表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/367

193日目 発展魔法材料学:魔法衝撃試験について

193日目


 ギルのすね毛がたくましい。引っ張っても毟れない。強い。


 ギルを起こして食堂へ。なんか今日も心なし涼しい感じ。最近微妙に暑い日と涼しい日がはっきりしてきたと思う。『なんだかんだでもう秋かねえ……』っておばちゃんもしみじみとしていた。秋は食べ物がいっぱいだから結構好きだ。


 朝食はなんとなくビシソワーズをチョイス。たまには俺もジャガイモを食べてみるべきだと思った次第。スープなのに冷たいのってどうなんだ……と思わなくもないけど、ふうふうせずにするする飲めるってのはなかなか嬉しいところ。


 が、俺のお膝の上のちゃっぴぃはあまりお気に召さなかったらしい。『あーん♪』してやったのに『きゅ!』ってそっぽを向くばかり。それどころか、俺のお膝の上から脱走してロザリィちゃんのお膝の上へ。『きゅーっ♪』ってなんか美味しそうなジャムパンを『あーん♪』してもらっていた。


 『パパもどうぞ!』ってロザリィちゃんが『あーん♪』してくれて最高に幸せだった。中に入っていたのはロザリィちゃんらしくハートフルピーチのジャム。底抜けに甘くて目の前がクラクラ。『よくできましたっ!』って頭を撫でてくれるところも最高。なんでロザリィちゃんってこうも可愛いのだろう?


 ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。グッドビールもジャガイモの山に顔を突っ込んで「くぉんくぉん!」って美味そうにジャガイモを食ってたんだけど、蒸かしたてほやほやのアツアツだったからか、直後に「くぅーん……!」って舌を出して涙目に。『あっちっちーだから気を付けるの!』ってミーシャちゃんが頭をわしわし撫でて慰めてやっていたのを覚えている。


 さて、今日の授業はシキラ先生の発展魔法材料学。今日もシキラ先生は腕まくりばっちり。『ホントは半袖が良いんだけど、それやったら俺のワイルドさで女どもが授業に集中出来なくなっちまう。そうでなくとも再履でヤバいやつらなんだけどな!』って生徒を煽るのも忘れない。


 ほぼノータイムで放たれた再履女子の魔法も、『ぬるま湯みたいで味気ねえなあ!』ってシキラ先生は破壊魔法でぶっ壊していた。なんであの人、常に攻撃されることを想定して生活しているのだろう。どさくさに紛れて放った破壊魔法俺エディションもぶっ壊すしさあ。


 旧交を温めた(?)ところでさっそく授業。今日は淵性(魔靭性)評価手法として魔法衝撃試験について学んだ。


 前回までに、魔法材料の強度の評価手法の一つとして魔硬と、その試験方法について学んだわけだけれども、以前シューン先生の魔法構築学で学んだ通り、強度評価に用いる代表的なパラメータには魔硬以外に魔靭性が挙げられる。


 『魔硬ってのは単純にその材料の変形のしにくさ、傷つきにくさを表しているんだが、ぶっ壊れやすさを直接表しているわけじゃねえ。例えばめちゃくちゃ硬いやつでも、脆いから壊れやすいってのはある。魔靭性ってのは魔硬とほぼ対極にあるといっていい概念で、変形はしやすいがそれ故にぶっ壊れにくいってやつだな』とはシキラ先生。


 つまるところ、強度の評価って観点で考えると【壊れにくいほうがいい】のか、【変形しにくいほうがいい】のかその二つが挙がってくるわけで、今自分がどちらでの評価を求めているのかをはっきりさせた上で適切な評価手法を選ばなくっちゃいけないらしい。


 やっぱりこれもシューン先生が言っていた(もしかしたらステラ先生かも)けれども、魔硬と魔靭性はトレードオフな関係で、どちらかが高ければどちらかが乏しくなるという相反する性質を持っている。だからこそ、きちんとその辺を考えないといけないってことなんだろう。


 以下に、この魔靭性の評価手法となる魔法衝撃試験の概要を示す。



・魔法衝撃試験

 魔法材料は静的魔法負荷に対する耐魔力が同じでも、魔法衝撃を与えた場合に小さな抵抗(脆い)となるものと大きな抵抗(魔靭性がある)となるものが存在する。一般的に、浸食強さが大きく魔靭性がある材料ならば、静的魔法負荷をかけた際、破壊に至るまで大きく変形しつつも持ちこたえるため、見方を変えれば魔法衝撃に対し魔力吸収量が多く、魔法衝撃抵抗が高いと評することができる。一方で魔靭性に乏しい材料(多くは魔硬の高い材料)は浸食強さが大きくても魔法衝撃に対し魔力吸収量が多くないため、魔法衝撃抵抗は低いことが多い。

 このように、魔靭性は耐魔法衝撃性を評価するのに有効な要素である。魔靭性は魔法衝撃試験によって測定され、その代表例としてシェルパー衝撃試験が挙げられる。原則的に、魔法衝撃試験は試験対象に衝撃的な一撃を加え、その前後の状態を比較して評価するため、あまりに弱すぎる材料ではまともな評価にならないばかりか、適切な条件での試験を行わない場合、たとえ試験手順が間違っていなかったとしても大惨事になる可能性がある。


・シェルパー魔法衝撃試験

 ブランコと風車と振り子をミックスしたようなグレートな魔法仕掛けのハンマー(ハンマー先端部には測定圧子的なもの:測定条件によっていろんな材料、形状のものが用いられる)を、測定対象に向かって思いっきり『オラァッ!!』って魔法的に降り下ろし、対象をぶっ壊したハンマーがどれだけ勢い余って持ち上がるかってのを評価する試験。最初にハンマーを持ち上げる高さや角度は決まっているから、勢い余りまくったやつは魔法衝撃を吸収しなかった材料(魔靭性が低い)で、全然吹っ飛ばなかった奴は魔法衝撃を吸収しまくったね(魔靭性が高いですね)って評価になる。



 『ぶっちゃけやってて一番爽快感のある試験だよな!』とはシキラ先生の談。結構な勢いでハンマーが振り下ろされ、そしてそれなりにデカい音が出るものだから、言葉にしがたい快感を覚えるのだとか。『綺麗に吹っ飛んでいったときなんてもう、すんげえ気持ちいぜ……!』とのこと。


 また、『嫌いな奴を想像しながら試験するといつもより魔靭性が低く出る気がする。嫌いな奴の似顔絵を試験片に貼った時も同じ結果となった』ともシキラ先生は言っていた。


 『それって評価手法としてどうなんですか?』ってクーラスが質問。『甘いな。試験なんて結果がすべてだ。いい例を教えてやろう』ってシキラ先生は得意顔。


 『学生時代、修論を提出したら教授に「こんなデータあり得ない。捏造だ」って文句を言われた。でもそいつの目の前で同じように九九九回吹っ飛ばしてやったら納得してくれた。やっぱ統計的な検証って大事だよな!』ってシキラ先生は教えてくれた。


 いいか、もう一度書こう。


 シキラ先生は、【そいつの目の前で同じように九九九回吹っ飛ばしてやった】って言ったんだ。一回二回ならともかく、多忙であろう教授に対し、どうして九九九回も見せつけられたというのだろう。


 はっきりしているのはただ一つ。アルテアちゃんがおそるおそる聞いた『……その、試験片には誰の顔が描かれていたんですか?』って質問。


 シキラ先生は、『捏造だと決めつけた俺の査読担当の教授だよ! キリのいい千回目の試験ができなくて残念だったぜ!』ってちょう笑顔で言い切った。やっぱシキラ先生はシキラ先生だった。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日の授業はいろんな意味ですごくわかりやすかったからか、ポポルもミーシャちゃんも復習が必要ないくらいにきちんと理解してくれていた。『見てて詰まんない試験が魔硬試験、見ていて面白いのが魔法衝撃試験なの』、『むかつくやつをスカッとぶっ飛ばしたいときにどうすればいいのかってのが魔法衝撃試験だよね!』って二人は笑顔。あながち間違っていないから別にいいか。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。なんとも恐ろしいことにこいつ、『絶対俺のほうが「強い」に決まってるんだよなぁ……?』って教科書の魔法衝撃試験機にメンチを切っていた。ある種の嫉妬みたいなものだろうか。俺、時々本気でこいつの頭の中身が大丈夫なのか心配になってくる。冗談抜きにマジで。


 まぁいい。ギルの鼻には魔法衝撃吸収試験によってぶっ壊されたサンプル試験片を詰めておく。シキラ先生がお手本(?)として研究室に置いてあったのをかっぱらってきてくれたやつね。『出しっぱなしだったってことはどうでもいいやつだろ。知らんけど』って言ってた。おやすみにりかちゃんまじえれがんと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シャルピー衝突実験はどうしても某裸と酒と時々ダイビングな漫画を思い出して股間が怖くなる
[一言] > シェルパー魔法衝撃試験 あ、某ダイビング系ギャグ漫画でネタにされてたやつの類似形だ 吹っ飛ばされたのが急所じゃなくてよかったね(w 本命:ギルが金属質 対抗:異常魔力物質 大穴:ギルが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ