157日目 魔法流学:概要
157日目
ギルの筋肉が偉そう。何様のつもりだろうか。
ギルを起こして食堂へ。筋肉が偉そうだったからか、歩いているみんながさっと道を空けてくれてちょっと得した気分。筋肉も偉そうにぴくぴくしていて、どことなくオーラを放っている感じ。
辛抱堪らなくなったらしいちゃっぴぃが、『きゅーっ!』ってギルの大胸筋を揉んで遊んでいた。手のひらから伝わる偉そうなぴくぴくが面白かったらしい。試しに俺も触ってみたけど、暴れる大魚のような感じがしてちょっとびっくりした。
朝食はフィッシュフライサンドをチョイス。朝から少し重めだけれど、後期一発目の授業だし少し気合を入れようと思った次第。ポポルとパレッタちゃんもフィッシュフライサンドをはんぶんこしてガツガツ食っていた。パレッタちゃん、なぜかフィッシュフライサンドのパンの部分にジャムを塗っていたけれど。
ギルはもちろんジャガイモ。『うめえうめえ!』って美味そうに食っていた。グッドビールもギルの皿から美味そうにジャガイモをがっついていた。
『ううう……ッ!』ってミーシャちゃんが非常に葛藤していたのを覚えている。できればルマルマの標準的(?)な使い魔&主人、かつ家族的な触れ合いとして同じように同じものを食べるというアレをしたかったのだろうけれど、さすがに蒸かしただけのジャガイモを食べたくはなかったらしい。
さて、朝食の後は早速授業。今日の授業は魔法流学。一体誰が担当なんだろうな……なんて思いつつ教室で待っていたら。
ミラジフがやってきやがった。しかも俺たちを見るなり『……ハァ』とか溜息付きやがった。マジ何なのあいつ。
いやもう、マジでひどかったね。ぶすっくれたツラを隠そうともしないし、眼つきも悪いし、ついでに陰険で言葉の端々にトゲがある。よくぞまぁここまでひねくれた根性になれるなって逆に感心するレベル。さすがはアエルノの担任なだけある。
実際、出欠を取る際、ミラジフは元気に返事をしたギルに向かって『そのふざけた格好は? 半裸で授業を受けるのがお前の普通か? 理由があるなら説明してみろ』とか言い出しやがった。
慌てて俺が『漢の正装は筋肉ですし、こんな立派なのをローブの下に押し込めたら可哀想でしょう!?』ってフォローしたからまだよかったんだけど、ミラジフは『……これだから最近のガキどもはッ!』ってイライラするばかり。ミルクを口にぶち込んでやればよかったと今でも思ってる。
ともあれ、ぶすっくれたツラのまま、ネチネチした感じでミラジフの授業は始まった。
まず、魔法ってのは魔力によって発動するわけだけれど、その発動のプロセスにはいろんなものがある。魔法陣を使うものもあればそうでないのもあるし、純粋な魔法発動プロセスではなく、例えば魔力学でのサイクル等々……まぁ、とにかく魔力はいろんな風に使われているわけだ。
この魔力は、魔法を使用するにあたり多くは流体的に扱われる。水みたいに流し込むように使うイメージだろうか。魔石や魔法体を構築して魔法を使う場合を除き、魔力は流れるものとして扱われる(魔法雰囲気のように空気的なものもこれに含む)。
そんなわけで、魔法を使うにあたり魔力の流れとしての挙動は非常に重要になってくる。どんな風に流れるのか、どんな性質があるのか、設計指針としてどのようなことが重要になって来るのか……まぁ、考慮しなきゃいけないことは山ほどあると言っていい。
『魔力を広義としての魔力そのものとみるならば、触媒反応学や魔力学等で学んだであろう諸処の計算式を用いて設計的なパラメータを求めることが出来る。しかし、流れるという魔力の性質・挙動その物を考慮するとそれだけでは不十分だ』……とはミラジフ。
一応書いておく。俺は優しくて紳士的だから上記のようにわかりやすく書いているけれど、実際はもっとネチネチした言い回しで【こんなこともいちいち言わないとわからないのか?】、【最低限の予習くらいして来いよガキじゃないんだから】的なことを遠回しに言われまくってたからね。一つの学術的言葉の後に三つくらいそういったイヤミみたいのを挟んできたからね、あいつ。
ともあれ、そういった魔力の流れに基づく諸問題について検討・設計をしていくための学問が魔法流学であるとのこと。
難しそうに聞こえるけれど、基本的には触媒反応学とか今まで習ってきた知識をベースにし、そこに魔法流学ならではの見解を取り込んで発展させていくだけだから、そこまで身構えるものでもないらしい。良くも悪くも、形は違えど魔法の一部であることに変わりはないわけだ。
初日なので授業内容はこんなもん。概要に触れ、そして嫌味をいわれたくらい。
ミラジフが話している時にさ、パレッタちゃんが羽ペンをうっかり落としちゃったんだよ。で、ミーシャちゃんが拾ってくれたからって、パレッタちゃんは『ありがと』って言ったのね。
そしたらミラジフの野郎、『授業中、あまつさえ人が話している時に私語とは、最近の学生はずいぶん偉いんだな』とか嫌味言ってきたんだよ。マジでこいつ何なんだよって思ったよね。
そのあまりのドスの効いた言葉に、直接怒られているわけじゃない人の方がビビりまくっていた。ミーシャちゃんなんて『ひぅ』って割と大きめに声を漏らしていた。
一方でパレッタちゃんは、『まぁ! 先生もヴィヴィディナの囁きが聞こえるなんて!』って逆に狂喜の笑顔で迎え撃っていた。ヴィヴィディナ(よくわからん形態)も体をチカチカ発光させながらパレッタちゃんの髪よりコンニチワしてミラジフにメンチ切ってたっけ。
『……常識を諸君に求めた私が愚かだったよ』ってミラジフは吐き捨てていた。魔系のくせに常識に縋っているとか、あいつ常識無いのだろうか?
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『はー……やっぱりすっごく怖かったぁ……』って俺の横にちょこんと腰かけてきてちょうしあわせ。『もし私が怒られちゃったら、後で必ず慰めてね?』ってぱっちりウィンク。
しかもしかも、『特別に、慰める練習をさせてあげよう!』って俺にめっちゃ甘えてくるっていうね。そらもう全力で抱き締めて、アリア姐さんがちょっと赤くなるくらいに情熱的なキスをしたとも。
ギルはぐっすりスヤスヤとクソうるさいイビキをかいている。偉そうな筋肉は未だぴくぴくとその存在を主張したまま。ミラジフの前でもずっと偉そうだったとか、こいつは筋肉の中でもなかなか見所があるのかもしれない。
まぁいい。さっさと寝よう。ギルの鼻には……なぜかフードに入っていたオレンジキャンディ(ドロドロに溶けてた)でも入れておく。毎度のことながら、俺のローブのフードどうなってんだろ? みすやお。