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146日目 魔系男子会

146日目


 ギルの脇からフローラルなかほりが。なんかもう泣きそう。


 ギルを起こして食堂へ。女子たちは俺のベッドメイキングテクの虜になっているのか、普段は早起きのはずのアルテアちゃんさえも姿が見えず。もちろんロザリィちゃんもちゃっぴぃも、一緒に寝ているであろうステラ先生もいない。


 一方で、なぜか今日に限ってヒモクズとおこちゃまが普通の時間に食堂にいた。『いつもの時間に叩き起こされなくて、逆に気になって起きちまった』ってフィルラドは言っていた。ある意味アルテアちゃんの目論み通りなのかもしれない。


 ともあれ、普通に朝餉を頂く。暑くてあまり食欲が湧かなかったため、俺、ポポル、フィルラド、ジオルド、クーラスで夏季限定モーニングケーキなるものを食す。ギルは普通にジャガイモを『うめえうめえ!』って食っていた。


 で、誰がイチゴが二番目に多いやつ(一番多いやつはジオルドの采配でポポルの元へ)を取るか議論していたところ、珍しくグレイベル先生がやってきた。しかも、開口一番に『…おう、お前ら男子会やるぞ』とか言ってきた。


 『…ティキータも、バルトも、アエルノも。寝ている男子を全員たたき起こして、各々然るべき準備をしていつものとこへこい。足りねえ分は俺が出す。…全力で騒ぐぞ』ってグレイベル先生は淡々と告げ、これ以上は必要とないばかりにその広く逞しい背中をこちらへと向ける。マジで男らしかったと言えよう。


 いきなりのこととは言え、グレイベル先生のお誘いを断る俺たちじゃあない。むしろ先生の方から誘ってくれてちょうハッピー。男子会の内容はよくわからなかったけれど、『とりあえず飲み会の準備すればいいんじゃね?』ってゼクトの言葉により、そういうことになった。


 そんなわけでパパッと準備しいつものグレイベル先生の所へ。すでに薪は用意されており、金網や鉄串なんかの準備もバッチリ。机や椅子こそ数が足りていなかったけれど(たぶんグレイベル先生がかき集めたのだろう)、代用になるものくらい魔系の俺たちなら簡単に作れる。


 問題なのは、それ以外の所。


 うん、もうね、なんかね、【俺こそ肉だぜッ!】って感じの肉がこれでもかとおいてあったのね。文字通り山のように積み上げられていて、ここにいる全員が全力で食べても無くならないんじゃないかってくらい。


 おまけにおまけに、お酒が樽で用意されている。それも、二つや三つなんて生半可な数じゃない。二十や三十はあっただろう。


 さすがにこれにはみんな唖然。『え……えっ?』、『何この量……』、『見てるだけで胸焼けが……』、『炊き出しでもするんですかね?』って呟く奴らがいっぱい。実際、外にそれらを用意したというよりかは、食糧庫の壁と屋根がすっとんでいったんじゃねーかってくらいの迫力があった。


 『…てめぇら! 全力で飲め! 食え! 騒げ! 男を見せてみろ!』ってグレイベル先生が叫ぶ。片手に持ったでっかいジョッキを豪快に樽の中に突っ込み、『…飲んでやるぞオラァ!』ってそのまま一気に飲み干した。


 盛大にぷはーっ! ってやるグレイベル先生を、一体どうして止められると言えようか。まだ朝なのにあんなに力強くお酒を飲んじゃうとか、これぞ本物の男かって思ったよね。


 その後もグレイベル先生は我を忘れたかのように酒を飲んでいく。『…お前らも好きなだけ飲め。それともなんだ、最近の学生は見ているだけで酒を飲めるのか?』ってニンマリ笑って挑発(?)までしてきた。『…肉を焼く音が聞こえねえぞォ!』と叫んだりもしちゃってた。


 グレイベル先生の豹変ぶりにビビりつつも、とりあえずいつもの宴会のノリで肉を焼いていく俺たち。肉を焼きつつこっそりグレイベル先生に『……なんかありました?』って聞いてみれば、『…男子会を開くのに、理由がいるのか?』って熱く肩を組まれ、そしてきつめのエールを注がれた。この人マジでどうしちゃったんだろう?


 で、肉が焼き上がったのかゼクトが『先生、焼けましたっ!』ってグレイベル先生に媚を売りに走る。が、グレイベル先生は差し出された皿を見て、露骨に眉間に皺を寄せた。


 『えっ、俺なんかやっちゃいました?』ってゼクト。『…わかってねぇ。わかってねぇな。…いや、青いといった方が正しいか?』って首を振るグレイベル先生。学生時代の友人に絡むのと全く同じノリでゼクトの肩に腕をかけ、そして皿の上に載っている焼きカボチャをむしゃりと食べて──


 『…男の宴に野菜は要らねえ。…わかってんだろ? ああ、好きなだけ肉を食っていいんだ』って獰猛な笑み。俺が女の子だったら惚れていたかもしれない。


 『…よく聞けお前ら! 今から野菜を焼くのは一切禁止だ! 食っていいのは肉だけだ! 酒と肉こそ男子会だろうが!』ってグレイベル先生は吠える。その上さらに、『…俺が手本をみせてやる』って生肉を鉄串でそのままぶっさし、『…オラァ!』って景気よく焚火付近に設置。冒険者だってもうちょっと上品に調理すると思わなくもない。


 しかもしかも、焼き上がった肉(たぶん割とグレー寄りのレア)をむんずと掴み──


 『…肉ってのは、こうやって食うんだ』って思いっきりかじりついてブチィッ! って噛み千切っていた。とてもワイルドだった。


 この瞬間、男子の中でわずかに残っていた遠慮の糸が切れる。グレイベル先生がこうも男を見せてくれたのに、それに応えないなんてそれこそ男じゃない。


 『焼くぞオラァ!』、『飲むぞオラァ!』、『脱ぐぞオラァ!』って怒号が炸裂。肉を焼きすぎて煙がもくもく。そんな煙の匂いに負けないくらいにアルコールの匂いが。『…暑いのなら脱ぐ。当然だよなぁ?』ってグレイベル先生も半裸。鍛え上げられた肉体がまぶしい。


 ポポルは焼き上がった肉を片っ端から『それ俺のだし!』って食いまくっていた。フィルラドも『朝からお酒とか最高じゃん!』って酒を飲みまくっていた。ジオルドは『良いからさっさと俺の肉を喰うんだよォ!』って酒を飲みながら肉を焼きまくっていたし、クーラスは『……まぁ、こんな風に肉を食うのにはちょっと憧れていた』って控えめに肉をぶちィッ! って噛み千切っていた。


 いやはや、ホントすごかったよね。みんな半裸でぎゃあぎゃあ騒ぎながらひたすら飲み食いしているんだもの。そしてそれ以上に、グレイベル先生が同じ学生であるかのようなノリで騒いでいたのが印象的。


 ラフォイドルの奴がさ、あいつ一人だけでっかい肉に齧りつかないで、ナイフで切って普通にフォークで食おうとしていたんだよね。それを見かねたグレイベル先生が『…勉強だけじゃなく、男の作法も覚えとけ』ってラフォイドルの近くに行ったのね。


 『いや、作法だけで言えばこの場の誰よりも俺の方が正しいです』ってラフォイドルは愚かにも反論。『…こういう場合の手本を見せてやる』ってグレイベル先生はラフォイドルの肉を自前のカッコいいナイフでカット。


 そしてそのまま、ナイフに載った肉を口にした。『…な?』って凄まじいまでのドヤ顔。周りにいた男子から空が割れんばかりの歓声が。


 『…見せつけるように、ついでにちょっぴり刃を舐めるとポイントが高いぞ』ってグレイベル先生はラフォイドルにアドヴァイス。逞しい背中をラフォイドルに見せつけ、ちょっとふらつく足取りで去っていく。


 『あの人だけはまともだと思ってたんだが、所詮はルマルマと仲が良いだけある……いや、毒されたのか?』ってラフォイドルがこちらをにらんできたのがわけわかめ。肉をワイルドにナイフから食べるのって男じゃ当たり前のことじゃないの?


 あと、酔っている(?)グレイベル先生にギルが絡んでいた。『先生……自分ッ! 肉だけじゃなくジャガイモも食いたいです……ッ!』とのこと。肉よりもジャガイモが好きな人間、ギル以外にいるのだろうか?


 当然、グレイベル先生は『…肉以外は喰うなといったはずだが?』って首を横に振る。『それでも、自分にはジャガイモが必要なんです……ッ!』ってなお食い下がるギル。それを聞いたグレイベル先生は、すんげえ怖い顔をしたかと思うと──。


 『…合格だ。男なら、喰いたい物を好きなだけ好きなように喰うべきだ』って、女の子の胸をハチの巣にしてしまう笑みを浮かべた。マジイケメンだった。


 その後もひたすらそんなノリが続く。気付いたときには誰かが魚を調達してきていて、『丸焼きすっぞオラァ!』って焼いていく。そのうちズボンまで脱ぐ奴が出てきたし、『スプラッシュぅぅぅ!』って叫びながら頭から酒を被るやつも。


 おまけにいつのまにやら『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃが混じって肉をガツガツ食っていた。男子会だって言っているのにこいつは何を考えているんだろうか。


 ただ、グレイベル先生は『…喰いっぷりが男だから問題なし』とのこと。言われてみれば、ちゃっぴぃが肉を貪る様は誰よりも男っぽく見えないことも無い。


 最終的に夕方遅くまで男子会は続いた。途中で小休止を挟んだり、腕相撲大会といったゲームで盛り上がっていたとはいえ、朝からずっと飲み食いしていたことに驚きを隠せない。汗と肉と煙の匂いが体に染みついてしまったような気がする。


 半裸の状態で寮に戻ったら、ロザリィちゃんが『おかえりーっ!』って飛びついてきた。ぎゅっ! って抱き付いたまますーはーすーはーくんかくんかを止めようとしない。ロザリィちゃんの甘い匂いのする髪がすごくくすぐったいし、くんかくんかがすんごくこそばゆい。あの感じ、ちょっとクセになりそう。


 『今日のは……格別ですなぁ……!』ってロザリィちゃんはうっとりしていた。日中ずっと炎天下にいたから汗ダラダラでかなり汗臭い……っていうか、文字通り男臭かったと思うんだけど、ロザリィちゃん的にはそれが良かったらしい。

 

 一方で、アルテアちゃんを始めとした他の女子たちは『見苦しい』、『むさ苦しい』、『くせえ』ってかなりボロクソに言われてしまった。ジオルドたちが絶望の表情を浮かべていたっけ。


 ゆうめ……じゃない、風呂入って雑談して今に至る。結局のところ、グレイベル先生がなぜ男子会を開いたのかは不明。ナターシャがおっさんに浮気されたときと同じようなノリでヤケ酒、ヤケ食いしていたし、もしかしたら何か嫌なことがあったとか、忘れたいようなことがあったのかもしれない。あるいは、単純に学生時代に戻りたかったのか。


 まぁ、かなり足元がふらついていたとはいえ、『…今日は、ありがとな』って潰れずに普通に歩いて帰るだけの余裕はあったから大丈夫だろう。ウチの宿屋の連中だったらそのままゲロして腹をだして寝こけている。

 

 あと、雑談中にステラ先生がめそめそしていたのでここに記しておく。ステラ先生もホントは一緒に男子会をしたかったらしい。正確には、学生の青春らしいあの空気を一緒に味わいたかったのだろう。


 ただ、アルテアちゃんたちに『あれは男子会……いいえ、バカの会ですから』、『先生はアレに汚されてほしくないの。そのままの先生でいてほしいの』って諭されたため、泣く泣く我慢したんだって。『先生もみんなと一緒にお肉焼きたかったよぅ……』ってぴすぴす鼻を鳴らしてアルテアちゃんに縋りつくステラ先生がとっても可愛かったです。


 肉もジャガイモも酒も満遍なく食らいつくしたギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。なんだかんだでコイツのおかげで食材の無駄が出なかったのは僥倖。あきらかにギルの胃袋の大きさ以上の量の肉を食っているはずだけど、細かいことは気にしないことに限る。だってギルだし。


 ギルの鼻には一握の灰を詰めておく。今日はちょっと変則的に、男子会においてグレイベル先生が放った【ワイルドな男の食事】に関する名言で締めようと思う。



 ──素揚げかバター炒めにすればだいたいなんでも食えるが、男なら丸焼きがジャスティスだ。


 以上。

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