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222日目 創成魔法設計演習:ステラ先生とおしゃべり

222日目


 ギルの鼻がちょっと丸みを帯びている。ギル味が足りない。


 ギルを起こして食堂へ。今日も元気に朝のギル登りに興じていたミーシャちゃんが『……なんかお鼻の形がいつもと違うの?』ってギルの顔をぺちぺちして気づいた。『えっ……最近鼻の筋トレしてなかったから、それかなぁ……』ってギルはちょっとしょんぼり。鼻の筋トレなんてしていたことに驚きだ。


 朝食はカリカリベーコンエッグをチョイス。香ばしいベーコンのカリカリと半熟卵のまろやかな甘みが肉汁&塩コショウにマッチして非常にデリシャス。あのカリカリ具合と卵の半熟を両立させるとはおばちゃんもなかなかやりおる。


 割とどうでもいいけど、なんかアリア姐さんが水浴びじゃなくて普通にコップで水を飲んでいた。「一度はやってみたかったのよね……!」って言わんばかりに目をキラキラさせている。植物的に結構珍しいというか、興味深い行為なのかもしれない。俺もアリア姐さん以外でコップで水を飲む植物見たことないし。


 ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。もはや飲み物じゃないかと思えるくらいにペースが速い。いや、飲み物と言うよりも、ギルにとってジャガイモは空気のそれに近いものなのだろう。ギルはそういう奴だ。


 今日の授業は我がルマルマの女神ステラ先生による創成魔法設計演習。バルトの連中と共に先生が来るのをまだかまだかと待ち構えていたところ、ちょっと遅れてステラ先生がやってきた。『お、おまたせっ!』ってなんかちょっぴり息を切らしているうえに微妙に御髪も乱れている。そんな姿もマジ女神。


 ステラ先生にしては珍しいと思ったら、『ちょっと職員室でぼーっとしちゃって……』とのこと。なんかピアナ先生がお土産(?)で高級なお茶を貰ったらしいんだけど、それのご相伴にあずかっていたらついつい時間が過ぎるのを忘れてしまったらしい。


 『朝の目覚めにぴったり! ……って触れ込みのお茶だったんだけど……なんか、すっごく落ち着く香りでふにゃあってなっちゃった……』ってステラ先生は照れていた。あとでピアナ先生に銘柄を聞いておかなくては。俺の知っている中にはそんな【ふにゃあってなっちゃう】銘柄なんてここらにはなかったと思うけれども。


 いつもの通り、ついつい杖をコンコンしちゃいながらステラ先生が出欠を取る。で、今日はなにをやんのかな……と思っていたら、ステラ先生ってば俺たちのことをざっと見渡した後、『……今日はちょっぴりサボっちゃう?』ってウィンクしながら素敵すぎる提案をしてくれた。


 『元々今週から各班で設計計算してもらうことになってたし……講義として教えることはないから、一週間くらい……決闘明けくらいは、ね?』ってステラ先生はにっこり。『さすがステラ先生』、『俺たちもルマルマになりたかった』ってバルトの連中も絶賛。ルマルマの連中は『ステラ先生最高ぉぉぉ!』、『お嫁さんにしたい!』、『ステラ先生ちょうかわいーっ!』ってもっと大絶賛だったけどね。


 そんなわけで、『他のクラスのみんなには、内緒だよっ!』って言葉と共に自習と言う名の自由時間。何気にバルトとの……というか、合同クラスでこの手の自由時間って初めてかもしれない。


 とりあえず、せっかくの機会なのでステラ先生とおしゃべりすべく行動。が、俺と同じ考えの人間は腐るほどいたらしい。すでにみんなが教壇のところに群がっていて、秘蔵のおやつやお気にのクッションの準備もばっちり。あいつらなんで授業だってのにあんなの持ち込んでいたんだろう?


 あえて触れるまでもないけど、ステラ先生はとてもうれしそうだった。『え……自由時間だよ? 先生の近くだと、リラックスできないでしょう?』、『……いいの? 先生とお話ししてくれるの? ……えへへ、やったぁ!』って、それはもう朗らかで無邪気な笑顔。男子は父性が刺激されまくっていたし、女子も母性を刺激されまくりんぐ。パレッタちゃんなんて、『抱かせろ』って問答無用でステラ先生をぎゅーっ! ってしていたしね。


 肝心の話のネタだけれども……いろいろあったけど、一番印象に残っているのは冒険者間による魔法使いの区分けと言うか、出身による違いのそれだろうか。


 たしか、四年生になって研究室所属になると、卒業研究のために必要な魔法材料を自分で採取しに行くことになる、だから時には冒険者のパーティに混じって遠征することもある……っていう話から派生したんだっけ。


 『まずねえ、普通に冒険者としての魔法使いがいるでしょう? こういう言い方はちょっと失礼かもだけど、学校とかで学んだわけじゃなくて、独学で魔法を覚えたタイプって言うのかな? 綺麗な魔法じゃないけれど、その分すごく実践的で、先生たちからは思いつかないような使い方や魔法のアプローチをしているんだよね!』ってステラ先生。


 一般的なイメージとしての【魔法使い】はこいつらのことを指していて、実際魔法使いと言えばこういう連中を思い描くことの方が多い。冒険者パーティとしてみれば、頭を使った攻撃ができる知恵袋で、職業柄薬草や魔物の生態、魔法仕掛けの罠なんかの知識も持ち合わせている……みたいな、そんな感じ。たまにマッドなイメージがつくこともあるとかないとか。


 『次に、学者肌の魔法使いかな。戦うために魔法を使う人たちじゃなくて、生活をよくするために魔法を考えたり、あるいは純粋に魔法と言う学問そのものを掘り下げている人たちね! すごくきれいな魔法を使うけど、実際に戦える人は意外と少ないかも?』ってステラ先生。


 いわゆる研究室に引きこもって怪しい実験をしているタイプの魔法使いだろう。冒険者の魔法があくまで武器であるならば、こっちの魔法使いは魔法そのものに価値や意義を見出している。ヤバい材料を集めてくれ……って依頼を出すほう。


 『こういうタイプの護衛依頼って大体面倒だ。偏屈だしやかましいし融通は利かないし体力はないし……そのくせ口だけは達者でやってられねえ』っていつかテッドが愚痴っていた気がする。人柄にもよるだろうけど、あんまり冒険者としては仲間に入れたくない感じだろうか。


 『ところで、僕らは……魔系学生としてはどっちのタイプになるんですか?』って聞いてみる。先生があえて【魔系】ではなく【魔法使い】という言葉を選んだ以上、そこに明確な意図があると思った次第。


 が、ステラ先生、自分で言ったのに【やっちゃった……!】と言わんばかりにあわあわ。ぎこちなく目を逸らしつつ、『そ、その、前の二つと全く違う意味合いで、【魔系】という区分けで認識されて……るよ?』ってちょっと挙動不審になりながら教えてくれた。


 ここから先は、あまりにステラ先生が言葉を濁していた故に、俺が感じ取ったことをそのまま箇条書きにすることにする。そうでもないと、ステラ先生が優しい言葉で遠回しに言いすぎたせいで、なにがなんだかわからなくなってしまうから。



・冒険者パーティで魔法使いとして呼ばれた時、【魔系】だとバレると態度が変わる。


・魔法使い募集案件でも、【※ただし魔系は除く】と書かれることも。


・逆に【※魔系限定】であるものもある。


・在校生や卒業生が張り切りすぎて、クレームが毎月かなり来る。


・新人研修で魔系と組ませたら、将来有望だった新人がトラウマを負って冒険者を止めたとクレームがあった。


・魔法使いの臨時募集に魔系を宛がったら、『ウチのパーティが非人道的な行動を強いているとあらぬ誤解を受けた』とクレームがあった。


・魔系が犯罪者の拘束依頼を達成したと思ったら、二日後に『悪人だからってなにをしてもいいってわけじゃないんだぞ!』と憲兵団からクレームが入った。


・『確かにそうしろと依頼はしたが、あそこまでやれとは言ってない』とクレームが入った。



 ……などなど、数え上げればきりがないけどこんな感じ。往々にして魔系は【目的のためならなんだってやる】、【手段として適切であれば、たとえ自分の体を傷つけることであっても眉一つ動かさずにやってのける】、【「最低限」は守る。「最低限」しか守らない】、【狂戦士のほうがまだまとも】……なんて思われているとかいないとか。


 『例えば……すぐ足元に、敵性の魔物がうろついていたら、みんなはどうする?』ってステラ先生は俺たちに話を振ってきた。『蹴飛ばす』、『踏みつぶす』って大体の人が即答。


 『そうだよね……でも、普通の魔法使いは魔法で倒すらしいんだ……』ってステラ先生は困った顔。以前、割と容赦なくウサギの魔物の頭を踏みつぶし、しこたま蹴ってカチ割った魔系がいたらしく、そのあまりのエグさに同行していた新人がトラウマを負ったらしい。


 『例えば……冒険者パーティでの活動中、狼の魔物に襲われて……そいつがあまりにも速くて魔法も当たらなくて、でもどうにか足止めしたり無力化しないといけないとなったら、みんなはどうする?』ってステラ先生は続けて質問。


 『攻撃を期待されているのに、攻撃できないなら……囮になって攻撃のチャンスを作る』、『足は拙いから、腕だけ食わせて口を封じる』、『素早い相手ならこそ、腕を食わせてそのまま魔法使えば一発じゃん』って大体みんなそんな感じ。


 『そうだよね……でも、普通はそこでは邪魔にならないところに逃げるとか、援軍を呼んできてもらうとか……そういうのを期待されているんだ……』ってステラ先生は疲れたように笑う。以前、そんな感じで自らを積極的に犠牲にして事態を解決していた魔系がいたらしく、『あのパーティはそんなことを強要させている』って悪い噂が立ってしまったパーティがあったとか。


 『例えば……畑の害獣駆除を頼まれたら、みんなはどうする?』ってステラ先生はさらに質問。


 『対象を数匹だけ逃してあとは皆殺し。その様をしっかり見せつけて、生血を入り口に撒いて……死体も一緒に干しておけば、他の生き物も含めて、もう二度と現れなくなりますよ。ついでにギルの汗でも一緒に撒いておけば安心です』って俺がエレガントに正解を叩き出す。


 『あ、あはは……その、似たようなあれで、その……』ってステラ先生がぎこちなく笑っていた。もしかしたら、完璧すぎて先生の出鼻をくじいてしまったのかもしれない。反省。


 そんな感じで楽しいおしゃべりは終了。その後は特に何事もなく授業も終わり。先輩たちのハッスルしたエピソードをもっと聞いてみたいと思ったけれど、この先どうせ嫌と言うほど聞くことになるのだ。


 俺たち的には普通なことでも、世間一般からすれば普通じゃないことは結構多い。確かにこの学校は俺のような一部の例外を除いてクレイジーばかりだし、そんな周りから見ればヤバい奴らである俺たち二年生でさえもヤバいと思うほど、上級生たちは総じて頭がおかしい。俺も染まらないように気を付けなくては。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか今日は妙に眠いからさっさと寝てしまおう。最近夜もがっつり冷え込むようになってきて、相対的に毛布のぬくぬく感が凄まじいことになっている。いつかロザリィちゃんとステラ先生と一緒に毛布でお昼寝したいものだ。


 書くまでもないけど、あえて書いておく。


 雑談中、流れでロザリィちゃんに『将来の夢とか、進路希望とかある?』って聞いてみたら、『……すごい宿屋の若女将以外は、まだ決まってないかも?』ってほっぺにキスされた。今日はこの極上の幸せの気分を抱いたまま、眠ることにする。


 あ、ギルの鼻には……邪血でも詰めておこうっと。グッナイ。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダメだコイツら……イカれてやがる [気になる点] いいぞもっとやれ
[一言] ……理系と魔系って思考回路似てるんだなぁ(遠い目) 僕、こいつらほど狂ってないって思ってたのに、方向性が違うだけだったか…… 本命:トイレの邪神様降臨 対抗:トイレの異常 大穴:異常魔法波…
[良い点] 魔法使いには戦闘手段として魔法を使うタイプと学問として魔法を探求するタイプがいて、それとは全く別枠に『魔法を使うバーサーカー』としての魔系がいるのか…… 魔系はかなりクレイジー。再確認した…
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