223日目 魔導工学:テスト返却
223日目
ギルから邪悪な血涙が。それだけ?
ギルを起こして食堂へ。ギルが禍々しい血の涙を流しているというのに、ジオルドは『なんだ、今日はちょっとホラーな感じだな』って平然としているし、フィルラドも『おまえ目薬とか使ったことあんの? この際だしデビューしたら?』ってケラケラ笑う始末。少しは友達のことを心配したりしないのだろうか。
まぁ、ミーシャちゃんみたいに『また──にやられたの!? あたしがとっちめてあげるの!』って変な母性を発揮されても困るんだけどさ。というか、なんで全く疑いもせず俺のせいだと決めつけるのだろう。ちょう悲しい。
朝食はレーズンパンをチョイス。何気に普通のレーズンパンよりもレーズンが多く入っていてとってもハッピー。レーズンのちょっぴりオトナな香りがふわっと漂ってくるところとかもう最高。焼きたてパンとの相性は間違いなくばっちりだ。
ただ、ちゃっぴぃが『きゅーっ♪』って大半のレーズンをほじくり返して食べてしまったのだけがいただけない。おかげで俺が食ったのはほぼレーズンなしのレーズンパンだ。あの野郎、大事そうに一粒一粒食いやがって。せめて俺にも分けてくれたらまだ可愛げがあったのに。
どうでもいいけど、パレッタちゃんがなんか牛乳をがぶのみしていた。『いや……なんかたまに、酷い焦燥感に駆られることがあって……』とのこと。好き嫌いするよりかは全然いいと思った。
ギルは今日も『うめえうめえ!』とジャガイモ。そりゃもう本当に心底美味そうにジャガイモ。逆にあいつが嫌そうに食べる食べ物なんてこの世に存在するのか怪しいレベル。俺はギル以上にジャガイモが大好きな人間を知らない。
今日の授業はテオキマ先生の魔導工学。内容はやっぱりテスト返却……だけれども、びっくりするくらいにテオキマ先生の眉間にしわが。『……あれだけ言ったし、なんだかんだでこのクラスはきちんとやるやつが多いと思ってたんだけどな』って深いため息。大半の人間がガクガクブルブルと震えたのは語るまでもない。
名前を呼ばれ、そして己が解答用紙に書き込まれた点数を見るたびに悲鳴を上げるやつがいっぱい。ホントにマジなやつは、悲鳴すら上げずに『ひゅ……っ!』って変な声を出していた。あまりに信じられなさ過ぎて変に息をのんでしまったのだろう。
もちろん、涙目になっている奴も。逆に現実逃避してへらへら笑っている奴も。もはや点数を見ることすらせず、貰った瞬間に丸めてぽっけに入れるやつもいたっけ。
俺はもちろん……いや、俺でさえ八割後半って所。なんだかんだそんなに悪くはないだろうと思っていたんだけど、微妙に立式が間違っていた。全体的な考えはあっているものの、考えなくてもいい無駄な要素を入れてしまった次第。それさえなければもっと良かったんだけど。
『どんな結果だろうと、それは自分の選択が導いたものだってことは、自覚しておかにゃならんわな』ってテオキマ先生はただ淡々と告げる。『これがもし全員悪い点数だったというなら私の授業のやり方が悪かったということもあるだろうが、まともな点数を取っている奴もいるし、私自身あの授業の内容以上のことを試験に出したつもりもない。言いたいことは、わかるな?』ってただただ事実だけを突き付けていく。
そのうえで、『何度も言ってるが、結局最後に結果さえ残してくれれば私はそれでいい。やっちまったもんはしょうがない。でも、やらかしたことをそのままにしているのはしょうもない。……まだ君たちは失敗してもギリギリ許される段階にある。いいか、「ギリギリ」だ。今日のことが身に染みたなら、より一層努力しろ。人よりできないという自覚があるなら、人以上に勤勉に励め。私からはそうとしか言えない』……っていう含蓄のある(?)アドヴァイスも。
とりあえず、俺の隣で泣きそうになっているロザリィちゃんの肩を優しく抱きしめておいた。こうすることしかできない無力な俺を、どうか許してほしい。
なお、その後は普通にテスト内容の解説。これについては特に面白いことも無かったので割愛させていただく。
そして授業の最後、『あえて詳しいことは言わないが、今回の内容を少なくともテストで出題された範囲のみにおいて理解したというならば、それを形にして示せばこちらとしても一考の余地くらいは与えらえる可能性もないわけではない』とテオキマ先生は仰った。
もちろん、これはあくまで独り言であり、強制でも何でもない。必要だと思う人間が必要だと思うことをすればいい……みたいなことを言っていたっけ。
つまるところ、テストを解き直してレポートとして提出すれば、多少は救済措置として考慮してやるよ、ってことなんだろう。逆にそうでもしないとヤバい奴が多すぎたともいえる……のか?
授業についてはこんなもん。テスト返却はやっぱり書くことあんまりないや。
夕飯時にて、エビの素揚げを食す。大量に仕入れたのかわかんないけど、一口サイズのエビがこれでもかとお皿にてんこ盛りになっていた。俺的には素揚げよりもぷりぷりのエビフライの方が好みだけれども、あのくらいの大きさなら素揚げにするのが正解……というか、素揚げにしかできない。
味はもちろんデリシャス。エビの風味と程よく効いた塩コショウの塩梅が最高。スナック感覚でいつまでもバリバリ食べられちゃう。ああいうのってお酒にとても合うし、止め時がわからなくて困るよね。
実際、ポポルやミーシャちゃんが競うように延々と食べていた。ギルに至っては『うめえうめえ!』ってそのバカでかい手のひらでかっさらうようにして食っていた。あと、意外とアルテアちゃんも豪快にひっつかんで食べる節がある。その割に見られると『み、見るなっ!』って恥ずかしがるんだけどね。
なお、ちゃっぴぃもガツガツ食っていた……のはいいんだけど、途中で盛大に『げふぉぁッ!?』ってむせていた。エビの殻が変なところに入ったのだろう。『もう、ゆっくり食べないとだめだよー』ってロザリィちゃんがちゃっぴぃの背中をさすさすしていたのを覚えている。俺もさすさすしてほしかった。
ゆうめ……じゃない、風呂入って雑談して今に至る。なんか今日はいつになく夕飯のことが気になって日記に書いてしまったけど、何気にエビの素揚げが夕飯に出てきたのって初めてかもしれない。なんだかんだであの手の酒場っぽいメニューってあんまり出てきた試しがないし……おばちゃんたちの方でディナーのメニューに対する方針転換でもあったのだろうか?
ギルは今日もその魅惑の腹筋をモロ出ししてクソうるさいイビキをかいている。鼻にはちゃっぴぃが食べこぼしたエビの頭でも突っ込んでおこう。上手くいけば明日は脅威のエビ筋人間が見られるかも。おやすみにりかちゃんまじびじん。