162日目 ローブの洗濯&おやつタイム
162日目
ギルの枕カバーについていたヨダレ痕がきれいさっぱりなくなっている。わーぉ。
ギルを起こして食堂へ。なぜだか食堂のいつもの使い魔たちがたむろっているスペースにて、バルトラムイスのシャンテちゃんがぼんやりとしていた。エッグ婦人、ヒナたち、メリィちゃん、ブチちゃん、グッドビール、エドモンド、クリスタルリッチに囲まれて心あらずといった感じ。
ちゃっぴぃをけしかけつつ、どうしたのかと尋ねてみる。『使い魔っていいよね……ヒトと違って、無邪気で純粋で、腹立たしくないしさ』とのコメントを頂いた。休み明けの授業ってだけでもメンタル的にきついのに、ついでと言わんばかりに先生が厳しめだから心が荒んでしまっているらしい。
『ウチも、なんかこう……癒しになる使い魔が欲しいかも』ってシャンテちゃんは言っていた。バルトラムイスにはルマルマやティキータみたいな、ペット的な感じの使い魔はいないらしい。
『パパにおねだりすればいいじゃん』ってアドヴァイスしたら、『それはちがう』とのこと。シャンテちゃんのこの言葉にミーシャちゃんは大いに頷いていたっけ。
ともあれ普通に朝食を頂く。今日のチョイスはベーコンレタスサンド。肉も野菜も一度に取れるというお手軽な逸品。ベーコンの塩気とレタスのしゃきしゃき感が中々にグッド。シンプルな料理故に、素材の良さがそのまま効いてくるという良い例だと言えるだろう。
俺のお膝の上のちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って美味そうに食っていた……はいいんだけど、『あーん♪』の構えを取ってくるのが決まってベーコンが出ている時ばかりだから困る。レタスがみっしりしているところで『あーん♪』させても『きゅ!』ってそっぽを向くし、それでなお無理矢理『あーん♪』しても、器用にもレタスだけ避けて喰うしさぁ。
口の締まりは悪いくせに、なんでこうも無駄に口のテクニックがあるのだろうか。おかげで俺が喰えたのはベーコンレタスサンドのベーコン抜きだったっていう。
ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。しかも何を思ったか、『今日は俺こっちで食っちゃうぜ!』って使い魔スペースの所でジャガイモを食っていた。ヒナたちがヘドバンし、グッドビールのジャガイモの山に頭を突っ込み、そしてメリィちゃんやエドモンドも遠慮がちにギルの皿からジャガイモを貪っていたことをここに記しておく。
意外なことに、シャンテちゃんもジャガイモをつまんでいた。『こーゆーのも、たまには悪くない』とのこと。マジでメンタルがちょっと心配だ。
関係ないけど、アエルノのところのクリスタルリッチって名前なんて言うんだろう? ちょくちょく見かける使い魔の中で、あいつだけ名前知らないんだよね。ティキータの連中もバルトの連中もクリスタルリッチって呼んでいるし……。
もしかして、アエルノには使い魔に名前を付けてあげることすらしない冷血漢しかいないのだろうか。さすがは卑劣で卑怯なアエルノチュッチュだ。
朝食を食い終わった後は、昨日のヨダレクサでだいぶ悲惨なことになっていたローブをまとめて洗うことに。『やってほしい奴は今すぐさっさとここで脱げ』って宣言したら、『俺にそっちの気はないけど、やらせてあげるね』、『洗濯好きなんだろ?』、『実はちょっと内側のポケットが破れかけてて……』ってローブの山がどっさりと。
しかも、全部が全部だいぶ激しくヨダレ臭い。それもろくに処理せず炎天下で二日くらい晒したような感じの匂い。微妙に男スメルと混じっていて、たいそう酷い有様だったと言えよう。
ローブの山を見て辛抱堪らなくなったらしいちゃっぴぃとグッドビールが、それぞれ『きゅーっ!』、『くぉん!』って突っ込んでいったんだけど、直後に『うぇ……っ』、『きゃん!?』って悲鳴を上げていた。ちゃっぴぃは女の子故に男スメルに耐え切れず、グッドビールはその鋭敏な嗅覚を男スメルでぶん殴られたからだろう。
ああ、あと、ロザリィちゃんを始めとした女子たちも、真っ赤になりながら『お、お願いします……』、『へ、変なことしたら絶対に許さないからね!』、『ロザリィを悲しませるような真似だけは、しないでよ?』ってローブを渡してきた。一応、俺の洗濯の腕だけは認めてくれているらしい。
ちなみに、ちゃっぴぃもグッドビールも、口直し(?)と言わんばかりにこっちのローブの山に頭から突っ込んでいた。子供と犬は平和な脳ミソをしていると思った瞬間だ。
ともあれ、その後は外でローブの洗濯。ヨダレ染みの所は丁寧にもみ洗いして、しっかりと染み抜きを行っていく。外は暑くて俺のお肌が大ピンチだったけど、アリア姐さんの日光浴&水やりをしていたジオルドが『これでちょっとはマシだろ』って具現魔法で冷風娘の屋根を作ってくれたため、そこそこいい感じのコンディションに。
結構量があったけれど、ローブの洗濯は恙なく終わる。あ、ポポルのローブのポケットに飴の包み紙が残っていたのと、フィルラドのポケットにはちょっとおしゃれで高そうなハンカチが入っていた。フィルラドのセンスっぽくなかったから、たぶんアレ選んだのはアルテアちゃんだろう……というか、普通にプレゼントか?
あ、女子のローブのポケットには特に何も残っていなかった……けれど、どの子のポケットもやたら酷使されてかなり傷んでいたのが印象的。あの傷み具合を見るに、結構物を詰め込んでいるっぽい。普段はそんなに入れるものなんてないと思うけど、女子たちは一体ポケットに何を詰め込んでいるのだろうか。
とりあえず、ポケットの件については適当にちくちくして手直ししておいた。糸は普通の奴を使用。裏地で目立たないし、丈夫さと実利性を優先した故である。
その後は普通にローブを干しておしまい。さすがに四十人近くのローブを干すのはちょっと疲れた。でもまぁ、青い空の下で何枚ものローブがたなびく光景も悪くはない。ひらひら揺れるのが面白かったのか、ヒナたちとグッドビールがローブを追いかけ回して遊んでいたのを覚えている。
午後はクラスルームでゆったり。課題も何もなくてヒマなものだから、お昼寝でもしようかな……なんて思っていたところ、『よう、おつかれさん』ってクーラスがすっきり爽やかなアイスティーを淹れてくれた。
甘さは控えめ、だけど香りはとろけるように甘いという何とも不思議な感じの逸品。冷たい甘さ……どちらかと言えば果物を彷彿とさせるはずの甘さのはずなのに、実感として覚えるそれの後味(?)はチョコレートのようなお菓子の甘さだっていうからすごい。
『珍しいものを見つけたから、洗濯のお礼も兼ねて、な』とはクーラス。ここで女子を誘えればさぞかしモテただろうにと思う。まぁ、俺は普通にご厚意にあずかってごくごく飲んだけれども。
そんな感じで男二人でティータイムを楽しんでいたところ、『あーっ、ずるーいっ!』ってロザリィちゃんがやってきた。片手にはスコーンとドーナツがたくさん入ったバスケットが。
『お洗濯のお礼に、ちょっとピアナ先生のところで作ってきたの! おやつにもちょうどいいしね!』ってロザリィちゃんのプリティウィンク。優しいロザリィちゃんは『せっかくだし、クーラスくんもどうぞ!』ってクーラスにもお菓子を恵んであげていた。
あえて書くまでも無いけれど、クーラスは『じゃあ、こっちもお代わりを淹れるか』って新しくアイスティーを淹れてくれた。そのまま三人で昼下がりの優雅なるお菓子タイムを過ごしたことをここに記しておく。ロザリィちゃんのスコーンもドーナツもとっても美味しかったです。
夕方ごろ、外に干していたローブを回収。ロザリィちゃんが手伝ってくれた。『なんかこう……新婚さんみたいだねっ!』ってはにかむところが本当にステキ。心臓がドキドキしすぎて他の音が聞こえない。
おまけにおまけに、『おつかれさま……あ・な・た♪』ってロザリィちゃんがほっぺにちゅっ! ってキスしてくれた。しかも自分からやっておいて、『ううう……! 恥ずかしいぃ……!』って真っ赤になっていた。この娘どれだけ俺をドキドキさせれば気が済むのだろう。
こいつぁ本格的に、心臓の筋トレをしないとまずいかもしれない。そうじゃないと俺の心臓が持たない。時間を見つけてギルにトレーニングの仕方を聞いておかなくては。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談の際、『ローブの洗濯、ありがとね!』、『やっぱ頼んで正解だった』ってクラスの連中からお菓子類を貰った。秘蔵のおやつや町でついでに買って忘れていたものらしい。『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃが半分近く食べちゃったけど。
あと、女子が『……男子のローブを羽織るのって、ちょっと憧れない?』、『……わかる』って話しているのを聞いてしまった。シチュエーションの一例として、【寒さに震えているところで、男子が自分のローブを脱いでかけてくれる】のがけっこうポイント高いらしい。
『……居眠りしているやつにそれやったことある。相手、男だけど』、『同じく』ってジオルドとクーラスが二人してしょんぼりしていた。たしかあいつら、パレッタちゃんにローブを枕代わりに奪われて震えるポポルに自らのローブをかけてあげていた気がする。
女子にモテる要素というより、もはやただの女子力……否、おかんの力ではなかろうか。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。今ふと思ったけど、普段半裸のこいつにローブを着せるとしたら、やはりローブ自体を改造して筋トレ道具にするほかないのだろうか。適当に鉄板を数枚仕込むだけで作れるし、今度やってみるのも面白いかもしれない。
ギルの鼻には葉っぱを詰めておく。外で元気に遊んでいたちゃっぴぃの髪にひっついていたやつね。みすやお。