180日目 創成魔法設計演習:匣要素の設計講義
180日目
部屋中が宴会の匂い……スナックの匂いか、これ!
ギルを起こして食堂へ。なんかやけに薄暗くてむわっとしていると思ったら、外で結構な雨が降っていた。風こそ吹いていないもののざあざあと勢いは強い感じ。なんとなく情緒があると思えないことも無い。
「くぉん!」ってグッドビールが嬉しそうに外に駆けていく。止めようとしたミーシャちゃんが『みぎゃーっ!?』って引っ張られていった。『俺も朝のかけっこしちゃおうかな!』って笑顔でギルもそれに続く。あいつバカだ。
ともあれ、グッドビールに振り回されるミーシャちゃんと笑顔でそれを追いかけるギルを眺めながら朝餉をいただく。今日は何となくコンソメスープをチョイス。シンプルしかし奥深いその味わいに思わずうっとり。なんだかんだで慣れているいつもの味って落ち着くよね。
俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ!』って美味そうに飲んでいた。しかもあいつにしては珍しく、少し飲んだ後にふうふうしてから俺に差し出してきた。『きゅ!』ってかなり自慢げ。とりあえず頭を撫でておく。
『えらいぞっ!』ってちゃっぴぃを撫でるロザリィちゃんが最高に可愛かった。出来れば俺も撫でてもらいたかったけれどそれは敵わず。なぜかパレッタちゃんが『代わりに私がなでてやるなり』ってヴィヴィディナを片手に纏ってにじり寄ってきたので、丁重にお断りしておいた。
朝のおいかけっこから帰ってきたギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモをむさぼっていた。『運動の後のジャガイモは格別だぜ!』とのこと。隣で舌を出したグッドビールが「へっへっへっへ!」って体をぶわーっ! ってしてもまるで気にしてない。あいつすごい。
あと、ミーシャちゃんの髪が凄まじいことになっていたのをここに記しておく。やはり今のミーシャちゃんでは本気で動いたグッドビールを止めることはできないらしい。もっと筋トレするよう進言するべきだろうか?
さて、今日の授業は創成魔法設計演習。『雨だとなんだか気分が落ち込んじゃうよねー』って杖をコンコンしつつ出欠を取るステラ先生がマジ女神。『先生、ふわってなりやすい髪質なのか、雨が降るとなかなかいつも通りに決まらないんだよねー……』ってちょっぴり物憂げに髪先を指でくるくるするのも最高にキュート。この人なんでこんなに可愛いんだろう?
『僕でよければ、お手伝いしますけれども』って進み出たら、『そーゆーのはロザリィちゃんかちゃっぴぃちゃんに……って言いたいけど、二人ともそういう苦労はなさそうだねえ……やっぱり若いっていいなあ』ってステラ先生。
次の瞬間、ルマルマからもバルトからも『先生だってまだ若いじゃん!』、『あなたが若くないならこの世の八割の人間が死にかけの爺婆ですよ!』、『若い! 先生ちょう若い!』、『めっちゃかわいい! 生徒よりもかわいい!』、『彼女になってほしい!』、『結婚してほしい!』、『一生面倒見たい!』……などなど、(主に男子から)すさまじい反応が。
『わ、わかったからもうやめてぇ……!』って真っ赤になるステラ先生が最高に可愛かったです。
肝心の授業内容だけれども、今回はケーシング……要は、ガワとか匣とか呼ばれている奴についての講義だった。
送風要素を持つ魔道具の設計ということで、前回はそのメインといっていい羽根車的要素(風を出す魔法陣とその設計要素)を学んだけれども、当然魔道具として運用するにあたっては、それ以外にもいろいろ考える必要が出てくる。
『戦闘用の魔法なら、風魔法としては羽根車要素だけがあれば十分かな。欲しいのは瞬間的な威力だから、余計なことを考えず、なるべくシンプルで一気に出力上げられればそれでいいの。でも、今回は永続的に使う魔道具だから、逆にそれだと粗すぎる』とはステラ先生。
というのも、戦闘中の魔法陣なら(例外を除いて)すぐ発動してすぐ消えるからいいんだけど、これを魔道具として扱う場合、ガワがないと出力部(触っちゃヤバいところ)が常にモロ出しという大変ヤバいことになる。何かの拍子にうっかり触っちゃったら目も当てられないし、周りへの魔法的影響を与えかねない。
故に、匣で覆えば問題解決……って単純に考えればそうなんだけど、それはそれで結構な問題が。
『何も考えずに匣で囲っちゃうとねー、例えば内部の魔度の異常上昇とか、覆われたことそのものが影響となって、出力として設計した羽根車要素の魔法陣に不具合が起きたりするんだよねー……』ってステラ先生。
なんかすごいうつろな目をしながら、実例として簡単な出力を適当に魔力で囲って実演してくれたんだけど、単体では普通に風魔法として使えていたそれが、覆った状態だと上手く風がでなかったほか、だんだん異音がひどくなり、ついでに魔度が上昇&ヤバそげな共鳴現象を引き起こした末、暴走して爆発した。
『極端な例だけど、覆ったせいで魔力の循環が上手くいかなくなって、中の制御魔法回路が設定値まで出力を上げようと頑張り過ぎちゃって、その結果設計値以上の過負荷がかかって壊れたの。過負荷に伴う魔度の異常上昇、匣の取り付けで危険魔法共鳴数が変わったせいで共鳴しやくなったり……壊れる原因はいっぱい』ってステラ先生は言っていた。
今更だけど、そういえば共鳴が云々で魔道具がぶっ壊れるってテオキマ先生の授業で言ってた気がする。まさかこんなに早く別の授業の知識を使うことになるとは。二年の後期ってホントにヤバい事案が多すぎる気がする。
ともあれ、適当な設計でガワを作ると魔道具そのものとしてポンコツかつガラクタなギルのおつむみたいなものになってしまう。でもって当然の如く、ガワはただ魔道具が動くように設計すればいいというものでもなく、『どうせならギリギリまで効率を極めたものにしないと意味がないよね!』とのことで、中の魔法陣の性能を落とさないためにも、色々諸々考えなくっちゃあならない。
とりあえず、ざっくりだけど設計要素を下記に記す。詳細は教科書に直接書き込んであるから、そっちを確認すること。
・ガワの断面積
羽根車要素魔法陣の呑深によって決める。また、円形、矩形、星形、ひし形……あるいはこれらを組み合わせたものなど、内部の魔法陣や魔道具の用途そのものによって結構パターンは多い。実際には単純なものはほぼ無く、魔道具ごとにギリギリまで調整して「攻めた」ものになっているとか。
・出力口の断面積
出力(今回は風)が実際に出てくるところ。基本的には狭めるほど威力そのものは高くなるけど、その分耐久力なんかを考慮しなくっちゃいけないらしい。
・渦巻曲線
特に流体的魔力を扱う場合に必要になってくる要素。要は上手く魔力を循環させるためにぐるぐるを良い感じに取り入れるってことなんだけど、こいつが存外むつかしい。『ホントの意味で解析計算すると、もう学生の領分じゃなくなっちゃうから、今は教科書にある式に基づいて計算すればいいよ!』ってステラ先生が言ってた。
とりあえずこんな感じ。さっき書き忘れたけど、匣の機能としては他にも『外部からの悪影響からメインの魔法陣を守る』ってのもあり、その場合は匣の材料そのものにも気を使わなくちゃいけないらしい。
身近な例として、魔界や妖精郷では魔力の質も自然魔法圧も全然違うから、そのまま普通に使うと壊れたり出力の出ない魔法陣がそこそこあるのだとか。異界での使用は特殊な例だけれども、いずれにせよそれぞれのケースによって考えることは無数にあるんだってことなんだろう。
ちなみにだけど、『異界だと自然魔法圧が違うから、そこに住む生き物とこっちの魔法の質が違うんだって言われてるよ。妖精郷では魔法圧が小さい分、体が軽く感じて、妖精たちの魔法はそこに適応しているから先生たちが真似するのは難しいくらいに繊細なものが多い。魔界だと魔法圧が大きいから、息苦しくて体が重い感じがして、そしてそこに適応している悪魔の魔法はこっちの生物よりはるかに強力なの』ってステラ先生は教えてくれた。
……なんかこの自然魔法圧云々ってのも最近聞いた。ミラジフの授業だ。机上の知識だけとせず、身近な例として実際の体験を交えて教えてくれるステラ先生が本当に女神。ミラジフの話だとさっぱりわからなかったけど、これで完璧に理解した。
で、こんな感じでいろいろと匣について学んだ……のは良いんだけど、ウチの班のミーシャちゃんは『かわいい見た目にするの!』って設計ガン無視でデザインを考えていた。ギルも『筋肉は派手に盛っていこうぜ!』って筆を走らせまくる。隣ではポポルが『すっげえカッコいいやつにしよ! ドラゴンとか!』って騒いでいたし、ジオルドも『ただドラゴンにするのはダサいから……ワンポイントのシルエットでそれとなく“気づかせる”のがよくね?』ってコメントしていた。
バルトのほうもそんな感じ。みんな、魔法的な設計というよりも、芸術(?)的なほうに興味があるようで、いかに自分たちがカッコよくてイカす魔道具のデザインを作れるかで盛り上がっていた。
『そうだよね……使う人は中身よりも見ためだよね……性能を保証する涙ぐましい努力なんてわかるわけないよね……』ってちょっぴり涙目になっているステラ先生がかわいかったです。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。授業の最後、みんなが教室を出たところでステラ先生が『うふふ……先生もまだまだイケる、かぁ……!』ってにへらって笑っていたのを発見してしまった。ステラ先生がマジで愛しい。こんなに可愛い人がこの世にいることが信じられなくなってくるレベル。ステラ先生マジプリティ。
ギルは今日も安らかに大きなイビキをかいている。雨の音が未だに強いけれども、明日は晴れるだろうか。お天気の日じゃないと洗濯ものがきちんと乾かなくて困る。まぁ、ここにいる間は自分で洗濯なんてしないんだけどさ。
ギルの鼻には……太陽の息吹でも詰めておくか。おやすみなさい。