22日目 シェア・ストロベリー
22日目
ギルのつむじがハート形。だからどうした。
ギルを起こして食堂へ。休みだからやっぱり人は少なめ。レポートの暗い気分を払拭するために、俺、ポポル、フィルラド、ジオルド、クーラスで休日限定スペシャルデラックスケーキを食す。朝から大きなホールケーキを食べちゃうとか、俺たちってばマジ悪い子。
で、ケーキ奉行のジオルドが入刀してケーキを分けていく。奉行の特権としてあいつのケーキはイチゴが三個。優しいジオルドはおこちゃまポポルのケーキもイチゴ三個&ちょっと大きめに切っていた。あいつのこういうさりげない優しさは見習うべきだと思う。
ともあれ普通にケーキを頂く。スペシャルデラックスだけあって生クリームもたっぷりだし、スポンジの質もなかなか。しっかり甘いけどクドくはなくて、スポンジの間にあるイチゴの甘酸っぱさが最高に活きている。こいつぁグレートだと評価せざるを得ない。
さて、ケーキのクライマックスとして上に乗ったイチゴを食べようとしたところ、俺の膝に乗っていたちゃっぴぃ(いつも通り、俺にケーキを貢がせていた)が『きゅーっ♪』って俺の背中を尾っぽで叩き、大きく口を開けて『あーん♪』の構えを取った。こいつ悪魔か。
しょうがないのでイチゴの大きい方を『あーん♪』してやる。『きゅーっ♪』ってあいつは嬉しそうにお口をもぐもぐ。食ってるときだけは大人しくて可愛らしいと思えなくもない。これで慎み深さがあれば文句なしなんだけれど。
で、あいつがイチゴに夢中になっている間にこっちもイチゴを食っちまおう……と思ったら、いつのまにやら隣にロザリィちゃんが。すんごく目をきらっきらさせて、『あーん♪』って可愛らしく口を開けている。一瞬でイチゴを『あーん♪』しちゃったよね。
かぷ、と嬉しそうにイチゴをくわえるのと、それがラストのイチゴだったことにロザリィちゃんが気付いたのはほぼ同時。上に何も載っていないケーキを見て、ロザリィちゃんは見るからにあわあわしだした。
もちろん、『キミの幸せが、俺の幸せだ』って優しく微笑む。ロザリィちゃん、ぴーん! ってなんか閃いた顔をした。器用にもイチゴをくわえたまま悪戯っぽく笑い──
『──ん♪』ってそのまま口移しで俺にイチゴを食べさせてきた。わーお。
正直、最初は何をされたのか全く分からなかった。ただただ、ひたすらに甘くて、柔らかくて、そして幸せだったことしかわからない。だって愛しのロザリィちゃんが文字通り目の前にいるんだぜ?
ロザリィちゃん、そのままの状態でイチゴをぐっと噛み千切り、俺の口の中に押し込んできた。ややあってからパッと口を離し、真っ赤になりながら『──はんぶんこだからね? ごちそうさまでしたっ!』って微笑む。
そして、『どんな小さな幸せでも、──くんと一緒に分かち合うのが私の幸せなんだからっ!』っておでこをつんっ! ってされる。イチゴの甘さよりもハートフルピーチの甘さで胸いっぱい。もう俺ホントロザリィちゃんなしじゃ生きていけないわ。
ちなみに、これを見ていたフィルラドがチラチラとアルテアちゃんに視線を送っていたんだけど、気高きアルテアちゃんは『エッグ婦人とやればいいじゃないか。私はヒナたちとやるから』って砕いて食べやすくしたイチゴをヒナたちに口移しで与えていた。
人前でイチャイチャするくらいなら鳥と口移しする方がいいらしい。フィルラドは泣いていた。
『ざまあねえな』、『むしろなんでイケると思ったのか』ってクーラスとジオルドがフィルラドを煽る。『そういうセリフは彼女作ってから言えよ』ってフィルラドが煽り返した。
『あ゛?』、『やんのか?』、『上等だコラ』って戦争が始まった。レポートのせいでみんなピリピリしているのだろう。おっかない人たちってやーね。
どうでもいいけど、ギルは俺たちがイチャイチャしてたりクーラスたちが戦争している間も『うめえうめえ!』ってうまそうにジャガイモを食っていた。『ジャガイモじゃロマンもへったくれもないの……』ってミーシャちゃんは不満げ。今度イチゴっぽい見た目のジャガイモでも用意したほうがいいだろうか。
午前中は昨日の実験のレポート作成を行う。相も変わらず教科書に書いてある課題ももらった表紙に書かれていた項目もわけわかめ。取得したデータからベース魔力やコレクタ魔力、エミッタ魔力を求めなきゃいけないんだけど、そもそもどう計算すればいいのかわからない。
あと活性領域と飽和領域の検討と魔力増幅率の検討って課題には書いてあるんだけど、あの実験のどこで魔力増幅なんてことをやったのか。マジックトランジスタって制御機構の一つじゃなかったの?
うんうん唸っていたところ、『レポート大丈夫……?』って私服姿ステラ先生が遊びに来た。ひゃっほう。
『昼間から来るなんて珍しいですね』って女子の一人が声をかける。『昨日、けっこう慌ただしくてあんまりみんなのこと面倒見られなかったから……』ってちょっとしょんぼりした表情でステラ先生は言う。やはりあの人は女神だった。
『何でも聞いて! 先生に答えられることなら何でも教えるからっ!』ってステラ先生はその豊かなお胸をばーんと叩く。世界が幸せで揺さぶられた。みんなの陰鬱な気分はすっかりとどこかへと飛んで行った。
で、ぼちぼちわからないところを質問していく。にこにこしながら教えてくれるステラ先生がマジキュート。休みの日……正確には授業時間外でも生徒に頼られるのが堪らなくうれしいらしい。本当にステラ先生ってどうしてこうも可愛いのだろうか。
件の問題については、『魔力増幅率? んーっとね、それはマジックエミッタのところで出てくるやつかな? 最初の方はベース魔力の増加に伴ってコレクタ魔力が増加していくでしょ? その増加率がそうだよ!』と教えてくれた。ベースが増加するならその出力だって増加するのが当たり前だと思っていたけど、別にそういうわけじゃあなかったらしい。
『増加しているのが活性領域、ベースを増加させてもコレクタが増加しないところが飽和領域、活性領域と飽和領域の間のよくわかんないところが遷移領域だよっ!』って蕩けるようなステキな笑顔も。おねえさんぶるステラ先生も最高だと思います。
ともあれ、ステラ先生という勝利の女神のおかげでみんな夕方ごろにはレポートを完成させることに成功する。今回は前回に比べてデータ量が少なかったってのも勝利の一因ではあるのだろう。あるいは、単純に初回よりかは慣れたってだけか。
夕飯食って風呂入った後の雑談中もステラ先生はクラスルームにいてくれた。しかも湯上りのネグリジェ姿。男子全員のテンションがアゲアゲになったことは言うまでもない。
今回はカードじゃなくてボードゲームにお誘いする。さすがに賭け事以外でイカサマを使うのはポリシーに反するのか、先生の強さは可もなく不可もなくといったところ。
先生はパレッタちゃんとペアでプレイしていたんだけど、『ヴィヴィディナの祝福をあげるね』って言葉を普通に受け入れて、ちょうちょ形態のヴィヴィディナをリボンのように頭に乗せていた。『この子もだいぶおっきくなったねぇ……』ってちょっと感慨深そう。
ヴィヴィディナさえ受け入れるなんて、先生の愛ってすごすぎると思う。俺にはまだちょっと真似できそうにない。
だいたいこんなものだろうか。最後になるけど、寝る間際にステラ先生が『昨日はごめんね?』って申し訳なさそうに頭をポンポンしてきた。『後から思えば、ちょっとそっけなかったかなあって……』とのこと。
『ナイショだけど、先生も回路は苦手で……ちょっとイライラしていたかも……。これじゃあ先生失格だよね……』ってしょんぼりしだしたので、『あの程度でイライラしてるなんて言わないですよ。そんなこと言ったらウチのワガママお姫様はどうなるんですか』って微笑んでおく。直後にちゃっぴぃから容赦ないケツビンタ。解せぬ。
『そう言ってくれると嬉しいな!』って先生は笑顔。何となくこのまま歓談したい気分だったんだけど、ここでネグリジェ姿ロザリィちゃん&ミーシャちゃんが登場。
『せんせい! 私の──くんと話し過ぎっ! 罰として今晩ぎゅーっ! の刑にします!』、『大人しくお縄にかかるといいの!』って言うやいなや、二人はステラ先生をクレイジーリボンでぐるぐる巻きにした。
『ひゃあああ!?』って悲鳴を上げながら連れ去られていくステラ先生。最後にロザリィちゃんがこっちにパチリとウィンクしてきたけど、たぶんそういうことだろう。きっと今日はちゃっぴぃを含めた四人で同じベッドで寝るに違いない。
ギルは今日もぐっすりスヤスヤと大きなイビキをかいている。どんな日でも寝付きが良いとは羨ましい限りだ。ちょうどすっぽり鼻穴に入りそうだったので、今日はステキに呪われたジャガイモでも詰めてみる。おやすみにりかちゃんまじばばあろり。