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170日目 占い

170日目


 ギルの瞳がハート。ミーシャちゃんが喜びそう。


 ギルを起こして食堂へ。休みだからか妙に人が少ない……と思ったら、早起き組のクーラスが『気持ちよすぎて正直寝坊しかけた』って教えてくれた。ステラ先生のお膝の感触がずっと残っていて忘れられなかったほか、夢にまでステラ先生が出てきて膝枕をしてくれたらしい。


 『あんなにも目覚めたくないと思ったのは、生まれて初めてだ』ってクーラスはしみじみとつぶやいていた。なんかイラッとしたので、とりあえず軽くささくれの呪をかけておいた。


 朝食はブラッディスープなる新製品をチョイス。名前はおどろおどろしいけれど、要は赤い材料をふんだんに使った赤いスープってだけ。トマトを始め、パプリカ、ニンジン、トウガラシ……と、名前の割りに材料のチョイスはヘルシー。


 トマトの甘みをベースとし、そこにトウガラシの辛さがいい感じに効いて、その他の材料が深みを与えているという見事な調和を見せていた。


 あと、そんなに多くないとはいえエビも肉も入っていて非常にデリシャス。ちょっとクセがあって、何人かはあまり好みに合わなかったっぽいけど、慣れればそんなに気にならない……というか、むしろそれこそが良いんじゃねって思える感じ。


 俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅう……ん?』ってちょっと不思議そうな顔をしていたけれど、途中から普通にごくごく飲んでいた。あいつの場合、普通にカップに口をつけさせているのに、なぜか器用にエビや肉ばかりを食っていくから困る。あの謎の口のテクニック、マジで何なんだ?


 あと、ブラッディスープを飲んでお口が真っ赤になったロザリィちゃんが、照れ隠し(?)で『血ぃ吸っちゃうぞーっ!』って俺にじゃれついてきた。最高に幸せだった。


 ギル? 普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。辛いのがそんなに得意じゃないミーシャちゃんがスープのトウガラシを当たり前のようにギルの大皿に入れていたけれど、あいつはそれも普通に食っていた。


 食器を返した後、おばちゃんに『今日のスープ、おいしかったよ』って声をかける。ついでに、『キャッチーな名前だけど、もっと普通の名前の方が人気出るんじゃない?』とも言ってみた。


 『……実は本当に、隠し味で血を使ってるんだよね。何の血かは内緒だけど』って返された。まぁぽんぽん壊さないならなんでもいいや。


 午前中はクラスルームでゆっくり。なんかミーシャちゃんがグッドビールのブラッシングをしていたので、適当にそれを眺めていたような気がする。グッドビールの奴はくすぐったいのか、結構身動ぎしていたっけ。


 あと、抜け毛が半端なかった。ブラシにごっそりついていて、それだけでなんか細工物の一つでも出来そう。『ふっかふかにしてあげるの……!』ってミーシャちゃんは嬉しそうだったけれど、掃除するのは間違いなく俺だ。


 そうそう、ミーシャちゃんに対抗してちゃっぴぃの髪を全力で梳かしておいた。子供だからか、それとも夢魔だからか、あれでちゃっぴぃの髪はさらさらで綺麗だ。枝毛もほとんどないし、当然のごとく白髪だってない。艶やかで傷んでもいない。……もしかして夜のお風呂の時に、ロザリィちゃんが何かしているのだろうか?


 これがミニリカだと、ちょっと手入れを怠るとすぐに髪先が痛む。何度『もうダメじゃあ……! こんなんじゃ人前に出られぬ……!』って部屋に引きこもるミニリカを無理やり連れ出し、褒めちぎって慰めた上に髪の手入れを手伝わされたことか。


 ババアロリなんだから、もう見てくれとかどうでもいいんじゃないの? 女はいつまでも女の子だから困るっていう。


 さて、ちゃっぴぃの髪を全力でデコって遊んでいたところ、なにやら女子たちが集まってワイワイやりだした。その中心にはなぜかパレッタちゃんがいて、怪しげなお香のようなものと、よくわからんこまごまとした調合セット的なもの(それにしては怪しい雰囲気のデザイン)を広げている。


 『えーっ、うそぉ!?』、『やんっ、ちょっとうれしい!』などなど、結構な盛り上がり。ちょっと気になってさりげなく耳を澄ませていたら、『気になるならパパもこっちにくるがよろしい』って直々にお声がかかった。


 パレッタちゃん、占いをやっていた。なんか女子たちの間で最近密かに流行っていたらしい。


 パレッタちゃんが用意した占いセットはその個人の守護霊を占うものだとのこと。正確にはアニマ、トーテム……まぁ、いろんな言い方があるけれども、まじないによって出てきたその人の【象徴シンボル】より、運勢だとかを占うのだとか。


 なお、『根拠はない。結果も割とコロコロ変わる。正直児戯に等しいが、それでもけっこう体感の的中率は高め』とのこと。良くも悪くも、お遊びの占いってことなんだろう。


 とりあえず様子見。『次はあたしなの!』ってミーシャちゃんが髪を一本ぷちって抜いて、パレッタちゃんに渡した。パレッタちゃん、その髪をマジックファイアであぶり、調合セット的なものにぶち込み、煮汁(?)をお香の中に入れ、よくわかんないプロセスを経て煙を出した。


 白い黙々とした煙が、何かを形作っていく。もしかしたら映し出していただけかもしれないけれど……ともかく、やがて煙の中にそいつが浮かび上がってきた。


 出てきたのは猫だった。


 『気まぐれな運命なり。良いことも悪いことも、ふらっとやってくるなり。悪いことが転じて良いことにもなれば、その逆もある。重要なのは、目の前の結果に惑わされず、自分だけの道を突き進むことなり』……ってパレッタちゃんは猫を見て、そう占った。


 言われてみれば、いろいろと思い当たることがあるような無いような。まぁ、占いなんだから得てしてそういう結果になるのだろうけれども。とりあえず、ミーシャちゃんの象徴が猫だったってのはなんか納得。


 その次はアルテアちゃん。やっぱり女の子なのか、あれでこういう占いが結構好きらしい。『可愛い奴でありますように……!』って柄にもなく(?)お願いしていた。


 『意を示せッ!』ってパレッタちゃんがアルテアちゃんの髪の毛で占い。もくもくとした煙が象ったのは。


 『……鳥?』、『綺麗……というよりは、力強いって感じね』って女子がざわざわ。くちばしの鋭さ、がっしりとした足のかぎづめ、凛々しいおめめを鑑みるに猛禽の一種。煙だから細かいところはよくわかんなかったけど、鷹か鷲かその辺だと思う。


 『力強い運命なり。導き、支え、標となる星の光なり。大きな風に乗り、目的に向かって真っすぐ進む強さが汝にはある。自信を持って突き進め。……だけど、雄大な翼は繊細なり。折れそうになったら休んでもいいし、誰かに甘えたっていい』……って、パレッタちゃんはその鳥を見て占った。


 『同じ鳥なら白鳥が良かった……』とはアルテアちゃん。占い結果自体はあんまり気にしていないらしい。近くで見ていたヒナたちとエッグ婦人はなぜかとても自慢げだったけどね。


 そんな感じで占いを見ていたところ、やがて男子も集まってきた。『やっぱ獅子かドラゴンだろ!』、『蛇とかもカッコよくね!?』って意外にも結構盛り上がる。みんな占いそのものよりも、自身の象徴がどれだけカッコいいのかが気になるらしい。


 『俺のやってくれよ!』ってフィルラドが髪を抜いた。『お前のことだ、どうせダラけた狸とかだろ?』ってアルテアちゃんがくすくす笑う。


 占いの結果は──まさかのシカ。それも、角が大変立派で芸術品みたいなやつ。『うっそぉ……!?』ってアルテアちゃんは驚いていたし、フィルラド自身もびっくりしていた。


 『譲れぬ誇りを持つ者なり。気高き理念を持つ者なり。時にはそれが傲慢や怠惰をもたらすことがあるが、本質に潜む高貴なる魂は不変なり。己が信ずるもののために、自らを犠牲にすることを厭わない……そんな優しき強者の星が輝いている』……って、パレッタちゃんはそのシカを見て占った。


 譲れぬ誇りって、まさか尻の形に対するこだわりとかそんなんじゃないだろうな? フィルラドのことだし、案外そういう可能性の方が強い気がする。やっぱりあの占い、根拠がないとはいえ結構当たるのかもしれない。


 その後はポポルが占いに。出てきたのはだらけ切ったイタチで、ジオルドがやたらと筋肉質(だけどすんごく優しい顔立ちの)クマ。クーラスがちょっと妖しい雰囲気の狐だったっけ。


 『もっとでっかい強そうなのが良かった……』、『クマなら……悪くないか?』、『狐って当たりの部類なの?』とは三人。やっぱりパレッタちゃんはそれぞれの象徴からいろんなことを占っていたけれども、妙にしっくりくるというか、納得できる感じだった。


 男子も女子も、概ねウサギとかリスとか猿とか、小動物系の人が多かった。珍しいところでは狼や大魚、中にはユニコーンや化け蜘蛛なんて魔法生物の人も。『女子なのに蟲はちょっと……』、『ユニコーンって、もしかしてそういうこと?』などなど、みんな出てきた象徴であれこれ盛り上がっていたっけ。


 で、満を持して俺のロザリィちゃんの番に。『可愛いのが良いなぁ!』って言いながら、ロザリィちゃんはパレッタちゃんに髪を渡す。


 もくもくと煙が上がっていき、そして出てきたのは──。


 ──びっくりするほどセクシーで、妖しくて艶めかしい雰囲気の夢魔(ロザリィちゃんの面影あり)だった。


 『きゃあっ!?』って半数の女子が赤くなり、顔を手で隠す。『うっひょぉ!』、『おうふっ!』って大半の男子が歓喜の声を上げたり、ガッツポーズを取っていた。


 ロザリィちゃん? 『~~っ!』って声にならない声を上げて、真っ赤になっていたよ。そらもうこっちがびっくりするくらいにかーって赤くなっていて、ぶっちゃけ日焼けでもしたんじゃねって思えるくらい。


 そんなセクシーな夢魔は、誘うようにポーズを取ったり、流し目や上目づかいで俺の方をちらちら。意味ありげに身をくねらせたり、そのむちむちボディを見せつけてきたり、なんか普通に耳とか噛みついてこようとしていたっけ。


 『……一応聞くけど、占う?』ってあのパレッタちゃんが遠慮がちに聞く。『もうどうにでもしてぇ……』って涙目のロザリィちゃん。『ヴィヴィディナのママだから。しょうがないから』ってパレッタちゃんは慰めていたっけ。


 一応書いておこう。ロザリィちゃんの象徴が自分と同じ夢魔だったからか、ちゃっぴぃは『きゅーっ♪』って嬉しそうにしていた。今思い返してみれば、あの夢魔、ロザリィちゃんの面影があったのはもちろん、ちゃっぴぃの面影もあったような?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。占いからずっとロザリィちゃんは真っ赤なままで恥ずかしそうにしていたので、『あくまで占いなんだから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ』って優しく微笑んでおいた。『……ホント?』って上目づかいで訪ねてくるロザリィちゃんが本当に可愛い。


 『俺が今までに一度でも、キミに嘘をついたことがあった?』って聞いてみれば、『もう、大好きっ!』って熱々のキスが。『そういうとこだぞ』ってアルテアちゃんはコメントしていたっけ。


 ギルは大きなイビキをかいてぐっすりと寝こけている。……念のため書いておくけど、こいつの象徴はなんかヤバそげな異形の魔神だった。しかも、姿を現したのは短い時間で、すぐに占いセットがぶっ壊れるっていうね。


 たぶん、ギルの体に封印されている例の魔神だろう。あれが出てきてしまった瞬間、ギルがちょっと申し訳なさそうな顔をしていたのを覚えている。あ、占いセットについては『どうせ消耗品みたいなものだから気にしないで良い』ってパレッタちゃんは言っていたっけ。


 忘れそうになるけれど、ギルはギルで結構面倒な問題を抱えている。今は全く問題ないとはいえ……いずれ、きちんとケリをつける日が来るのだろうか。体に魔神を封印されっぱなしで後々問題になったりとかしないといいんだけど。


 寝よう。ギルの鼻には占いセットのお香の部分の灰的なものを詰めておく。


 最後になるけれど、これだけは書かせてもらおう。


 俺の占いで出てきたの、恰幅の良い老婆と大きな帽子のグラマラスな魔女と、幼い見た目の踊り子と、あとついでに夢魔だった。なんで俺だけあんなにたくさん出てきたのか本当に謎。あれ、象徴じゃなくて生霊でも呼び出してたんじゃね?



※明日は燃えるゴミ。魔法廃棄物は捨てない。

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