表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/367

169日目 魅惑のお膝

169日目


 ギルの耳がカサカサ動いている。あいつの耳筋どうなってんだろ?


 ギルを起こして食堂へ。休日だからか人が少ない……のもそうだけど、ルマルマの男子が全然いない。おこちゃまポポルやヒモクズフィルラドはともかくとして、まじめなジオルドやクーラスまでもが起きてないってのはちょっと不思議。


 心配になったらしき女子が奴らの部屋まで行ったらしいんだけど、『なんか中から魘されてる声がして……入ったほうがいいのかな?』って言っていた。一応、男子の部屋だからそのまま入ることにいくらかの躊躇いを覚えたらしい。これがアルテアちゃんだったら普通に入っていただろうけれども。


 ともかくそんなわけで、女子たちを何人か連れて起きていない男子連中の部屋(最初にクーラスの所)に行ってみることに。やはりというか、汗ダラダラで魘されていて大変苦しそう。


 肩を優しく揺すっても起きなかったので、頬をぺちぺち叩いてみる。『……夢、か』ってクーラスが目覚めた。ナイトキャップ装備ジオルドも、『……夢で、よかった』ってホッと一息。


 どうも、昨日の耳蟲の体験があまりにも衝撃的だった故に、夢にまでアレがでてきたらしい。『ベッドに入ったあとも、あの音が聞こえる気がして全然寝られなかった』とのこと。実際、奴らの目の下にはだいぶ濃いクマがあった。


 とりあえず、体そのものには異常はないので次に行く。どいつこいつもみんなうなされていて汗びっしょり。でも、女子に優しく起こされたというその事実のみを持って、ものすごくうれしそうな顔をしていた。


 『女の子に起こされるだけで、そんなにうれしいの?』って誰かが言った。『そりゃそうだろ』、『男の浪漫だ』、『憧れだ』、『それが嫌いな男はいない』、『正直“勝ち”だよな』……などなど、男子は口々にそんな言葉を。女子たちが本気で首をひねっていたのがちょっと面白かった。


 ただ、ジオルドとクーラスだけは涙を流していた。『どうして……女子に起こさせてくれなかったんだよ……』、『俺……一度でいいからそうやって目覚めたかったんだよ……』とのこと。起こした相手が俺じゃ不満らしい。贅沢言いやがって。


 みんな目覚めたところで今度こそ朝食。今日はあっさりめにシンプルなジャムパン。ちゃっぴぃとはんぶんこして食した。焼き立てパンの良いかほりがして本当に最高。やっぱパンは焼き立てに限る。


 ギル? 『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていたよ。今日も今日とてすんげえ食欲。耳もカサカサ動いていて、全身でその喜びを表現していたっけ。


 朝食の後はクラスルームでゆったり。課題もないし、遊びに行こうって気分にもなれなかった故である。耳蟲体験組も、『今日くらいはゆっくりしたい……』って全力でだらけていた。


 ああ、今日もこのまま怠惰で無意味な一日を過ごしちゃう俺ってばマジ悪い子……なんて思いつつ俺専用ロッキングチェアで揺られていたところ、『みんな、いるー?』ってステラ先生が遊びに来てくれた。ひゃっほう。


 『昨日、耳蟲をやったって聞いて……。みんな、落ち込んでるんじゃないかなって』とはステラ先生。クラス担任として、みんなのメンタルケアにやってきたらしい。休日なのにクラスのみんなのことを考えてくれるとか、ステラ先生マジ聖母。


 とはいえ、具体的にはどーすんのよって話になる。『いつぞやみたいに、ぎゅってしてくれるんですか?』って聞いてみれば、『それでもいいし、たしかにそろそろみんな寂しくなっちゃう時期だろうけど……それでトラウマは払拭できるの?』ってステラ先生はこてんって首を傾げた。俺のハートがハチの巣になったのは書くまでも無い。


 で、ステラ先生、俺たちが言葉に詰まったのを見てにんまりと笑い(そんな姿がマジキュート!)、『実は、秘密兵器をもってきちゃいましたっ!』ってあるものを取り出した。


 そう、ステラ先生は──耳かきを装備していた。


 『耳蟲はお耳の中で悪さをする蟲だからねっ! お耳掃除をすれば、全部解決だよっ!』ってステラ先生はドヤ顔。そして、男子一同がめっちゃ盛り上がる。一部の女子もルフ老レベルで息をハァハァさせていた。


 意を決したらしきジオルドが、『先生、耳掃除って……その、どういうスタイルで?』って声をかける。『……そんなのふつーに、膝枕だよ? それ以外に何か、あったっけ?』ってステラ先生はにっこり笑い、自らの魅惑のお膝をポンポンと叩いた。


 大歓声だった。ヴィヴィディナも歓喜の声を上げていた。俺もガッツポーズしたし、フィルラドとクーラスはハイタッチしていた。


 そんなわけでステラ先生のお耳掃除タイム。『お、お邪魔しまーす……ッ!』ってジオルドがステラ先生のお膝に。『やべえ……俺、幸せだよ……』ってあいつは涙を流していた。


 一方でステラ先生は、『もう、大袈裟だよー』って慈愛の笑み。すごく優しい手つきで、普通にお耳を掃除してあげていた。しかもしかも、時折優しげに頭を撫でたり、髪を手で梳いたり、おでこを撫でたりなんかもしちゃって……。


 感動のあまり、ジオルドは涙していた。『い、痛かった!?』って慌てるステラ先生がめっちゃかわいかったです。


 さて、長い長い時間を経て、とうとう俺の番に。『さ、おいで?』ってにっこり笑うステラ先生が最高にステキ。


 そして訪れる魅惑のお膝。すんげえ柔らかくてふっかふか。ちょっぴりあったかくって、なんか懐かしい気分。安心感が凄まじく、どことなく眠くなってくるような、ああ、ここにいれば怖いことなんて何もないんだなって、本能でそう思えてしまうくらい。


 ああもう、マジで後頭部とかほっぺとか、いろんなところが幸せで、ぼんやりとした記憶しか残っていない。


 『いつも、おつかれさまー……』、『いつも頑張ってるの、先生は知ってるよー……』って、ステラ先生の声が心地よい。なんかもううっとりしていて夢心地の気分。あのほわほわでふわふわな気分を、いったい文章でどう表現すればいいのか。


 残念だったことが一つだけ。『さ、次は反対のお耳だよっ!』って声と共に、夢心地の気分が途切れてしまった。反対側に移ってお耳掃除再開した後はまたあの夢のようなまどろみに包まれたけれども……。


 ロザリィちゃんだったら、普通にお腹に顔を埋めさせてくれたと思う。というかむしろ、『逃げるんじゃないぞぉ?』って自分からそうしてきたと思う。


 ともあれ、そんな感じでお耳掃除タイム終了。ポポルもギルも、男子はみんなすっごく幸せそうな表情をしていたし、気高きアルテアちゃんもお母さんのお膝でうたたねしてるんじゃねってくらいに緩みきった顔をしていた。


 当然のごとく、ミーシャちゃんはその至高のお膝で喉をごろごろ鳴らして気持ちよさそうにしていたし、パレッタちゃんも『このお膝……抗いがたいなり……』ってほおずりとかしていた。『く、くすぐったいってばっ!』って恥ずかしがるステラ先生が最高に可愛かったです。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、久しぶりにステラ先生とカードゲームをした。相も変わらずめっちゃ強くてケツの毛まで毟られたけれども、『こいつはお耳掃除代だよっ!』ってきりっ! ってするステラ先生が可愛かったから別にいいや。しかも先生、ちゃんと半額返してくれるしね。


 あと、ステラ先生は『きゅ!』って甘えるちゃっぴぃにも膝枕していあげていたし、なんならアリア姐さんにもその至高のお膝を提供してあげていた。


 「たまにはこういうのも、悪くないわね」って言わんばかりにステラ先生にじゃれつくアリア姐さん。『恥ずかしいよ、もぉ……!』って照れるステラ先生。


 男子の数人が『こういう組み合わせ、悪くないな』、『むしろ大いにアリだ。これがマリアージュってやつか』ってコメントしていた。語彙力のない男子は、唯々全力で頷いて同意していたっけ。俺もだけど。


 ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。ステラ先生のお膝&お耳掃除のおかげで、たぶん男子全員が同じくらいの快眠となることだろう。冗談抜きに、このタイミングでステラ先生が対応してくれて、良かったと思う。


 ……あれだけ精神にクる授業を受けていたら、誰だって暖かな温もりを求めたくなる。そうでもしないと、心が持たない。実際、耳蟲を体験した全員が、回復直後に誰かに抱きしめてもらっていたしね。


 これから先、同じくらいに……いいや、もっと精神的に参る授業は増えてくることだろう。魔系として生きる以上、ヤバい魔法生物と精神世界で戦うことだってあるはずだ。


 それらに負けないためにも、確かな標として、こういう暖かな触れ合いは大事なのだと思う。


 一応書いておこう。この暖かな触れ合いの実践として、寝る前にロザリィちゃんにぎゅっと抱きしめてもらった。


 『せんせいは浮気じゃないし、せんせいのお膝は私も楽しんじゃったから……でも、一番は私だからね? 私には、弱いところ全部見せてね?』ってロザリィちゃんが優しく抱き締めてくれて、俺もう本当に泣きそうになったよ。一生をかけても、この娘を幸せにしなきゃって思ったよね。


 ギルの鼻には愛の雫を詰めておく。おやすみなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ