155日目 真相
155日目
書いていこう。
昨日の深夜、ステラ先生とグレイベル先生が訪ねてきた。やはり二人は依頼を受ける前からグッドビールが死ぬことを知っていたらしく、『それでは、依頼の最後の仕上げに入らせていただきます』って言っていた。ばーちゃんも二人を見て『……こんな遅くに、わざわざありがとうございます』って挨拶をしていた。
当然のごとく、この言葉に驚いたのはミーシャちゃん。『え……先生? どういうことなの?』って詰め寄る。『依頼の仕上げって……この依頼って、おばーちゃんの代わりにグッドビールの面倒を見るって、だって、そう、書いて……!』って、涙目で訴えた。
何かを言い出そうとしたグレイベル先生を、ステラ先生が『ここは私が』って遮る。ほんの少しだけ腰をかがめ、ミーシャちゃんの肩を両手でがっしりと掴み、瞳をまっすぐ見つめて。
『最初からね、この依頼はこういうことだったの。この子を……グッドビールを看取る依頼だったの。死期が近づいたこの子の最後の手向けとして、元気に遊んで、楽しく過ごして……ああ、素敵な一生だったなぁって、そう思ってもらうための依頼だったの』
ステラ先生はそう言った。できれば嘘であってほしいと思ったけど、確かに言いきった。
『で、でも……! グッドビールはあんなに元気だったの! お年寄りっておばーちゃんも言ってたけど、でも、少し前まであんなに元気にはしゃいで、あたしの顔だってペロペロ舐めてて……!』ってミーシャちゃんはなお食い下がらない。きっと、ステラ先生がそんなひどいことをする人じゃないって、信じたかったのだろう。
だけど、ステラ先生はやっぱりミーシャちゃんをまっすぐ見つめたまま、言い切った。
『この子はね、フレインカネムって魔法生物なの。炎のような体が特徴で、若くて元気なほど赤く燃え上がるような見た目をしていて、おじいちゃんやおばあちゃんになるほど、消えかける炎のように赤みが薄くなって、最後はくすぶる灰のような見た目になるの』
当然、ミーシャちゃんがそれで納得するはずがない。だって、ほんの少し前までグッドビールは夕日に負けないくらい赤々とした燃えるような見た目だったのだから。
涙目で訴えかけるミーシャちゃんを見て、ステラ先生も言葉に詰まったみたいだった。そして何も言えないステラ先生の代わりに、ばーちゃんが説明を引き継ぐ。
『……先生が言っていることは本当なの。あの子も、あなたたちが来る二日くらい前までは白くてよぼよぼな見た目だったわ。でも、ホンモノの炎のように、その命の炎は消える直前に、赤く強く燃え上がる』
だから、死期を悟ったばーちゃんは、こういう依頼を出せたという話だった。
それを聞いたミーシャちゃんは、その大きな目からポロポロと涙を流した。どこから出てくるんだってくらいの大粒の涙が、ミーシャちゃんの足元を濡らしていた。『う、うう、うわああん……! うあああん……!』ってわんわん泣いて。
『どうして、どうして黙ってたの!? なんで、あたしを騙してたの!? ……こうなるってわかってて、どうして!?』……そう、二人を詰った。
ばーちゃんは悲しそうに涙を流した。ステラ先生も、苦しそうに顔をゆがめた。
それでも、ステラ先生はミーシャちゃんから目をそらさなかった。
『知ってたよ、先生は。これがどういう依頼なのか。どうしてあんな条件が付いていたのか。これを受けたら、どんな未来が待っているか。……でも、それを選んだのはミーシャちゃんでしょう?』
ステラ先生がこんなことを言うのかって、信じられなかったね。冷静だった俺も……隣にいたグレイベル先生も、ぎょっとした顔をしていたもん。
ミーシャちゃん、また目にいっぱいの涙を溜めた。『ばかっ! ばかっ! 先生のばかっ! おばーちゃんのばかっ!』ってわんわん泣いた。
ステラ先生、黙ってミーシャちゃんを抱きしめた。泣きそうな顔で、抱きしめた。ミーシャちゃんはステラ先生の腕の中で、ずっとわんわん泣いていた。
『ごめんね。先生は悪くないのよ。言わないでって言ったのは私。私はただ、あの子と真正面から遊んであげてほしかっただけなの。……そんなことを知っていたら、普通に過ごせないでしょう? あなたみたいな優しい娘なら、なおさら』……そう言って、ばーちゃんはミーシャちゃんの頭を撫でた。
くどいようだけど、ミーシャちゃんはばーちゃんの言葉を聞いてまたわんわんと泣きだした。きっと、グッドビールと過ごした今までを思い起こしてしまったのだろう。たった三日間だけとはいえ……それだけ、ミーシャちゃんにとって大切な時間だったのだから。
どれだけ、ミーシャちゃんが泣いていたのかはわからない。けれど、最後にミーシャちゃんは搾りだすように言った。
『最期に、楽しんでもらえたかなぁ……!? あたしなんかが相手で、よかったかなぁ……っ!?』
ばーちゃんは答えなかった。ただ、優しそうにも悲しそうにも見えるように笑って、ミーシャちゃんをそっと抱きしめた。
しばらく、三人はそのまま抱き合っていたと思う。正直俺もギルも居た堪れなくなっていたんだけど、ここでグレイベル先生が『…お前らも、よくやった』って顔を合わせずに俺たちの頭をがしがしと撫でてきた。
『…泣けないもんな、女の子の前では。誰かが、しっかりしないといけないもんな』って……そのままずっと、乱暴に、だけど優しく頭を撫でてくれた。
『…まぁでも、今は泣け。俺が許す』って言ってくれた時……俺もギルも、泣いた。グレイベル先生に頭をがしがしされながら、ぽたぽた涙を流した。
……ちくしょう、思い出したらまたなんか泣きそうになってきた。いくらなんでも、いろいろありすぎた。
何も一気に書き切る必要はない。この際だし、ちょっとココアでも飲んで一服して、それから続きを書こう。それくらいならマデラさんも許してくれるはずだ。
続きはもう少し後に。ココアでも飲んでお待ちください。