197日目 告知
197日目
日記が縞々。この感じはマシマシシマシマシシマシシマシマシマシマくらいだろうか?
ギルを起こして食堂へ。なんか今日は良い感じに過ごしやすい気候。風は涼しくお日様が温かい……まさにお外でのんびりするのにぴったりな感じ。バスケットにサンドイッチを詰め込んでピクニックに行きたい気分。まぁ、近場じゃそんなにいいところないんだけどさ。
そんなわけで朝飯はミックスサンドをチョイス。いろんな具材が使われているたくさんのサンドイッチが楽しめる逸品……ではあるのだけれど、明らかに昨日の夕餉の残りと思われるものも使われていたりする。
【野菜炒めサンド~ちょっぴりの豆とたくさんのニンジンを添えて~】はさすがに無いんじゃないかなと思ったら、『安心しな、私もそう思っている』っておばちゃんがコメント。野菜を食べないおこちゃまが多いゆえに、この手の物は余りがちらしい。嘆かわしいことだと思う。
俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅ!』ってそっぽを向いていた。それでなお普通に食わせようとしたら『ふーッ!』って威嚇された。でも威嚇する割には今日は俺のお膝から脱走しなかった。あいつの考えていることはよくわかんねえや。
ギルはもちろんジャガイモを『うめえうめえ!』って食っていた。ミックスサンドの人気のない奴(ニンジンマシマシサンド、ピーマンマシマシサンド)も『誰も食わないなら俺食っちゃうよ!』って嬉しそうに『うめえうめえ!』って食っていた。
通りすがりのシャンテちゃんが『お野菜をきちんと食べられるのは良いことだと思うよ』って言っていた。ギルの場合、ジャガイモとそうでないものの区別がついていないだけだと思う。
さて、そんな感じで朝のひと時を過ごしていたところ、『みんな、いるー?』って私服姿ステラ先生が。うっひょう。
今日もステラ先生は本当にステキだった。秋物っぽいシックなデザインのロングなワンピースみたいなのを着ちゃっていて、大人の魅力がたっぷり。でもっておにゅーのシュシュで髪をすっきりまとめている。
先生は紺色の髪留めやシュシュがお気に入りだけれども、今日のそれも夜空を思わせるような色合いで大変ステラ先生の金髪とマッチしている。俺じゃなきゃあの微妙な違いには気づけなかっただろう。
そんなステラ先生に見とれていて、気づくのが一瞬遅れた。
『……なんで休日にこんなところに来なきゃいけないんだ』って仏頂面のミラジフ。『先生がいなくて寂しくなかったかぁー?』って妙に上機嫌なシューン先生。『おいそれ俺に一口食わせろよ!』って休日限定パフェのチョコをカツアゲするという許されざる行為をするシキラ先生。『割と和やかな朝なんですね』って相変わらず頬のこけているキート先生。
なんかウチの先生たちが勢ぞろいしていた。どういうことなの。
さすがのこの事態に、みんなの手が止まる。なんだなんだと先生方に注目が集まり、必然的に偉い人のお話を聞くモードに。パレッタちゃんだけはその隙にイチゴをバクバク食べまくっていたけれども。
みんなが集まったのを確認してから、ステラ先生が衝撃的な事実を告げた。
『再来週、中間テストが終わったら──このウィルアロンティカで、他校交流降神魔法大会が開かれるよ!』とのこと。マジかよ。
なんでもこの魔法大会、ウィルアロンティカともう一つの魔法学校とで開催されるものらしく、各学校の生徒がそれぞれ研鑽した魔法の実力を披露しあい、新たな知識の風を取り入れることでお互いを高めあう……さらには交流を深めてより魔導の高みに近づく土台を作ることを目的として開かれているものらしい。
数年に一度この魔法大会は開かれるそうなんだけれども、たまたま今年はウィルアロンティカが主催地となった。そんなわけで、再来週に件の学校から代表の生徒(とそのおまけの生徒)と先生がやってくるらしい。
しかも、しかもだ。
『この魔法大会は一週間開催されるからね! その間は──授業はお休みだぁ!』ってステラ先生がこぶしを振り上げる。
『『うおおおおおおおッッ!!』』って天に拳を振り上げてみんなが雄たけびを上げた。正直大会開催の告知よりも盛り上がっていた。あと一番叫んでいたのはなぜかシューン先生だった。
みんなの盛り上がりが落ち着くのを待ってから、さらにステラ先生は話を続けていく。『この大会では、厳正なルールに則って各学校の代表生徒が魔法の腕を見せ合うの。イメージ的には、ちょっぴりスポーツ性とバラエティ性の強い決闘みたいなものかな? ……あくまで友好のための交流大会だから、殺伐としたものじゃないよ?』とのこと。
もちろん、騙される俺たちじゃない。直後にシキラ先生が『無様に負けたらウチの学校のイメージがどうなるかわかってるよな? ……あと、この魔法大会の通称は【カチコミ】だ。当然相手もその気だぞ』と、ある意味安心な補足を入れてくれた。純粋に友好交流だけのためにやってくるとか、不気味すぎて警戒しまくりんぐっていう。
で、この魔法大会の参加者、ひいては代表生徒だけれども二年生の中から選ばれるらしい。『四年生は卒論で忙しい。一年生は意義に沿った活躍はできない。三年生だとスレ切っている。いろんな意味で、二年生が一番見ごたえがあって面白いんだ』ってシューン先生が言っていた。
『でもでも、試合の内容自体は直前まで内緒だからね! だから、参加する人を決めるのも直前で大丈夫なの! こう言っちゃうとアレだけど、二年生全員から選手を選べるウチが一番有利なんだよ!』ってステラ先生はにっこり笑顔。
『選手に選ばれるために、今のうちから闇討ちとかして実力を見せつけるのが慣例だぜ! せいぜい潰すやつの目星をつけて、自分は潰されないよう気を付けとけよ!』ってシキラ先生もにっこり笑顔。なんであの人内乱を誘発させる発言をするのだろうか?
ともかく、要点をまとめると以下の通り。
・再来週の中間テスト後の一週間にわたり、ウィルアロンティカにて他校交流降神魔法大会が開かれる。
・その間の授業はお休み。
・魔法大会の開催に当たり、別の魔法学校から代表選手団が招かれる。彼らは大会の開催中、ウィルアロンティカに滞在して交友を深めるとともに、魔法大会で鎬を削るライバルとなる。
・魔法大会の試合内容は直前まで公開されない。
・魔法大会の試合に参加できるのは二年生だけである。試合の参加者は試合直前に決めてもよい。
・友好のための大会とか言ってるけど、ただの建前である。
・無様に負けたら名前に傷がつく。そればかりか舐められる。
・実態は潰しあいである。この大会の通称は【カチコミ】である。
・魔法大会の開催の前に、友好を深めるための交流会がある。割とガチなドレスコードのある立食形式のパーティとなるので、正装の準備をする。
正装の準備を、と言う言葉を聞いた瞬間に固まる人間がけっこういた。ティキータの誰かが『あの、正装って……制服ってことですか? いつものローブで大丈夫ですよね?』って質問してみれば、『うーん……それでダメだってことは無いけど、男の子ならタキシード、女の子ならドレスを着るのが一般的かなぁ。ダンスもやるしね』ってステラ先生があごに指をあてながら答えてくれた。
『……ドレス、入らないかも』、『……そもそも持ってない』、『ダンス、したことない……!』って青くなる女子。『飲み会なのにローブとか嘘だろ?』、『バカ、ローブですらダメだとよ』、『狂ってる』って嘆く男子。この差はいったい何なのだろう?
『先生方も正装されるんですか?』って聞いてみる。『先生たちは基本的に先生用ローブが正装になるけど……でも、ローブじゃダンスはできないからね。その時はちゃんとおめかしするよ?』ってステラ先生。
もう一度書こう。
ダンスの時は、おめかしするってステラ先生は言ったんだ。
ダンスの時のおめかしって言ったら……そりゃあ、ドレスだろ? ステラ先生がドレスだぞ? ドレス、ドレスだ。わかるか、なあ? ワクワクが止まらねえよ。
『これからちょくちょく着る機会もあると思うから、いいタイミングだと思って正装を用意するのもいいかもね! ……その、いろいろ相談も受け付けているから、何かあったら先生たちのところに来ていいからね?』ってステラ先生は話を締めくくる。なんだかんだでみんな、魔法大会よりもダンスパーティ(でいいのだろうか?)のほうが気になっていたっぽい。
……ふう。ちょっとざっくりしているけれど、今日はこんなもんにしておこう。
夕飯食って風呂入った後の雑談中、ロザリィちゃんが『……ドレス、どうしよう?』ってなんか涙目になりながら抱き着いてきた。そんな姿も本当に可愛い。思わず強く抱きしめ返してしまったっけ。
『俺が何とかするから、心配することないよ』って微笑んでおく。恋人のドレスの一つや二つ、用意できなくてはマデラさんの宿屋で働けるはずが無いのだ。
唯一懸念点があるとすれば、ちゃっぴぃがまた癇癪を起こさないかどうかって所だろう。一応ミニリカのところの舞踊衣装も正装ではあるけれど……まぁ、今回の場で俺たちが着るのに相応しいかっていうと首をひねらざるを得ない。ついでになんか見繕うか。
ああ、考えることがいっぱいだ。中間テストにドレスに魔法大会。交流会での飯の支度は考えなくていいとは言え、普通に中間おつかれさま会兼魔法大会おつかれさま会は考えないといけない……いや、こっちも普通に学校主催であるのか? 明日ステラ先生に確認を取っておこうっと。
それにしても本当に書きづらい。罫線と見間違えて……っていうか、普通に横線で消しているみたいに見える。こんな中でまともに日記を書くほうがおかしいんじゃね?
まぁいいや。ギルの鼻にはカボチャの種を詰めておく。なんか夕飯のパンプキンシチューに交じってたやつね。おやすみなさい。