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21日目 魔法回路実験:実験2 マジックトランジスタによる制御回路

21日目


 何もない……と思ったら、トイレに異臭のする液体が。この学校の設備、ホントにどうなってるんだろうか。


 ギルを起こして食堂へ。今日の授業はクソ面倒くさい実験だからか、ルマルマ&ティキータの連中の表情が沈んでいる。バルトやアエルノの連中はまだマシな顔つきだけど、再レポートがほぼ確定しているため、やっぱりいつもと比べて暗い雰囲気。


 どうにもこうにも気分が盛り上がらなかったため、食後にクーラスオリジナルブレンドのハーブティーを頂く。春を思わせるほんのり甘くて爽やかな後味が実に素晴らしい。なんかすーってして気分も超すっきり。


 『春っぽい感じでとってもよかった』ってコメントしたところ、『お? やっぱわかる? ちょっとハーブの比率変えてみたんだよね』ってあいつはにこにこと嬉しそうだった。やっぱ違いの分かる相手に褒められるってのは嬉しいもんだよね。


 『そんなにいいの?』ってポポルが興味を示したため、クーラスは『しょうがねえなあ!』ってあいつにもハーブティーを淹れてあげていた。しかし、『なんかよくわかんね』ってポポルは一口飲んた直後に砂糖をドバドバ入れていた。これだから味のわからんおこちゃまはダメだ。


 もちろん、クーラスは無言でポポルにケツビンタ。ついでとばかりにヒナたちもポポルのケツを突いていた。『ふぎゃあああああ!?』ってポポルは泣いていた。


 ギル? 大半の人が陰鬱な顔をしている中、『うめえうめえ!』ってそれはもう笑顔でジャガイモ食ってたよ。『みんな食わないの? じゃあ俺残り食っちゃうよ!』って残った料理も『うめえうめえ!』って平らげていた。『健康的で大変よろしい』っておばちゃんはコメントしていた。


 さて、今日の授業は魔法回路実験。ティキータ・ティキータの連中と共に実験室へと赴き、授業の準備を始める。今日はグレイベル先生が解説担当らしく実験室には見当たらなかった。ちょっと残念。


 内容は魔法回路制御について。今回は制御機構の一つとしてマジックトランジスタについて学ぶ。これ、よくわかんないけど精密部品らしく、とりあえず足が三本あるのが特徴ね。


 で、それぞれにベース、コレクタ、エミッタって名前がついているんだけど、それぞれをどう回路に組み込むかで制御の仕方ってのが変わるらしい。具体的には、マジックコレクタ回路、マジックエミッタ回路ってのを作ることが出来るそうな。


 『今日のこれはですね、魔法回路の制御機構としては最も簡易かつ手軽であり、原理としてはとても重要なんですけどね、嘆かわしいことにその仕組みを全ッ然知らない人が多すぎるんですよ。そんなわけでちょちょいのちょいで実験してぱぱっと理解してほしいって寸法ですね』ってポシム先生は言っていた。ちょちょいのちょいとか簡単に言ってくれるけど、それ絶対無理だと思う。


 ともあれ、教科書通りに、かつキイラムらアシスタントの上級生の手を借りつつ実験。どの足をどう回路に組み込めばいいかで軽く混乱。足やマジックトランジスタそのものに特徴らしい特徴が無いものだから、きちんと覚えていないとすぐ間違える。目印の一つくらいつけておけよって思った。


 で、どの足がどれに対応しているのかわかったとしても、そもそもの回路を組むのが面倒くさい。俺たち全員、まだ魔法回路についてはトーシロだってのに。


 なんだかんだでちょっとずつ実験は進む。測定の量そのものは前回より少なめ。面倒くさくなったのか、途中で上級生の一人が『マジックエミッタ回路が終わっても回路は崩すな。難しいように見えるけど、魔法抵抗の位置をちょっと変えればマジックコレクタ回路になるから』とお得情報を教えてくれた。


 よくよく見れば、コレクタ側につけていた魔法抵抗をエミッタ側に着けるだけでマジックコレクタ回路が完成することにここにきて気付く。教科書の回路図がめちゃくちゃわかりづらいせいで、それに気づかず一から回路を作り直している人たちがいっぱい。


 なんで先生はそういう風に教えてくれないのだろうか。教科書にその一言くらい書いておいてくれてもよくない?


 あまりに回路が複雑だったせいで、アルテアちゃんは『うがぁぁ……ッ!』って女の子が出しちゃいけない唸り声を出してしまっていた。『……これ、まだ楽な方なんだけど』ってキイラムのつぶやきは聞こえていないようだった。


 で、マジックコレクタとマジックエミッタの測定が終わった後はマジックライトダイオードの点灯実験を行う。マジックライトダイオードってのは要は魔法回路で動く明かりの一種ね。魔法の光だから普通のランタンとかと違って熱を発しにくいらしく、ものによっては様々な魔法効果を付与できるのだとか。


 こいつ自身は普通に魔力を流せば明かりが点くんだけど、ご丁寧にも【先程のマジックエミッタ回路、およびマジックコレクタ回路にマジックライトダイオードを組み込み、その相違点を明るさの変化から確認し、マジックライトダイオードの使い方を習得せよ】って教科書には書いてある。


 【せよ】って言い方に腹が立つ。何様だっていう。


 ともあれ点灯実験を行う。エミッタだとパッ! って明るくなって、コレクタだとじんわりと明るくなった。だからどうした。


 これ考察でどうまとめよう……って思ったところで『ああああああッ!?』ってフィルラドの悲鳴。マジックライトダイオードがぱりんって弾け飛んだらしい。幸いにもごくごく小規模だったために怪我とかはしていなかったけど。


 慌ててキート先生が駆け寄る。『なにかしちゃいました?』って質問に、ポポルもフィルラドも『何もしてません!』、『さっきまで抵抗があったところに普通に繋げただけです!』と必死の弁明。


 壊したやつって大抵『なにもしていない』っていう言い訳をするけれど、少なくとも俺にはマジで何もしていないように感じられた。キート先生、『ふむ……』って壊れたそれを見て、ブレッドボードからマジックライトダイオード(の残骸)を引っこ抜く。


 で、『極性間違ってますね』って何事も無いように告げた。何それ初耳なんだけど。


 何でも、この手の魔法部品には【極性】と呼ばれる性質を持つものがあるらしい。これ、要は魔力を流せる向きが決まってますよって性質のことで、通常の部品はどちらからでも魔力を流せるのに対し、極性を持つものはある一方の方向からしか魔力を流せないのだとか。


 【片側からの魔力のみ流せる】って性質を利用することでいろんなことに応用できるんだけど、あまりにも大きな魔力の場合、普通に反対側からでも流れちゃって部品がぶっ壊れるんだってさ。


 『……当たり前のこと過ぎて、みんな言い忘れていたみたいです。そこはこちらとしてもごめんなさいとしか言えませんが……教科書に書いてありましたよね?』ってキート先生は二人を優しく諭す。


 ポシム先生は『こんなの壊してナンボですよ。みんな一度は壊すんだからいい経験したと思いなさい』って鼻歌歌っていた。あの人のテンションがイマイチわからん。


 その後はマジックファンクションジェネレータなんかも登場して実験はさらなる地獄に入っていく。実験終盤にもなると、なんか普通にあちこちで実験器具の不調や故障が報告されて凄まじいことになっていた。


 抵抗値の低い魔法抵抗を接続したせいで回路に過剰魔力が流れてマジックトランジスタが壊れたり、別の測定をするから魔法抵抗を外さなきゃいけないのにそのままやって部品を壊したり、魔法抵抗を外すまではよかったのになぜか外れた回路をリード線で繋いでしまったり……とにもかくにもまあ、いろんなことが原因であちこちで悲鳴があがっていた。


 途中、何度かポシム先生のガチギレの声が響く。『ちゃんとッ! 教科書ッ! 読んどきなさいってッ! 言ったでしょうがッ! 再起不能になりたいのかッ!?』って回路をぶち壊したりしていた。そのあと普通に何事もなかったように一緒に回路を組んであげていたけど。マジ何なんだろうアレ。


 あと、『ひーん……!』って涙目になりながらあちこちを駆けまわるピアナ先生がエンジェル過ぎた。『えっとね……』ってめっちゃ密着しながら一緒に回路を組んであげているステラ先生がマジ聖母だった。後であのティキータの男子は呪っておこうと思う。


 と、ここでステキすぎる俺は回路に不備があれば合法的にステラ先生と密着できることに気付く。あの温もりと柔らかさと甘い匂いのためならば、俺は実験の単位の一つくらい簡単に投げ出せる。


 そんなわけで(念のため正しい回路図を記録しておいてから)回路をぶち壊し、『すみませーん!』って手を挙げる。何とも嬉しいことにステラ先生が気づいてくれた。ひゃっほう。


 で、『ここがわからないんですけど……』って回路を示す。が、なぜかそこには完璧な回路が。どうなってんのマジで。


 『……今はちょっと忙しいから、ごめんね?』って、ステラ先生は俺の肩をぽんぽんして去っていった。嘘だろ。


 完全にステラ先生に失望された。俺が不真面目で実験中にふざけるクズだと思われた。絶望。


 とりあえず後ろでゲラゲラ笑っていた魔材研の上級生はまとめてガチハゲの呪をかけておいたけど、俺の心に空いた穴はこんなものじゃ埋まらない。


 結局、前回と同じくかなり遅い時間になってようやく実験は終了。そして真の地獄はここから始まった。


 うん、『おら、さっさと再レポ受け取りにこいや』ってキイラムたち上級生が言ってきたんだよね。で、奴らがチェックしたのをみんな並んで一人一人受け取るんだけど、受け取った瞬間に崩れ落ちるやつが多数。


 それもそのはず。だってほとんどバツなんだもの。俺やクーラスでやっとこさ四割クリアできたって感じだろうか。


 『さすがに嘘でしょ?』ってキイラムに抗議する。『レポートに値しない出来栄えだったんだからそんなもんだろ。そのまま受理してもいいが、そうしたら確実に単位落とすぞ』って真顔で言われた。この世には絶望しかない。


 そして意気消沈したままクラスルームへと戻る。みんな疲労困憊。ちょっと冷めた夕餉を無理やり胃に詰め込んだだけで、風呂の時もほぼ無言か実験に対する愚痴しか言葉にしなかった。


 雑談中も暗い雰囲気。今回貰ったレポートの表紙(ピンク)にある項目数を見てため息をつく人がいっぱい。新たなレポートを書くってだけでも大変なのに、その上再レポートもかなり重い。


 そして何より、週末なのにステラ先生が遊びに来ない。


 こんなバカな話ってあるか。ステラ先生とおしゃべりできないだなんて、俺は一体何のためにこの一週間がんばってきたってんだ。ステラ先生がいるからこそ、このクレイジーの巣窟である魔系でもなんとかやっていけるというのに。


 そして、慰めてもらおうと思ったロザリィちゃんも今日はすぐに自室に行ってしまった。せめてちゃっぴぃだけでも……って思ったけど、あいつもロザリィちゃんに抱っこされてロザリィちゃんのお部屋に。この世に神はいない。


 ギルは今日もクソうるさいイビキをかいている。こいつは実験中まるで役に立たなかったし、『俺の筋肉のほうが絶対輝いてるんだよなぁ……』ってローブの下でマジックライトダイオードと張り合ってたくらいしかしていない。


 爆発事故とかあったらこいつを盾にしてやろうと思う。こいつの筋肉なら大丈夫だって親友だから信じてる。


 寝よう。明日はロザリィちゃんと存分にイチャイチャしよう。ギルの鼻には二秒前のハートを詰めておく。おやすみ。

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