201日目 創成魔法設計演習:材料の選定について
201日目
『ジャガイモ妖精は親戚の法事にお呼ばれして地元に帰っていたイモ。あと無茶苦茶ばかり言うなイモ。前にも言ったけど少し常識ってもんを考えろイモ。ジャガイモ妖精にもできることとできないことがあるってなぜわからないイモ? 一度己が矮小さを自覚し、偉大なるジャガイモ妖精への態度を改めるべきイモ。ジャガイモ妖精がいつまでもジャガイモだと思っていたら大間違いイモ』……って殴り書きのように書いてある。なにあいつ怒ってるの?
ギルを起こして食堂へ。ちゃんと真面目に(?)テスト勉強をしているのか、けっこう眠そうなやつがチラホラ。週の真ん中はどうしたって気が抜けがちだし、その気持ちはわからなくもない。
『くぁ……っ!』って大きなあくびをするロザリィちゃんと目が合ってちょうドキドキ。ロザリィちゃん、一瞬固まった後にかーって真っ赤になった。『見るなぁ……っ!』って涙目でぽかぽか叩いてくるところがキュート。
『そんなに眠いの?』って軽く涙をぬぐってみれば、『ドレスが楽しみで、なんかドキドキしちゃって』とのこと。嬉しそうに微笑むロザリィちゃんが最高に可愛かったです。
朝食はクーラス特製のオリジナルハーブティーをチョイス。すーっとした清涼感が頭をすっきりさせていい感じ。甘さは控えめで温度はそこそこ。『そろそろ在庫が尽きそうなんだけど、新しいのにチャレンジしてみるか正直迷っている』ってクーラスは言っていた。
ギルはいつも通り『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。なぜか知らんけど、今日はエッグ婦人、ヒナたち、ちゃっぴぃ、ヴィヴィディナ、グッドビールも一緒になってジャガイモを食い漁っていた。ヒナたちのヘドバンは残像が見えるほどだし、ちゃっぴぃは『きゅーっ!』ってやたら猛って両手ジャガイモだったし、ヴィヴィディナは『ギャアアアアア!』って喚きながら鋭い触手(?)でジャガイモを串刺しにしていたし、グッドビールは「くぉんくぉん!」ってジャガイモの山に頭を突っ込んでいた。あいつらたまに謎の団結力を見せるよね。
ああ、アリア姐さんも「付き合ってあげるのも悪くないわね」と言わんばかりにジャガイモをそっと食べていた。なんだかんだで普通の食べ物も行けるらしい。ギルは見ていて気持ちよくなる食べっぷりだけど、アリア姐さんのそれはなんだか絵になりそうな感じだったことをここに記しておく。
今日の授業はステラ先生の創成魔法設計演習。『中間テスト前だと、あんまり授業が身に入らないよねー』って言いつつ杖をコンコンしながら出欠を取るステラ先生がいつも通りに可愛い。ついつい杖をコンコンしちゃう癖、俺も取り入れていきたいところだ。
肝心の内容だけれども、前回までに今回の設計に必要なあらかたの魔法要素を学んだということで、それを作るための材料選定について学ぶこととなった。今までに何度も出てきているけれども、結局のところ設計に必要な魔法強度を満たす材料でなければ、どんなに構造が良くても意味がないからね。
『基本的には、まずは設計強度を満たす材料を選ぶっていうのが最初かなぁ。次に、それが加工できるものなのかどうなのかっていうのを考えて、次に入手性の良さだとか……要は、お金の面で折り合いがつけられるかどうかを考えていくの』ってステラ先生は言っていた。
もちろん、考えるべきはそれだけじゃない。例えばその魔道具が携帯を前提としているならば、魔法的なパラメータやコスト的にも問題ない材料だったとしても、無茶苦茶重かったら使い物にならない。
特殊環境下での使用を前提としているならば、それ相応の材料にしたほうがいい……と見せかけて、設計寿命がそんなでもない、消耗品に等しい量産品であるから安くて入手しやすい材料で十分……などなど、文字通り【どんな設計思想なのか】で選定される材料はかなり変わってくる。
以下に、ステラ先生が教えてくれた材料選定のススメを記す。
・材料強度
一番に考えるポイント。設計計算において出てくる浸食魔力以上の耐魔力は必要となる。ある程度安全率を見積もっておくのがベストだけど、その辺は寸法設計でもなんとかなったりする。弱い材料を使うのは論外だけれども、かといって無駄に強すぎる材料を使うのはコストがかさむので、ほどほどの物で十分。
・加工方法
材料によって適した加工方法がある。あるいは、設計思想によって決まった加工方法について適した材料がある。材料に加工方法を合わせるのか、加工方法に材料を合わせるのかはその時の判断によるけれども(設計上この加工方法じゃないと出来ない、コスト面を考えて加工方法を統一したい、使いたい材料は加工方法が限定されるなど)、いずれにせよ材料と加工方法が噛み合っていないと加工不良を引き起こし、品質や精度の悪化、過剰加工によるコストの悪化、加工性の悪さによる歩留まり悪化など良いところがない。『とりあえずは、流造は量産性が良いけど自由度は少なくて、裂造だと自由度は良いけど量産性は悪いかな』ってステラ先生が言ってた。
・入手性
夢のように理想的な材料があっても、希少だったら使えない。世の中は厳しい。
・コスト
高けりゃ手が出せない。当たり前すぎる故に残酷。世の中やっぱり金だ。
・その他
属性魔力を扱う際の魔法材料同士の相性、魔法材料そのものの反応性(通常魔法雰囲気への反応性、生体親和性など)、コスト面の考えから、可能な限り他製品と共通化した材料にするなど。
『ホントにいろんな事例があるから、一概にこれ! って言えないんだよね。こればっかりは、経験を積んで自分のカンを磨いていくしかないかなあ』とはステラ先生。魔法の設計っていろんなことを考えなくちゃいけないわけだけれども、その大半がそれぞれ密接にかかわっているだけに、何か一つしっかり決めないと他が決まらないことも多いのだとか。故に、材料選定も何を基準にしているかで結構変わってくるとのこと。
『例えば特殊な魔法雰囲気下で使用する魔道具があったとして、それに対応できる魔法材料がすごく高かったとするでしょ? こういう時は、もっとお安くて処理性の良い魔法材料にして、その表面をコーティングしちゃえば解決できるの! そのほうが加工方法もいろんなのが使えたりするしね』ってステラ先生はにこっと笑ってウィンク。
が、『でもそうすると……例えば強度が足りなかったり、実は接合するほかの魔法材料との相性で問題が出たり……何でもないときはすんなりうまく決まるんだけど、運が悪いときはとことん他で問題が起こるんだよね』とも続く。やっぱいろんなケースがあるから、ある程度の定石を覚えた後はカンと経験と運で乗り切るしかないっぽい。
ちなみに、さっきの魔法材料のコーティング云々ってのはノエルノ先輩のところの属性処理研究室が専門としているらしい。属性処理って一括りに言っているけれどもそれだけではなく、表面を魔法的に処理することで魔法強度の向上や性質改善、新たな特性の付与なども行えるんだって。
『コスト度外視で、高性能の材料や魔法触媒をバンバン使ってでも作ることもあるし、品質は犠牲になるべくお安く大量に、かつ速く作れるように材料を選ぶこともあるし……まぁ、何もかも上手くいく理想の材料は無いんだけどね』ってステラ先生は締めくくる。『……一番の敵は、お金だよ』ってぼそって呟いてもいた。やっぱ世の中って世知辛い。
あと、ジオルドが『……そうか、だから上級生はあんなにも必死にルンルンの足を捥いでいたんだな』って呟いていた。言われてみれば、あの時上級生たちは正体不明の化け蜘蛛に対し、【怪物を見つけた】ではなく、【お宝を見つけた】ように目を輝かせ、そして迷うことなく足を切り取りまくっていた。化け物が校舎をうろついていたというのに、それよりも卒論や実験のレポートについて口走っていた。
ギル・クリーチャー素材という魔法材料としてこの上ない上等なものが、ほぼ無限に手に入るってんなら嬉しくもなるか。なんか勉強を進めるほどに見落としていた魔系の闇がどんどん深まっていく気がする。怖い。
授業についてはこんなもん。授業後の雑談中、なんか女子とステラ先生がきゃあきゃあ話していたので聞き耳を立ててみる。『やっぱりドレス、楽しみだよね……!』ってステラ先生がきらっきらした顔でうきうきしていた。可愛い。
『そういえば、ステラ先生の学生時代とかはどうだったんですか? 卒業式もそうですし、グランウィザードの着任とかでも正装って必要になりそうですし』って何気なく聞いてみる。
『……学生時代は、その、一人だけローブだったの。うふふ……主席だけがもらえるローブ……』ってステラ先生が虚ろな目で笑い出した。やべえって思った。
『主席のローブがあるから、それを着なきゃだし……それが正装だし……どうせ、ダンスを誘う相手なんていなかったし……』ってステラ先生がどこか遠くへ。『先生、行っちゃダメなの!』、『気を確かに!』ってミーシャちゃんとパレッタちゃんがマジな感じで先生を抱きしめていた。
正気に戻った先生は、
『…………一応、先生もドレス、持ってはいたの。それで、その、せめてこれくらいはって、かん、かんっ、感傷に浸りたくて……っ! お、おへやのっ! お部屋の中だけで、こっそり着ようとしたら……入らなくって』
『ママは、お金をくれたの。ドレスを着る機会なんて一生に何度あるかわからないから、この機会を逃すなって。ママがこっそり溜めていたへそくりだから、気にせず使えって。パパには内緒だよって』
『……でも、結局買う勇気は無くて。悩んでいる間に、主席のローブの話が出てきて』
『あはは……一人だけローブの私を見て、ママ、ちょっとだけ悲しそうな顔をして、でも、勉強すごく頑張ったんだね、さすが自慢の娘だわって、ぎゅって、抱きしめてくれて……』
……ってさらなる追加情報もくれた。
冗談抜きにみんな泣いたよ。女子はもちろん、男子も気づけばぽろりと涙を流していたよ。どうしてこんな不憫でいじらしいことがあるのかって……部屋の中で一人でドレスを着ようとして呆然とするステラ先生や、一人だけローブ姿の娘の姿を見たお義母さんの心情を考えたら、涙が止まらなかったよ。
『先生、絶対一緒に踊ろうね!』、『ドレスの見せ合いっこしようね!』、『今までの分、楽しまなきゃダメなんだからねっ!』って女子は泣きながら先生を抱きしめていた。男子もまた、『やっぱ俺たち、ステラ先生を幸せにしなきゃダメだ』、『俺たちが見守らなきゃ誰があの娘を見守るんだ』って決意を新たにしていた。
ステラ先生、『あ、あれ……なんだろ、どうして、どうして涙が出るんだろ……あはは、わかんないやぁ……!』って泣きながら笑って、そして幸せそうに女子を抱きしめていた。俺もそれに混ざりたかった。ちくしょう。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、女子がなんかダンスの練習をしていた。『踊ったことないし、今のうちに最低限恥かかないくらいにはできるようにしておかないと……』とのこと。『……私だってほとんど踊れないのに、そのうえなんで男役をやらされるんだ?』ってアルテアちゃんがぼやいていたっけ。
そう言いながらも律儀に付き合う気高きアルテアちゃんだから、に決まっているだろうに。俺の勘だけど、たぶんアルテアちゃんは女子の中の抱かれたい女子ランキング堂々の一位だと思う。次点は大穴でパレッタちゃんね。
というか、彼女らがすべきはダンスの練習よりもテスト勉強だろう。その辺のことは考えていないのだろうか?
ギルは大きなイビキをかいてぐっすりと寝ている。俺もテスト勉強して、ちゃっぴぃのドレスを仕上げなくては。フリフリとレースと胸元に着けるアレが意外と時間かかる。目立つ可愛いところでもあるし、気合を入れなくては。
ギルの鼻には目薬を差しておく。何気ない俺のよなべのお供だったやつ。もう空になったから最後は親友の鼻で見送ろうと思った次第。グッナイ。
翻訳していて涙が止まりませんでした。