206日目 魔法流学:後期中間テスト
206日目
ギルの鼻が煌めいている……鼻穴の中で放電現象を確認。世の中って広いなあ。
ギルを起こし、ちゃっぴぃをお姫様だっこしながら食堂へ。今日はテストの日だからか、やっぱり牛乳の減りがだいぶ悪い感じ。最近そこそこ寒くなってきたし、テスト中のぽんぽんイタイタをみんな警戒しているのだろう。
ギルは今日もジャガイモ……なんだけど、『脳筋の鍛え方、教えてくれてありがとな!』ってちょう笑顔で俺の皿に山盛りのジャガイモを載せてきやがった。あいつの中では最上級のお礼とはいえ、さすがに俺もこれにはビビる。
いや、ジャガイモだぜ? 蒸かしてちょっと塩が振ってあるだけのジャガイモだぜ? いやまあ、ジャガイモでも食えるだけ十分にありがたいけれど……普通に他にいろんなものが食えるのに、どうしてわざわざ胃袋がはち切れそうなくらいのジャガイモと戦わなくっちゃいけないのか。
あ、でも、ロザリィちゃんが『私も手伝ったげるねー』って一緒にジャガイモを食べてくれてちょう幸せ。『あーん♪』ってめっちゃ俺にジャガイモを食べさせてくれた。しかもしかも、ロザリィちゃんってば俺にジャガイモを食べさせるふりをしておでことかつんつんしてくれたりもした。めっちゃ幸せだった。
ただ、俺のお膝の上のちゃっぴぃが『きゅ! きゅ!』ってロザリィちゃんの真似をして俺の口にジャガイモをブチ込んできたのだけはいただけない。あの野郎、俺の口とギルの口が同じものだと思っているのか、遠慮なくどんどん追加を突っ込んでくるし。ひどい目にあったって言う。
書くまでもないけど、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。俺の皿の山盛りのジャガイモを異物混入しても気づかずに『うめえうめえ!』って美味そうに食ってた。
朝食後のわずかな一時にて、『ちょっと願掛けしとく』、『やらないよりはしておいたほうがマシなの』、『いいじゃん、減るものじゃないし』ってポポル、ミーシャちゃん、パレッタちゃんにだいぶ派手に髪の毛を毟られた。
あいつら、加減ってものを知らないから一気にブチィッ! って持ってくんだよね。頭を撫でさせるくらいなら許さないことも無いのに、なんで連中はこうも躊躇いもなく人の髪の毛を毟れるのだろう。俺がハゲたらどう責任取ってくれるのだろうか。
さて、今日の授業……というかテストは魔法流学。ミラジフの野郎、教室に入ってくるなり『疑わしい行為をした時点で今までの一切に関係なく不合格とするから、そのつもりで』とか言い出しやがった。舐めてんのだろうか。
で、さっそく『……その光っている鼻はなんだ?』ってギルにいちゃもん……つけると見せかけて、俺の方をねめつけてくるっていうね。『鼻が光っているだけではありませんか。何がそんなにおかしいのです? 今この瞬間鼻が光っているからと言って、それがテストにどう影響を与えるのですか?』って完璧に論破してみれば、『言葉は通じるのに話が通じない。これだから嫌なんだ』とか言って盛大な舌打ち。生徒にする仕打ちじゃないっていう。
ともあれ、テスト開始。やはりミラジフらしく、いかにもいやらしい計算問題がいっぱい。計算そのものはそんなに難しくなく、計算量もそこまでではない……一見、『おっ、意外とイケるんじゃね?』って思えるものなんだけど、よくよく考えてみると、立式そのものがかなり難しいという奴の性格の悪さが滲み出たものだったよね。
それもさ、腹立たしいことに教科書の例題とかと巧妙に似せているの。だから、数字をかえただけで解けるパターンだって、ぱっと見はそう思えるの。
でも、式の形が巧妙に変化したり、例題に比べて一か所だけ符号が逆になるようになっていたり……なんというか、注意力や理解力のない奴をピンポイントで蹴落とすような、そんな底意地の悪い問題ばかりだったよ。
そんなわけで、一見簡単そうで量も大したことが無かったのに、この俺でさえ全部解き終わったのは結構ギリギリ。答えの見直しをした後は、ゴブリンとピクシーとシマシマの落書きしかすることができなかった。こいつぁあまりにもあんまりだ。
一方で、他の連中は満足げな表情。『なんか意外と簡単だった!』、『だよね、みんなすぐに裏面行ってたよね!?』ってきゃあきゃあはしゃいでいる奴がいっぱい。
『実際、かなり簡単だったよね』──だなんて、俺とクーラスにも話が振られてくる。『俺は結構ギリギリだったな』、『右に同じく』ってカッコよく返す俺たち。一瞬で固まるクラスメイトども。
『……しゅ、趣味の悪い冗談はよせよ。な?』ってジオルドが動揺しまくっていたので、二人で優しく肩ポンをしておいた。俺たちってばマジイケメン。
そうそう、意外なことにギルはテスト中に目を付けられなかった。今回は筋肉反射による回答をあまり使わず、純粋な脳筋をメインに挑んだから、一見まともにテストをしているように見えたらしい。ギル自身、『やっぱテストが一番脳筋を鍛えるのに向いてるな!』ってちょう笑顔だったよ。もう考えるのを止めたい。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、拗ねて不貞腐れたポポルとパレッタちゃんがハゲプリンをはんぶんこしたものを三つも食っているのを発見。いいか、三つを一つと半分ずつで分けてるんじゃなくて、三つをすべてはんぶんこにして食ってたんだ。
たぶん、パレッタちゃんがそう言って聞かなかったのだろう。パレッタちゃんはそういう子だ。
『ちくしょう、全然効果なかったじゃん……』ってポポルはグチグチ。他人様の髪の毛を毟っておいてこのありさまとか、俺はもうなんて反応すればいいのだろうか。
『もうちょっと毟っておけばよかったんじゃね?』ってフィルラドが言っていたので、だいぶエグめのガチハゲの呪いをかけておいた。
ふう。短いけどこんなもんにしておこう。明日もテストだし、どのみち今日はそんなに書くことが無い。
ギルは大きなイビキをかいてぐっすりと寝ている。そして相変わらず鼻は煌めいたまま。なんかちょっぴり神秘的な雰囲気さえ放っている。それが鼻の孔ではなく、水晶の中とかだったら感動するくらいに綺麗だっただろうに。
まぁいいや。とりあえず、ギルの鼻には呪われた爪でも詰めておく。なんか教室の机の中に入ってたんだよね。おやすみにりかちゃんさいきょうかわいい。