187日目 創成魔法設計演習:回転系要素の設計講義
187日目
ギルのお肌がきめ細かい。なぜ?
ギルを起こし、ちゃっぴぃをお姫様抱っこして食堂へ。今日もちゃっぴぃをお膝の上にのせてハムチーズトーストを『あーん♪』してやっていたところ、なぜかちゃっぴぃが『きゅ! きゅ!』って頭を俺にぐしぐしと押し付けてきた。
なんだこいつと思っていたら、今日も素敵なロザリィちゃんが『たまにはパパに髪をセットしてもらいたいんだよねー?』ってにっこり。『きゅ!』ってちゃっぴぃも胸を張る。
そんなわけでちゃっぴぃの髪をツインテールにデコってみた。若くないと出来ない恰好は若いうちに存分にやらせておくに限る。我ながらなかなかの出来栄えだったと言えよう。
ちゃっぴぃのやつ、『きゅん!』ってにこにこ笑いながら尾っぽ&ツインの髪でよくやったといわんばかりに俺をぺしぺし叩いてきた。何気に器用だと思う。
何とも嬉しいことに、『じゃあママもお揃いにしちゃおうかな!』ってロザリィちゃんもツインテールに。『ちょ、ちょっと子供っぽい……かな?』って恥ずかしそうにはにかむ姿がもう本当に最高に可愛い。ツインテールも見事に己がモノにして見せるロザリィちゃんがマーベラスにキュート。そもそも、ロザリィちゃんに似合わない髪型なんてあるのだろうか。いや、ない。
そうそう、『じゃああたしもやるの』ってミーシャちゃんもツインテールに。ただ、いつも似たような感じでリボンをしているから特別珍しい感じもしない。パレッタちゃんも『乗るしかない、この波に』ってヴィヴィディナをリボンにしてツインテールにしていたけれど、まぁパレッタちゃんだ。あらゆる意味でコメントが思いつかない。
その他女子も『たまにはいいかもね!』、『こーゆー機会でもないとできないよね!』って次々にツインテール。アリア姐さんもツインテールにさせられていたし、なぜか俺まで猛るちゃっぴぃに『きゅーっ!』って無茶苦茶にツインテールされた。怖い。
ルマルマがみんな仲良くツインテールしていても、ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。『ノリで男子までツインテールにするルマルマに恐ろしさを覚えるし、そんな中いつも通りにジャガイモを食べる彼はもっと不気味に思える』ってシャンテちゃんがルマルマをヤバいものかのように見ながら言っていたっけ。
今日の授業は創成魔法設計演習。ツインテールのルマルマを見て、わが女神ステラ先生は『わぁっ!』って目を輝かせた。『いいなあ、みんなかわいいなあ!』ってそりゃもう本当にうれしそうな顔でにっこり。荒んだ心が浄化されまくった。
ちょっと不思議なのは、『──くんのそれは……その、ツインテールなの?』って首を傾げられてしまったことだろうか。俺の髪の長さじゃどう贔屓目に見てもツインテールには見えようがない。なんか妙な位置に妙な感じで縛っているとしか思えないだろう。まぁ、ちゃっぴぃが自慢げに俺を見せびらかしていたからそのままにしてやったけどさ。
肝心の授業内容だけれども、今回は回転系(回転軸)について学んだ。前回までに風魔法として重要な羽車要素、さらにはそれを囲う匣的な要素について学んだわけだけれども、当然これだけでは魔力を流しても風は発生しない。そもそも羽を回すための回転軸ってものが必要になってくる。
『羽根車要素……ほとんどの場合は回転するタイプの魔法陣だけど、それを回転させるために純粋な魔力を性質変化させたうえで伝達させる要素が必要になってくるの。ここが上手く設計できていないと、与えた魔力に対する出力の効率がガタ落ちしちゃうから、結構気を付けないとだよ!』ってステラ先生がきりっ! って感じで教えてくれた。今日も最高にステキだった。
とりあえず、この軸回りの設計要素についてざっくりと記す。
・共鳴回転数
何回か前の授業でも出てきたアレ。全ての魔法体はその特性(材質)、状態、形状などによって決定される固有共鳴数を持っているわけだけれども、それと合致する回転速度で魔法陣を動かすと共鳴して出力(?)が無限大になりぶっ壊れる。よって、この軸要素も想定する設計上の魔法陣回転数と外したところに固有共鳴数を持っていくように設計しなくちゃいけない。
・羽根車要素やマジックバンドの荒れ魔応力
羽根車要素や伝達要素であるマジックバンドにも荒れ魔応力が生じる。求められる出力が大きい程、当然それを伝達する軸要素にも大きな負荷がかかるので、少なくともそれに耐え得る設計を行わないといけない。なお、実際は触媒反応学や魔法材料学、魔導工学(共鳴学)的な観点から、理論上静止状態でなら耐えられる魔法負荷以下のところでぶっ壊れる可能性あり。
・最大ディフレクション(たわみ)
読んで字のごとく。ほかの要素をクリアしていれば自然と大丈夫になることが多いらしい。ただし、よほどトンチンカンな陣造精度の場合、【寸法は間違いなく図面通りなのに、たわみがマジでヤバい】ことになるとかならないとか。『数字があってればいいってものじゃないのにね……』ってステラ先生がどこか遠くを見つめながら言っていた。
・浸食
前にも出てきたけれど、魔法材料同士の相性を考慮しないとそもそもとしてまともな設計計算ができない。循環させる魔法流体や羽根車要素の魔法材料によっては、そもそも軸の魔法材料とケンカする場合がある。また、羽根車と軸なら大丈夫、軸と循環魔法流体なら大丈夫でも、三つそろった瞬間に軸が触媒として作用してしまったり、あるいは三つともが一気に何かしらの反応を起こす可能性があったりする。一見なんて事のない場合でも、長期使用による劣化のせいでダメになったりってこともあるらしい。
ざっくりこんなもん。基本的には単体ではなく全体を考慮して設計しろって感じ。あと、あらゆる分野の知識を集合させないときっちりした物は作れないって認識で大丈夫だと思う。
『聞いていてわかったと思うけど、ホントにいろんなことを考えないといけないからね……。先生もこれ! って言いきることはできないし、試作後のテスト段階でやっと明るみになる問題もあるし……今までの人たちの積み重ねがあるから授業でこれだけ教えられるけど、まだまだ全然完璧じゃないんだ』とはステラ先生。実際、ガチに有効な知識はノウハウとして秘匿されていることが多いらしい。『そこはまぁ、頑張った自分たちの正当な権利なんだけどね』ってステラ先生は言っていた。
授業についてはこんなもん。それよりももっと大事なことを書き留めるべきだろう。
授業後の雑談にて、『先生もルマルマなのだから、みんなとツインテールでお揃いになるべきでは?』って指摘してみる。最初は『さ、さすがに先生みたいなおばさんには無理だって!』って先生は恥ずかしがっていたけれども、『生徒と一緒にいても違和感ないですよ!』、『むしろ最初に見たときは生徒だと思いましたよ!』って男子が口々に叫ぶたびに、『えへへ……そうかなあ?』ってなんか満更でもなさそげに。
最終的に、『お揃い、いや?』ってパレッタちゃんのあざといポーズてステラ先生は陥落。『ちょ、ちょっとだけだからねっ! ホントにちょっとだけだからねっ!』って髪をしゅるしゅるとまとめ出した。
いやはや、マジで天使かと思ったよ。ツインテール姿のステラ先生も最高に可愛い。無邪気さとあどけなさと、可愛らしさとステラ先生らしさが最高。赤くなって恥ずかしそうにしているのに、それでも褒めてほしいとおねだりするようにちらちらこちらを見るところなんて……ああ、もうマジであの姿が目に焼き付いて眠れそうにない。
男子みんな、『かわいい』って言ってた。女子もみんな『かわいい』って言ってた。『えへへ、やったあ!』って嬉しそうに笑うステラ先生がエクセレントにグレートだった。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、『そろそろ外していいだろ』ってアルテアちゃんがツインテールを解こうとしたところ、フィルラドが『いつもと違う可愛さのアティを、今日は最後まで見ていたい』とか浮いたセリフを吐いて止めようとしていた。
当然、アルテアちゃんはめっちゃ恥ずかしがる。『似合ってないのは自分が一番よくわかってるから!』って真っ赤。でもフィルラドは素で『いや、ホントに可愛いから』って無自覚で攻めまくっていた。
せっかくなので俺も『かーわーいーいー!』って声を上げてみる。ひゅって風を斬る音。髪の毛が数本持ってかれた。『次は当てるぞ』ってギルギルしいポワレを掴むアルテアちゃん。怖い。
あと、『こっちにもっと可愛いのあるんですけど?』ってロザリィちゃんがぷーっ! って口を膨らませて俺に抗議。こいつぁ一本取られたと言わざるを得ない。いつの間にか抱きしめられていて、気づけばアツアツのキスをしてしまっていた。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。なんだかんだでツインテールのことしか書いていないけれど、たまにはこういう日があってもいいだろう。適度な息抜きがないと、クレイジーなこの魔系の世界で正気を保っていられないからね。
ギルの鼻にはツインテールの残骸を詰めておく。より正確にいえば、ミーシャちゃんがグッドビールを無理やりツインテールにしようとしてブチィッ! ってやっちゃったやつ。『……見なかったことにするの! ちょっと多めの抜け毛なの!』ってなぜか俺に渡してきたんだよね。おやすみなさい。