16日目 クッキー☆ワンダリング
16日目
天井がパズルっぽい。わーお。
ギルを起こして食堂へ。やはりというか、アエルノチュッチュやバルトラムイスの連中ははっきりとわかるほどに目が死んでいる。レポートを書き上げるだけでも大変なのに、頑張ったところで全部書き直しになるのがこの段階でほぼ確定だってんだから、連中もやりきれないのだろう。
朝食はミネストローネをチョイス。トマトの酸味が程よく効いていてなかなかにグッド。贅沢に具がたっぷり入っているのもうれしいところ。『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃもうれしそうにがぶがぶ飲んでいた。口を拭いてあげるのはもちろん俺の役目だった。
珍しいことにロザリィちゃんもミネストローネをがぶがぶ飲んでいた。『なんかちょっとお腹すいちゃった!』とのこと。朝から健康的でたいへんよろしゅうございますって思った。
しかもしかも、『ん! ん!』ってちゃっぴぃの真似をして俺の方に口を寄せてくる。子供っぽい仕草も、微妙に恥ずかしがって真っ赤になっているのもマジ最高。
で、ちゃっぴぃと同じように口を拭いてあげたところ、『ありがと!』ってびっくりするくらいにプリティな笑顔を浮かべてくれた。
おまけに、『ぱぁぱ、ごほうび!』ってちゅっ! ってやってくれた。俺、朝からこんなに幸せでいいのだろうか?
ちなみに、アルテアちゃんが『そろそろ教育し直さないとマズいな……』ってヒナたちの喉をごろごろしながら呟き、パレッタちゃんが『ママの悋気、ちょっと怖いくらいにヴィヴィディナの糧になっている』ってヴィヴィディナ(ナメクジ形態)を頭に乗せながら呟き、ミーシャちゃんが『甘えるにしたって、さすがにアレはないの……』ってギルの口にジャガイモを放り込みながら呟いていた。ギルは『うめえうめえ!』って嬉しそうだった。
午前中は栽培スペースに赴き、ナエカやコケウスといったいつもの面々を植えることに。さりげなく今年に入って初の栽培スペースの利用。冬に入る前に保存していた株を適当に植えて適当に肥料をまくだけだから、らくちんと言えばらくちん。
今年もちょっとしたおこづかい稼ぎくらいにはなるだろう。ステラ先生からもらった本で試すことが出来そうな薬もあるかもしれないし、いずれにせよ無駄になるってことだけはないはずだ。
なお、一年生の利用者はいないっぽい。去年からまるで栽培スペースの様子が変わっていない。俺以外の学生がプライベートで使っているところみたことないんだけど、魔系としてその辺どうなっているのだろうか?
午後は先週と同様にジャムクッキーの作成を行う。『きゅ!』ってちゃっぴぃも当たり前だと言わんばかりに俺のそばに寄り添ってお手伝いの構えを見せていた。こいつも少しは使い魔としての自覚が出てきたのかもしれない。これで一人でエプロンを付けられていたら完璧だったのに。
ともあれ、ジャムクッキーを作成していく。今回使用したのはハートフルピーチのジャム。いわずもがなロザリィちゃんの大好物。
ホントはステラ先生やピアナ先生の好みのジャムにしようかと思ったんだけど、あの二人ってジャムクッキーなら例外なくすんごくおいしそうに食べてくれるから、この俺の目を持ってしても何がベストなのかよくわかんないんだよね。
さて、クッキーがいい感じに焼け、あたりにあまぁいいい香りがしたところでクラスルームにクッキーを持っていく……も、なんかやたらと人が少ないことに今になって気付く。いい天気だし一応レポートも終わっているからか、男子は外に遊びに、女子はショッピング等の憂さ晴らしにいっているらしい。
ただ、そんな中で普通にクラスルームにいたのがアルテアちゃん……とフィルラド。フィルラドは窓辺のあったかいところで共用ロッキングチェアに揺られてお昼寝していた。頭と膝の上では六匹のヒナたちが気持ちよさそうにスヤスヤしている。
春の陽だまりでロッキングチェアに揺られながらお昼寝するとか、さすがにこれはクールと認めざるを得ない。なんだかんだ言っても主だからか、ヒナたちもポポルの腹巻にいる時みたいな安心感を醸し出していた。
で、アルテアちゃんがこっちに気付く。アルテアちゃんはフィルラドの隣で別のロッキングチェアに揺られながら本を読んでいた。『し、』って人差し指を口に当ててたので、物音を立てないようにして慎重に近づく。
『ふふ……寝顔だけはまともと思わなくもないんだよな』ってアルテアちゃんは慈愛の笑みを浮かべてヒナたち(と、ついでにフィルラド)を愛おしそうに眺めていた。『んが……』ってアホ面晒して寝息を立てるフィルラドの頭を慎重に撫で、再び本に目を落とす……も、ぶっちゃけ本より寝顔を眺めている時間のほうが多い。
前から思ってたけど、アルテアちゃんってフィルラドが見ていないところでデレてることが多いような気がする。さすがは気高きアルテアちゃんだ。
『クッキー作ったんだけど、みんなどこ行った?』って一応聞いてみる。『気を利かせたのか、フィルが寝出したころからみんなどこか行った』との回答が。気を利かせたって一体どっちの意味なんだろうか。
ともあれ、いい加減ちゃっぴぃが我慢できそうになかったので三人でクッキーを食すことに。フィルラドを起こさなくていいのかと聞いたところ、『寝てる方が悪い。私がフィルの分も食べておく』と凛々しい答えが。『次はホビットレモンのジャムでよろしく』とのリクエストも頂いた。
それからしばらくしたところで『あーそび……!』って言いかけて慌てて口をつぐむピアナ先生、ステラ先生、ロザリィちゃんがやってきた。ピアナ先生とロザリィちゃんは一緒におやつとしてドーナツを作っていたらしい。クッキーをご相伴にあずかるための手土産だとかなんだとか。別にそんなこと気にしなくてもいいのに。
ステラ先生? なんか普通にクッキーの匂いに釣られてフラフラ歩いていたらしいよ? そんなところも最高に可愛いと思います。
で、メンツが揃ったところでおやつタイム再開。先生たちは俺のクッキーに、俺はロザリィちゃんと天使ピアナ先生の愛情がこれでもかと詰まった至高の逸品であるドーナツに舌鼓を打つ。かなり腕を上げたようで、ロザリィちゃんのドーナツはいつぞやのそれよりもはるかに完成度が高くなっていた。
『──くんのドーナツにはまだ全然届かないけど……』って言われたので、『毎日食べたいくらいにおいしいよ』って嘘偽らざる本心を答えておく。『そういうところ、ホントにだいすき!』ってぎゅっ! って抱きしめてくれた。なぜか『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃも抱き付いてきた。これが家族愛というやつか。
なお、先生二人はフィルラド&ヒナたちの寝顔を見てやっぱり慈愛の表情を浮かべていた。『気持ちよさそうに寝てるねー……』、『なんか昔を思い出すなぁ……』とのこと。
そういえば、先生たちって小さいころはよく一緒にお昼寝していたって聞いた気がする。俺も先生と一緒にお昼寝したいものだ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、『なんで残しておいてくれなかったんだよ!? 俺予約しといたじゃん!』、『せっかく空気読んだのにこの仕打ちはあんまりなの!』ってポポルとミーシャちゃんに手をガジガジされた。二人ともクッキーを楽しみにしていたのに食べられなくてご立腹らしい。
フィルラドも『全部食べちゃうなんてひどいよ、アティ……』ってアルテアちゃんに愚痴を言っていた。目覚めたら部屋中から甘い匂いがする上に、アルテアちゃんが満足気な表情&おいしそうな匂いを漂わせていたことで全てを察したらしい。
『お前が贅沢言うな!』、『むしろ謝るべきはあんたなの!』ってお子様二人はフィルラドに八つ当たり(?)していた。どうやらポポルも気を利かせていたらしい。あいつも意外とそういう気を回せることに驚く。おこちゃまもいつまでもおこちゃまじゃないってことか。
ギルは今日も元気に大きなイビキをかいている。こいつはミーシャちゃんにお散歩に連れ出されていたそうな。『ポカポカ陽気で気持ちよかったぜ! マジックバタフライも捕まえちゃったぞ!』って結構立派なマジックバタフライを虫篭に入れていた。名前はゴードンと言うらしい。今度隙を見て接着剤にしようと思う。
とりあえず、うっかり床に落としてしまったジャムを奴の鼻に詰めておく。明日はレポートの再提出で早起きしなきゃいけない。さっさと寝ようっと。
※葬り去るべきは燃えるゴミ。魔法廃棄物は次の輪廻を待て。