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167日目 魔導工学:共鳴と安定について

167日目


 ギルのふとももがむちむちになっている。どういうことだよ。


 ギルを起こして食堂へ。ギルのふとももがあまりにむちむちしているゆえに、通りすがりの男子が信じられないとばかりに振り返って二度見していた。何でギルはこういうときばかりふとももをさらけ出すような衣服のチョイスをするのだろうか。


 ちなみに、ちらりと見えてしまったそれに、ギルは『いやぁん!』って反応していた。『うう……今日の大腿筋は全然仕上がってないのぉ……恥ずかしいから見ないでぇ……』とのこと。俺もうマジでこいつが何を考えているのかわかんねえや。


 食堂においてもその弾けるふとももは爆発する。『ちくしょう……ッ! わかっていても目が離せない自分が憎い……ッ!』ってジオルドは怨嗟の声を上げていたし、女子たちも『うそ……負けた……!?』って信じられないとばかりにギルのふとももを触って呆然。ギルは『やめてぇ……見ないでぇ……触らないでぇ……!』って終始恥ずかしそうにしていたけれど。


 辛抱堪らなくなったらしいちゃっぴぃが、『きゅーっ♪』ってそのむちむちのふとももの感触を楽しんでいた。『これ俺触って良いやつだよね』ってポポルもギルのむちむちふとももを揉んでケラケラ笑っていた。『悔しいけど……ステラ先生レベルのお膝なの……!』ってミーシャちゃんもギルの膝枕で喉をごろごろしていた。わかってはいても抗いがたき魅力があるらしい。


 ……でも、マジでステラ先生と同じレベルのふとももって言葉には心が揺らいだ。いや、あれで何とも思わない男子なんていないと思う。通りすがりのゼクトでさえ、『行くべきか……!?』ってかなり葛藤していたし。


 でも、それをやったら大切な何かを失ってしまうのもまた事実。みんながみんな、ポポルみたいに無邪気だったらこんな悩みなんてなかったのに。


 なお、むちむちふともものギルは今日も元気に『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。ジャガイモを貪る度にふとももが弾けんばかりにむちむちしていくのがたいそう不思議。


 一部の女子がその様子を見て、ダメ元でジャガイモを食べてさえいた。もちろん、特に変化は無かったけれども。


 今日の授業はテオキマ先生の魔導工学。開始早々、『置いてかれたくなきゃ必死で付いて来いよ』ってお言葉がありルマルマ一同たいそうビビる。シキラ先生やシューン先生レベルとは言わずとも、アラヒム先生くらいにはユーモアのある雑談というか、ワンクッションがあってもいいのに。


 内容は共鳴と安定について。原則的に、魔導工学における魔法要素とは組み合わせて使うものであり(現実の魔道具や魔法陣も、基本的にはいろんな魔法要素の組み合わせである)、ほぼすべてのケースにおいて出力……いわば、その魔法体を発動させるための動力(魔源)となる魔法要素が存在している。


 俺たちが生身で使う魔法の場合、俺たち自身がこの動力にあたったり、あるいは限定的に杖そのものが動力に当たるわけだけれども、この動力はその特性ゆえにちょっとした問題を抱えていたりする。


 この問題ってのが共鳴。各々が発する魔力の波の周期というか、位相というか……こう、魔力の気配のうねりみたいなアレ。常に一定の出力で魔力を放出している様に見えても、実際は人が感知できないくらいに細かい周期の波になっているだけらしい。


 この共鳴、うまく使えば俺の浮気デストロイみたいに魔法の効果を飛躍的に高めたりすることが出来るんだけれども、それにはかなりの制御技術を必要とする。人間がリアルタイムにその周期を制御して効果を高める……ってのはかなり難しい。さらにいえば、それを魔法回路などでマジカルに制御するとなるともっと難しい。


 たいていの場合、この共鳴が起きると魔力が高まりすぎて制御不能状態(暴走状態)となり、良くて対象の魔導機関(魔道具)がぶっ壊れ、悪くて周囲一帯が吹っ飛ぶほどの大規模な事故につながるのだとか。


 そんなわけでほぼ全ての場合において、共鳴は嫌われる役となっている。共鳴を役立てる例なんてほとんどないらしい。


 『共鳴問題は魔導機関の設計に必ず関わってくる。魔源が発する共鳴の周期に、各魔法要素が持つ共鳴の周期。それらが複雑に絡んだ結果生まれる、その魔法体全体の共鳴の周期。魔系ならこれを全部考慮しなくちゃならん』とはテオキマ先生。すでにこの段階で複雑すぎてついていけなくなったのか、ミーシャちゃんとポポルが絶望の表情。


 さて、具体的にこの共鳴の問題がどう関わって来るのかってところだけど……要は、ある特定の周期の魔力を使うと魔導機関が暴走してぶっ壊れるから、設計上で予想をつけてその周期を使わないようにしたり、あるいは何かしらの設計上の工夫で周期その物を無理やりずらしましょうってだけ。


 いずれにせよ、この共鳴の問題はとんでもなく複雑で、現在でもわかってないことが多い。だから、わかっているだけでもいいからメカニズムを理解し、防止抑制のための対策を考えられるようにしなくてはならない。


 『共鳴問題の処理が甘い魔系が作った魔道具は、クソうるさいしすぐ壊れるし性能もポンコツなガラクタでしかない。そんなもん顧客に渡したら相手方もブチギレるのは当然だわな。これだけ口酸っぱく言ってるんだから、君たちはそんなアホみたいなことしてこの学校の品位を落とさないでくれよ。困るのは後輩たちだ』……ってテオキマ先生は言っていた。なんかこの人、やっぱり魔系ではあるんだけど、今までの先生とだいぶタイプが違うみたいだ。


 ともあれ、こういった共鳴問題に対して然るべき対処をし、安定した動作にこぎつけるという一連の作業を安定化と呼ぶ。


 この安定化作業にもやっぱりノウハウがあって、魔力を使用していない静的状態での安定化作業、魔力を使用している動的状態での安定化作業、時間経過による不安定への対処、目標出力に対する不安定から安定への制御プロセス……などなど、それこそ黒板に書き切れないくらいに考慮しなくちゃいけない要素があるのだとか。


 『魔導機関によって安定化で考慮しなくてはならない要素は異なる。いくつかパターン化できるものもあれば、その製品においてのみ考慮しなくてはならないものもある。ある入力では問題なくとも、別の入力では問題が起きたり……魔法制御の分野とも密接に関わってくる問題故に、教師である私でさえ、一概に物事を断ずることは出来ん』ってテオキマ先生は猛烈な勢いで黒板を書いていき、そして端からどんどん消していく。


 この段階でフィルラドとパレッタちゃんがノートを取るのを諦めた。フィルラドはともかくとして、パレッタちゃんの場合、ノートは諦めるかわりに、黒板と先生の話に集中しようと思った可能性が無くも無い。 


 最後に、テオキマ先生は『この安定化は、喰っていくためのノウハウだ。文字通りの飯の種だ。私が教えるのは誰でも知っている基礎だが、諸君らはそれを自らの知恵にして、独自の技術を作って周りと競争しろ。誰も自分のやり方は教えない。早い者勝ちだ』って締めくくる。


 やっぱり同じものならきちんと安定化されているものの方が売れるとのことで、性能としては同じでも安定化がきちんとできていないものは見向きもされない。あるいは安定化がちゃんとしていたとしても、一番最初に世に生み出さないとやっぱり売れず、全ての努力がゴブリンのクソ以下のそれになり果てるのだとか。


 一応今日は板書だけだったけれど、疲れ果ててぐったりしている人が大半だった。テオキマ先生の授業は空気が張りつめているし、一瞬たりとも気が抜けないから余計に体力も精神力も使ってしまうのだろう。これだったら、退屈とは言えシューン先生の授業の方がよっぽど気が楽だ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。真面目な連中は各々ノートを見返し、互いに取りきれなかったところを補完してあってちゃんとしたノートを取っていた。一方でペン捌きの限界を迎えた連中は、まじめ組の肩をもんで媚を売りまくっていた。まぁ、お互い納得しているならそれでいいや。


 俺もクーラスとノートを見合わせつつ、いつもの連中に強制的に写させていたところ、ロザリィちゃんが俺の隣にちょこんと座ってきた。しかもしかも、耳元で『……お膝の浮気は許さないぞ?』って囁いてくるっていうね。


 気付けば、いつのまにやら俺はロザリィちゃんに膝枕されていた。普通にこう、幸せいっぱいの隙を突かれてぐいっと押し倒された(?)らしい。めっちゃぬくやわこくてふっかふか。


 この世にあれ以上に柔らかくて幸せなものがあるのだろうか。ロザリィちゃんってば、『私が良いっていうまで、起きちゃダメだからね?』ってずっと膝枕してくれるし。あの時間が一生続けばよかったのに。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。筋肉反射で俺のノートをコピーしまくっていたからか、なんかちょっと微妙にいつもよりイビキの音がうるさい気がする。こいつもそれなりに気を張って疲れているのかもしれない。何も考えていないように見えて、案外こいつは気配りが出来るしね。


 ギルの鼻には……ヒマワリの種でも詰めておく。夜のおやつに誰かが提供してくれた奴ね。みんなでポリポリ食べるのはなかなか楽しかったよ。みすやお。

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