209日目 魔導工学:後期中間テスト
209日目
何もない?
寝ぼけ眼のやつがボリボリ腹をかいたら、腹に黒い痕が。見た目は普通だけど、指が鉛筆と化しているらしい。地味に便利……なのか?
ギルを起こして食堂へ。なんだかんだで今日はテストの最終日だから、ルマルマの連中に限って言えば妙に吹っ切れた表情をしている奴がいっぱい。『泣いても笑ってもあと数時間だ』、『最悪再履すればいいだけだし?』って達観している奴も。学生としてそれはどうなんだろう?
景気づけということで、朝からがっつり肉を食す。ルフ老やミニリカだったら絶対胸焼けして食べられない奴ね。やっぱ塊の肉をワイルドに食べるのって男が一度は憧れる光景だと思う。一番ワイルドに食ってたの、ちゃっぴぃだけれども。
あと、ロザリィちゃんが『おまじない……よろしくね?』って俺にキスしてくれた。しかもしかも、なんかこう全力でぎゅーっ! って抱きしめてもくれた。それだけに飽き足らず、なんか俺の胸に顔をうずめてすーはーすーはーくんかくんかしまくってた。
『テストの時……不安になったら、このぬくもりを思い出すの』とのこと。よくわからんけれども、すーはーすーはーくんかくんかするときが一番落ち着くらしい。テスト前のリラックスとしてロザリィちゃんの役に立てるのなら、これほどうれしいことはない。
『あのバカ娘はどうして時と場所をわきまえられないのか……』ってアルテアちゃんの眉間の皺がすごいことになっていたことをここに記しておく。ちなみにアルテアちゃん、『……時と場所さえ問題なかったら、すごいことやってるよね』ってパレッタちゃんの冷酷なる突込みに対し、『お願いします。何でもするからやめてください』って涙目で訴えていたっけ。
……アルテアちゃん、何やってたんだ? 少し……いや、かなり気になる。そもそもなぜパレッタちゃんがそれを知っているのか。女子たちってよくわからん情報網を持っているよね。
ギルはいつも通りジャガイモを『うめえうめえ!』って美味そうに食っていた。こいつ以上に裏表がない人間を俺は知らない。むしろ、こいつに裏とかあったらすべての人間が信じられなくなる。
さて、ラストの試験となる今日はテオキマ先生の魔導工学。『最後まで足掻くのも否定はしないが、こうなったら腹ァくくって覚悟を決めるほうが魔系らしいわな』ってテオキマ先生は冷酷なる宣言。『何をしようとどうなろうとキミらの自由で、キミらの選択だ。私が求めているのはあくまで結果だけ。……不正行為をしたらどうなるか、いまさら語るまでもないだろう』って言いながら問題用紙兼解答用紙を配っていく。
ある意味予想通り、この段階でポポルはガチガチ震えていた。とりあえず俺も震えておこうと思ったけど、パレッタちゃんからの殺気を感じたので止めておいた。俺ってばちょうかしこい。
肝心のテスト内容だけれども、やはりというか計算問題がメイン。ちょっとうれしかったのは、なんだかんだで演習問題のそれとほとんど変わらなかったことだろう。面倒くさくて微解とかもふんだんに使った式を書かなくっちゃいけないとはいえ、まったくもって見当もつかないって言う絶望感はない。
ただ、裏面の半分は応用問題。初見でちょっと面食らう感じ。よくよく見れば部分ごとに演習問題のそれと似たようなパターンに分解出来て、その解答が次の設問のキーになる……いわば、複数の設問を経て一つの大きな問題を解決するって言う形式。
とりあえず計算そのものは間違っていないと思うけど、合っているかどうかはわからん。俺にはステラ先生の加護があると信じるほかない。
なんだかんだでテストは普通に終わる。幸いなことに、今回は魔法回路実験と違って泣き出す人はいなかった。良くも悪くも、みんなオトナになったってことだろう。
『終わったんならそれでよくない?』、『今日はお酒飲んじゃってもよくない?』、『学生の本分は青春を謳歌することだって偉い人が言ってた』って現実逃避するやつはそれなりにいた。クーラスも、『俺がダメならみんな再履だ』って開き直っていて、ミーシャちゃんとポポルにガチギレケツビンタされていた。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、アルテアちゃんが『ちょっとだけ……ちょっとだけだから……』って新しいワインの栓を抜いていた。それを見たちゃっぴぃが『きゅーっ♪』ってお酌の構えに。
あいついつの間にあんなの覚えたんだろう? 俺にはあんまりやってくれないのに。
『お前は良い子だな』ってアルテアちゃんはちゃっぴぃの頭を撫でてからグラスをちびちび。ちゃっぴぃのやつ、ちゃっかりお駄賃(?)として飴玉をもらっていた。ずるい。
さらにちゃっぴぃのやつ、ワインボトルをもって『きゅ?』って俺とロザリィちゃんのところにもやってきた。『……今日だけ悪い子になってもいいかなあ?』ってロザリィちゃんが甘えてきたので、『一杯くらいだったら悪い子にならないんじゃないかな?』って返しておく。
ロザリィちゃん、最近はなんだかんだでワインの味もわかるようになってきたらしい。今度二人きりでグラスをごっつんこさせたいものだ。
一応書いておこう。ちゃんとロザリィちゃんとアルテアちゃんは一杯だけで済ませていた。フィルラドとその他何人かのクズだけは『もうすこし! あともう少しだけだから!』って二杯目を飲もうとしていたので、俺とポポルできっちり処分しておいた。
ポポルのやつ、『こんな苦いのの何がいいんだか……ジュースのほうが絶対良くね?』ってグチグチ言いながらグラスをカパカパ空けてたよ。絵面だけならすんごく悪い子だったよね。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。脳筋を酷使したのだろうか、なんか微妙にいつもより眠りが深そう。思えばあいつ、『出来はどうだった?』って問いに対し、『この通りだぜ?』ってちょう笑顔でポージングを決めていたけれども、どういう意味だったのだろう? 未だにあいつの考えることはよくわかんねえや。
まぁいい。これで直近のヤバいイベントは全部終わったはず。あとはカチコミに向けてそれなりに準備をしておかなくては。さしあたっては、ダンスの男形を完璧に仕上げないと。うっかり女形のステップを踏んだりでもしたら、ロザリィちゃんに恥をかかせちゃうからね。
ギルの鼻には……チーズの欠片でも詰めておく。ワインのお供に用意した秘蔵のやつなんだけど、切り分ける時ちょっと落っことしちゃったやつね。おやすみなさい。