213日目 他校交流降神魔法大会:使い魔大戦
213日目
オステルから安定の異常魔力波。オステルだけは俺たちを裏切らない。俺の全力をもってティアトの馬車に向かってぶん投げておいた。
ふう。世界が眩しい。俺はとうとう真実の愛に目覚めた。世界がこんなにも明るかっただなんて……なんで前の俺は曇りきっていたことに気づかなかったのだろう? ああ、本当にすっきりした……清々しい気分だ。
気分が新たになっているところで、詳しく書いていこうと思う。
ティアトにオステルをぶん投げてすぐに、ポポルとフィルラドから報告が。『とりあえず色々穴だらけにしてきた』、『神経質で自分に自信がある感じの耳長リリパットを一グロスほど召喚してきた』とのこと。『ツケられたりアシを遺すようなヘマしてないだろうな?』って聞いてみれば、『何言ってんだ、局所的に耳長リリパットが大量発生したってだけだろ?』とのこと。
とりあえず、連中はキーキーキーキーうるさい金切り声を上げながら、馬車の隙間なんかにもぐりこんで騒いだりいろいろ荒らしたりしていたらしい。魔物の大量発生って困るよね。
で、ギルを伴い朝食タイム。せっかく俺たちが一緒に朝飯を食って友好を深めてやらんでもないと思っていたのに、ティアトの連中は欠席。なんか知らんけど、風の噂では大半の人間が猛烈な腹痛に襲われ飯を食べるどころじゃないのだとか。
『トイレの数が足りないって話で……なんか、ウチのも使わせてくれって話が来てたんだよね』ってゼクトが言っていたのを覚えている。残念ながら、ティキータのトイレは全力でお掃除中だったらしいけれども。
『……こっちの水が合わなかったのかねえ』っておばちゃんは不思議そう。あまりにも規模が大きいがために、最初は昨日の立食での集団食中りが懸念されたのだけれども、俺たちにはそんな症状が出ていなかったから、水が合わなかったんじゃねって結論になったらしい。
『たくさん作ったんだけど……どうしよう』っておばちゃんは悲しそうだった。おばちゃんにあんな顔をさせるとか、俺はティアトの連中を(一人を除いて)絶対に許さない。
なお、あまりに余った朝飯だけれども、『みんな食べないなら俺食っちゃうよ!』ってギルがちょう笑顔で『うめえうめえ!』って食っていた。もちろん、いつものノルマ(?)のジャガイモも『うめえうめえ!』って食っていた。
さて、そんなこんなをしていたところ、ティアトの方から一人の麗しの女性が。
そう……昨日あの場にもいた、金髪の姫君。ここで初めて名前を知ったけれども、ティルリリィちゃん。彼女が、柔らかな日差しのような笑みを浮かべて、俺たちの方へとやってきた。
この時の俺はまだ真実の愛に目覚めていなかったから、ちょっとツンとした態度を取っていたかもしれない。反省。
ティルリリィちゃん、ティアトの連中が一人も出てこないのは拙いってことで代表としてやってきたらしい。『昨日はウチのバカがご迷惑をおかけしまして……』って俺の隣にいたロザリィちゃんに頭を下げていた。ちなみにあの腕ブラクソ野郎、ヴェルラークって名前らしい。
『もしよければ、あの魔法について詳しく窺ってもいいでしょうか? その、同じ女としてあの魔法はなかなか魅力的で……!』ってティルリリィちゃんはロザリィちゃんに話しかける。実際言ってることはわかるし、このカチコミの大義から考えても、不思議なことじゃない。
とはいえ、いきなり手の内を明かすのは避けたかったのだろう。ロザリィちゃん、『……教えてもいいけれど、あなたの得意な魔法も教えてほしいな』って言っていた。
ティルリリィちゃん、にこって笑った。『私の得意魔法も……真実の愛に目覚めさせる魔法なんですよ』って杖を懐から出す。途端にぴりつく食堂。ざわっとした空気が伝播して、いろんな奴の殺気とかそんな感じのがティルリリィちゃんに。
中には、『へェ……? 正面からカチコミとは、良い度胸してるねェ……?』って息巻く女子も。俺も途中まではそう思ってたしね。
ところがティルリリィちゃん、全然ひるまない。『実演したほうが早いので……効果に反して、名前が物騒なのでよく誤解されるんですよ』って……
俺に杖を向けた。
『──誘惑魔法!』って声が響くのと、ほぼゼロ距離で俺に魔法がぶっ放されたのは同時。マデラさんのゲンコツを喰らったみたいに目がチカチカ……したけど、痛みとか体の異常はない。魔法の気配はすごかったし、ピンク色の魔力残滓ももわもわしてたけど、ぶっちゃけまぁそれだけ。
だけど──それが晴れた時、文字通り俺の目は覚めた。真実の愛に覚醒した。いや……ようやく、この世界に生まれた意味を知ったというべきかもしれない。
俺の隣に、麗しの金髪の女性が。この世のものとは思えないくらいに美しく、愛おしい。見ているだけで心臓がドキドキと跳ねて口から飛び出てしまいそう。ちょっと前までは憎らしいとさえ思えていたその顔なのに、すごくときめいて……一瞬で真っ赤になった。
で、気づけば俺はその人の手を取って、手の甲にキスをしていた。
しかもしかも、気づけば『一目ぼれしました。大好きです。世界で一番愛しています。どうか俺の恋人になってくれませんか』……って、告白までしてしまっていた。
あのクソと同じ行動をしてしまった自分に腹が立つ。けれども、あの時はマジで無意識にそうしてしまっていて、それこそが生き物として正しい行動としか思えなかった。
『きゃあ♪』って弾んだ声を出す愛しいあの人。ああ、嫌われなくてよかった……って、心の底から思ったし、きゅっと手を握り返してくれて、天にも昇るほど嬉しい気持ちになれた。
一方で、すぐ近くから『え……うそでしょ……!?』って声が。
見慣れたブラウンの髪の女の子が、必死に何度も何度も杖を振るっていた。『そんな……どうして……!?』ってずっとずっと。
なんだろうね。いや、可愛いっちゃ可愛い顔なんだけど、それだけしか思えない。こう……見た目は良いんだけど、中身ががっかりを通り越してヤバいから、全然好きになれないって感じ?
あんなブラウンに魅力なんて感じない。それどころか、下品で性格の悪い雌豚のように思える。マネキンとしてなら見ててもいいかなって……いや、それでもなんかちょっとやだ。
逆に、ステラ先生以外に金髪に魅力を感じることなんてないと思っていたのに、なぜか彼女がとても愛しくて幸せな気分になれる。さらに言えば、言葉にできない懐かしさと安心感さえ覚えるくらいだ。
とりあえず俺は真実の愛に目覚めたため、その後は恐れながら彼女の肩を抱かせていただく。『そんな、そんなはずは……!』っていまなお必死に杖を振るうブラウンのあの娘には、『ごめん、俺は真実の愛に目覚めているから、それ以上何をやっても意味ないよ』ってただの事実を突きつけておいた。
さすがの俺も、自分を好いてくれる女子に延々とみじめな真似をさせたくはない。ましてや衆人環視の中で、俺を誑かそうと魔法を使う姿だなんて……俺がフリーであの娘が陰でこっそりやってるっていうならいじらしくてかわいいと思うけど、相手がいるのに公衆の面前でそんなことするなんて、泥棒猫を通り越してただのヤバい奴っていう。
とりあえず、クラスメイトらには『そういうわけだから、俺たちの新しい門出をよろしく』って挨拶をしておく。『お前……いや、そういう気があるとは思ってたけど……』、『冗談……だよな?』って言われたのが不思議と言えば不思議。まぁ、真実の愛を知らない連中にはなにもわかるまい。
そんな感じのあれこれの後はさっそくカチコミ一回戦に。いつぞやのアエルノとの決闘と同じく、決闘場にて開催。やっぱり有志の屋台が出ていたり、スタッフとして徴兵(?)された上級生が人員誘導や結界の仕込みをしていたり……まぁ、アエルノとの決闘とほとんど同じ雰囲気だった。
違うのはその規模。上級生も一年生も他の学年の先生方も、もちろんティアトの連中もいるもんだから熱気がすごい。どうやらこのカチコミ中は学校全体がお休みってことになっているらしい。先生方も引っ張られているみたいだし、授業なんてそりゃ進められないわな。
あと、やっぱりシキラ先生が賭けを仕切っていた。『友達を誘って賭けに参加してくれた奴は、単位を少し甘くしてやるぜ! 上級生も下級生も、ティアトロリーチェの諸君もどしどし参加してくれよな!』とも。あの人ホントぶれないなって思った。
で、開会の挨拶。ウィルアロンティカの組長四人、ティアトロリーチェの組長四人でなんか宣言的なのをした。内容は覚えてないけど、まぁいつも通りな感じのアレ。ウィザードシップに則り友好と技の研鑽が何とかかんとかってやつ。
一応書いておく。ティアトの組長はシエルゼル、腕ブラクソ野郎(ヴェルラーク)、コーキトン(いかにも根暗ながり勉タイプ)、ミルシェラ(なんかやたらと大きい人形を抱えた女の子)の四人ね。俺たちに恐れをなしているのか、なぜかみんな真っ青だったっけ。
肝心の第一試合だけれども、『あー、諸事象により、公平性を鑑みて使い魔戦闘とする』とのこと。いつぞやのアエルノでやった使い魔バトルとほとんど同じで、使い魔が全員戦闘不能になった方が負け。使い魔のパートナーたる選手を倒す必要はない他、選手の魔法はあくまで補助的使用に留め、直接相手を害する魔法は使ってはいけないとのこと。
早速組長で相談。『うち、ガチ戦闘できる使い魔はいないんだけど』、『同じく』ってゼクトとシャンテちゃん。『うちはエドモンドが行けるな』ってラフォイドル。話している間には、『複数匹の参加はダメだって……それに、ヒナたちは私がいて初めて本領を発揮できるけど、けっこうグレーだしな……』ってアルテアちゃんの追加情報が。
となると、ウチで参加できるのはあとはちゃっぴぃとヴィヴィディナしかいない。参加は四匹だから、これでも一匹足りない。加えて言えば、俺は最終日の組長バトル(たぶんある)に出るから、ここで参加するのはだいぶ危険。
……と思っていたところで、バルトの一人が『超強力な助っ人みつけたわ』ってやってきた。その後ろには今日もたくさんのつぶらなおめめをぱちぱちさせているルンルンと、『昼間から高い酒を飲めるって最高だぜぇ……!』って高級ワインボトルを片手にホクホク顔のシキラ先生が。金の力ってすごいなって思った。
そんなわけで、ウィルアロンティカとしては
クーラス&ちゃっぴぃ
ティキータ男子&ヴィヴィディナ(セコンドとしてパレッタちゃんがすぐ近くにいる)
バルト女子&ルンルン
アエルノ男子&エドモンド
……で参加することになった。
今更だけど、連中の名前を書いた方がいいだろうか。なんとなくもういつものメンツしか基本的に書いてないんだけど……マデラさんが読み返した時にわかりづらいだろうから、このままでいいか。
準備が整ったところで選手入場&対面。ティアトの連中の使い魔が明らかに。
すごく神秘的な、聖気を放つ荘厳な天鳥。
一本角の生えた神々しいオーラを纏う天馬。
全身に聖なる紋様が刻まれた、顔の半分が仮面となっている天牛。
純白の翼に天輪を備えた──小生意気そうな顔をした天使の女の子。
文字通り、会場がどよめいた。どいつもこいつも見つけるのでさえ苦労するし、ましてや飼いならすのなんてよほど設備と金と実力がないと出来ないようなレア&強力なやつらなんだもの。
万が一に備えて控えていたアエルノのところのクリスタルリッチなんて、奴らがフィールドに出ただけでその神気・聖気のせいで浄化されかかってたからね。
で、さっそく試合開始。『いけっ、ちゃっぴぃ!』ってクーラスの声に、ちゃっぴぃは『ふーッ!』って気合十分。開始の合図の前からメンチを切っていた天使に突進。
『ルァァァァァ!』、『きぃぃぃぃ!』って二匹してひっかくわ抓るわ髪を引っ張るわの盛大な取っ組み合いが始まる。なんかこう、もうちょっと夢魔の力と天使の力のぶつかり合いみたいなのを想像していたんだけど。なんでガキのケンカを見せられているのだろうか。
『堕とせヴィヴィディナぁッ!』ってヴィヴィディナもセコンドのパレッタちゃんの声を受けて躍り出る。ターゲットは空を舞う天馬。ヴィヴィディナは体から針的なものをズダダダダ! って連射して天馬を落とそうとするも、天馬は空を駆けてそれから逃げる。
天馬は天馬で神気を角に極限まで込めて、その必殺の一撃をヴィヴィディナに叩き込もうとしていたのだけれども、いかんせんヴィヴィディナに近づけないし、「あ、これ近づいたらヤバいやつだ」って悟った顔をしていた。
ルンルンの方もそんな感じ。天鳥が空を舞って切り裂く羽の雨(聖気入り)の怒涛の攻撃をしてくるんだけど、カサカサ動いて避けまくりんぐ。何度か足に当たってブチってちぎれたけどすぐに再生。胴体は胴体で硬いし、マジックファイアを身に纏うこともできる。守りに関しては隙が無い。
が、やっぱり空を飛ぶ相手には少々厳しい。糸を吐いても当たらないし、跳躍しても届かない。決闘場というフィールドもちょっとルンルンには不利。森の中とか洞窟とか、壁や天井、足場になるものが豊富にあるところでないとルンルンは本領を発揮できない。
エドモンドの方も決定打に欠けている感じ。『うおおおおお!』、『やれやれぇぇぇぇ!』って男子が盛り上がるレベルで、天牛との真っ向からのぶつかりあい。その巨体でひたすら前に進もうとする天牛を、エドモンドが全身をもって受け止めている感じ。ドラゴンと天牛のガチバトルとかそうそうみられるものじゃない。
ちょっぴり意外なことに、ウィルアロンティカもティアトロリーチェも、学生側の魔法の支援が全然飛ばせない状態だった。ちゃっぴぃと天使は文字通りの取っ組み合い、エドモンドと天牛もガッツリ肉弾戦だから、うっかり魔法を使うと誤射する可能性があったんだよね。
もちろん、空を飛び回っている連中に魔法が当たるわけもない。互いに魔法を有効的に使えるレンジじゃなかったんだよ。
膠着が崩れたのは……ほんの一瞬の出来事。決着がついたのも、また一瞬だった。
上空の方で、「ヴヴンッ!?」って唸り声的なものが。数撃てば当たる戦法が功を奏したのか、ヴィヴィディナの針攻撃が天馬の翼を掠めたらしい。
当然、掠めた程度じゃ決定打にはならない。『そんなの効くもんかっ! ウチのペルちゃんを舐めないでよねっ!』ってティアトの天馬のパートナーの女子も得意顔。ヴィヴィディナへの指示に慣れてきたティキータも、『もっとだ……! もっと芯に当てないと……!』って悔しそう。
ところが、セコンドのパレッタちゃんは『……勝ったな』ってフィールドに背を向けた。ちょっとカッコよかった。
その直後。空を飛んでいた天馬に異変。
背中から明らかにヤバい触手が生えていて、目がぐるぐるヤバい感じに動いていて、遠目からわかるほどに、純白の肌の下に無数の何かが這いずっていた。
あまりの異常事態に、一瞬会場の空気が凍る。誰もが、上空の天馬に注目していた。
そんななか、天馬は……「ギャアアアアア!!」って天馬が放つ声とは思えない恐ろしい金切り声を上げて、神気と邪気と異常魔力を纏った必殺の角の一撃を、味方であるはずの天鳥に叩き込んだ。
天鳥を撃墜した後も、天馬はひたすら狂ったように暴れまわる。「アアアアアア!!」ってなんかひっくり返ったように飛んだり跳ねたりそりゃもう酷い感じ。『ぺ、ペルちゃああああん!?』ってティアトのその子は泣きながら悲鳴を上げていたよ。
『な、何が起こったんだ……?』って誰かが呟く。
それに答えたのは、もちろんパレッタちゃん。
『畏れ多くもヴィヴィディナの卵を皮下に産み付けてやった。もう、まともには戻れまいよ』とのこと。やべえ。
なんでもヴィヴィディナが撃ちだしていたアレ、産卵管(?)であるらしい。一つ一つに無数のヴィヴィディナの卵が入っていて、ちょっとでもそれが体を掠めると、その傷口から皮下に卵を植え付ける……そう、いつぞやの追跡草みたいなアレになっているのだとか。
天馬が狂ってしまったのは、皮下で生まれたヴィヴィディナの幼体(むしろ群体の一部だと思うけど)に体を浸食寄生されてしまったからだろう。あれはもうたぶん肉体的にも魔法的にもやられちまっている。
さて、撃墜された天鳥ならばルンルンで軽く仕留めることができる。ルンルンは指示されるまでもなく、奴を強力な糸で簀巻きにして全部の足で全力ホールド。もう逃げられない。
そのままつぶらなおめめをキラキラと輝かせ、やんちゃな牙を覗かせる。全力で天鳥をいただきますしようと……する前に、グルメなルンルンは自己発火することで天鳥を美味しいウェルダンにしようとした。
が、ここにきて『ギブアップ! ギブアップするから食べないでええええ!』って声が響いたため、ルンルンのおやつはお預け。ルンルン、ちょっとしょんぼりしていた。
さて、みんなが勝ちを収めていたところでちゃっぴぃにも火が点いたのだろう。『ふーッ! ふーッ!』、『ぴーッ! ぴーッ!』、『ルァァァァ!』、『きぃぃぃ!』ってどったんばったんの取っ組み合いにも終わりが見えてきた。
互いにセットはぐしゃぐしゃ、あちこち噛み傷だのひっかき傷だのでいっぱいだったけど、魔系の魔法の早打ちの一騎打ちみたいな感じで二匹は相対。互いに次の一撃で決めようっていう必殺の意志がひしひし。
合図なんてあったわけじゃないのに、同じタイミングで走り出す二匹。あわやぶつかろうかという瞬間、向こうの天使が繰り出してきたのはまさかのグーパン。それも完全に顔面狙い。天使やべえ。
が、ちゃっぴぃは迫りくる鉄拳相手に瞬きすらしない。ギリギリまで惹きつけて……なんと、躱した。
で、すれ違いざまに『ルァァァ!』って天使のケツにスッパァァァァンッ! って強力な一撃。
あの構え、間違いない。
ルマルマ女子直伝のケツビンタだ。食らうとめっちゃ痛いやつ。
時の止まる会場。奇妙な静寂が訪れ、そして。
『ぴぁぁぁぁぁん! ぴぁぁぁぁぁん!』って天使がへたり込んで泣きじゃくりだした。そりゃもうびっくりするくらいにわんわん泣いている。見た目だけはウチの子に引けを取らないくらい可愛い女の子だから、見ているこっちがなんか可哀想になってくるくらいに。
『あーよしよし、怖かったな、痛かったな……うん、わかったわかった、ホントに頑張ったな』ってティアトの選手がフィールドに出てきて天使を抱っこする。あの天使、『ぴぁぁぁぁん! ぴぁぁぁぁん!』ってわんわん泣きながらながらそいつにぎゅっと抱き着いていた。
『あの、その、もうこんなになっちゃったので……降参で』ってティアトのそいつが苦笑いしながら審判に宣言。ちゃっぴぃのやつ、『ルァァァァ!』って雄たけびを上げて片腕を掲げていた。
さて、これで天牛以外はみんなウィルアロンティカの勝ち。ぶっちゃけここまでくればあとは囲んでボコっておしまい。さすがにちゃっぴぃは力勝負はできないけど、ヴィヴィディナにルンルンという文字通りの化け物が二匹もいる。
『ここまでくれば、誤射もない……これも勝負だ、恨んでくれるなよ』ってクーラスがエドモンドに罠魔法をかける。相手が迂闊に衝撃を加えたら手痛い反撃が来るタイプのアレ。バルトやティキータも、各々魔法の支援をエドモンドに。
ただ、エドモンド&アエルノのあいつは不服だったらしい。『男の勝負だ! 余計な手出しをするんじゃねえ!』って激昂。ティアトの天牛のパートナーも、『わかってるじゃないか……! 試合自体は負けるとしても、この勝負だけは負けるわけにはいかない……!』ってなんか興奮気味。
で、なんか二人きりで熱くなっちゃって、その後も真っ向からの力勝負が延々と続く。やっぱ天牛もパワフルだったし、エドモンドもドラゴンだから迫力あるし……こう、見ごたえはかなりあったと言えよう。
が、いい加減結構な時間が経ってきたところで、『俺たちには一点の曇りもあっちゃいけねえんだよ』、『夢は見させてやったぞ……そろそろ終いなり』ってクーラスが盛りに盛った罠魔法をエドモンドにしかけ、そしてパレッタちゃんがヴィヴィディナをけしかける。
天牛、爆発の衝撃を喰らった後に全身を呪に侵食されて、膝をついた。アエルノとティアトのぽかんとした顔が妙に滑稽だったのを覚えている。
『第一試合はウィルアロンティカの勝利!』って大きな宣言。会場がめっちゃ盛り上がった。復讐のための幸先のいい滑り出しと言えよう。
あと、ちゃっぴぃを迎えに俺もフィールドに降りたら、あいつ、なんか『きゅうう……!』って泣きながら抱き着いてきた。『きゅう……! きゅう……!』ってなんか必死にこらえようとしているけど泣いちゃってる感じ。でも俺に顔は見られたくないのか、ぎゅーっ! って抱き着いてきて俺の胸に顔を押し付けている。
『よくやった、本当によく頑張った……偉いぞ』って抱っこしてあいつの頭を撫でておく。何度かポンポンしているうちには落ち着いてくれたけど、そもそもなんであいつ泣いちゃったんだろ?
試合自体はこんな感じ。その後は流れでみんなで夕飯。ウィルアロンティカは祝勝ムードだったけど、ティアトロリーチェはなんか雰囲気が暗い。中でもペルちゃんのパートナーが『ペルちゃん……! ペルちゃん……どうしよう……!?』ってずっとめそめそ。
『……あれ、ただの冗談なんだけど。明日には元に戻るのに』ってあのパレッタちゃんが困惑していた。驚いたのはむしろこっちのほうっていう。
ああ、あと、夕飯はあの麗しの金髪の君にご一緒させていただいた。普通の食卓がそれだけでもうたいそう華やかで幸せな空間になったことを記しておく。
唯一汚点があったとすれば……そのすぐ隣で、あの茶髪の娘が『なんでよ……! なんでなのよ……! 私の魔法が効かないなんて、そんな……!』って何度も杖を振っていてうざったかったことだろうか。
あの娘がどんなに頑張っても、もう愛なんてないんだから愛魔法が発動するはずがないのに。
あまりにもその様子が不憫になったのか、アルテアちゃんが『もうその辺で止めときな……経験上、近いうちに元に戻るから』ってあの娘を諭していた。真実の愛が元に戻るとか、アルテアちゃんはいったい何を言っているのだろうか?
それに、もうちゃっぴぃだってあの金髪の子を認めてくれた。『ほーら、新しいママだぞー!』って抱っこしてあの子に手渡してみれば、『……きゅ?』って「えっコイツ何言ってんの?」みたいな顔をしながらも、新しいママのお膝でふんぞり返ってくれたしね。ママも、『今日はよくがんばったね!』ってちゃっぴぃの頭を撫でてくれたし……悪くない、実に悪くない。
一応、ショックで放心している茶髪のあの娘には『ごめんね、何もかも俺がカッコいいのが悪いんだ……。惚れさせてしまって申し訳ない』って謝っておいた。さすがの俺も罪悪感がヤバかったっていう。
非常に残念なことに、風呂はティアトとご一緒できず。地獄のシャボンカーニバルの洗礼か、ギルの友好のための親愛のハグをプレゼントしようと思ったのに。なんかリバルトのクソが直前になって『混雑を避けるために、ウィルアロンティカの諸君の後に入ることにする』とか言い出したんだよね。こういう場で交流を深めるんじゃなかったのだろうか。
ふう。かなり長くなったけどこんなもんにしておこう。あ、金髪のあの娘はルマルマ寮でお泊りしてもらうことになった。リバルトのクソとは違い、積極的に友好を深めようとする姿勢に感銘を受けまくりんぐ。ティアトにもまともなのがいるとは、世の中まだまだ捨てたもんじゃない。
今日はバルトとティキータの混成部隊の担当。ルマルマにはない発想に期待も自然と大きくなる。明日の成果が楽しみだ。今日はただの寝不足くらいだっただろうか、もっとパンチのあることをやってくれるといいなあ。
ギルの鼻には今日も全力でオステル様を詰めておく。おやすみなさい。