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173日目 創成魔法設計演習:羽根車要素の設計講義

173日目


 ギルの腹からさざなみの音が。しかも口から潮風のかほりも。ついでに肌がこんがり焼けてる。満喫してるなって思った。


 ギルを起こして食堂へ。奴の腹から海の音が聞こえるためか、ミーシャちゃん、パレッタちゃん、そしてちゃっぴぃがギルに引っ付いていた。『なんか……落ち着くの……』、『紛れもなく母なる海なり』、『きゅー……』って三人してギルの腹に耳を当て、その潮騒を楽しむっていうね。


 あと、グッドビールも「くぉん!」って嬉しそうにギルのまたぐらに突っ込み、やたらと腹筋とか背中とかをペロペロ舐めていた。不思議に思ったミーシャちゃんがギルの首筋をぺろりと舐め、『……海の味がするの!?』ってびっくりしていたけれども……。


 あれ普通に汗の塩じゃないのだろうか。まぁ、本人が海だと思っているならそれでいいか。


 あえて書くまでも無いけれど、ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。『今日のは塩が効いてるな!』とのコメントも。奴がジャガイモを貪り食う度に、波の音が激しく……まるで嵐のような音になっていたことをここに記しておく。


 ちなみにだけど、ロザリィちゃんは海に行ったことが無いらしい。『一度は行ってみたいと思うんだけど……湖よりも大きくて、辺り一帯がぜーんぶ塩水って……ちょっと想像つかないなぁ』とのこと。確かに、俺も生で見るまで信じられなかったような気がする。


 『いつか連れていってあげるよ』って微笑んだら、『……新婚旅行のお誘い? まだちょっと気が早いぞっ!』ってにこーって微笑まれて、問答無用でキスされた。しかも、自分で言っているのにロザリィちゃんの方が真っ赤になるっていうね。


 ああもう、本当にロザリィちゃんが可愛い。俺、一生かけてもこの娘を幸せにしないと。さしあたっては、今のうちに良い感じのリゾート地の情報を集めておかなくては。


 今日の授業は創成魔法設計演習。『みんな、いるー?』って杖をコンコンしながら出欠を取るステラ先生が最高にステキ。しかもなんかいつもとちょっと違う良い匂いがする。


 『香水でもつけました?』って聞いたら、『ちょっとお高いシャンプーに変えてみたんだけど、よく気づいたね?』ってびっくりされた。いつも使っているお気にの奴がたまたま売り切れていたらしい。『お風呂に備品として共用のシャンプーはあるんだけど、あんまり質は良くないから女の子はほとんど使ってないんだよね』とはステラ先生。


 男子全員、その一言にびっくりしまくりんぐ。俺たち全員、マイシャンプーとかもってない。お風呂セットなんてタオルと着替えくらいで、入学してからずっと、風呂に備え付けの石鹸とシャンプーしか使っていない。さらに言えば、面倒くさいからって石鹸で全身を洗う奴だっている。


 『えっ、男子ってあんなのそのまま使ってんの?』って女子を代表してバルトのシャンテちゃんがこっちに聞いてきた。『しかも、男子風呂にはあの最低品質のリンスすらないの?』って衝撃の事実も。『妙に早風呂だと思ってたけど、そっか、みんな適当だからか……』とも軽く煽られた。


 男子と女子の風呂の備品の格差に泣きそう。いつぞやは入浴剤での格差もあったし、たぶん調べればもっといろいろ出てくるのだろう。


 あと、女子同士だと互いのシャンプーを試しあったり、スキンケアに関していろいろ知見を深め合ったりしているらしい。時にはステラ先生もそれに交じり、美容のためのぬるま湯半身浴で長く語り合うこともあるのだとか。


 ちくしょう。なんて羨ましい。ロザリィちゃんとステラ先生と半身浴で語り合うとか、楽園を超えた天国じゃないか。女子ってだけでその中に交じれるとか本当にズルい。ちくしょう。


 肝心の授業内容だけれども、今日は風を使った魔道具の一要素となる、羽根車についての設計に関する講義だった。今回は魔法的なものに限られるわけだけれども、ある意味予想通り、一口に羽根車(風を送り出す仕組み)といってもいろんなノウハウがあったりする。


 『みんなが実戦で使うような風の魔法なら、一瞬で強力な一撃を……ってコンセプトになるから、実はこの手の風の機構は魔法的に組み込む必要はないの。でも、今回みたいな魔道具の場合、出力はそこまで求めないけど、永続的に……ループして使えるように魔法を設計しないとダメかな』ってステラ先生は言っていた。羽根車はあくまで魔法的に風を起こす仕組みの一つであって、羽根車=風の魔法ってわけではない……まぁ、この辺は当たり前か。


 んで、じゃあ羽根車的なものを魔法陣の一要素として組み込む場合、いったい何がパラメータとして効いてくるのってことになる。以下に、ざっと概要を示す。


・魔法陣回転数(あるいはそれに類するもの)

 簡単に言えば魔法機構そのものとしての出力。今回の場合、魔道具(魔法陣を魔法的に組み込む)かつ永続的使用のためにループさせるため、魔法陣回転数が出力として扱える。単純に大きければ大きいほど出力として高くなるけど、特定の回転数で共鳴(暴走の原因)が生じたり、高回転数になるほど壊れやすくなったり制御しにくくなるから注意が必要。触媒反応学や魔法材料学による強度計算、魔導工学による共鳴や魔導機関の知識が必要。


・魔力吸入流量

 源となる魔力を単位時間あたりにどれだけ引っ張ってこれるかを示すもの。どんなに魔法陣そのものがハイスペックでも、一度にちょっぴりしか魔力を流せないなら宝の持ち腐れ。こいつもやっぱり原則的には大きい方が出力は高くなるけれど、魔法陣にそれに見合った能力が無いとやっぱり意味が無かったりする。


・全魔法圧(あるいはそれに類するもの)

 最終的に出力された魔法圧力そのもの。ここではこういう言い方をしているけれど、とりあえず最終的な魔法の強さそのものだと思ってもらえれば問題なし。設計的には、最初に目標となるこれらの数値を掲げ、如何にしてこの数値を達成できるか試行錯誤するものだとか。『大抵は……無茶苦茶な要求してくるからね……あはは……』って死んだように笑うステラ先生も最高に可愛かったです。


・魔法密度

 文字通り。基本的には魔力固有の値のため、弄ることはあまりない。特別な魔力をいちいち使うのは汎用性に欠けるから、基本は通常魔力の標準値を用いる。特注品や大掛かりなものならこの限りではない。


・比魔速度

 この手の魔道具の総合的なスペックを示すパラメータ。単位次元としては魔法陣回転速度と同じ。単位魔法流量(スペック)を満たす時の魔法陣回転速度なのだとか。形がだいたい同じ魔法陣(魔導機構)をデカくした場合や小さくした場合において、その性能を比較するときなんかに使うらしい。正直意味はよくわかんなかった。


・魔法効率(ここでは全魔法圧効率)

 今回の場合、比魔速度とあらかじめ定まっている規格の表を突き合わせることで求まる。やっぱり効率が良いほどスペックの良い魔法ってことになるらしい。



 大雑把にはこんなもん。重要なのは比魔速度で、ここから逆算して羽根車の役割を果たす魔法陣の各パラメータが決定していく。具体的には噛深(半径)とか積層密度だとかそのへん。触媒反応学でよく出てくるアレらね。


 『今回話したのあくまで標準的なものだから、実際は各製品によっていろいろ考慮しなくちゃいけないことが出てくるの。例えば魔法属性を考慮して表面をコーティングすれば、それに付随して魔法陣の噛深を変えなくちゃいけないかもしれない。繊細な魔法にするのであれば、魔法剛性を極端に高くしたうえで羽根車枚数を極端に落としてみたりとか……ね?』ってステラ先生は言っていた。


 どうやらマジに物によってコンセプトががらりと変わってくるために、あくまで基本的な事しかここでは教えることが出来ないらしい。『授業の後半の、自由に設計作業する時間になったらいつでも質問に答えるからねー!』ってにこって笑うステラ先生が最高に可愛かったです。


 なんだかんだでちょっとした雑談を交えつつも、こんな感じの座学がメイン。詳細は俺のノートを参考にすること。ステラ先生が教えてくれた全てを文字通り一言も漏らさず書き留めたから、日記に書くにはあまりにも膨大な量になっちゃったんだよね。


 しかしまぁ、ステラ先生が講義をしてくれるだけでこんなにも幸せな気分になるとは。授業を受けているというよりも、いつも通りの休日のおしゃべりを楽しんでいるって感じで全然大変じゃなかった……というか、普通に夢見心地でめっちゃよかった。気付いたら授業の時間が終わってるんだもん。マジでびっくりしたよ。


 あ、でも、相変わらずポポルやミーシャちゃんは話についていけていなかったっぽい。先生が雑談している時は普通に目を輝かせているのに、講義の内容になると目が虚ろになっていた。バルトの連中も割とそんな感じの人間がいるようで、ただただ漠然と手を動かしてノートを取っている奴が多かったような。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。風呂場にて、なぜかお湯が全部塩水になっていることを発見。『めっちゃ傷に染みるんだけど!』、『塩ゆでにされた気分だ』、『やべえ、めっちゃ浮く!』などなど痛がる奴や楽しむ奴でたいそう賑やかだった。


 とりあえず、男子全員で仁義なき地獄のスプラッシュカーニバルを開催。相手の顔面にめがけてお湯(塩水)をぶっかけるという、冥獄の悪魔でさえチビって逃げるようなおそろしいイベント。


 出汁の素(?)となっているギルだけは『俺こんなの全然余裕だし?』ってぴんぴんしていた。それ以外の男子は全員悶絶していたことを記しておく。


 一応書いておこう。髪の毛が傷んじゃうから、風呂上がり直前にみんなに魔法でお湯をぶっかけておいた。ただ、善意の行動なのに『加減ってものを考えろ』って怒られたのがわけわかめ。集団で塩水をぶっかけてきた連中(しかも魔法の全力ガチ)が何を言っているのか。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。風呂場ではしゃぎすぎたからか、なんか俺も妙に眠い。女子よりも長風呂しちゃったし、これはもう実質女子みたいなものだろう。


 アホなこと書いてないでさっさと寝よう。ギルの鼻にはヴィヴィディナの一部でも詰めておく。どこの部位かは知らぬ。おやすみなさい。

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