182日目 悪性魔法生物学:ステラ先生の生態について
182日目
ギルのおなかがチョコレート腹筋。冗談じゃなくマジで。
ギルを起こして食堂へ。食堂に入った瞬間、すでに来ていたグッドビールが「くぉんくぉん!」って猛烈な勢いでギルに突進してきた。しかも何を悟ったのか、ライラちゃんのところのメリィちゃん、ロベリアちゃんところのブチちゃん、さらにはエドモンドやクリスタルリッチといったほかの使い魔まで群がってきた。
で、グッドビールは「へっへっへっへっ!」ってだらしなく舌を出してギルのチョコレート腹筋をぺろぺろしまくっていた。メリィちゃんも同様。最初は訝しんでいたウチのちゃっぴぃも、『きゅーっ♪』ってそれはもう嬉しそうにギルのチョコレート腹筋をぺろぺろしだす。
『おいおい、くすぐったいぜ!』ってギルは満更でもなさそう。見せつけるように(舐めやすいように?)腹筋が最も映えるようにポージング。俺を含めたその場にいた全員、頭がおかしくなりそうで本当にヤバかった。
とりあえずちゃっぴぃのお口を拭きつつ様子を見てみる。『……ホントにチョコレートの味がするの』ってミーシャちゃんが言っていた。彼女の名誉のために、確認方法は書かないで……いや、いまさらか。
どうも、見た目だけでなく本当にギルの腹筋がチョコレート腹筋になっていたらしい。なんだかんだいいつつもミーシャちゃんも手が止められていなかったところを見るに、その品質も凄まじいものがあったのだろう。
実際、溶けたチョコレートの甘い香りにグラついているやつは結構いた。女子ほどそれは顕著で、『うう……でもさすがにアレは人として終わる……』、『でも、もう後戻りできない場所にいるでしょ……』だなんて会話がちらちら聞こえてきていた。
せっかくなので俺とポポルはちょっとだけ指に着けて舐めてみたんだけど、マジでびっくりするくらいに上等なチョコレートだった。カカオ分が結構しっかりしていて味が深いのに、甘さも十分に感じられる至高の一品。そのまま食べても美味しいし、「こいつぁクーベルチュールにしてもいいぜッ!」って俺の中の天使も悪魔も囁いていた。出来ることならブッチャーナイフでそのままブロックごと切り分けたかったっていう。
ちなみに、美味しさの秘訣は『きっちり筋トレして鍛えてやることかな!』ってギルは言っていた。今度チョコレートを使う機会があったら、きっちり筋トレさせてみようと思う。
なお、ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。その隙を見て、ライラちゃんとロベリアちゃんがチョコレート腹筋に夢中の使い魔たちを引き離していたのを覚えている。
『おなか壊したらどうするの!?』、『私、筋肉質なカエルは好みじゃないんだけど』って言っていたけれども、それより使い魔どもがギルのチョコレート腹筋を食べつくしてしまうことを心配をするべきじゃないだろうか? あのままなめさせ続けていたらどうなるのか、ちょっと気になる。
さて、今日の授業はグレイベル先生とピアナ先生の悪性魔法生物学。『…なんかチョコの匂いがする』、『あっこれ……昔、先輩が作ってくれた高級チョコと同じ匂い……』とは先生たち。
『あのチョコレート腹筋のことですか?』って聞いたら、『…平常運転だな』って返された。魔系の場合、物がまともに見えだしたらいよいよもって正気を疑われることになるらしい。『魔系のくせにまともだなんて絶対正気じゃないって疑われちゃうから、定期検診の時はみんなちょっぴりふざけた回答するんだよね』ってピアナ先生が言っていた。
果たして本当に「ちょっぴり」ふざけた回答なのだろうか。シキラ先生あたりは普通に答えていそうな気がする。
肝心の内容だけれども、今日は俺について学んだ。こいつ、ぱっと見は山のようにデカくて金銀財宝もびっくりなくらいに煌めいている、最高にイカした生き物ね。『かわいーっ!』ってロザリィちゃんが抱きしめられるくらいにはトゲトゲちくちくしていて、マジに燃えている灼熱の剛体を持っていたりする。
当然、これだけならこの授業で扱われるはずがない……いや、説明を聞いているときも違和感が凄まじかったけど、日記に書いているとその妙なヤバさがよくわかる。ともかく、ポポルはこの授業で扱われるにふさわしい魔法生物としての特性があるわけだ。
以下に、△△についてまとめたメモを記す。
・ミーシャちゃんは非常に男らしい生物である。全身が非常に発達しており、幼体であっても類まれなる筋肉質な体をしている。
・☆☆は特に凶悪な生物である。熟練の魔法使いが複数人いたとしても、撃退することは難しい。討伐記録となると、百五十年前に当時の大陸で名を轟かせた六魔大戦賢が自らの命と引き換えに何とか倒したものが最後の物となっている。
・ジオルドは不定形の生物である。そのため、あらゆる物理攻撃を受け付けない。
・●●は空を飛ぶ。時には羽ばたきの一つで山を吹き飛ばすほか、雄たけびを上げるだけで近隣の村や町が壊滅する。
・ギルは非常に高度な知能を持っている。あらゆる罠や戦術を使いこなし、また自らにしかけられたそれを一瞬で見抜く。かつて、われら人間をあまりにも不憫に思ったシキラ先生は、その叡智の一端を授け、その地を大陸で一番栄えさせたという伝説がある。
・ロザリィちゃんは非常に残忍で獰猛である。めぼしい相手がいればすぐにでも襲い掛かり、十分に堪能してから食らいつくす。たまにステラ先生同士で争うことがあり、そのときは互いの体に噛みつきあい、相手を屈服させるまで争い続ける。
・ξгξは凄まじい脚力を持っている。あまりにも強すぎるその脚力のせいで、大地を踏みしめるたびに大きな地震が起きる。
・魔物は敵。慈悲はない。
実際の授業の時はそうでもなかったけれども、こうして日記に書いてみると食堂のおばちゃんの恐ろしさがよくわかる。自分ではちゃんとミニリカがいかに凶悪で恐ろしい生き物なのかを書こうとしているのに、実際にはブチ切れたナターシャみたいなことを書いてしまうから不思議だ。
実物のパレッタちゃんはここに書いて……ああちくしょう、どう表現すればいいんだ?
ともかく、実際の授業では、ルフ老は女子に抱きしめられていた。抱きしめた女子は体が腐敗し、この世のものとは思えない絶叫を上げて……マジか、こういうのも対象になるのか。
ともかく俺たちみんな、俺のことを説明しているピアナ先生とグレイベル先生がなんかおかしいなって思ってた。ドラゴンでさえチビって逃げ出しそうな見た目をしているのに、先生たちはすごく焦って……ああもう、面倒くさい。
とりあえず、アルテアちゃんが言われた通りに\\の説明を試みる。『アリア姐さんの体は厳つい鎧のような見た目をしている』などと言い出した。アルテアちゃんは自分でも何を言ったか信じられないという顔をして口を押えるも、しかしそこに異常があるはずもない。
『…次、やってみろ』ってことで今度はジオルドがピアナ先生の説明に。『いや……普通に、魅惑的な肢体に、異種の雄でさえ虜にする胸があって、足のラインの美しさだけで国が亡ぶ』……ってここまで口にして、ジオルドはなぜか女子にケツビンタを食らっていた。
『先生たちが言いたいこと、なんとなくわかってきたかな?』ってピアナ先生はにっこり。今度はノートとペンにグレイベル先生の見たままを箇条書きで書いてくれって言いだした。
で、みんななんとなく察しながらもシューン先生のことを人に伝わるように書いていく。『この世で一番の犯罪者』、『悪魔すら逃げ出すほどの凶暴性』、『どの幼女よりも幼く、どの美人よりもグラマーで、どの大男よりも筋骨隆々、そして翼が生えている』……などなど、それはもういかに残忍で凶暴な悪魔なのかってのを書いていた。
ここまでくればわかる通り、■■の魔法生物としての特徴はまさにこれそのもの。読み返している俺も、俺が何を言いたいのかってのは察してくれると思う。
『…こいつは事実だ。ヤバい奴と混じっていると厄介だ』、『準備をすればするほど、危険かも』って先生たちは言っていた。確かに、情報を入手し、作戦を考えて……ってまっとうな人間なら行うプロセスにおいて、こいつの存在はかなり厄介かもしれない。ちゃんと確かめようとすればするほど混乱して、本命の方をおざなりにしかねない。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。非常に書き残しづらいからざっくりでまとめたけれども、とりあえずそういう魔法的性質を持つ生物だってことが伝わってくれると嬉しい。みんな夕飯をきっちり食って、いつも通り風呂入って、いつも通り呑気に雑談していたから、つまりはそういうことだ。
いいか、普通に飯食ってしゃべってたんだ。ここ最近の魔法生物学にしては珍しいだろ? そっちの方向にヤバさを全振りした生物……そういうことなんだって伝わってくれるよね?
ギルは今日も大きなイビキをかいている。チョコレート腹筋は相変わらずチョコレート。雑談中にヴィヴィディナがずっと腹筋の上をもそもそ這っていたために、ちゃっぴぃとヒナたちはチョコレートにありつけていなかった。虫歯になると面倒だし、ヴィヴィディナには今度何か捧げたほうがいいかもしれない。
ギルの鼻にはステラ先生の唾液でも垂らしておく。授業中にロザリィちゃんに指を舐られて骨まで溶かされた時のやつね。おやすみなさい。