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186日目 発展魔法材料学:様々な魔硬について

186日目


 ギルの枕元になぜかチョコチップクッキーが。非常にデリシャス。


 ギルを起こして食堂へ。食堂へ入った瞬間、なぜかポポルに『お前か?』ってすごまれた。なんでも、普段から枕元に隠してある非常用のへそくりおやつが突如として消えたらしい。『昨日の寝る直前までは確かにあった。朝起きたら、きれいさっぱり無くなっていた』とのこと。


 この時ほど、俺のキューティな頬袋&素敵な話術に感謝したことはない。これのおかげで何度ナターシャの理不尽なおやつ没収から逃げられたことか。口に物が入っている状態で普通に喋るのって何気に結構難しいんだよね。


 ただ、俺ってばうっかりしていたことが一つ。なんとなく気分が最高に良かったので、ロザリィちゃんにおはようのキスをしたら、『……──くん、朝からチョコレート……ううん、チョコクッキー食べた?』って首を傾げられてしまった。


 ちろりとくちびるを舐めるロザリィちゃんについつい見とれていたところ、『やっぱお前じゃないか! 俺のクッキー返せよ!』って猛ったポポルから盛大なケツビンタが。証拠もないのに疑うとか酷いっていう。


 なんだかんだで最終的に、いつか時間があるときにチョコチップクッキーを山盛り作ることを約束させられてしまう。『予約したかんな! 絶対忘れんなよ!』ってポポルは言ってたけど、これって割といつも通りな気がしなくもない。


 まぁ、これであいつも身に染みたことだろう。少しでもあいつのつまみ食いが減ってくれることを願う。俺だって、何も好きでへそくりおやつのつまみ食い……それも、どこから出てきたかもわからんヤバいものを食いたいだなんて思うはずがないのだ。これもひとえに、あいつの健やかなる成長を願って心を悪魔にした結果の行動なのである。


 ギル? 『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。『今日は奮発してへそくりジャガイモも食っちゃうぜ……!』って自慢げにちらっちらって周りを見ながらジャガイモ食ってたけど、へそくりジャガイモと朝飯のジャガイモと保存用のジャガイモと布教用のジャガイモと軽食用のジャガイモとおつまみジャガイモとご褒美ジャガイモとおやつジャガイモの区別が誰にもつけられなかったっていう。


 さて、今日の授業は発展魔法材料学。担当は我らが……我らがなんかヤバい先生であるシキラ先生。シキラ先生、教室に入ってくるなり『この前の媚薬の件は最っ高に楽しかったな!』って腹を抱えてゲラゲラ笑いだした。本当にこの人はぶれないと思う。


 一応、何人かの女子が『媚薬じゃなくって惚れ薬って言って!』って抗議していたけれども、『あれを惚れ薬とするならば、「惚れ薬ならこれくらいしてもいい」って考えてたてめえらのクラスのナントカさんの頭の中がだいぶ仕上がってることになっちゃうぜ?』ってシキラ先生はニヤニヤ笑いながら反論。


 が、『そんなのすでにわかりきってるじゃん』、『一部の極端なケースをさも一般的な例のように扱うのなんて、曲がりなりにも研究者の一人として恥ずかしくないんですか?』って女子はひるまない。『女の子ならあれくらい普通だもんっ! 愛魔法の修行としても褒められる行為だもんっ!』って真っ赤になってあわあわするロザリィちゃんが最高に可愛かったです。


 最終的に、『媚薬ってことにしておけば、それならしょうがないってダメージは少ないんだ。いまさらろくに残っていない体面なんて気にしてんじゃねえよ!』ってシキラ先生の言葉で授業が始まった。


 今回学んだのは魔硬試験について。前回の授業では魔硬の概要とその種類を学んだわけだけれども、今回はその詳細と試験方法について学んでいく。


 というのも、魔硬ってのはその定義が様々で、試験方法もその定義に則した形の測定原理となるものだから、特徴と試験方法を同時に覚えないと意味がない……むしろ、試験方法こそその魔硬の特徴そのものと言っていい故である。そりゃあ、わざわざバラして覚える意味がないわな。


 以下に、各魔硬とその試験方法について記す。



・ヴルナル魔硬

 極めて魔硬の大きい微小片(業界用語で圧子)を試験対象に押し込み、生じた圧痕の大きさから魔硬を求める。主に静的魔硬ではこの手の試験が行われ、特に圧子を押し込む試験を押し込み魔硬試験と呼ぶ。ヴルナル魔硬の場合、この圧子はスフィアを用いる。圧痕の直径を計測し、ヴルナル魔硬の基礎式に計測値を代入することで魔硬が求まる(式はノート参照)。圧子の形状や押し込み時の負荷魔力は測定対象によって適宜選択する。平均的な魔硬の測定が可能で、魔晶粒の大きな材料でも測定可能。半面、測定の特徴故に微小部分の魔硬測定には不向き。とりあえず迷ったらこれ使っとけって先生が言ってた。


・ヴィックス魔硬

 圧子に四角錐のダイヤモンドを用いた押し込み魔硬試験によって求める魔硬。圧子によって生じた四角の圧痕の対角線長さより、計測値をヴィックス魔硬の基礎式にブチこむことで魔硬が求まる。やっていること自体はヴルナル魔硬試験とほぼ同じだけど、表面変質層の詳細な魔硬分布を求められるという特徴がある。例えば魔法材料の表面のみ属性処理をした場合なんかに使われるそうな。


・ルックウェム魔硬

 圧子の形状に明確な規定無し、圧子の材質に規定無し、押し込み負荷魔力に明確な規定無しな魔硬試験。ただし、対象の材質や予想される大まかな魔硬について測定スケールパターンがいくつか決まっていて、スケール:ジャガイモなら圧子形状はこれ、圧子材質はこれ、負荷魔力はこれ……ってパターンが決まっている。やることはやっぱり圧子を対象に押し込むってだけだけれども、測定するのは圧痕の形状ではなく圧痕の深さであるのが前二つの魔硬との大きな違い。まず最初にちょっぴり押し込んで基準深さを取り、次に本番のがっつり押し込みをしてその時の深さの差を計測する。事前にスケールの予想、選択が必要であるほか、同じ測定でありながら試験条件が異なるため、異なるスケールでの単純な魔硬の比較はできないという特徴がある(保持時間、負荷速度、読み取り時間などが考慮対象)。圧子を押し込んでその深さを測るため、対象の表面が飲み会明けアンチエイジングなしミニリカの肌並みに荒れていても問題なく測定ができる。説明が長くなっていることからわかる通り、考えることも多い魔硬試験だけれども、その分いろんなパターンに対応できることが多い。なお、例に挙げたスケール:ジャガイモは俺の考えたオリジナルのスケール。現段階では実在しないスケールなので注意されたし。


・ナーパ魔硬

 ヴィックス魔硬とほぼ同じ。試験機も共通。ヴィックスの圧子をちょっぴり横に伸ばしたような菱形錐(?)とでも言うべき圧子を用いるってだけ。引き延ばされてシュッとした形状の圧痕になるため、ヴィックスでは測定できなかった対象の端の方も測定可能なほか、より細かい魔硬の分布の測定ができる。形を変えただけなのになんで名前を与えられてるのかよくわからない。


・シャウ魔硬

 ある基準高さから対象に微小な魔法的に硬いものを落下させ、それが跳ね上がった高さによって求める魔硬。前述の魔硬はすべて静的魔硬(押し込み魔硬)だが、こちらは動的魔硬(反発魔硬)である。落とす何かはやっぱり場合によって様々なものの、おおむね宝飾的な価値がないクズダイヤモンドが使われる。早く簡便な測定、試験機は軽量で持ち運び可能……と実用的な観点で相当優秀であることが特徴だが、対象の表面状態や測定時の傾斜(角度のずれ)などの影響を受けやすく、さらには淵性(魔靭性)が著しく異なるやつ(エラストム魔鉱石、ジェムスライムなどのすんげえ伸びるやつ)の測定には適さないという弱点もある。



 とりあえずこんなもん。シャウ魔硬を除き、やっていること自体は圧子を押し付けて圧痕を計測するってだけ。圧子の形状、圧痕の何を測定するかって所で魔硬としての定義が変わってくるとのこと。


 『基本的には圧子とどっちが強いかってのを見ているからな。普通に測定する分なら問題ねえけど、反属性同士でやるとまともに測定できないから気をつけろ』ってシキラ先生は言っていた。属性反発作用で通常以上に削れ(?)すぎるために信頼性のあるデータにならないばかりか、下手するとそれなりに高価な圧子そのものがオシャカになって使えなくなるらしい。『そしたらお前、自腹切って弁償だぜ?』とのこと。


 いずれにせよ、目的に合った魔硬試験をする必要があるってことだろう。大体の場合はどんな試験をすればいいのかって決まっているらしいし、最悪全部やって良さそうなのを本データとすればいい。難しいことはなるべく考えないに限る。


 ちなみに、前回の授業でも触れられた通り、まだまだ魔硬には明確な基準や定義がないため、これ以外にもいろんな魔硬があったり、人によってジャスティスな魔硬が異なるとのこと。だからほぼ同じことをやっているのに、魔硬評価が全然違う論文とかが普通にあるそうな。


 『結局のところ、原理や仕組みをきっちり理解して、己がジャスティスに基づいて自信をもってその方法を選ぶことになるんだろーなぁ』ってシキラ先生はしみじみという。


 なんでも、『なんでこの魔硬評価なんだ?』って質問すると、最近の学生は『他の魔硬だとあんたらが首を縦に振らなかったからだろうが!』と返すのだとか。


 ちなみに、昔の学生は『うるせえ。俺が正義だ』って言ってたらしい。強い。


 『もうちょっと自分ってものを持ってほしいよなァ』って先生は言ってたけど、あれはもしかして突っ込み待ちだったのだろうか?


 最終的に、『魔硬に限らず、自分の力と信念は大事だぜ! つまり、モノにしたいやつがいるなら、媚薬なんて使わずに実力で振り向かせてみろってことだよ!』ってシキラ先生は締めくくる。忘れかけていたことを最後の最後でほじくり返してくるあたり、あの人ほど人生を楽しんでいる人はいないと思う。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。シキラ先生の授業にしては珍しくそれなりに学術的で板書の内容も多かったからか、ポポルもミーシャちゃんもパレッタちゃんも頭がトんだようにぽけっとしていた。アルテアちゃんとジオルドは理解できそうでできないのか、眉間にしわを寄せてうんうん唸っていたし、あっさり概念を理解したクーラスは『今日のはぬるかったな』って呟いて男子連中にケツビンタされていた。


 ギル? 『俺が本気出せば全部魔硬ゼロにできちゃうもんね!』っていろんなもん握りつぶしてみんなに自慢していたよ。硬さと硬さのぶつかり合いこそが魔硬の原則ってことを理解してくれているようで心底ほっとした。


 そんなギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいて寝こけている。そしてちゃっぴぃが俺のベッドにもぐりこんでいる。最近少しずつ朝晩が肌寒くなってきたし、風邪ひかないように抱きしめておこう。


 ギルの鼻には……粉微塵になった何かを詰めておく。あいつが握りつぶしまくったものの残骸ね。おやすみにりかちゃんちょうきゅーと。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず、ギルは測定に参加させない方がいいかな 本命:部屋が粉っぽい 対抗:謎の木材出現 大穴:異常魔力物質
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