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188日目 魔導工学:レグレンジェの方程式について

188日目


 ギルの乳毛がツインテール。とりあえず一房毟っていた。


 ギルを起こして食堂へ。ツインテールな乳毛という世にも珍しいそれにみんな開いた口がふさがっていなかった。俺だってそんなの想像だにしていなかった。人間の可能性って本当にすごいと思う。


 『ご利益ありそう。とりあえず拝んでおくなり』ってパレッタちゃんはギルのツインテール乳毛に手を合わせる。『毛根に効きそうなの。ダメでも損はないの』ってミーシャちゃんはグッドビールにギルの乳首あたりを舐めさせていた。構ってもらえてうれしいのか、「へっへっへっへっ!」ってグッドビールが思いきりじゃれついていたのを覚えている。


 『頭がおかしくなりそうだ』ってアエルノのラフォイドルが眉間にしわを寄せていた。『同じことをミラジフも言っていたぞ』って言ったら、『よく見れば普通のことだな!』って見事な手のひら返し。そんなにミラジフとお揃いが嫌だったのだろうか。


 『お前も気苦労が多くて大変だな』ってクーラスが特別にラフォイドルにスペシャルハーブティーを淹れてあげていた。『……お前がルマルマの組長だったらよかったのにって今思った』ってラフォイドルは言ってたけど、わが親友はいったいどういう意味であんな発言をしたのだろうか?


 なお、乳毛ツインテールは引っ張って遊んでいたポポルが勢い余って全部毟ってしまった。『あっ、やっべ』って呟きの瞬間には食堂全体に響き渡るほどにブチィッ!! って音が聞こえたんだけど、あいつの毛根どれだけ鍛えられていたのだろう?


 ちなみにそんなに痛くなかったっぽい。毟られた瞬間も、ギルは『うめえうめえ!』って心底嬉しそうにジャガイモ食ってたしね。


 今日の授業はテオキマ先生の魔導工学。前回の日記にある通り、この前はテオキマ先生が学会で自習だったため実に二週間ぶりの授業だったりする。


 『きちんと自習したかどうかは、まぁテストの日を迎えればわかるわな。社会で戦う人間なら結果がすべてだ。結果が出ていればそれ以外はどうでもいい。教育機関としても、やる気のないものに救いの手を差し伸べる義務も理由も義理もないから、そこは覚えとけ』ってテオキマ先生は出欠を取りながら言っていた。一部の人間がブルっていたことを記しておく。


 肝心の授業内容だけれども、今日はレグレンジェの方程式について学んだ。もう何度も出てきている通り、基本的に魔力ってのは形態こそ変われど閉じた系であるならば保存則が働き、最初と最後でその総量は変わらない。故に、つり合いの式を立てることができればだいたいのことは導出できたりする。


 このレグレンジェの方程式はその釣り合いの式の一つ。具体的には魔法エネルギーとポテンシャルエネルギーで表されるレグレンジェ関数を用いて、対象となるそれを微解、積構を贅沢にふんだんに使ったクソ意味が分からん式で表すってやつ。


 いや、マジでその通りだから困る。上手く言葉で表したいのに、結局先生の口から出てきた説明が『以下の式によって定義されるものをレグレンジェの方程式と呼ぶ』……くらいしかないんだもの。レグレンジェ関数だって、教科書には『以下で定義したレグレンジェ関数を用いて~』っていきなり登場しただけで、それが何なのか、どうして勝手に定義したそれを計算に用いているのか、その辺の説明がマジで一切ない。舐めているのだろうか?


 というか、『~となるのでレグレンジェ方程式はこの通りになる』って説明で、果たしてそれは教えたことになるのだろうか? この俺が何度も教科書とノートを見直しているのに、マジで何を言っているのか意味不明。数式ばかりがひたすら書かれていて、間に挟まっている文章は『~なので』、『~よって』、『すなわち』、『となる』くらいしかない。【なんで】そうなるのか、【どうして】そうするのかっていう肝心なところが書いていない。こんな教科書ってないだろ?


 ちなみに、例によって例の如く、テオキマ先生の授業だから板書を取るだけでも精いっぱい。書かれたことの意味を考える時間なんてあるはずがない。『社会じゃ待ってくれる奴なんていない』ってテオキマ先生は言うけれど、ここは社会じゃなくて学校だ。


 それに社会だったら、『うるせえ』の一言でぶん殴れば解決できる。そもそも、客に対して横柄だったり、チームの和を乱したり、仲間のことを慮れない奴は早々に排除される。テオキマ先生の言う社会とは、もしかしたら何か別の地獄のことを指しているのではなかろうか。


 ある意味当然だけど、ミーシャちゃんもポポルも絶望してた。ロザリィちゃんも涙目。クラスのほとんどがそんな感じで泣きそうになりながら板書を取っていて、クーラスも『クソが』って眉間に皺を寄せながらペンを握っていた気がする。アルテアちゃんは『全くわかんないけど、せめて板書くらいはきちんと取らないとホントのクズになるから』って女の子がしちゃいけない顔で頑張ってたよ。


 一方でギルは笑顔で先生をじっと見ていた。『努力くらいはしてみろよ』って小声で注意したら、『どうせ俺が頑張ってもあまり意味はない。板書だってみんながとってくれている。なら俺は、俺しかできないこととして、あの先生の隙を、弱点を、弱みとなりうる何かを探る』って真剣な表情で答えてくれた。こいつも成長したんだなと不覚にも泣きそうになった。


 なお、『右半身に比べて左半身が若干弱い(●●)。筋肉の使い方のバランスが悪いんだろう。崩すとしたらそこからで、一度流れを掴めばボコボコにできる』ってギルは言っていた。


 俺たちにとっても、テオキマ先生にとっても。この知識を使う日が来ないことを強く祈る。


 一応書いておこう。あくまで俺の解釈だけど、レグレンジェってのはおそらく座標変換する時に便利な式の形だと思う。そもそも魔力量保存の観点から、なんでわざわざわかりきったことをレグレンジェという特別な形で表し直しているのかって思ったけど……そうするからにはそれなりのメリットがあると考えるのが自然だ。


 でもって、レグレンジェの方程式はあくまで魔法的エネルギーのみで成立している。普通のつり合いの式では考慮しなくちゃいけない向きの概念を取り入れた要素がない。ということは、別座標系で再構築するときに一切の煩わしい変換は無い……と思う。


 向きの概念がないってことは、たぶん二回微解だとか微解方程式もやんなくていいはず。というか、そう信じたい。


 まぁ、いずれにせよ俺の記憶とノートとクソの役にも立たない教科書から導き出した推測に過ぎない。今度これを口実にステラ先生に勉強を教えてもらおうと思う。ステラ先生が教えてくれるなら、きっと完全に理解することができるだろう。


 授業の最後、クタクタに疲れてみんなが机に臥せっていたところ、テオキマ先生が『退出する前に、各自私のところに来るように』などと恐ろしいことを言い出した。怖い。


 当然、みんな動きたがらない。何が起きるかわからない以上、一番だけは嫌だったのだろう。俺だってそう思う。


 が、みんなからの「イケニエ、よろしく!」の視線を受けて仕方なく一番乗りをしてみれば、『真っ先に動けるやつは出世するぞ』ってにやって笑ったテオキマ先生が……


 ──なんか結構なデザインが施されたボンボンショコラをくれた。わーぉ。


 なんでもこれ、新しい流造の技術を応用して作られたものらしい。(技術が確立すれば)今までにないくらい低コストでより高精度、より精密、より自由な形状での流造が可能になるのだとか。『先週の学会で発表されたテーマの一つで、デモンストレーション兼サンプルとして大量にもらった』ってテオキマ先生は言っていた。


 実際、マジでいい感じのボンボンショコラだった。俺のは天使の翼を模したものだったんだけど、これが普通に大量生産できるとか夢が広がると言わざるを得ない。特に、最先端の技術をチョコを作ることで証明するって言うそのお洒落心が気に入った。


 しかも普通にデリシャス。いいチョコ使ってる。この手のチョコって成形しやすさ重視のチョコだから味はお察しなのに。マデラさんのところでお土産として採用してもいいくらい。発表者も、それだけ力を入れていたってことだろう。


 疲れ切っていたみんなも、俺がもらったそれを見た瞬間にこぞって先生の前に群がる。もちろん、グレートなデザインとそうでないデザインが混じっているわけで、目当てのそれを取れなかった人は『ずーるーいー!』って男子に絡んで強奪していた。


 『だからいつも言っているだろう。わからなくてもとにかく手を動かせ、速く動くようにしろと』ってテオキマ先生。『もちろんただ渡しているんじゃない。きちんと観察して、この流造技術がどうなっているのか、自分ならどう応用するのか……そういう魔系的な観点を鍛えてから食べるように』って続けるも、すでにポポルとミーシャちゃんのお口はチョコ塗れ。そういうことは早く言わないと。


 最終的に、『まぁ、餌で釣ってやる気を出しているだけだ。言っただろう、結果がすべてだと。この程度でキミらがきちんと通用する人間になるなら、惜しいことなんて全然ないわな』ってテオキマ先生は締めくくった。厳しい先生だけど、意外と悪い人ではない……かも?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中もボンボンショコラが話題に。ロザリィちゃんのは『なんか綺麗な女の人の横顔が象られていたよ!』とのこと。『それはもしかして、キミの横顔だったりしない?』って囁いてみれば、『おだてても何も出ないぞぉ?』ってロザリィちゃんがほっぺにキスしてくれた。わぁい。


 あと、ジオルドは『高級で珍しいチョコを食べられたのは嬉しい。でもどうせなら、最新の流造とか勉強のこととか絡めずに、純粋に楽しみたかった』ってぼやいていた。気持ちはよくわかる。


 ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。なんだか俺も妙に疲れた。やはり寝る前に式だらけのノートを見返し、理解しようとするのはかなり堪える。真面目な俺じゃなきゃ音を上げているっていう。


 ギルの鼻にはボンボンショコラが入っていたお洒落な箱のふたについていたエレガントなリボンを詰めておく。せめてこいつくらいはってことでちゃっぴぃのお土産用にもらったんだけど、あいつ興味を示さなかったんだよね。ヒナたちのおもちゃにもならなかったし……ちょっと予想外だったよ。みすやお。

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― 新着の感想 ―
[一言] ギルの頭がリボンに、一票。
[一言] > 【なんで】そうなるのか、【どうして】そうするのかっていう肝心なところが書いていない。 これの理由って二択ですよね 恐ろしく難易度が高くて生徒側が理解できるレベルじゃないか、恐ろしく長くて…
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