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165日目 発展魔法材料学:魔法材料のき裂について

165日目


 ギルのお腹が輝いている。なぜ。


 ギルを起こして食堂へ。光り輝く腹筋が珍しかったのか、グッドビールが「ぅおんっ!」って叫びながらギルの腹筋に突撃し、そしてしたたかに頭を打ち付けてめそめそしていた。


 『いたかったね、いたかったね……!』ってミーシャちゃんがグッドビールの頭を撫でていたのを憶えている。どんな形であれ、使い魔と触れ合えることが堪らなくうれしいのだろう。


 割とどうでもいいけど、ギルの腹から発せられる光を見て、アリア姐さんが「あらやだ、なんかすごく懐かしい気分になるわ……?」とでも言わんばかりに不思議そうな顔をしていた。ギルの脇から出る月光は魔法植物を魔法的に活性化させる効果があるし、案外あの光には生命力にも似た何かが満ちているのかもしれない。


 朝食はなんとなくシリアルをチョイス。せっかくなのでちゃっぴぃセレクションにしてみた。今日はミルクマシマシの気分だったらしく、あいつは『きゅーっ!』って皿からあふれんばかりにミルクを入れてくれた。


 なお、味はいたって普通。特に可もなく不可も無く。ブレンドにこだわりも見受けられなければ、珍しいものを使っているわけでもない。……いや、あのちゃっぴぃが普通にシリアルのブレンドが出来たことを褒めてやるべきだろうか。


 ちなみに、『あーん♪』しているうちにシリアルに飽きたのか、ちゃっぴぃは俺の膝から降りてロザリィちゃんの方へ行ってしまった。で、ロザリィちゃんの食べかけジャムパン(ハートフルピーチ)を『きゅーっ♪』って美味そうに食っていた……というか、喰わせてもらっていた。ちゃっぴぃのくせにずるい。


 ギル? 『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。ジャガイモを食う度に腹が光り輝いて、なぜかアエルノの所のクリスタルリッチとヴィヴィディナがちょっぴり苦しそう(?)にしていたっけ。


 今日の授業はシキラ先生の発展魔法材料学。なぜかお供にルンルンも。教室にバカでかい化け蜘蛛がいる光景ってたいそうビビる。パレッタちゃんだけは『きゃっほう!』って喜びを隠しきれないでいたけれども。


 『なんかよぉ、脱皮しそうな感じなんだよ。せっかくならその瞬間をナマでみたいじゃん?』とはシキラ先生。普段は概ね研究室の学生が持ち回りで面倒を見ているらしいんだけど(触媒として足等を採取するため)、蜘蛛は騒いだり鳴いたりしなくて大人しいから、だったら授業に連れてきてもいいんじゃねって思ったらしい。


 実際、ルンルンはあまり動かず、時折足をカサカサさせたり、もぞもぞぶるぶると身動ぎするくらいで大変大人しかった。うちのちゃっぴぃのほうがよっぽどワガママで騒がしいと思えるレベル。あと、つぶらなたくさんの瞳をぱちぱちさせていて、一部の女子の背中に鳥肌を立たせ、そしてごく一部の女子の心をきゅんきゅんとさせていた。


 気付けば、肩に柔らかくて暖かなものが。『ごめ……むりぃ……!』って涙目のロザリィちゃん。少しだけなら蟲にも耐えられるようになったけれど、やっぱりルンルンに見つめられるのは我慢できなかったらしい。とりあえず、全力でぎゅっと抱きしめておいた。


 さて、今日は魔法材料のき裂について学んだ。前にもちょこちょこいろんなところで出てきたと思うけど、理論上(設計上)は耐え得る負荷魔力なのに、現実ではその耐久魔力以下で材料がぶっ壊れてしまうことが多々あるらしい。


 このぶっ壊れることを特にこの業界では【破壊】と呼び、厳密には個体材料が二つに分断されることを指す。


 で、じゃあなんで設計上は問題ないのにぶっ壊れちゃうの……ってところで出てくるのがき裂ってわけだ。


 『前の授業でも言ったけどよ、本当の意味で均質な材料なんて存在しないんだ。必ず何かしら介在物があったり、あるいは変形に基づく破壊過程……アレだよ、すべりとか転位とかが入ってくる。き裂はそのうちの、なんかこうちょっと混じってる隙間とか空隙とかそんな感じのアレだ』とはシキラ先生。


 つまるところ、現実においては対象の魔法材料には必ず弱い箇所ってのが存在する。故に、理論上の強度と実際の強度が異なるらしい。通常の触媒反応学の範疇では、この弱い箇所の存在を無視して計算するために、【設計強度内なのにぶっ壊れる】って現象が起きてしまうのだとか。


 『触媒反応学を学ぶ意味ってあるんですか?』ってクーラスが質問。『アレは基礎だからな。それに、十分に検討が出来ていれば弱い箇所を無視していいケースも多い。場合に因るから何とも言えねえけど、学んでいないやつは総じて使い物にならねえのは間違いねえよ?』ってシキラ先生はにっこり。


 結局のところ基礎をベースにイレギュラー(この場合はき裂)について対応していくため、触媒反応学をおろそかにしていると何も理解できなくなってしまうらしい。


 ともかく、材料の破壊については



・魔応力上昇限の存在(き裂、切り欠き)


・不純物や魔法的に活性な環境による魔素間凝集力低下の要因(介在物)


・魔法的変形に基づく別の破壊過程の介入(転位など)



 ……が挙げられ、これらが魔応力集中のきっかけとなって理想強度以下の負荷魔力での破壊が生じる。


 『いろいろ言ったが、この授業に関しては主にき裂に着目して話を進めていく。なんだかんだで一番多いし、ヤバいケースや考慮しなきゃいけないケースってのはこのき裂が原因の物が多いしな』ってシキラ先生はいつになく真面目に解説。


 き裂について今と比べて知識が無かった時代において、こいつが原因でかなり大きな事故が起きたらしい。ようやっと知識が集まって設計に反映できるようになった後も、実はまだまだ考慮すべき事項があったために大きな事故が起きて……ってのが繰り返されたのだとか。


 『起きちまったもんがしょうがねえ。でもな、魔系としてはそれすら糧にして次につなげなくちゃならねえ。二度とそんな事故を起こさないようにするってのが、この授業の……いいや、魔系の学問そのものの究極目標なのかもな』ってシキラ先生は言っていた。


 ……言われてみれば、シキラ先生の授業は魔法の強度だとか、破壊の形態……設計指針にまつわるものが多い。つまり、魔法や魔道具の設計に当たり、人命に直接関わる要素だと言っていい。嫌でも真面目にならざるを得ないのは当然だろう。


 まだまだ序盤の方だったので、今回はき裂に関するざっくりとした説明でおしまい。今後については『材料によってき裂に対して敏感、不敏感なものがあるからな。それらを評価するパラメータを検討していく方向で進めていく』とのこと。いずれ泣きたくなるほど難しくなってくるから、今のうちにせいぜい自由を謳歌しとけとも言っていた。


 授業後、『そう言えば、この前のディナーの約束はどうなっていますか?』って煽ってみる。『今ちょっと悩んでるんだよなァ……イベントが目白押しだから、タイミングがな』とのこと。一応、きちんと約束を果たす意思はあるらしい。


 あと、『いずれにしろ、あれで勝ったと思うな。近いうちにリベンジを申し込むから』とも言っていた。シキラ先生のことだし、なるべく盛り上がる方向でリベンジマッチを企画するのだろう。せいぜい俺の引き立て役になってほしいものである。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、パレッタちゃんがルンルンのナマ脱皮を見られなくてちょっとしょんぼりしていたのを発見。授業中ちょこちょこ『おっ?』って感じの雰囲気にはなったんだけど、ルマルマの総力を挙げて『ぬーげ! ぬーげ!』、『ルンルンの、ちょっといいとこみてみたい!』、『心に脱皮の神のソウル宿しちゃってんのかい!?』って応援したら、なんか止まっちゃったんだよね。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。お腹かがぴかぴかでちょっと眩しい感じ。布団の中に潜りこめば気にならないか。


 ギルの鼻には再履の上級生がくれた魔法試験片でも詰めておく。加工に失敗しちゃった奴らしいけど、売ればお小遣い程度にはなるらしい。『あのシキラ先生を酒で倒してくれた褒美だ。つまらないものだが受け取ってくれ』って言っていた。おやすみなさい。

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