145日目 可愛い──へ (真実のお膝)
145日目
いきなりでごめんね。昨日伝えたように、私たちはもう出発します。ホントは──のお見送りが欲しかったところだけど……今は、──の可愛い寝顔が見られたのでそれで我慢することにします。
──と一緒にお祝いのお酒が飲めてとても嬉しかったよ。一番最初に一緒に飲めなかったのはちょっぴり悔しいけれど、──にとってはロザリィちゃんと一緒の方が嬉しかったりするのかな? わかってはいるけれど、ちょっぴり妬けちゃうかも。
そうそう、久しぶりにこの日記を少し確認させてもらいました。お友達とお話をしたからそんなに心配はしていなかったけれど、──自身の言葉で楽しい学校生活が綴られていて、なんだかとっても安心することが出来ました。次はぜひとも、ゆっくり見させてほしいな。
……でも、去年も書いたかもだけど、不健全すぎるきらいがあるのは良くないと思うよ。お風呂と添い寝くらいならしてあげるから、私たちを悲しませるような真似はしないでね?
あと、普段頑張っている──のために、おこづかいを少しとお気に入りのお菓子を置いておきました。みんなには内緒にするのと、無駄遣いはしないようにね。
本当はもっといっぱい書きたいことがあるけれど、時間も無いのでこのくらいにしておきます。次に会えるのはやっぱり春休みになっちゃうのかな。今度は私がオトナのお酒の楽しみ方を教えてあげるから、ちゃんと付き合うように!
次の休みの時はちゃっぴぃちゃんも入れて三人でまた踊ろうね。それと、寝るときにはお腹にちゃんと毛布を掛けるように。……あと、甘えんぼで寂しがりな──のために【また会おうねのキス】をしておいたから、今度は泣いちゃダメだよ? 【ミニリカ】
学校見学、付き合ってくれてありがとね! あなたが普通に学生しているのを見てすごくびっくりしちゃった! 宿屋の仕事とカチコミをしているところしかしらなかったから、普通に友達と話しているあなたがちょっと信じられなかったかも。まぁ、仲の良い子は宿で見てたから知ってたけど。
リアのことも、ありがとう。あの子が本格的に将来を考えるのはまだまだ先だけれど、あなたのおかげでいろんな選択肢が出来たことは間違いないと思う。あの子、あなたの学校での話やお友達とのやり取りを見て、すっごく学校に行きたがってたんだから。
あの子が私たちと同じ冒険者になるのか、マデラさんの宿で働くのか、それともあなたと同じように魔系の道へ進むのか……どんな未来になるのかはまだわからないけれど、【お兄ちゃん】として、いつまでもあの子を助けてくれるとうれしいな。
最後に一つだけ。
あの子に悪影響を及ぼすようなことはちょっと控えて頂けると嬉しいです。噂には聞いていたけれど、この日記ってけっこう……ねぇ? 【アレット】
正直何を書けばいいかよくわからないし、もうすでに前の二人でかなり時間もスペースも使っているから手短に書いていく。
一つ。リアの面倒を見てくれてありがとう。俺は嫁もリアも大好きだし、その愛の深さは誰にも負けないとも思っているが、親としてはかなり問題があることも自覚しているつもりだ。
冒険者の間に産まれた子供なんてみんなそうだと思うし、食うものにも金にも不自由させてはいないが、それにしたってお前がいなけりゃだいぶヤバいかんじになってたとも思う。そういった意味で、リアの兄貴代わりであるお前にはずいぶん助けられた。ちょいと恥ずかしいが、せっかくだしこの場で感謝を伝えておく。
二つ。リアの手本となるような人間になれ。あとクーラスが変なものに目覚めないようにしてくれ。
三つ。あのババア、話には聞いていたが文章だとマジで雰囲気変わるのな。
四つ。てめえ、リアのファーストもらってんじゃねえぞクソが。リアの最初は俺だ。あいつが生まれたばかりの時に俺の方からキスしたんだ。自惚れるなよ。 【アレクシス】
教師の募集があったら教えてほしい。あの学校にいられるのであれば用務員でも構わぬ。あと女子生徒と先生の連絡先と、出来ることなら秘密の出入り口なんかのじょうほugaoduyap 【ルフ】(最後は文字が乱れていました。名前の部分は丸みかかった女の子らしい字体でした)
ルフ老はおねえちゃんがぶっ飛ばしておいた。カフェオレ余ったからやる。あと次の休みは本気で飲むから付き合え。 【ナターシャ】
変なことをクーラスおにいちゃんにバラしたら絶対に許さない。あと、私のあれは一時の気の迷いで、たぶんルフ老あたりに呪われていたせいだから。あと、お兄ちゃんが寂しそうな顔していたからしょうがなくってだけだから。
帰ってくるときはおみやげいっぱいよろしくね! 【リア】
……ふう。カフェオレ飲んだら落ち着いた。一応書いておくが、別に泣いてはいない。ただちょっと、変な時間に目覚めてしまったために若干目が赤くなっているような気がしなくもない。あと、微妙に特徴的な香りが鼻にこびりついて取れないんだけど。あの痴女、なんであんな匂いの強いリップクリームを未だに使っているんだ?
あと、なぜか日記に蜂蜜が垂れた痕が……蜜蝋の封蝋かコレ?
さて、ここからは順を追って書いていこう。
カフェオレを楽しみつつ、ぼーっとしてたらギルが起き出した。『……そう寂しがるなよな!』だなんて朝から寝ぼけたことを言ってきたのがわけわかめ。おまけに肩をパンパン叩いてくるものだから俺の肩が死にそうになった。
その後は普通に朝食。どうやらちゃっぴぃはロザリィちゃんの所に行っていたらしく、なんか普通にロザリィちゃんに引っ付いていた。『朝のかなり早くにもぐりこんできたんだよねー』とのこと。たぶん、リアたちを見送った後にロザリィちゃんの所に行ったのだろう。ちゃっぴぃのくせにずるい。
すごくどうでもいいけど、今日もギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。『親友も元気出せよな!』ってこっちにもジャガイモを勧めてくる始末。せっかくなので俺も『うめえうめえ!』って食っておいた。
朝食後、何にもやる気が起きず俺専用ロッキングチェアでぼーっとしていたところ、『──くん、ちょっと……』って妙に赤い顔してロザリィちゃんが声をかけてきた。
これはまさかサプライズデートのお誘いか……って期待したものの、返ってきた言葉は『その、いい天気だし、ベッドのお手入れをお願いしたいなって』といったもの。
もちろんテンション爆上がり。ロザリィちゃんのベッドのお手入れを任せてもらえるほどの栄誉ある仕事がこの世にあるだろうか。いや、ない。
どうも、ここ最近でちゃっぴぃと一緒に寝たりなんやかんやしているうちにふかふか具合が損なわれてきてしまったらしい。『最近暑くて寝苦しいし、あの感覚が忘れられないのぉ……!』って恥ずかしそうに見つめてくるロザリィちゃんが最高に可愛かったです。
ともかくそんなわけで、早速ベッドのお洗濯に移る。ある意味予想通り、『よう、話はついたか?』、『不埒な真似をしたら呪ってやるからね』ってアルテアちゃんとパレッタちゃんもやってきた。去年に比べていくらかアルテアちゃんの態度が柔らかくなっていた気がするけれど、俺の腕前を信じてくれているってことでいいのだろうか?
まずは洗剤と水球の準備。いつもどおりそれなりの大きさの物を作って、その中にブツをぶち込んでざっくり洗っていく。
あ、ロザリィちゃんの枕とタオルケット、受け取った時にすっげぇ背徳的で甘くてくらくらする匂いがして大変だった。もうマジで女の子の匂い。出来ればずっと吸っていたいくらい。
が、ロザリィちゃんは『は、恥ずかしいからちょっとだけにするよーにっ!』ってぽかぽか俺を叩いてきた。『ちょっとだけだったらどんなことしてもいいの?』っていじわるして聞いてみれば、『……出来れば、タオルケットじゃなくて私にしてほしい』って真っ赤な顔して言われてしまった。思わず全力で抱きしめちゃったよね、うん。
……今から思えば、ロザリィちゃんの枕カバーをちょっとくらいはすーはーしてもよかったかもしれない。恋人同士なんだしそれくらいは許されると信じたい。ロザリィちゃんだって俺のをすーはーしてるんだし、これくらいは問題ない……わけないか。
男の俺がそんなことやったら女子にヤバい目で見られるに決まっている。これだから世の中は理不尽だ。
さて、そんな感じで大まかにブツを洗った後は仕上げ洗いに入る。あ、彼女らのパジャマも全体洗いじゃなくて仕上げ洗いで洗ったよ。あれだけ可愛くて上等な飾りなんかがついているのに、普通に洗ったら痛んでダメになっちゃうからね。
一応書いておく。ヨダレ痕のあるシーツと枕カバーがあったので、念入りに染み抜きをしておいた。ロザリィちゃんのにもあったけど、あれはたぶんちゃっぴぃのだろう。ちゃっぴぃはそういうやつだ。
そんな感じで洗濯をしていたところ、『わ、なにやってるのー?』ってサマースタイルステラ先生がやってきた。うっひょう。
『見ての通り、天気が良いのでちょっと洗濯を』って紳士的にスマイルを浮かべて応えてみる。『これでしばらくはマデラさんの所のベッドと同じ寝心地になるの!』ってプリティロザリィちゃん。『えっ、ホント……!?』ってびっくりまんまるおめめのステラ先生。最高に女神だった。
『いいなぁ……! 先生もマデラさんの所のベッド、忘れられないんだよねぇ……!』ってステラ先生は思いをはせる。どうもステラ先生も普段あまり時間が取れず、ついついベッドが乱れがちになってしまうらしい。『疲れてお部屋に戻った時とか、そのままベッドに直行して飛び込んじゃったり……』ってちょっとはにかみながら教えてくれたよ。
せっかくなので『よかったらステラ先生のもやりましょうか?』って言ってみる。『は、恥ずかしいから無理っ!』って真っ赤な顔して断られた。
が、『ぜったい気持ちよくなれますよ』、『先生以外みんなやってますよ』、『今を逃したらしばらくできませんよ』……と、少しだけ粘ってみる。ステラ先生ってば、あわあわしながらうんうんと悩み、『……そ、それでもやっぱり無理っ!』って真っ赤なお顔で告げられた。そんな姿もエクセレントキュートだった。
この直後にアルテアちゃんに盛大にケツビンタされたのがわけわかめ。俺ってばステラ先生の安眠を思って誘ったのに。世の中は本当に理不尽だ。
ともあれ、洗濯が終わった後はシーツ等をピンと伸ばしてから干していく。『さすがに手慣れてるね!』ってステラ先生がほめてくれてちょう嬉しかった。あ、ちゃんとパジャマは内側に干しておいたことをここに記しておく。
洗濯物を干した後はそのまま外でぼーっとする。日差しはそこそこ強かったけれど、今日は風も心地よく吹いていたからそこまで暑苦しい感じはしない。
むしろなんかこう、風にたなびく洗濯物がたいそうのどかで牧歌的な雰囲気を醸し出している。
『こうしてのんびりするのもたまにはいいねー……』ってステラ先生もぼんやりしていた。日頃の疲れがたまっているのだろうか、なんか途中からうつらうつらしだして、ぽてんってアルテアちゃんの肩に頭を預けていたっけ。
俺ってば、あの時マジでアルテアちゃんに嫉妬した。ちくしょう。
で、そのままぼんやりと洗濯物を眺めながら時間を潰す。どうもステラ先生はこういうみんなでのどかにのんびりするのが好きらしく、うとうとしながらもずっとにこにこと楽しそうにしていた。
そして、気づいたらいつのまにやら例のにゃんこが。『みー……』って鳴きながらステラ先生のお膝にオン。いや、頭だけを先生のお膝に乗せて、背中をぐいーって伸ばしてとても気持ちよさそうな顔。
この前も洗濯をしている時にやってきたし、こいつもしかして水か洗剤の香でも好きなのかな……なんて思っていたところ、衝撃の出来事が。
うん、ステラ先生がさ、お膝に乗ったそのにゃんこの喉の所をこちょこちょ撫でてあげていたのね。でもってそのにゃんこさ、とっても気持ちよさそうに喉をゴロゴロさせてたのね。
夢見心地でにゃんこと戯れるステラ先生はなんて素敵なんだ……って思った次の瞬間。ぼふんっ! って魔力の霧散する特有の気配が。
ステラ先生の膝の上に、ミーシャちゃんがいた。いつも通りのステラ先生の膝枕スタイルで、とっても気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らしていた。
『……はっ!』ってミーシャちゃん。『……起きちゃうの?』ってちょっぴり悲しそうなステラ先生。『……えいっ!』って半ば無理矢理ミーシャちゃんの頭を押さえ、そして自らのお膝に押し付けた。
俺ってば、あの時マジでミーシャちゃんに嫉妬した。ちくしょう。
落ち着いたところで状況を整理してみる。どうやらあのにゃんこ、ミーシャちゃんが変化魔法で変化したものだったらしい。『ギルに……使い魔の魅力を伝えたかったのぉ……!』とのこと。自らが猫となって理想の使い魔として愛嬌を振りまくことで、あの筋肉バカに使い魔への愛を目覚めさせたかったそうな。
今日もその一環として準備していたものの、肝心のギルはいなかった。引くに引けずに吸い込まれるようにしてステラ先生のお膝へ行ったら、ステラ先生のお膝とテクがあまりにも気持ちよすぎて本気でリラックスしてしまい、魔法が解けてしまったらしい。
ちなみに女子はその正体について知っていたとのこと。『いや、細かい仕草がそっくりだろ』、『顔もちょっと面影があったなり』、『ミーシャっぽいかんじがするよね?』って彼女らは言っていたけれど……正直、俺にはよくわからなかった。
『男子とギルには絶対バラすな』とだけ言って、ミーシャちゃんは再びステラ先生のお膝の上で喉をゴロゴロしだす。ステラ先生はそんなミーシャちゃんを愛おしそうに撫で、自らもアルテアちゃんの肩を借りてうとうとしだした。パレッタちゃんは『これでロザリィの膝枕を独り占めできるなり』ってロザリィちゃんの膝枕を独占。
俺ってば、あの時マジでパレッタちゃんに嫉妬した。ちくしょう。
なんだかんだで夕方にはばっちり乾いたので、その後は女子部屋でベッドメイキング。相も変わらず俺が女子フロアに踏み込んだ瞬間に女子の超厳戒態勢が敷かれるのがわけわかめ。すごい宿屋の息子のプライドを何だと思っているのだろうか。
もちろん、ベッドメイキングの仕上がりは完璧。ふわっふわでふっかふか。あまりのふかふか具合に辛抱堪らなくなったちゃっぴぃが『きゅーっ♪』って飛び込んだくらい。見学に来ていたステラ先生も『やっぱりやってもらえばよかったぁ……!』って半ベソかくレベル。
一応書いておく。ロザリィちゃん&ミーシャちゃんの部屋に俺のシャツとズボンは見当たらなかった。去年とほとんど変わらない。アルテアちゃん&パレッタちゃんの部屋はヴィヴィディナの抜け殻(?)と剥製のような何かが増えていたような。
あと、アルテアちゃんの机にけっこうガチっぽいアクセサリーが飾られていたっけ。アルテアちゃんがああいうの買うとか、なんかちょっと意外。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談の時に久しぶりにステラ先生とカードゲームをやった。湯上りステラ先生がきりっ! ってしながらカードを持つ姿を見られて最高にハッピー。
『もしも先生に勝てたら、膝枕でもちゅーでもなんでもしてあげるよ? なんならデートもつけたげよっか?』って自信満々なステラ先生は最高にステキだけれど、相も変わらず勝てそうにない。今日も今日とてケツの毛まで毟られた。卒業するまでには一回くらいは勝てるといいんだけれど。
ギルは今日もクソうるさいイビキをかいてぐっすりと眠っている。そしてちゃっぴぃはロザリィちゃんの所。今日はステラ先生も一緒に眠ってベッドのふかふか具合と人のぬくもりを楽しむらしい。嫉妬の炎が爆発しそう。
ギルの鼻には……洗剤の欠片でも詰めておく。みすやお。