐さんまで俺の扱いがぞんざいになってきていないだろうか。
朝飯は朝からおっきいケーキをチョイス。『天気が天気だし、気分くらいは盛り上げていかないとな』ってジオルドが主張したゆえである。もちろん、一人じゃ食べきれないので俺、ポポル、ちゃっぴぃ、ジオルドで食すことに。フィルラドとクーラスは今回はそういう気分じゃなかったらしい。
ちなみに今日のケーキ、果物のそれじゃなくてチーズケーキだった。『昨日の夜の雨のせいで、いつもの業者が来れなかったんだよね』とはおばちゃんの談。別に食料自体はまだ十二分にあるけれど、新鮮な果物やお野菜ってのはちょっと厳しいらしい。ポポル、ミーシャちゃん、ちゃっぴぃという育ち盛りのおこちゃまがいるこの状況でそれはちょっと困るところだ。
なお、ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。ジャガイモだけは無限と言っていいくらいに備蓄があるとのこと。非常食であるのもそうだし、ギルが入学してから消費量が尋常じゃないくらいに増えたため、常に備えているそうな。『最初に発注量を増やした時は、「ホントに書き間違えじゃないのか?」って何度も確認を取られたっけねぇ……』っておばちゃんが言ってた。
雨も風も雷もひどかったので、今日もやっぱりクラスルームでのんびりせざるを得ない感じ。せっかくなので愛しのロザリィちゃんと雨の日のお部屋デートとしゃれこもうか……と思ったものの、『ごめんね、魔導工学のレポートをやんないと……!』って言われてしまったのであえなく断念。
でも、『まずは一人で頑張ってみるから……どうしてもだめだった時は、ね?』ってほっぺにキスされてちょう幸せ。ロザリィちゃん曰く、『報酬は前払い制です』とのこと。『もし俺の助力が必要なくなったらどうなるの?』って意地悪して聞いてみれば、『その時は倍にして返してもらおうかな? 私、悪徳貸付業者だから!』ってさらに反対側にもキスされた。うっひょう。
そんなわけで午前中は俺専用ロッキングチェアに揺られてゆったり読書。雨の音が良い感じのバックミュージックになる……わけがない。いや、普通の雨ならその通りなんだろうけど、壁が吹っ飛ばされんじゃないかってくらいの豪雨&暴風で気が気じゃない。
そのあまりの強さに、とうとうギルが『……俺、雨雲倒してくる』とか言って外に出て言った。ルマルマ寮のすぐ目の前で、雨に打たれながら筋トレしている。『ヴィヴィディナも、ギルのああいうポジティブなところは見習おうね』ってパレッタちゃんが虫かごの中で蠢くヴィヴィディナに囁いていたのを覚えている。
で、ぼちぼち本を読んでいたところ、『きゅー……っ! きゅー……っ!』ってなぜかちゃっぴぃが俺の背中と背もたれの間に強引に潜り込んできた。そのまま『きゅ! きゅ!』って背中に抱き着いてきて、俺が本を読んでいるのになんか背中の方でもぞもぞ。
ほおずりされたり乳を押し付けられたりしたのはなんとなくわかったけど、それにしたってなんであんな狭い場所にもぐりこんでそんなことをしようと思ったのか。子供の考えることはやっぱりよくわからん。
そんな感じで午後もぼちぼち。ロザリィちゃんが『せんせぇ……! たすけてぇ……!』ってヘルプコールを送ってきたのでちゃっぴぃを背中にひっつけたまま早速参戦。手取り足取り腰取り丁寧に教えまくる。イチャイチャしながら勉強を教えることのなんと楽しいことか。あの瞬間が一生続いていたらよかったのになあ。
残念なことが一つ。意外にもロザリィちゃん、テストのほとんどを自力で解いていたし、答えも合っていた。『もうちょっとキミと楽しい時間を過ごせると思ってたんだけど』って何気なく零してみたら、『だって……私がバカだと勉強を教えてくれた──くんに申し訳ないし、敵わないにしてもちょっとくらいは釣り合えるようにならないと……!』ってロザリィちゃんが涙目で語る。別にそんなの気にしなくていいし、ロザリィちゃんが隣にいてくれるだけで俺は幸せなのに。
一応書いておこう。悪徳貸付業者のロザリィちゃんには俺の全力を込めてキスをした。が、『……利子分にもならないぞぉ? それにまだ、“がんばったね”の分の残ってるぞぉ? これはもう、一生返済し続けてもらわないとなぁ?』ってロザリィちゃんは非道なる追撃も。
いったいどうすれば、ロザリィちゃんが俺にくれた偉大過ぎる愛に応えることができるのだろう? 一生かかっても、一瞬の愛さえ返しきれないと思う。それほどまでに俺はロザリィちゃんを愛しているのだから。
そんな感じでイチャイチャしていたところ、ミーシャちゃんがギルを室内に呼び戻しているのを発見。『そんな筋トレとかどうでもいいから、ちょっとお願いがあるの』とのこと。筋トレ以上に大事な案件ってなんなんだ……とこっそり聞き耳を立てていたら、『ちょっと今からあたしの部屋に来てほしいの』って発言が。マジかよって思った。
が、まぁそんなロマンチックなあれではなかった。『今日はアルテアとパレッタとも一緒に寝るの。だからあたしのベッドとロザリィのベッドをくっつけてほしいの』とのこと。天気が酷くて不安になるから、今日は女の子四人で一緒に寝るらしい。で、力仕事はギルに任せるに限るといういつものパターンになったっぽい。
もちろん、ギルだけに美味しい思いをさせるわけにはいかない。ミーシャちゃんの部屋ってことは、それってつまりロザリィちゃんの部屋だ。『ギルに任せたらまともなレイアウトは夢のまた夢だ。それに、ベッドはただくっつければいいってものじゃない。ここでベッドメイキングの技が活きてくる』……と、なんとか食らいつき、入室許可をゲット。
で、女子の監視の元、ギルと一緒にミーシャちゃんのベッドを運んでベッドメイキング。ホントはもっとロザリィちゃんのスペースをじっくりガン見したかったのに、マジでベッドメイキングしかさせてもらえなかった。ちょっとでも余計な行動をしようものなら容赦なく四方からケツビンタの集中砲火がされると、本能で感じてしまうレベル。
その後はやることも無かったので早めに風呂に。みんな考えることは同じなのか、ティキータやアエルノの連中もけっこういた。『こうも酷い雨だと部屋でも落ち着かないよなあ……』ってゼクトは言っていたし、『こういう時ばかり「雷が怖い」とかカマトトぶってる女子がいて困る。寝言は寝て言えって思った』ってラフォイドルも文句を言っていた。いつかロベリアちゃんに告げ口しようと思う。
なんだかんだで今日はかなり長いこと風呂に入っていたと思う。ギルの入浴前のポージングと入浴後のポージングもそれぞれ三セットずつくらい見たような。男子みんなで湯船に浸かりながら『仕上がってるよ!』、『新たな魔法生物生み出そうとしてるのかい!?』、『戦士が持てない杖持てちゃうね!』って声を上げていた気がする。平和だ。
夕方ごろ、まだかなり早い時間なのにステラ先生がやってきた。うっひょう。
『今日は雨も雷もひどいねー』なんて言いながらステラ先生はいつもどおりゆったりくつろぐ。なぜかはわからないけれど、意味ありげな手提げも一緒。ちらっと見えたそれは紛れもなくお泊りセット。一瞬で察した。
夕飯の後も、当然の如くステラ先生はクラスルームで雑談しつつカードゲームやボードゲームに興じる。なんか微妙にそわそわしていて、ぎゅっと手を握って勇気を出そう……とするも、タイミングを逃してしょんぼりしたり、ちらっ、ちらってあちこちに視線を飛ばしては、期待に裏切られて悲しそうに顔をくしゃってゆがめたり……と、表情がなんともコロコロ変わっていた。
出来ればそんな無邪気で可愛いステラ先生を見ていたかったけれども、さすがに時間が近づいてきたので、『もしかして、嵐が怖くて不安なんですか?』って聞いてみる。先生、一瞬でかあっと赤くなって、『せ、先生は別に大丈夫だけど、みんなが寂しいかなって……!』ってあわあわ。
『こーゆー時に、みんなの精神的なフォローをするのも先生の役目だからねっ!』ってその偉大なる胸を張ってきりっ! ってする。が、その次の瞬間にけっこうデカめの雷が近くに堕ちる。『ぴゃっ!?』って先生は竦んでアルテアちゃんに抱き着いていた。
『……今日は一緒に寝ましょうか。ちょうど、ロザリィ達とも一緒に寝る予定で、ベッドをくっつけていたんですよ』ってアルテアちゃんはステラ先生を優しく抱きしめて背中をぽんぽん。
『こ、怖くはないもんっ! それはホントだもん……っ! ただ、その、ちょっとだけ、ちょっとだけ寂しいだけだもん……!』 ってステラ先生はアルテアちゃんの胸に顔をうずめて悶えていた。恥ずかしがるステラ先生も最高に可愛いと思いました。
ゆうめ……じゃない、ふろ……でもなくて、もう普通に雑談とかして今に至る。結局今この瞬間まで嵐は収まる気配を見せず、みんななんだかんだで休日にしてはかなり早い時間に自室に引っ込む感じになった。
ロザリィちゃんの部屋には今夜限り(?)のゲストとしてパレッタちゃん、アルテアちゃん、ステラ先生にそしてちゃっぴぃもいる。二つのベッドを五人と一匹で使うのは少々無理があるんじゃないかと思わなくもないけど、『こう……ちゃっぴぃはおなかのところでぎゅってして、ステラ先生は真ん中にして、あとはアルテアがミーシャをぎゅってしてパレッタが本気を出せばなんとかなる……はず!』ってロザリィちゃんが意気込んでいたから大丈夫だろう。むしろ、ちょっと狭いくらいの方がステラ先生的には嬉しいだろうし。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。嵐のようなイビキのほうに驚くべきか、それともギルのイビキの如き嵐の音に驚くべきか。この学校にいるとまともな判断力が少しずつ失せていくから怖い。
ギルの鼻には……太陽の花でも詰めておこう。明日はきちんと晴れますように。