192日目 魔法流学:境界に働く魔圧力について
192日目
ギルの頭から角が生えてる。シンプルだなって思った。
ギルを起こして食堂へ。早速ギルによじ登ったミーシャちゃんが『……角生えてるの!』ってびっくりしていた。『冷たいようなあったかいような……硬いような柔らかいような、不思議な感じなの』って角をにぎにぎ。意外とクセになる触り心地らしい。
朝食はミネストローネをチョイス。最近食べていなかったと思った次第。『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃががぶがぶ飲むのは良いんだけど、お口周りが大変悲惨なことになっていたことを記しておく。
でも、『しょうがないなぁ……!』ってちゃっぴぃのお口を拭いてあげるロザリィちゃんが最高に可愛かった。出来れば俺にもやってほしかったけれども、生憎俺のお口は汚れてなかったのでそれは敵わず。そしてロザリィちゃんのお口も綺麗。嬉しいのに残念とはこれ如何に。
ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。なんかジャガイモを食べるたびに角が伸びていたように見えたけど……気のせいじゃないだろう。ギルはそういうやつだ。
すごくどうでもいいけど、朝食中に『昨日すごく大変だったんだぞ!』ってティキータのゼクトに絡まれた。なんでも、一昨日のボール遊びを覚えてしまった使い魔たち(主にメリィちゃん)にせがまれ、ほぼ一日中ボールを投げる羽目になったのだとか。『あの子たちの体力、正直侮ってた……もうクタクタだよ』ってライラちゃんもお疲れの様子。なんだかんだでちゃんと付き合ってあげている当たり、ゼクトも優しいのだと思う。
さて、今日の授業はミラジフの魔法流学。ミラジフのやつ、教室にやってきてギルを見るなり『……今日は比較的まともだな』って言っていた。
人間の頭から角が生えているのにまともとか言うなんて、あいつの頭はどうなっているのだろう? 一週間前にはなかったものが普通に生えてきているってだけでおかしいというのに。やっぱあいつもしかしなくとも正気じゃないんじゃなかろうか。
肝心の授業内容だけれども、平面に働く……具体的には、流体的な魔力とその境界に働く魔圧力について学んだ。前回はパソクラの定理により流体内の魔力状態について学んだわけだけれども、じゃあ流体とそれ以外の場所の接触状態はどうなってんのってやつね。
『当然、この概念にも流体が静的か動的かを検討する必要がある。動的な流体については諸君らでは理解できそうにないから、まずは静的なものから覚えていけ。それすらできないものは知らん』ってミラジフは嫌味たっぷり。あの人、まともに人にものを教える気があるのだろうか。
とりあえず、板書したそれを下記に記しておく。
・平面にかかる魔圧(全魔圧、魔圧中心)
魔法的流体が一般的な状態で魔法的な固体と接しているとき(ここでの一般的とは、接触面が一様で水平であることを指す)、その境界面に働く魔圧は、その魔法的固体が理想的な魔法流体と置き換えられた時と同等のものとなる。これは境界面について着目し、その微小要素について触媒反応学、魔法流学的なから証明することができる。
流体魔力平面に魔圧が作用するとき、パソクラの定理より各部位に働く魔圧はすべて一様であることから、魔圧による合力が存在する。この合力を全魔圧と呼ぶ。合力の作用線と平面の位置から割り出せる幾何学的関係により、魔圧中心を求めることができる。よって、各部位に働く魔圧の合計が全魔圧となり、また魔圧中心に全魔圧が作用した際のサークリアは各部位の魔力のサークリアの合計したものに等しい。
難しく書いたけれども、【流体と接触しているなら、固体でも流体と同じような魔圧が生じる】ってだけの話。一般的なケースなら、流体とか固体とか関係なく魔力のつり合い計算を適用させることができますよってのをわかりにくく言っているだけ。
微小要素云々ってのも証明の際に必要な事柄ってだけで、言いたいことに直接かかわってくるわけじゃあない。重要なのは、魔圧中心と全魔圧を把握しておけば、細かい部分をいちいち計算して足し合わせる……なんて面倒くさい真似をしなくていいってところだ。
ただ、いかんせんその後の式の証明が面倒くさすぎた。ミラジフの野郎、こっちのことなんてお構いなしにどんどん書き進めていくものだから書き取るだけでもめっちゃ大変。普通こういうのって生徒の理解度を確認しながら進めていくものじゃないの?
あとミラジフのやつ、『質問する前に教科書とノートをよく読め。大抵の疑問はそれで解決する。時間が無いんだからこちらの手を煩わせるな』とか言ってくるんだよね。教科書だけで何でも解決するってんなら教師がいる必要ないのに。
すごくどうでもいいけど、今日はなんかヴィヴィディナが授業中に荒ぶっていた。特に何かしたってわけじゃないんだけど、ただひたすらに俺たちの足元をカサカサしまくっていた。ミラジフに見つからないようにカサカサするあたり、ヴィヴィディナってすごいって思った。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか今日は割と平和で特にイベントごとは無い。せいぜいが、風呂場でゼクトが滑ってケツをしたたかに打ちつけていたくらいか。結構な頻度でシャボンカーニバルを開催するから、だいたい週に一回くらいはケツを打ち付けるやつがでてくるんだよね。
あと、フィルラドが髪を梳かしているアルテアちゃんをぼーっと見つめていたのを覚えている。『なんかたまに無性にアティの髪をくいくい引っ張りたくなるんだけど、髪を触ろうとするとアティ嫌がるんだよな』ってフィルラドは言っていた。単純にムードとタイミングの問題だと思う。
その証拠に、ロザリィちゃんは俺の手が空いているのを見ると『なーにサボってんだぁ?』って自分から俺の手を取り、頭の上にぽんっておいてくるっていうね。『頑張ったからご褒美ちょーだい!』って真っ赤になりながらおねだりしてくるところなんて、もう最高に可愛くて言葉がでない。もちろん、全力で撫でまくったとも。
ギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりと寝こけている。いつも通りタオルケットがうっちゃらかされていて見事な腹筋がモロ出しになっていたので、優しい俺はそっとタオルケットを奴の腹にかけてあげた。俺ほど優しい人間、この世に何人いるのだろう?
ギルの鼻にはギルのすね毛を詰めておく。適当なものが見つからなかったから、その場で毟った次第。みすやお。