148日目 ルマルマで泳ぎに(ステラ先生もいっしょ!)
148日目
ギルの背中からツタが生えている。とりあえずむしっておいた。
ギルを起こして食堂へ。今日も今日とて快晴で非常に暑い。お日様がギラギラしているからか、なんか外ではうっすらと陽炎的なものも。何もしてなくてもじんわりと汗が噴き出てくるレベル。
もちろん、そんな状況でもギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。一切の誇張無しに本当に美味そうに貪っていた。俺もギルくらい単純だったらよかったと思った瞬間だ。
さて、そんな感じで俺もお膝の上のちゃっぴぃに特製アルジーロオレンジのジュースを飲ませていたところ、ロザリィちゃんがやってきた。しかも朝だというのにステラ先生まで居る。うっひょう。
ロザリィちゃん、『嬉しいお知らせと悲しいお知らせがあるんだけど、どっちから聞きたい?』ってプリティスマイル。ロザリィちゃんからのお知らせに悲しいものなんてありえないと思いつつも、『それじゃあ、悲しい方で』って言ってみる俺。
『夏休み、あと一週間で終わるね』って言われた。マジで泣きそうになった。
近くで聞き耳を立てていたメンツも膝から崩れ落ちる奴がチラホラ。各々まだまだやりたいことがあったらしい。『飲んで食って寝て騒ぐくらいしかしてねぇぞ……!?』、『真夏のアバンチュールする予定が……!』って言っている奴も。
泣きそうになりながらも、『嬉しいお知らせの方は?』って聞いてみる俺。答えは意外な所からやってきた。
うん、ぷるぷる震えながらステラ先生がね、『そ、その……夏の最後の思い出作りに、み、みみ、みんなで湖に泳ぎに行こうかなって……!』ってめっちゃ真っ赤になりながら言ってくれたのぉぉぉぉぉ!
当然、これを聞いた男子(と一部の女子)は一瞬で立ち直る。テンションが限界を超えて獣のような雄たけびをあげたり、女であることをいいことにステラ先生に思いっきり抱き付いたり。
『誘えてよかったね、せんせい!』ってにこって笑うロザリィちゃんが最高に可愛い。『うんっ!』ってヒマワリのような満開の笑みを浮かべるステラ先生が最高にステキ。心の中でガッツポーズしまくったのは語るまでもないだろう。
そんなわけで朝食の後は湖に赴くことに。恐ろしいことにメンツはルマルマ全員。エッグ婦人もポワレもローストもピカタもマルヤキもソテーもグリルもちゃっぴぃもヴィヴィディナもアリア姐さんも。
使い魔共も含めたルマルマ全員が一団となって湖に赴くさまは大変勇壮であったことをここに記しておく。あまりにも大掛かりだったからか、通りすがりのシャンテちゃんには『これからカチコミにでも行くの?』って聞かれちゃったっけ。
で、湖に到着したらやることなんて一つしかない。
泳ぐ──前に、絶対にしなくっちゃあいけないメインイベント。そう、お着換えである。
俺たち男子はあらかじめ下に履いている。だからいつものノリで衣服を脱ぎ去るだけ。水着は去年と同じものだし、何より男子の水着のことなんて書いていても面白くないからここまでにしておく。
重要なのはロザリィちゃんの水着とステラ先生の水着。というか、男子の大半はステラ先生の水着目当てに同行したと言っても過言じゃない。
だってステラ先生だぜ? あのルマルマの聖母ステラ先生だぜ? ウブで純真でちょっとしたことですぐお顔がかぁって真っ赤になっちゃうステラ先生だぜ? そんなステラ先生が脱ぐんだぜ?
男子一同(と一部の女子)、それはもう期待したとも。他の女子の生着替えなんてどうでもいいとばかりに、いつステラ先生がその素敵な水着姿を披露してくれるのか……さらにいえば、お着換えを披露してくれるのか大いに期待したとも。
解っているだろうとは思うが、未来の俺に向けて書いておく。着替えと言っても下に水着を着ているから、上に着ている服を取っ払うだけだ。だから本当の着替えじゃないし、合法的に見ていても良いお着換えだ。
実際、湖に到着した後、ステラ先生は静かに揺蕩う水面を見てぴょんぴょこ飛び跳ねて喜んでいた。で、待ちきれないとばかりに服に手をかけ、ちょっと赤面しながらもそれを脱ぎ去ろうとした。
が、そこで俺たちがステラ先生をガン見していることに気付いたらしい。一瞬でかぁって真っ赤になって、『み、見ないでぇ……!』って縮こまっちゃったんだね。
『水着になるだけじゃないですか』、『他の女子はみんなやってますよ』、『別におかしいことでも倫理に反することでもないでしょう?』って諭す俺たち。
『道徳に反する』、『紳士はじろじろ見ない』、『その表情が犯罪的』って男子全員が女子にケツを蹴られたことをここに記しておく。おまけになんかやたらといつもより激しい感じ。
『興味を示されないのもムカつくってホントだったんだね』って、いつもは大人しめの女子でさえ、男子のケツがサイズアップするくらいに激しくケツを蹴っていた。女の子の考えることって本当によくわかんねえや。
ともあれ、ルマルマ女子の奮闘のおかげか、ステラ先生はようやく水着姿になる気になったらしい。一気にやっちまったほうがメンタル的な負担は少ないと思ったのか、意外にも一瞬でばっ! って服を脱ぎ捨てていた。
あの時の感動を、俺は生涯忘れることはないだろう。
いや、もう、マジですごかった。この世に女神が顕現したんじゃないかってくらいに目の前がまぶしかった。
意外にも、真っ赤な水着だった。飾りそのものはほとんどない、シンプルでオーソドックスなビキニの水着だった。ただ、紐で結んでいるところが可愛い蝶結びになっていて、キラキラ光る珠的なものがついていた。
あとなんかこう……言葉で表現するのは難しいけれど、水着にエキゾチックな感じの模様が入っていた。異国情緒がほんのり出ていてなんだかとってもドキドキしてくる。
『え、えへへ……ちょっと、頑張っちゃったんだけど……!』っててれてれとはにかむステラ先生。驚くべきことに、この前ナターシャたちと買い物に出かけた時に購入したものらしい。
『学生時代に買ったものもあったんだけどね……一度も着てないから最初はそれでいいかなって思ってたんだけど、その、サイズが合わなくなっちゃってて……先生、流行とかそういうの全然わかんないから、選んでもらっちゃった!』ってステラ先生は言っていた。『や、やっぱりこんなおばさんが着るには派手すぎたかなぁ……っ!?』ってあわあわしてもいた。
だけど、男子全員それどころじゃあなかった。
夢が詰まった大きな珠玉。魅惑の深淵に引きずり込む谷間。目を焦がしてしまいそうなほどに眩しく輝くお肌。
肌色面積がヤバい。いつも以上に強調されているそれ。なにより【水着姿のステラ先生】という事実そのもの。
自然と涙が出た。泣きたいつもりなんてないのに、眼から涙が止まらなかった。嗚咽を漏らすものさえいた。
いや、マジで冗談抜きに、男子全員泣いていた。足腰の力が抜けたのか、膝をついている奴さえいた。いいや、自分たちが今何をしているのか、多分あの時みんな気付いていなかったと思う。
ただただ、目の前に存在している水着姿のステラ先生に心を奪われた。今までどうして気付かなかったんだってくらいに、何か尊いものを確かに心で感じた。もしかしたら、あの日初めて、俺たちは生きるってことを実感し、人生を歩み出したのかもしれない。
ああ、ちくしょう。あの感動を伝えたいのに言葉で出てこない。言葉なんて矮小なものじゃ、あの感動を表せないばかりか汚してしまうことになる。不甲斐ない俺を、どうか許してほしい。
『み、みんなどうしたのっ!?』ってステラ先生が慌ててやってきた。近くにいたクーラスが『もう、悔いはねェや』って泣き崩れて倒れた。人は感動しすぎると、鼻血じゃなくて泣いて気絶するらしい。また一つ俺は賢くなってしまった。
そして、それ以上に凄まじいことがあった。
ロザリィちゃんがいた。いつの間にか、目の前にロザリィちゃんがいた。しかも、この前の水遊びの時の水着じゃなくて、黒地に赤い縁取りがなされたやつだった。シースルーのパレオ的なものを腰に巻いていて、あとなんか随所にフリル的なヒラヒラがあった。
今日のロザリィちゃんも最高に可愛かった。魅惑の珠玉も至高の深淵も、逆に褒めちぎらないところを見つけるのが難しいくらいに最高に輝いていた。
すごかった。マジですごかった。俺生まれてきて本当によかったって思った。いや、俺はきっとロザリィちゃんの水着姿を拝むために産まれてきたんだって思った。
そんなロザリィちゃんが、つかつかと近づいてきた。怒った様にも、照れているようにも、笑っているようにも見えた。
ロザリィちゃんが俺の肩を掴んだ。真正面からだ。甘い匂いがしてくらくらして、肌の温かさがなんかすぐ近くに感じられて。夢心地というか、夢そのものだった。
で、だ。
『見るなら、こっちにしろぉ!』って、ロザリィちゃんが俺の頭をぎゅっと抱きすくめた。
水着姿のまま、俺の頭を抱きすくめた。
やわらかかった。良い匂いがした。ふわふわで、あったかくて、すっごく安心するような感じで、すごかった。
気付いた時には、俺はロザリィちゃんの膝枕の上にいた。それがロザリィちゃんだと気付いたのは、まぁ、視界の塞がり方に覚えがあったからだ。尤も、その迫力とインパクトは今までと違い過ぎて、ここが天国かと思ってしまったけれど。
どうやら俺は気絶してしまったらしい。『……どうせなら、言葉でもちゃんと褒めてほしかったのに』ってロザリィちゃんが俺のおでこを突いてきた。全力で褒めた。
あと、『ステラ先生なら浮気も許すけど、──くんの一番は私だからね? 私だけを見てね?』って言われてしまった。『言われなくても、キミから目を離せそうにない』って答えたら、『……まぁ、許そう』ってキスしてくれた。わぁい。
その後の記憶がほとんどない。ステラ先生とロザリィちゃんと、一緒に水遊びしたのは断片的に覚えている。ただ、水に濡れてはしゃぐロザリィちゃんとステラ先生が致命的なまでに……人命にかかわるほどにステキすぎたらしい。思い出そうとするだけで、心臓が高鳴りすぎて胸が痛い。
ちくしょう。言葉にできない幸福感はしっかり残っているのに、肝心のその光景を思い出すことが出来ない。ロザリィちゃんとステラ先生の水着姿がしっかり心の中に残っているのに、二人と遊んだ記憶だけがすっかりと消え去っている。
わかっている。あの時でさえ、意識を失わないようにするのに必死だったんだ。いや、もしかしたら半ば意識は失っていたのかもしれない。
だけど、ある程度冷静になった今、その光景を思い出したら俺は間違いなく幸せ過ぎて倒れる。だから、無意識にストッパーがかかっているのだろう。
ちくしょう。くそが。どうして俺は、肝心の所を覚えていないんだろうか。こんなのってあるか。あんまりだ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。思い返せば、男子全員気力を使い果たしたかのように疲れ果てていたっけ。というか、普通に意識を失いながら前の女子のケツを追いかける形で帰宅していた奴がけっこういた気がする。
まぁ、肝心のステラ先生はすごく楽しそうに笑っていたし、俺が覚えていないだけで、きっとステキなひと時を過ごすことが出来たのだろう。帰り道だって『もっと遊んでいたかったなぁ……!』って言っていた気がする。
ふう。なんか肝心の部分があやふやなせいか、日記が酷く読みづらい。書いている最中にあの感動を思い出しかけたせいか、一部でだいぶ語彙が貧弱になっている。
もし次があるのなら、今度はしっかり水着姿ステラ先生の思い出を脳裏に刻みたい。あれだけ楽しそうに笑うステラ先生を、思い出としてしっかり胸に刻んでおきたい。ロザリィちゃんとの夏の思い出を……一生に一度のステキな記憶を、絶対に忘れないようにしたい。
未来の俺へ。もし魔法研究が進んで失われた記憶を戻す術が開発されたのなら、どんな手段を用いても手に入れること。俺が言うんだ、そこに間違いはない。
だいぶ長くなったので、今日はこの辺にしておこう。つくづく、素敵な水着姿ステラ先生のことを詳細に書けない自分が情けなく、口惜しい。
ギルは今日もすっきり爽やかにクソうるさいイビキをかいている。こいつもミーシャちゃんと泳げて嬉しかったのだろう。ギルはそういうやつだ。
ギルの鼻にはオステル魔鉱石をいつもの三倍詰めておく。記憶はないけれど、俺は俺としてやるべき義務を忠実にこなしてくれたらしい。さすがは俺だ。
以下、いつの間にか俺の腕に彫られていた文章である。
かえりみち
すてらせんせい おきがえ わすれた
すてらせんせい めそめそ していた
おんなのこ ろーぶ かりてた
はずかしそう だった
ぬれていた すてきだった
あえるの ばると てぃきーた くそども
すてらせんせい みていた
あほづら さらして みていた
のろえ のろえ のろってやる
ぜったいに わすれるな
これは
めいれいだ
しめいだ
ぎむだ
のろえ