15日目 再レポート修正しまくり
15日目
ギルのへそから冷たい綿毛(?)が。とりあえずトイレに流しておいた。
ギルを起こして食堂へ。休みだからかやっぱり人は少ない。休日限定スペシャルプリンを二つも確保することに成功。『ちょっとミルクを変えてみたんだけど、なかなかいけるだろう?』とはおばちゃん。なんか最近プリンづくりに凝っているらしい。
『隠し味に変わったフレーバー使ってる?』って聞いてみたところ、『……よくわかったね?』と言われた。見抜かれるとは思っていなかったらしい。すごい宿屋の息子を舐められたら困るっていう。
ちなみに、『よく刻んで砂糖漬けにしたマンドラゴラの葉を煮出したミルクと、ほんのちょっぴりアルコールと蜂蜜を加えたドリアードの花雫を使ってみた』とのこと。想像すらしなかった材料にちょっとビビる。早急に検証しておかなくては。
そうそう、『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃがカラメルのほろ苦さが混じったプリンの一番美味しいところを全部平らげてしまった。しかも、『きゅぅん?』ってまるで貢がせてやると言わんばかりにこっちを上目遣いで見上げてくるのがわけわかめ。
俺の膝の上でそんな威張った顔をしてもガキ臭いだけである。まぁ、優しい俺は『あーん♪』って貢いでやったんだけどさ。
ギル? 『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。『今度ジャガイモプリンもお願いします!』っておばちゃんにリクエストしてた。あいつ、プリンって何なのか知っているのだろうか。
さて、そんな感じでゆったりと朝餉を取っていたところ、『ふざけんじゃねえぞコラァ……!』ってアエルノチュッチュのラフォイドルがやつれ切った顔をしてやってきた。『どうした、親友?』って俺ってば優しく声をかけたのに、『全然話が違うじゃねえか! 実験クソ大変だったぞ!』って絡まれる。怖い人ってやーね。
やはりというか、ラフォイドルも昨日の実験ではかなり遅くまで残ることになったらしい。『途中でポシム先生がブチ切れた。魔源と接地に繋げるリード線の色が同じだったってのがその理由だ』とはラフォイドルの談。
なんでも、魔源と接地は特に重要で間違えると危ないから、リード線の色はわかりやすいように別の色にするのが普通らしい。そんなのこっちは一言も言われなかったんだけど。
で、『お前らもうレポート返ってきたんだろ? 詫びの気持ちがあるならこっちに見せろ』とラフォイドルが詰め寄ってくる。『女の子を騙すほど落ちぶれてはいないと思ってたんだけどね……?』ってバルトラムイスのシャンテちゃんまで女の子がしちゃいけないヤバい顔して詰め寄ってきた。ちょう怖い。
……というか、なんでシャンテちゃんまで怒ってたんだろう? 俺、シャンテちゃん相手には何もしてないはずなんだけど。ゼクトの嘘が巡り巡ってシャンテちゃんまで届いたのだろうか。嘘つく人って怖いよね。
さて、華麗で優雅なる俺は『見せてもいいが、文句は言うなよ?』とレポートを渡す。ラフォイドルの奴、全項目が×のそれを見て『この期に及んでふざけんじゃねえぞ!』ってガチギレ。『ギルのじゃなくて、君のを見せてもらえる? ちょっと今、冗談に付き合える気分じゃないんだよね』ってシャンテちゃんも額に青筋を立てていた。マジ怖い。
『冗談じゃなくて、マジなんだけど』ってありのままを話したところ、二人は絶望の顔に。『今回だけはこいつの言う通りだぞ』ってクーラスの援護射撃に、『冗談抜きにウチのクラスも全滅だ』ってゼクトの証言も入る。
『勉強だけは信頼できると思ってたのに……』、『お前からそれを取ったら何が残るんだよ……』って二人に言われたのがわけわかめ。俺には人柄とか性格とか人望とか、いろんなものがあるのに。
結局、今後は助け合える範囲で助け合おうってことで組長同士で合意する。具体的には実験での注意点、レポートの修正点やコメントなんかの情報共有とかそんなかんじね。
アエルノチュッチュに手を貸すのは癪だけど、『なんだかんだで実験中、バルトラムイスは助けて貰ってるから』ってシャンテちゃんにお願いされたならしょうがない。決して『今度ミラジフの弱みを探って教えてやるよ。今でもちょくちょく嫌がらせしてるから』ってラフォイドルの言葉に心動かされたわけじゃないことを、ここに宣言しておこう。
午前中はレポートの修正作業を行う。これについては書いていてもつまらないので、この一行だけで済ませることにする。ただ、修正作業中に『きゅーっ!』ってちゃっぴぃが背中に引っ付いて来てたいそうやりづらかった。胸の柔らかさは認めなくもないけど、ガキにやられてもうれしくないっていう。
午後もぼちぼち修正作業。もはやみんな諦めの境地にいるのか、現実逃避とばかりにクラスルームで遊んでいた。ミーシャちゃんはギルの肩車でご満悦だったし、ポポルはジオルドとカードゲームで盛り上がっていた。なんか明日のおやつのジャムクッキーを賭けていたらしい。
『え、作んないの?』、『去年の約定はまだ有効だろ?』って当たり前のように言われたんだけど、なんて奴らは俺がクッキーを作ることにまるで疑いを抱いていなかったのだろう?
ちなみにロザリィちゃんだけど、『がんばって、ね?』ってほっぺにちゅっ! ってしてくれた。ちょっと照れてるところが最高にプリティ。必然的にレポートの修正もはかどりまくりんぐ。
で、あっという間に修正が終了したので『参考までにどうぞ』って渡したところ、『──くん、だーいすきっ!』ってぎゅっ! って抱きしめてくれた。あったかくてやわらかくて最高に幸せだった。俺やっぱりロザリィちゃんのためならなんだってできるわ。
なお、クーラスも『今日もサービス、してあげちゃおうかしら?』、『膝枕くらいならいくらでもしてあげるよ?』って女子に詰め寄られてデレデレしていた。ただあの場合、まず間違いなくみんなあいつが仕上げたレポートが目当てなのだろう。なんだか哀れだけど、本人が幸せならそれでいいか。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんだかんだで今日もあんまり休日らしいことをした気がしない。新規の実験がないのにここまで時間を潰される……しかもこれ今学期中はずっと続くとなるとさすがに気が滅入りそう。全員修正作業が終わったっぽいのは不幸中の幸いか。
温かくなってきたし、そろそろみんなで釣りにでも行くか、ロザリィちゃんとのデートでもしたいところ。いずれにせよ、近いうちに実験に対する何らかの対策をしないとならないだろう。この段階でほぼ全員が俺とクーラスに頼り切っているというのはかなりの問題だ。
学業において誰よりも他人の力を借りているギルは今日も健やかに大きなイビキをかいている。こいつって将来に関する不安とかないのだろうか。まぁ、あったとしても筋肉の導きで全部何とかしそうだけどさ。
とりあえず、なぜかローブのフードに入っていたグレートピースを鼻に詰めてみることにする。明日こそ面白くて楽しい出来事がありますように。グッナイ。