175日目 悪性魔法生物学:重い水の生態について
175日目
昨日の俺はどうかしていたのかもしれない。とりあえず、ギルの鼻に入れたロマンスムーンの欠片から変な笑い声が聞こえる。あるいはこれがヴィヴィディナの手向け、現実回帰へ見送りなのだろう。
ギルを起こして食堂へ。挨拶をして早々、『おっ、戻ったか』ってみんなに言われた。『昨日の俺、もしかしてだいぶヤバかった?』って聞いてみれば、『普通にヴィヴィディナ憑きだったよね』、『やってることはいつも通りでヤバかったけど、言ってることが普通にヤバかった』とのコメントが。クラスメイトが明らかに異常なことになっているのに、なぜ奴らは助けてくれなかったのだろう?
朝食はミックスサンドイッチをチョイス。ミックスの名の通り、なんかいろんな具材がふんだんに使われたワンダフルでゴージャスな逸品。肉や野菜はもちろん、中にはフルーツを使っているものも。しかもそれでいて、普通に美味しいと思えるくらいに味が整っているからすごい。
俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って美味そうに食っていた。早く次の一口をよこせと尾っぽで俺の背中をぺちぺち叩き、『あーん♪』の構えを取ってくる始末。まったく、こいつの甘えん坊も筋金入りだと思う。
ちゃっぴぃに食わせるのに集中していたら、いつのまにやら俺の皿のサンドイッチがヒナたちに食われていた。そらもうびっくりするくらいにヘドバンして突いている。止めとばかりにグッドビールまでやってきて、「くぉんくぉん!」ってヒナごと喰うくらいの勢いで残りをかっさらいやがった。絶望。
『同じ使い魔のこいつが美味そうに食ってるのを見て、喰いたくなっちまったんだろうなァ……』ってフィルラドがヒナたちをあやし、そしてグッドビールの頭をわしわしと撫でながらコメント。良い機会だとばかりにグッドビールをふかふかしまくっていたっけ。
一応書いておく。ロザリィちゃんが『朝はちゃんと食べなきゃダメだぞぉ?』って自分のミックスサンドイッチ(しかも食べかけのやつ!)を『あーん♪』してくれた。書くまでも無く超デリシャスでとってもしあわせ。ほんのりといつものハートフルピーチの香りがするし、『よくできましたっ!』って頭も撫でてくれたし……あの幸せを、俺は一体どう表現すればいいのか。
ただ、ちゃっぴぃまでもが『きゅーっ!』って対抗するように俺のロザリィちゃんのサンドイッチに食らいつこうとしていたのがわけわかめ。あんだけ食わせてやったのに……というか、たぶんアレ普通に俺と勝負(?)したかっただけだろう。ちゃっぴぃはそういうやつだ。
ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。以上。
さて、今日の授業は悪性魔法生物学。昨日の夜に通達があった通り、今回は水着で集まれとのことだったので、ルマルマ一同着替えてから現地に赴くことに。『学校内で水着とか、なんかちょっとワクワクするな』、『えー……普段は服を着てるところで水着とか、逆に恥ずかしくない?』……なんて声がチラホラ。
俺? ロザリィちゃんの水着姿に見惚れてたけど? ロザリィちゃんってば『こーゆーのがいいんだろぉ?』って真っ赤になりながら見せつけてくるし、もう本当に最高だったよ。朝からテンションマックスクライマックスで、もうこのまま二人で湖に行ってアバンチュールしたかったくらい。
ちょっぴり残念だったことと言えば、ロザリィちゃんが着ていたのはこの前の可愛い水着じゃなくて、もっと飾り気の少ない実用的(?)な水着だったことだろうか。『一応授業だから……がっつり泳げるやつにしておいたの』とのこと。もちろん、こっちの水着でもロザリィちゃんは眩しすぎるくらいに輝いていたけれども。
聞けば、女子たちは普通にこの手の水着を用意しておくことをかなり前から通達されていたらしい。男子にはそんなの全然ないっていうか、普通にみんないつものやつなのに。まぁ、男子の水着なんてどれもそんなに変わらないか。
で、肝心の授業だけど……こいつがマジですごかった。
いつもの場所に行ったんだよ。『…来たか』ってグレイベル先生がいたんだよ。グレイベル先生も水着姿で、その日焼けした逞しすぎる上半身を惜しげも無く晒していたんだよ。
ギルのムキムキゴリデカ筋肉と違って、グレイベル先生のは実用的な……引き締まったうえで大きいという、働く人の筋肉って感じのそれだ。キレそのものはあまりないけれど、胸板の厚みとかたくましさとか、ともかくリアルな力強さに溢れた体つきって言えば伝わるだろうか。
そんなグレイベル先生の背中に隠れるように……水着姿ピアナ先生がいた。うっひょおおおおお!
『ううう……やっぱ恥ずかしいよぉ……!』ってグレイベル先生の背中にちょこんと隠れるピアナ先生。実際、先生は上着というかなんというか、羽織れるものを纏っていて、上半身の肌色面積はいつもとほとんど変わらない。ちらちら見えるおへそと、いつもなら絶対に見えない胸元のさらにその先が最高にエクセレント。マーヴェラス。
この段階で、男子の大半が骨抜きに。やっぱ肌色チラチラと恥ずかしがる姿のマリアージュは侮れない。
なにより、それ以上に侮れないのが──天使の如き純白のおみ足であった。
いやね、もうね、マジで輝いていたよね。白くてすっきりとした、綺麗なお肌の……マジな話、思わずほおずりしてみたくなるくらいに艶やかできめ細やかなおみ足が、輝く太陽の下に、俺たちの目の前にあるんだもの。しかもピアナ先生ってば、上は気にしていたけれど、下の方は全然無防備だったんだもの。
水着姿と羽織るもの……この組み合わせも最高だと、俺はまた一つ賢くなってしまった。
念のために書いておく。男子全員、女子たちに容赦なくケツを蹴られた。そしてグレイベル先生も、『…………隠すほど、無いだろ』ってボソッとつぶやいて、『ぶちのめすぞ』って真顔になったピアナ先生に蹴り上げられていた(植物魔法での強化済み)。
グレイベル先生、文字通りうずくまって悶絶していた。とても痛そうだった。
さて、そんな一幕の後は早速授業……なんだけど、『…とりあえず、水遊びでもしてもらおうか』ってグレイベル先生が後ろをくいっと指す。なんだなんだと思ってみてみれば、そこにあったのは即席で作ったらしき池的なもの。広さとしては男子風呂の三倍くらい……すなわち、ルマルマ全員がゆとりを持って全員入れるくらいの大きさね。
『…授業のために作った。見ての通り、即席の池だな』とはグレイベル先生。『お水は私が頑張って準備したんだよー!』とはピアナ先生。実際、自然界ではありえないくらいにきっちり四角く作られた池で、魚もいなければ水草や藻の類も見当たらない。基本的に透き通っていて、底が普通に見える。
で、とりあえず飛び込んでみる。先鋒はもちろんギル。盛大な水飛沫。『冷たくって気持ちいいぜ!』って超笑顔。男子も女子も続くように入ってみれば、なるほど、特別変わったところのない普通の池って感じ。
溺れるほど深くなく、それでいて泳げる程度には深さがある。ポポルやミーシャちゃんでも一応足がつくし(油断するとヤバそうだったけど)、水そのものから変な匂いがする……とか、なんかヤバいのが混じっている……とかもない。
『今回も目に見えないくらいに小さい奴ですか?』って聞いてみる。『普通におっきいやつだよ! 目に写らないってことは無いかな!』ってピアナ先生がぱしゃって水をかけてきた。ちょう嬉しかった。
ただまぁ、こんなあからさまに水場を用意しておいて、中に水に関する魔法生物がいないってことはないだろう。みんな各々水遊びを楽しむさまを装いつつ、注意深く水底を調べたり、泳ぎながら先生たちの様子を伺ったり、あるいは水着姿の女子をガン見したりしていた。
しかし、いつまで経っても変わったところはない。先生たちもなんかパラソルとか用意しちゃって、池に入らないもののくつろいじゃったりしている。段々俺たちも警戒が緩くなってきて、中にはマジに水遊びに熱中するやつも。
きっと先生たちは油断させておいて、こっそり魔法生物を投入してくるのだろう……なーんてあたりをつけつつ、周囲を警戒していたら。
『みぎゃっ!?』ってミーシャちゃんの悲鳴。遊び過ぎて足でも攣ったのだろうか。なんかバシャバシャやってる。あっぷあっぷと息をしようと顔を水面に出し……そして、とぷんと沈んだ。
『おいおい、シャレになんねえぞ』って近くにいたジオルドがミーシャちゃんのくびねっこをひっつかんで持ち上げる。ざばーってミーシャちゃんが出てきた。
『それじゃ、ダメなの!』って全力ガチ警告。ミーシャちゃんがジオルドの腕にひしっと抱き付くと同時に、『がぁッ!?』ってジオルドが悲鳴。前のめりに倒れるように、水の中へ引きずり込まれた。
いや、言い方を変えよう。水中の何かに引きずり込まれるミーシャちゃんの巻き添えを喰らう形で、ジオルドは水中に引きずり込まれた。ありのままを語るなら、ひっついたミーシャちゃんが急激に重くなったように見えたけれど……。
問題なのは、その「なにか」が全く見えなかったってところだろう。傍目には、体の重くなったミーシャちゃんがジオルドの腕を引っ張りこんでいるようにしか見えなかったんだよね。
ただ、ジオルドは普通に底に足がつく。『舐めんな……ッ!』って真っ赤な顔して体勢を立て直し、すんげえ力を込めてミーシャちゃんを引っ張り上げようとしていた。ミーシャちゃんも必死にジオルドの腕にしがみついて、わずかな隙を見て息を継ぐ。
が、次の瞬間に二人とも全身が引きずり込まれた。なかなか浮いてこない。顔を出したと思ったら、まるで全身に錘でもつけているかのようにヤバい感じになっている。
いったい奴らは何と戦っているんだ、俺たちは加勢してもいいものなのかと考えあぐねていたところ、どこからか『きゃっ!?』って可愛らしい女の子っぽい悲鳴が。しかもその主は意外なことにアルテアちゃん。
まさかと思ってみてみれば、アルテアちゃんに必死の形相のポポルが抱き付いていた。こっちもミーシャちゃんと同じく、足が攣っているのかわからんけれど水面にあっぷあっぷと顔を出して息を吸うのがやっとって感じ。ぶっちゃけほとんど溺れているに等しかった。
『やっ……重っ……!?』ってアルテアちゃんが苦しそう。女子の中では力がある方のアルテアちゃんなら、男子とは言えポポル一人くらいならそこまで苦でもないはずなのに。
『なんか、いる! 俺たちに、ひっついてる!』ってポポルが大声。『きゃぷっ……!』ってアルテアちゃんも引きずり込まれた。『ちくしょう、どうなってるんだ!?』ってフィルラドがもがく二人を助けに入ろうとするも、『な、ん……ッ!?』って二次災害。
明らかにおかしい光景。溺れるはずのない場所なのに、どうして溺れそうになっているのか。しかもその原因となる生物の姿がまるで見えない。俺たちには、水をバシャバシャしてもがいているようにしか見えない。
ここでギルがさっそうと登場。ちょっとの葛藤の後、『俺が行くまで任せたぞ!』ってミーシャちゃんをジオルドに託し、自身はポポル&アルテアちゃん&フィルラドの下へ。
『うぉるぁぁぁぁぁぁぁ!』って裂帛の気合と共に、ギルは三人を水から引きずり出した。『ぷっはぁ!』って息をつくアルテアちゃんを右の肩に乗せ、、『げほっ! げほっ!』ってせき込むポポルを肩車し、『くっそ……ッ!』って水面を睨むフィルラドを左肩へ乗せる。
で、『……お前ら、いつからこんなに筋トレにぴったりの体になったんだ?』とかトチ狂ったことを言い出した。『重いってストレートに言わないのは美徳だな』ってアルテアちゃんはコメントしていた。
ミーシャちゃんのほうも、グレイベル先生が普通に助けに入っていた。ジオルドが『俺より先に、こっちを!』って必死にくびねっこを掴んで引っ張り上げたミーシャちゃんをつかみ、『……ふんッ!』ってすんげえ気合を入れて水から引きずり出す。そのままぽーんって岸(?)の方に投げれば、ピアナ先生が植物魔法で咲かせた大きな花で見事にキャッチ。
残ったジオルドの方も、普通にがっしり腕を掴んで陸に引き上げていた。まぁ、ジオルド自身も体力があるし、こっちは割と普通にできていたけれども。
さて、無事に救出された五人からコメントを伺ってみることに。『なんか水の流れがいきなりおかしくなった』、『水がまとわりついてくる』、『水が、すごく重い』とのこと。
そんなわけでクラスメイトには一度全員池から出てもらい、俺だけが池に残る。ミーシャちゃんが溺れたあたりまで近づいたところ、確かに体を引きずりこんでくるかのように水の流れが変化。まるで全身に鉛を括りつけられたんじゃねってくらいに体が重い。
これはもう明らかになんらかの攻撃を受けているってことで、この水を含めた周囲全体に吸収魔法をぶちこむ。ただの水なら反応しないのに、割とがっつり魔力も生気も吸収できた。
こりゃあいいってことでそのままひたすら我慢比べ。溺れかけていて苦しかったけれど、去年ナターシャと毒ハゲプリンを食わせ合ったアレと比べればなんてことはない。それにこっちはヨダレ臭くないしね。
やがて、ぱったりとその引きずり込む力がなくなった。『…さすがだな』、『魔法の相性が良かったんだねー』とは先生たち。
『それじゃ、ネタ晴らしと行ってみよー!』ってピアナ先生がなんか赤い丸薬的なものを池に投入。ちゃぽんとそいつが浸かった瞬間、透明の水がみるみる赤く染まっていく。『水にすっごく溶けやすい色薬だよ! 見ての通りコスパがとっても良くて、人体に影響もないの!』とのこと。
で……池はあっという間に真っ赤になったのに、なぜか俺の回りだけ透明のまんま。スペースとしては、マデラさんの宿の従業員用のお風呂くらいの大きさ。まぁ、人が三、四人入っても大丈夫なくらいって言えばわかりやすいだろうか。
『…色を付ければ、一発でわかるよな?』ってグレイベル先生が池に入り、俺の近くまで来て透明なそれをさっと掬う。文字通り普通の水にしか見えないけれど、色薬で染まらず透明を保っているってことが明らかにおかしい。
なんでもこの水……魔法生物らしい。名前はそのまま【重い水】とのこと。以下に、その特徴を記す。
・重い水は文字通り水のような性質を持つ魔法生物である。見た目や触感は普通の透明な水と何ら変わらないため、識別するのは非常に難しい。
・重い水は水の中に生息している。しかし、その特有の状態から、生息しているというよりかは水の中でしか発生し得ない概念的現象なのではないかという説もある。
・重い水は通常の生物とは異なり、原則的に交配による生殖は行わず、生態系に組み込まれてもいない。後述する特徴以外は、文字通り水と変わらないという生物として異様な生態をしている。
・上記の通り、重い水は普通の水と多くの部分で共通の性質を持っているが、普通の水に比べて(環境により大きく異なるものの)平均して八倍ほどの重さがあることが知られている。また、重い水は自らの意志で動くことが出来るため、これを以って魔法生物とされている。
・重い水は水の中にいる生物の魔力を糧に生きている。特に子供や女性の魔力が好みであるらしく、水遊びする子供に纏わりつき、溺れさせるようにして魔力を吸収する。これにより対象が溺死した場合、水底で遺体を自らの体で包み込み、長い時間をかけて肉体ごと吸収する。
・また、溺れかけている対象を囮とし、助けに入ろうとした個体もまとめて水中に引きずり込む性質も確認されている。
・重い水は水と同じ性質を持つため、物理的な打撃で倒すことは不可能である。そもそも生物としての器官が備わっていないため、毒や幻覚等も通用しないほか、凍らせて粉々に砕いても倒すことは出来ない。超火力で存在を保てないほどに焼き尽くす、あるいは蒸発させれば倒すことが出来るが、重い水は平均して酒樽十個分ほどの体積を有するため、現実的にはかなり難しい。
・魔物は敵。慈悲は無い。
『…見ての通りの見た目だし、生物としてもだいぶかけ離れている奴だからな。知ってなきゃ対処の仕様がない』とはグレイベル先生。こいつが魔法生物として認知されるようになったのは割と最近の話だけれども、記録をよくよく読み漁ってみれば、こいつが原因と思われる水難事故が割と見つかるそうな。
『実際、水難事故の多い魔の水域を調査してみたら、重い水がいっぱいいたことがあってねー……』ってピアナ先生が悲しそうに教えてくれた。前述の通り、重い水は子供を襲いやすい傾向があるから、夏場に水遊びをしている子供たちが割と被害に遭っていたらしい。しかも、溺れた子供を助けようと、家族やその他村人が巻き込まれたケースもかなり多いのだとか。
その上さらに、『正体が判明した後も、普通の冒険者じゃ倒せないことが多かったの。強力な魔法使いでも、川のどこにいるかもわからない重い水は倒せないし、例え場所がわかっても、それこそ流れる水を無視できるほどの強力な魔法は撃てない』って絶望の追加情報も。今回みたいに区切った狭い池みたいな限定的な場所ならともかく、渓流や湖の場合、まず対処はできないのだとか。
『それじゃあ、どうすればいいんですか?』ってクーラスが質問。『…出来るなら、上流を堰き止めて干上がらせる。出来ないなら、立ち入り禁止区域にするしかないな』ってグレイベル先生。
ただ、やっぱりこれも問題があるらしく、(重い水とは知らないまでも)昔から入るべからずの言い伝えがある池なのに、誰もその理由がわかっていなかったり、あるいは子供が度胸試しとかで入ってしまうため、被害が出てしまうことがあるのだとか。『ホントに水にしか見えないからねー……そういった意味で、脅威の認知が全然されないの。これが本当の化け物だったら、みんな警戒してくれるのに』ってピアナ先生が言っていた。
とりあえず、石か何かで水場を囲うのが一番現実的だろうか。あるいは物量作戦で、でっかい網的な何かで掬い上げるとかも良いかもしれない。
ちなみに、重い水は魔法薬の触媒としての材料になるほか、【水だけど水じゃなく、生物である】という性質を用いていろんな実験に使われるらしい。その汎用性は恐ろしいほどに高く、『死体の回収も難しいからかなりのレアもので、そっちのスジに売るとすんごいお値段になるんだよね……!』ってピアナ先生がこっそり教えてくれた。学術用の物でもかなりお高いらしく、重い水狩りは魔系の良い小遣い稼ぎになるとも。
授業後、グレイベル先生が『…重い水の授業、実は出来ない年の方が多いんだよな』って教えてくれた。単純に用意することが出来るかもわからないのと、水着の時期までに間に合うかどうかも怪しいってのがその理由らしい。『…授業があるのが後期。一応夏休み中も手配はかけているが……さすがに秋に水の中には入りたくないしな』って先生は言っていた。
一方でピアナ先生は、『……出来ればやりたくなかったんだよね。水着、恥ずかしいし』ってコメント。女子の誰かが『そんなこと言ったら、彼氏と湖デートいけないじゃないですかー!』って茶化しだす。『そっちは良いの。だって二人きりだし、ラギくんは私だけを見てくれるし』ってピアナ先生は普通に惚気た。ちくしょう。
『ただ、その……家族のみんなとか、友達とか? 特に先生の場合、ほら、寂しがり屋でそーゆーのに餓えている誰かさんを誘うことが多かったから……ねぇ?』とはピアナ先生。
『一緒に遊ぶ人がアレだと、その……水着姿になるのがみじめっていうか』ってピアナ先生は目を伏せる。女子の何人かが全力で首を縦に振っていた。
ピアナ先生とステラ先生、いとこ同士だから先生たちが学校に入るくらいまでは普通に家族ぐるみで湖とかに遊びに行っていたらしい。そして、ステラ先生はそのころから年に似合わないキュートでエクセレントな夢いっぱいの御体をされていた模様。こいつぁいいことを聞いたと言わざるを得ない。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。授業後はみんなで普通に水遊びしたからか、なんかちょっと微妙に疲れた。考えても見れば、普通より八倍も重い水で溺れるのも相当体力を使った気がする。今更ながら、けっこう命の危機があった授業なのではあるまいか。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。こいつ、寝る直前まで『あの重い水……筋トレに最適なんだよなぁ……手に入らねえかなぁ……』とかトチ狂ったことを言っていた。普通に岩でも担いでいればよくない?
ギルの鼻には重い水を入れておく。おやすみ。
マジでストック尽きました。ちょっとしばらくお休みさせてもらいます。
おしごと には かてなかった よ……。