19日目 発展魔法陣製図:マジックフランジの製図【2】
19日目
ギルの指毛がにゃんこのおひげ。人間の体ってすげーな。
ギルを起こして食堂へ。雨が降っていたからか微妙に食堂内が寒い。春先でだいぶ温かくなってきているとはいえ、お日様の光が無いと風邪を引きそうな感じ。
『きゅーっ!』ってちゃっぴぃが俺のローブの中に入ってきたのでとりあえずぎゅっ! ってしておいた。あいつの体温って高めだから、湯たんぽ代わりとしては最高だ。油断するとヨダレ臭くなるのが難点だけれど。
朝食はちょっと贅沢にクラムチャウダーをチョイス。貝の旨味が十分に活かされていていてなかなかにグッド。その他の野菜もたっぷり使われているうえ、出来立て熱々で飲むと体がぽっかぽか。
おこちゃまポポルは『うめえうめえ!』って口を汚しながら二杯も飲んでいた。ちゃっぴぃも『きゅーっ♪』っていつも以上に俺に『あーん♪』を強要してきた。自分が食べる時間よりちゃっぴぃに食わせる時間のほうが長い気がするのは気のせいだろうか?
ギル? 『うめえうめえ!』って普通の蒸かしたてジャガイモの山をガツガツ食ってたよ。ピカタとソテーも猛烈な勢いでヘドバンしながら食ってたし、ローストとマルヤキは我を失っているギルに喰われそうになっていた。グリルとポワレはジャガイモの山から頭が抜けなくなってジタバタしていて、『いつまで経ってもこいつらは成長しないな……』ってアルテアちゃんがさっと救出していたけれど。
さて、今日の授業はシキラ先生の発展魔法陣製図。『この時期の雨はちょっと寒いよな!』ってシキラ先生は超笑顔で出欠を取る。あの先生、普通に腕まくりしていたけど誰も気にしない。というか、あの人真冬でも腕まくりしてなかったけ?
内容は前回に引き続き、マジックフランジの製図を行う。教科書にあるお手本とこの前シキラ先生が通達した注意点通りにぼちぼちと進めていく。
やっていて思ったけれど、はめあいの規格とか魔法陣表面粗さとか、一年次に習ったことを普通にフルで使わなきゃいけなくてビビる。これが(一応)ガチの製品の製図ってことなのだろう。
途中、マジックフランジそのものとしての材料がわからなかったので聞いてみることに。単純な魔力のみで製陣するのか、あるいは魔法物体を用いて魔道具に組み込む形(ある種の実態を伴った形)で製陣するのかで結構いろいろ変わってくるっぽかったんだよね。
その結果、『前回言ったかもしれねえけど、基本的にこの手の共通部品は既製品だったり、大量生産を前提として設計するんだよな。だから材料は安価で扱いやすく、それでいて入手しやすいものにするべきだ』との回答を頂く。全然答えになっていないと思ったのは俺だけじゃないはずだ。
そんなわけで、『……この前作ったジャムクッキーが余ってるんですけど』ってローブの中で秘蔵のクッキーをちらつかせる。『飴玉もつけろ』と強請られた。強欲な人ってやーね。
ともあれ、クッキーとキャンディを渡した結果、『大量生産を前提にした設計とはすなわち、流造やそれに類する陣造法を前提とした設計だ。角は基本的にアール処理して、クソみたいに複雑な形状をしていなければそれでよろしい。材料に関しては便覧に載っているそれっぽいので構わん。この手の汎用部品程度で便覧に載っていないような特殊材料なんて使ってられねえよ』って教えてくれた。
ガチな魔法材料を使った場合、使用者側(購入者側)がその性質を一から調べ直さなきゃいけなかったりするからあまり喜ばれないそうな。値段も高くなりがちだしね。
ちなみにだけど、『シー処理したら単位やらねえからな!』ってシキラ先生は超笑顔で言っていた。なんか昔、すんげえ丁寧に今の説明を行い、流造の特徴としてシー処理は行わないっていうのを口酸っぱくして教えたのに、全員がシー処理で図面を提出してきたことがあったらしい。『他学科の連中もよぉ、こっちに学生回すんなら最低限のことくらい教えてから回せってんだ!』ってシキラ先生はずっと愚痴を言っていた。
……俺たちも流造はシー処理しちゃダメって習った覚えないんだけど。なんとなくいつのまにか覚えていたけれど、少なくともこの日記に書いたことは一度たりともないはずだ。
流造に関する注意ってことはシューン先生の授業だろうか。日記に書いていないだけでノートには書いたんだっけ? なんにせよ、いつのまにやらみんな当たり前のように理解しているってのはちょっと不思議だと思う。これが魔系に染まってしまったということなのだろうか。
いつの日か、ピュアな俺もクレイジーの仲間入りをしてしまうのだろう。ちょう怖い。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、『今日はちょっと冷えるねー?』って言いながら、湯上りロザリィちゃん(!)が俺と一緒に悪夢椅子に座ってくれた。普通にぐぐいっ! って感じで体を押し付けてきて、『あったかぁ~い!』ってすんげえ笑顔。
もうね、なんかもうね、めっちゃいいにおいがするし、めっちゃやわらかいし、あとくすぐったくてこそばゆい感じがしたよね。ほんのり上気したピンク色のほっぺが目の前にあるし、魅惑のうなじもマーヴェラスにエレガント。俺もうロザリィちゃんのためならなんだってできるわ。
しばらくそんな感じで二人でイチャイチャしてたんだけど、途中でちゃっぴぃが『きゅーっ!』って俺たちの膝に飛び乗ってきたため幸せの時間は終わる。ちょっと腹が立ったので、ちゃっぴぃの髪を乾かすついでに奴の頭を前衛アートにして遊んでおいた。『おいたはダメだぞっ!』ってちゃっぴぃを抱っこしながら俺のおでこをこつんってするロザリィちゃんがマジプリティ。
『ふーッ!』ってちゃっぴぃに思いっきりビンタされたのだけはわけわかめ。俺なんか変なことしたっけ?
ギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりと寝ている。俺の動きを丸々コピーしているから、製図に限って言えばギルは何の心配もしなくていいはずだ。そのぶんどこかでこき使ってやろうと思う。
特に詰めるものが思いつかなかったので、床に落ちていた埃を詰めておいた。今度時間を見つけて掃除しておこうっと。